創薬・臨床試験

【臨試協が声明】日本人第I相不要に反対~患者の安全性確保で懸念

薬+読 編集部からのコメント

国際共同治験前に日本人対象の第I相試験の追加実施を原則不要とする方針が厚労省検討会で了承されたことを受けて、臨試協が反対声明を公表。日本人だけに発現する副作用を見逃す可能性や、外国人での臨床試験結果に基づき設定された用量で国際共同治験が行われることにより生じる患者へのリスクに対し、強い懸念が示されています。

 「科学を無視した決定」

 

臨床試験受託事業協会はきょう27日、国際共同治験前に日本人対象の第I相試験の追加実施を原則不要とする方針が厚生労働省検討会で了承されたことを受け、「日本人を対象とした第I相試験を実施することなく、検証的な第III相試験から日本人を組み入れることには多くの問題がある」との反対声明を公表する。日本人第I相を省略した場合には日本人だけに発現する副作用を見逃してしまう可能性や、外国人での臨床試験結果に基づき設定された用量で国際共同治験が行われることにより生じる患者へのリスクに強い懸念を示した。熊谷雄治会長は本紙の取材に対し、「サイエンスを無視して政策面で方針を決定している。最低でも日本人の何らかのデータを持って国際共同治験に入るべき」と訴える。

 

厚労省検討会は、ドラッグラグ・ロス問題の対応策の一つとして、国際共同治験前に実施している日本人第I相を原則不要とする方針を了承し、厚労省が新通知案の作成を進めている。第I相試験実施の有無に関わらず、承認申請までの間に日本人のPK/PDデータを収集するなどして、国内外差について検討を行うよう求めるとしている。

 

これに対し、臨試協は「希少疾病用医薬品、生命に関わるような疾患で他の治療法が確立していないような分野など、国内での用量設定試験を行うことが困難な場合を除き、グローバル開発で可能な限り早期から日本人を対象とした臨床試験を実施する必要性は明白」と真っ向から反対した。

 

通常、医薬品開発は早期段階の臨床試験で医薬品の有効性・安全性に影響する民族差を特定し、国際共同治験の計画立案・実施へと進む。海外第I相を実施した後で行う日本人第I相で、日本人にしか見られない副作用が確認されることもあるという。

 

早期段階の臨床試験で大きな民族差を認めた新薬は開発中止となるが、安全性を問題とした開発中止であっても「戦略上の理由」などとされ、実態が明らかにされていない。承認された薬では、民族差がある薬が実態より少なく見える公表バイアスにより、日本人を対象とする第I相の意義が十分に理解されていないのが現状だ。

 

声明では「今後、日本人第I相試験という安全弁を通すことなく、いきなり第III相試験を実施した場合、十分に日本人被験者の安全を担保できるのか疑問を呈さざるを得ない」と投げかけている。

 

薬物動態にも民族差があり、例えば承認されている脂質異常症治療薬「ロスバスタチン」については、白人とアジア人で投与後の血中濃度で2倍の差が見られているほか、開発中止品目の中には5倍の差を示す薬剤もあったという。こうした状況から、「外国人での臨床試験結果に基づき設定された推奨用量が日本人での推奨用量と結論付けるのは困難」とした。

 

また、新薬を第I相試験で評価する体制や能力が日本から失われると、早期段階の新薬の評価は他国に依存することになり、創薬エコシステムの構築を目指す国の政策とも逆行すると批判。「新薬の自国民における安全性、有効性、用法・用量の決定に重要なデータを全面的に海外に依存することには、自国民保護、安全保障の観点から懸念を抱かざるを得ない。一度、早期臨床試験のノウハウが失われてしまった場合、それを再獲得することはほぼ期待できない」と警告した。

 

熊谷氏によると、日本人第I相試験は1~2カ月で完了するため、「日本人第I相を実施しないことで、どこまで新薬開発のスピードアップにつながるか甚だ疑問。その期間を惜しんで国際共同治験に入り、患者さんに事故を負わせるのを懸念している」と話す。

 

その上で、「企業で臨床試験に関わる関係者も、われわれと近い考え方を持っている。心配なのは海外ベンチャーが新たな通知の英訳を読んだ場合に、日本で第I相がいらないと誤解して、臨床試験で日本外しが起こること」と述べ、希少疾患など一部を除き早期に日本人第I相試験を追加実施するよう再考を求める考えを示した。

 

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出典:薬事日報

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