治験業界で活躍するCRAってどんな仕事?薬剤師資格は活かせる?
治験業界に興味のある薬剤師の方は多いのでは?CRA(臨床開発モニター)は治験業界の代表的な職種のひとつで、活躍する薬学部出身者は想像以上に多くいます。臨床とはまた異なる立ち位置で医薬品に関わることができる魅力にあふれた職業です。薬剤師であり、大手CROでCRAとして勤務した経験もある、株式会社MEDIKLECT(メディクレクト)の代表取締役・柿間隼志さんに治験業界の働き方について詳しく聞きました。
1.治験業界で活躍するCRAってどんな職種?
近年は治験(臨床試験)が複雑化・大規模化する傾向があり、製薬企業だけでは抱えきれないケースが増えています。そうした事情の中、治験を安全かつ円滑に進行させるCROという専門企業はこれまで以上に注目を集めているのではないかと思います。私が経験したCRA(臨床開発モニター)も、CROで重要な役割を果たす職種のひとつです。
CRAを一言で表現するなら、「治験の適正な実施・進行を監督するプロフェッショナル」。適正な治験でなければ、収集したデータが意味をなさないだけでなく、場合によっては倫理上の問題に発展しかねません。そこで、治験を実施する方法を監督して正しいデータを収集できるように働きかけるわけです。
それでは、「適正な治験」を監督するとはどういうことか。具体的には、厚生労働省が定めたGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)と製薬企業の開発部などが作成するプロトコール(治験実施計画書)を遵守しているかを、ていねいに確認していくことが主な業務になります。
よく混同されことが多い職種にCRC(治験コーディネーター)がありますが、主に被験者とコミュニケーションをとるのがCRC、治験を実施する医師など医療機関側とコミュニケーションをとるのがCRA、と考えてもらうとイメージしやすいかもしれません。
CRCは、医療機関から委託を受けて治験の運営をサポートするSMOという専門企業に所属しています。被験者への治験の内容説明やスケジュール・服薬の管理、精神面のフォローなど、被験者に伴走しながら治験を円滑に進める役割を担っています。
CRCは、CRAとは異なる視点から同じプロジェクトを進めるパートナーのような存在です。だからこそ、CRCと良好な関係を築くことは、CRAにとっても最も重要な業務のひとつです。
2.CRAに期待されること、求められる役割
お伝えしたように、CRAはGCP(医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令)やプロトコール(治験実施計画書)にのっとって治験が進められているかを、治験や薬に関するデータを収集しながらチェックしていきます。
GCPは「治験に参加する被験者を守る」「新薬候補物質の有効性や副作用を正確に調べる」という視点から定められた、治験において絶対に守るべきルールです。
私はドラッグストアで4年間働いてからCROに転職したのですが、最初の1か月間は研修でみっちりとGCPや関連法をたたき込まれました(これらは日本CRO協会CRA認定試験の試験範囲でもある)。研修が終了してからも、勤務中はGCPについてまとめられているポケット資料集を常に携帯し、社内や医療機関などで頻繁に参照していました。
プロトコール(治験実施計画書)は、製薬企業の開発部などが作成しています。各治験の概要や対象者、被験者募集の方法やスケジュール、中止・脱落の基準、データ解析の方法などが詳細に記された、かなりボリューミーな資料です。CRAは、プロトコールの内容を十分に理解したうえで、その内容に沿って治験が実施されているかどうかをモニタリングすることが求められます。
私の勤務経験のかぎりでは、GCP違反が起こることは極めてまれでしたが、プロトコール通りに進まないことはしばしばありました。例えば、併用禁止薬を処方されている被験者がいたり、被験者が治験薬の服薬を忘れてしまったり……といったことです。
こうした事態が起こらないように、あらかじめ関係者との間で調整したり、治験の経過を詳細に伝えたりすることも、CRAの大切な役割です。
3.CRAはどこで働いている?英語力は必要?
私個人の経験に基づいた話ではありますが、CRAの日常についても紹介したいと思います。
治験に関わるからには医療機関に通い詰めるイメージがあるかもしれませんが、大半はオフィスに出社します。必要に応じて医療機関を訪れる日があったり、内勤のみの日があったりします。
医療機関を訪問する日は、治験に関わる医療従事者・関係者との打ち合わせや、治験薬の管理、モニタリング、資料チェックなどを行います。内勤では、クライアントである製薬企業や治験責任医師などと連絡を取り合ったり、プロジェクトメンバーとのミーティングをしたり。モニタリング報告書などの資料作成にもかなりの時間を割いていました。
私が参加していたプロジェクトは、クライアントが海外の製薬企業で、いわゆる国際共同治験を行っていました。当然、メールもモニタリング報告書も英語です。元々どちらかというと英語が苦手なタイプだったので、入社前に集中的に勉強しました。ですがそれだけでは足りず、入社後は翻訳サイトや英語が得意な同僚に頼りながら何とか業務をこなしていました。
海外とのオンライン会議では、誰かが言ったジョークにみんなが笑っているのに気付いて、数テンポ遅れてリアクションする……なんてこともありました。さすがに外資系CROではもっと高い英語力が必要でしょうが、内資系CROだったので笑顔とコミュニケーション能力でなんとか乗り切れた気がします。とはいえ、英語力があるに越したことはないでしょう。
4.CRAの仕事はどんな人に向いている?
CRAは治験の進行管理のプロですから、スケジューリング能力・スキルは必須だと思います。例えば、医療機関に訪問できる機会は限られていることを念頭に置いて、事前に「あの被験者さんの血糖値が高すぎるから医師にまず確認して、それから……」というように順序立てて最もスムーズに物事を進められるような動き方を徹底的に練っておきます。
同僚の中でも手帳やカレンダーを使うアナログ派と、カレンダーアプリなどを使うデジタル派がいましたが、いずれにしても計画性を持って業務を進めることが欠かせません。
スケジューリングは大変ではありますが、今日一日をどのように過ごすべきか考えられる、自己裁量の余地が大きいところが私にとっては魅力でした。臨床では勤務時間内に何をするかは細かく決まっていることが多いでしょうから大きな違いだと思います。自分で時間の使い方を工夫したり考えたりするのが好きな人は、自由度が高く感じられるかもしれません。
休日は基本的にカレンダー通りで夜勤がありません。土日休みなので、ビジネスパーソンらしい働き方をしたい方にぴったりではないでしょうか。プロジェクトが始まる時や終了間際になると、一時的に繁忙期となり残業が続きましたが、それ以外の時期はほどほどの忙しさで、定時退社できる日もありました。忙しさはプロジェクトの規模や関わる人数によっても変わってくるかもしれませんね。
給与事情も気になるところだと思います。CRAですと、未経験で年収400万円程度、経験者なら500~600万円程度が相場でしょうか。とはいえ職場によっても変わると思うので、マイナビ薬剤師の求人情報を詳しく調べてみても良いと思います。
5.薬剤師が治験業界に転職する際の注意点
薬の知識が豊富な薬剤師や医療従事者とコミュニケーションをとることが多い薬剤師は、CRAに転職した場合でも強みを活かせます。
例えば、CRAが医師のカルテを見られる時間は限られていますが、知識があれば情報収集を行いやすくなります。また医師はもちろん、治験薬を取り扱う薬剤部、患者対応する看護師など、医療従事者と関わる機会が多いので、医療従事者としての目線や専門用語を知っていることのアドバンテージが発揮されやすいでしょう。
薬剤師からCRAに転職を考える際の注意点としてお伝えしたいのは、CRAは患者さんと直接関わる機会が少ないことです。患者さんに寄り添ったり、症状が改善されるのを近い距離で支えたりしたい場合は、CRCのほうが希望に近いかもしれません。
薬剤師資格を持つ人の多くは、病院や調剤薬局などで働くことを「当たり前」だと考えている傾向があります。ですが、臨床にこだわらなくても医薬の専門知識・スキルを活かしながら貢献できる道はあります。
その中でも今回お話ししたCRAという仕事は、ビジネスパーソンとしてのスキルを磨きたい方や自分でスケジュールや時間管理をするのが得意な方、様々な医療系職種と関わりたい方にはとくにおすすめです。臨床以外のキャリアに興味のある方は、ぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
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撮影/和知 明[ブライトンフォト] 取材・文/中澤仁美[ナレッジリング]
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柿間隼志(かきま・たかし)
薬剤師/株式会社MEDIKLECT 代表取締役