薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2022.05.26 薬剤師の働き方

治験コーディネーター(CRC)の業務とは?資格や年収、向いている人について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

新薬を開発するうえで重要な役割を担う治験コーディネーター。治験を円滑に進める役割があり、最先端の医療に触れる仕事です。今回は、治験コーディネーターが行う業務や資格の有無などについて解説するとともに、治験コーディネーターの魅力や厳しさ、向いている人や年収についてお伝えします。

1.治験コーディネーター(CRC)とは

製薬会社や機器メーカーが新薬などを開発する場合、最終段階で人体への有効性と安全性を確認するための治験を行います。その治験の調整役となるのが治験コーディネーターです。治験コーディネーターは英語で「Clinical Research Coordinator」と表記され、略してCRCと呼ばれます。
 
治験コーディネーターは、治験を安全に確実に行うために関係部署やスタッフ、患者さんとの間に立ち、調整を行います。治験を実施するにあたっては「薬機法(医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」と「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(Good Clinical Practice=GCP)」を遵守しなければなりません。
 
諸業務を正確かつ円滑に行うために、医学的知識はもちろんのこと、被験者の方、実施医療機関のスタッフ、治験依頼者との高いコミュニケーション能力が必要です。治験コーディネーターは、治験を安全にスムーズに行えるようサポートするという大切な役割があります。

 
► 治験コーディネーター(CRC)の求人情報をチェックする

2.治験コーディネーター(CRC)になるには

治験コーディネーターになるために必要な資格や就職先について見てみましょう。

 

2-1.治験コーディネーター(CRC)に必要な資格

治験コーディネーターになるために、特別な資格は必要ありません。しかし、実務において専門性が問われるため、新卒であれば薬学部や看護学部などの医療系大学を卒業した人が有利です。また、薬剤師として働いた経験が、就職や転職においてアピールポイントとなります。

薬剤師は薬や疾患の知識に加え、大学で新薬開発に関する講義も受けているため、治験に関する大まかな流れを把握しています。実務経験のない薬剤師も大学での実務実習を通して、医療系の知識や医療機関の仕組みを学んでいるため、病院内で立ち回りやすいでしょう。

 

2-2.治験コーディネーター(CRC)には認定制度がある

最新の医療に関わる治験コーディネーターは、常に医療に関する新しい情報を得たり、知識を高めたりすることが求められます。治験コーディネーターとしての専門性を高めるため、日本SMO協会が行っている「JASMO公認CRC試験」や日本臨床薬理学会が行う「認定CRC制度」などの受験が必須となっている職場もあります。いずれも5年ごとの更新制となっており、日頃から知識やスキルアップに努めることが求められる資格です。

 

2-3.治験コーディネーター(CRC)の就職先

治験コーディネーターの働き方は、SMOに所属する治験コーディネーターとして医療機関へ派遣される形と、医療機関に薬剤師、看護師、臨床検査技師として所属し、治験業務を行う院内CRCの2つがあります。SMOとは治験施設支援機関と呼ばれており、院内CRCがいない医療機関が治験を行う時は、SMOから治験コーディネーターを派遣してもらい、治験を行います。

 
► 【関連記事】薬剤師の就職先をチェック!それぞれの仕事内容や年収を徹底解説

3.治験コーディネーター(CRC)の仕事内容

治験コーディネーターは、治験の進捗状況によって業務が異なります。治験開始前、治験開始中、治験終了後にそれぞれ行う業務について解説します。

 

3-1.治験開始前

治験コーディネーターは、治験開始前に治験実施計画書(プロトコル)をしっかりと読み込み、理解を深めなければなりません。臨床開発モニターからの説明や医師や看護師、薬剤師などから情報を集めて、治験薬と対象となる疾患について学びます。加えて、治験の業務フローの作成や症例管理のための資料作成、治験実施計画書に伴う研修や治験関連部門との連絡・調整を行います。

また、臨床開発モニターが行うスタートアップミーティングのサポートを行ったり、各部門への説明会開催を行い、院内のスタッフが治験について理解を深められるよう努めたりすることも大切な仕事です。同時に、治験がスムーズに行えるよう、各部署との連携を図らなければいけません。
 
そのほか、製薬会社などから搬入される検査機器類や検査キット、治験薬の中には温度管理などが必要なものもあるため、適切に管理し被験者が来院した際に使用できるよう準備します。

 

3-2.治験開始中

治験が開始したら、治験実施計画書に記載された基準に合わせて、医師からの紹介や病院のカルテなどから候補者を探し、被験者のスクリーニングを行います。また、被験者に渡す治験の説明文書や同意書を作成するのも大切な業務です。候補者が見つかったら治験責任医師が行う事前説明に同席し、それらの説明の補助や被験者の来院日、検査・投薬予定日などのスケジュール管理をします。

 

・被験者の来院時
被験者の来院時は、医師の診察に同席し、服薬状況の確認や残薬の回収、返却、併用薬や有害事象の確認、コンプライアンスの確認などの服薬指導を行います。また、通常の診療と治験を並行している場合、通常の診療に関しては患者さんの負担が発生しますが、治験に関する検査や診察などは治験の費用となるため患者さんからの支払いは発生しません。そのため、保険外併用療養費請求などの確認も大切な業務です。

・症例報告書の作成補助
治験コーディネーターは、製薬会社に治験実施状況を報告する症例報告書の作成補助も行います。治験責任医師の指示に従い、カルテや投薬記録、検査結果、症状についての所感記録など、医学的判断を必要としないデータを確認し、症例報告書に転記します。

・有害事象の発生時
被験者に有害事象が発生した場合、最初に対応するのが治験コーディネーターです。治験コーディネーターは有害事象が発生したら、24時間以内に治験責任医師に報告し、被験者への適切な処置を促します。その後、有害事象が発生した経緯や検査値、併用薬・治験薬との因果関係など重篤な有害事象に関する報告書として作成し、製薬会社や病院長に提出します。

 

3-3.治験終了後

治験が無事終了したら、治験終了報告書を作成します。治験責任医師が原案の内容を確認したうえで、実施医療機関の院長に提出します。

 
► 【関連記事】CRAとは?仕事内容や役割、薬剤師がCRAに転職する方法を紹介

4.治験コーディネーター(CRC)に向いている人

治験コーディネーターは、医師や看護師のほか、患者さんやその家族など、人と接する機会が多い立場です。そのため、コミュニケーションを取るのが得意な人や、コミュニケーションスキルを磨く意識の高い人は向いています。また、患者さんから悩みを相談されたり、医師や看護師から厳しく接されたりすることもあるため、一つのことにいつまでもこだわらずに切り替えができる性格や、ストレス解消が上手な人のほうが向いているでしょう。

スケジュール管理をするのが治験コーディネーターの仕事ですが、予定を立てていても有害事象が現れるなど予定通りにいかないケースもあります。状況に合わせて、臨機応変に対応したり、優先順位を上手につけたりする柔軟性も求められるでしょう。文書作成などの事務作業やGCPなどの法律の確認といった細かな作業をコツコツと取り組める人や、薬理・薬物動態・疾患などについて最先端の医療に興味がある人にも向いています。

5.治験コーディネーター(CRC)の魅力

治験コーディネーターの仕事は、病院内で患者さんに治験内容の説明を行うだけではありません。不安や心的負担を軽減するための相談相手としての役割もあるため、患者さんの気持ちに寄り添ったサポートが期待されます。誰かの役に立ちたい人や患者さんの支えになりたい人には魅力的な職業といえます。
 
治験に参加した患者さんから、薬が効いた、治験に参加してよかったと感謝されることもあるため、やりがいを感じやすいでしょう。また、治験が無事満了した時は、医師やスタッフ、臨床開発モニターとの連帯感や達成感を共有できます。自分が関わった治験から薬が発売されたときは、感慨深く感じられるのではないでしょうか。

6.治験コーディネーター(CRC)の厳しさ

治験コーディネーターは、治験をルールに沿って安全に行うためにサポートするのが仕事のため、病気を「治療」するわけではありません。治療方法が他に見つからず治験薬だけが望みという患者さんもいます。新薬を必要としていない患者さんへ治験参加を提案することもあり、自身や周囲の判断に思い悩むことがあるかもしれません。
 
また、基本的に複数の治験を同時進行するため、資料の作成や検査データの入力、検査結果の報告書作成など事務作業が重なります。そうした業務が苦手な人は、厳しさを感じやすいでしょう。さらに、被験者に有害事象が発生した場合、夜間・休日関係なく早急な対応が求められます。業務に慣れるまでは仕事がつらいと感じることがあるかもしれません。

7.治験コーディネーター(CRC)の年収

マイナビコメディカルによると、治験コーディネーターの平均年収は約370万円~430万円です。さらに細かく求人を見ていくと、治験施設支援機関(SMO)の平均年収は約320万円~420万円となっています。一方、医療機関やクリニックで働く治験コーディネーターの平均年収は、約350万円~480万円です。勤務地や職場の規模などによっても異なりますが、治験施設支援機関よりも、医療機関やクリニックで働く方が、年収が高い傾向にあるようです。

 
► 【もっと知りたい】全国の薬剤師年収ランキングを見てみる

8.薬剤師経験が治験コーディネーター(CRC)への転職に有利に働く

治験コーディネーターは最先端の医療現場で働く職業です。治験コーディネーターを目指すのであれば、医療系の知識はあらかじめ習得していた方が就職に有利に働きます。その点で、実務経験を持つ薬剤師は転職時の大きなアピールポイントになります。入社後に、より深い知識を学ぶ必要がありますが、経験や知識を生かせる治験コーディネーターを目指してみてはいかがでしょうか。

 
► 治験コーディネーター(CRC)の働き方や求人情報についてマイナビ薬剤師の薬剤師専任キャリアアドバイザーに相談しませんか?(完全無料)


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

<完全無料>転職やキャリアのご相談はマイナビ薬剤師へ