薬剤師の働き方 更新日:2024.03.22公開日:2020.12.15 薬剤師の働き方

フリーランス薬剤師とは?個人事業主になる場合のメリット・デメリットなどを解説

文:加藤鉄也(研修認定薬剤師、JPALSレベル6)

薬剤師免許を取得した後の進路は、病院、ドラッグストア、調剤薬局などに勤務するのが主流です。企業や公的機関への就職は、安定した収入が期待できる働き方といえます。一方で、SNSなどを通じて人とのつながりを広げたり、情報を発信したりすることが容易になった今、薬剤師の働き方も徐々に変化しています。会社から雇用されて給与をもらう勤務形態ではなく、個人で仕事をしたいと考える薬剤師も増えているのではないでしょうか。今回は、フリーランス薬剤師の働き方についてメリットやデメリット、さらにフリーランス薬剤師になる方法についてお伝えします。

1. フリーランス薬剤師とは

「フリーランス薬剤師」に明確な定義はありませんが、ここでは「企業と雇用契約を結んで働く働き方をせず、薬剤師としての知識やスキルを生かしながら生活の基盤となる収入を得ている人」と考えます。

 

1-1. フリーランス薬剤師の仕事内容

薬剤師としてのスキルを生かせるフリーランスの仕事内容はさまざまなものがあります。例えば、薬や健康に関する記事を執筆するメディカルライターや、医療翻訳といったライター業もそのひとつ。薬や健康に興味をもつ読者に対して、医学の専門的な内容を簡潔にまとめたり、正確かつ理解しやすく翻訳したりする仕事は、薬剤師としての経験や知見を生かせる仕事といえます。こうしたライター業は、関係各所とメールや電話でやり取りすることが中心なので、テレビ会議ツールなどの普及のおかげもあり、場所を選ばずに仕事ができる点が魅力です。

 

また上記の能力に加え、情報を整理する能力や情報発信力を生かして、インフルエンサーとして活躍したり、本の著者として活躍したりする人もいます。さらには講演や研修を行ったり、オンラインサロンを開いたりする方法もあるでしょう。

その他にも、ポータルサイトやブログを開設し、薬剤師や医療関係者が興味のある情報を発信し、薬局や病院、ドラッグストアと薬剤師や医療関係者をつなぐマッチングビジネスをしている人や、ユーチューバーとして広告収入を得ている人もいます。ただしこうした働き方は収入が安定しづらいため、薬剤師として企業に勤務する従来の働き方ほどの収入を得られるケースはひと握りかもしれません。

 

また、フリーランスとして働く薬剤師の中には、薬局やドラッグストアをクライアントとして個人で契約を結んで調剤業務に従事するケースもあります。次項からは、このように薬剤師業務をフリーランスとして行う働き方の特徴について、派遣薬剤師との違いやメリット・デメリットについてご紹介します。

 

1-2. フリーランス薬剤師と派遣薬剤師の違いとは?

フリーランス薬剤師と混同されることが多いのが、「派遣薬剤師」です。傍目には、同じように薬局やドラッグストアで調剤業務を中心に行っている薬剤師のように映るでしょう。「フリーランス薬剤師」「派遣薬剤師」の大きな違いは、所属先が異なることです。派遣薬剤師は派遣会社に所属し、派遣会社から紹介された派遣先で薬剤師業務を行います。組織に所属して働くという意味では、派遣薬剤師も会社員のような働き方といえます。

 

一方、フリーランス薬剤師は「派遣会社を介さずに、薬局から直接依頼を受けて」薬剤師業務を行います。契約先を自分で選び、契約先と交渉をして仕事を引き受ける――つまり、個人の裁量で仕事を決められるのが特長です。開業届を出すことで個人事業主と認められ、確定申告による税制上の優遇も受けられます。中には会社を設立して、法人の代表となる人もいます。

なお、薬剤師としての経験やスキルが充分であれば、基本的に契約先に制限はありません。病院、ドラッグストア、調剤薬局など、さまざまな職場から選べるでしょう。基本的には民間の医療機関、特に仕事の繁忙期や離退職による影響を大きく受ける調剤薬局からの依頼が多い傾向にあるようです。

2. フリーランス薬剤師のメリット・デメリット

では、実際にフリーランス薬剤師として働く場合、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

 

2-1. フリーランス薬剤師になるメリット

フリーランス薬剤師になるメリットのひとつに、働き方を決めるうえで自分の裁量が大きい点が挙げられます。働きたいと思える薬局と契約し、契約内容や報酬についても、自身で交渉して決定します。自身のライフスタイルに合った職場を選ぶことができるので、働く場所や時間などの制約がなくなるでしょう。

 

自分で選んだ職場で働くのは、やりがいを感じられるもの。勤務条件も自身で交渉できるため、勤務先、仕事内容、収入面、キャリアなどにおいて会社に依存せずにすむので、精神的な豊かさという意味でも大きなメリットがあります。

 

そのほか、以下のようなメリットが挙げられます。

 

・事業主として経費精算できる
個人事業主や法人は、フリーランスとしての営業活動に必要な費用や個人のスキルアップにかかる経費を計上できるという税制上の権利があります。例えば、個人で勉強するために必要な専門書の購入費や研修費、営業先の薬局との交際費、営業先までの交通費など、細かく経費として計上できます。勤務時間や報酬によりますが、同じ時間を働いた場合、企業に勤務する薬剤師と比べ、手元に残るお金が多くなる可能性もあります。

 

・会計に関する知識が身につく
開業届を出して個人事業主になると、経理に関わる作業を行うことになります。事業を安定して行っていくためには、お金の流れを管理する必要があり、経理、節税対策、時には資金調達など、財務面で経営の仕組みを理解し、会計に関する業務を身につけることができるでしょう。一事業主として、税理士や弁護士といった専門家とやりとりする機会も増えます。

 

・人脈と知見が広がる
フリーランスとして多くの薬局で働くと、たくさんの経営者に出会えます。なかには薬局譲渡をしたいと考えているオーナーやその知人などと出会う可能性もあります。こうした人脈ができる機会は、会社員として働いているときには少ないものです。豊かな経験や魅力的な人間性にふれることで、自身に磨きをかけることができるでしょう。将来的に開局を目指している人にとって、人脈や知見は貴重な財産になります。

2-2. フリーランス薬剤師になるデメリット

一方で、フリーランス薬剤師は、経営に関する多くの業務を自身で行う必要があります。会社勤めの場合は会社が年末調整を行ってくれますが、フリーランスの場合は自分で確定申告をしなくてはいけません。営業や会計、税務申告などもすべて自分で行うことになり、薬剤師業務以外での仕事の時間が増えてしまいます。

 

また、取引先への訪問や、交渉、担当者との交流といった営業・契約業務は、得意でない人にとっては苦痛かもしれません。

 

そのほか、以下のようなデメリットもあります。

 

・収入が不安定
薬局ごとに契約条件が違うため、契約先によって収入にばらつきが出ます。また、繁忙期が終わったり、人員が充足したりすると、予定よりも早く契約が終了する可能性もあるでしょう。継続的な契約ができない場合は、そこで収入が途絶えてしまいます。

 

・社会保険が自己負担になり、受けられない社会保障もある
企業に勤務する場合は、厚生年金や健康保険料も会社が半額負担してくれますが、個人事業主は全額、自身が負担します。個人事業主は国民年金や国民健康保険に加入することになり、将来的な年金の受け取り額は厚生年金に比べて少なくなります。また、会社員であれば仕事中にケガをした際に治療費を受け取ることができる労災保険、退職した際に失業手当が受けられる雇用保険に加入していますが、個人事業主では加入することができず、必要に応じて、自身で民間の保険に加入することになるでしょう。また傷病手当金や育児休業給付金などの対象からも外れることになります。

3. フリーランス薬剤師の収入

薬局やドラッグストアと契約するフリーランス薬剤師は、交渉の末に契約した報酬が主な収入源となります。能力によって変動はありますが、収入を時給換算したときの相場は、派遣薬剤師の時給よりも少し高いくらいでしょうか。

 

ただし、収入は働き方や契約条件によって変動します。会社員と異なり、副業規定もないため、空いた時間に単発で派遣業務に入ったり、副業としてライター業務を行ったりすることで、プラスアルファの収入アップが期待できるでしょう。また、講演や出版、オンラインサロンの開設、YouTubeでの動画配信などによる印税収入や広告収入を得ることも可能です。自分のライフスタイルや収入目標に応じて仕事を組み合わせることで、理想に近い働き方を実現できるのではないでしょうか。

 

なお、医療機関で勤務する薬剤師の平均年収について詳しく知りたい方は「全国の薬剤師 年収ランキング」をご覧ください。

4. フリーランス薬剤師になるには

フリーランス薬剤師として薬局と直接契約を結ぶ場合、契約先からは即戦力として活躍することが期待されますので薬剤師として高いスキルをもつことが前提となります。スキルの面で不安がある場合は、まずは自身のスキルアップを行うところから考えてみましょう。

 

例えば、派遣会社に登録し、まずは派遣の仕事から始めてみるのも一案です。すぐに現場に順応して働けるスキルやコミュニケーションのとり方などを、業務を通して学ぶとよいでしょう。派遣では、個人薬局から大手チェーン薬局まで幅広い企業を経験できるため、自身がどんな働き方を目指していくのかを考える際にも役立ちます。勤務先の形態によって、それぞれの良いところを吸収したり、自分の課題に気づいたりできるでしょう。

 

また、派遣先でお世話になった経営者や人事担当者との人脈は、フリーランス薬剤師として独立したときにも役立ちます。派遣期間終了後に、独立することを伝えれば、今後、人員が必要になった際に契約のお誘いをもらえる可能性があります。派遣期間を通して、働きぶりも伝わるため、交渉もしやすく、よい関係が築けていればコミュニケーションも取りやすいはずです。

5. フリーランス薬剤師は働き方の選択肢のひとつ

企業に属さず、自分の裁量で自由に働くフリーランス薬剤師。コミュニケーション能力や交渉力、会計や税務など薬剤師以外のスキルも求められる一方で、自分次第で理想の働き方が目指せます。

 

いきなり独立するのは難しいと感じる方は、薬剤師として会社に勤務しながらフリーランスとしてのスキルを伸ばし、パラレルキャリアを築いていくのもよいでしょう。働き方の多様性が認められる時代となり、個として働きたいと考えている薬剤師にとって、フリーランスはこれからのキャリアを考えるうえで、ひとつの選択肢になるのではないでしょうか。


執筆/加藤鉄也

薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。

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