薬剤師の働き方 更新日:2023.05.30公開日:2022.08.18 薬剤師の働き方

派遣薬剤師とは?仕事内容・時給相場・メリットややりがいを紹介

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

正社員、パート薬剤師とは別に、派遣薬剤師という働き方があります。自分の希望条件にマッチした勤務先を選択して契約期間内で働くスタイルで、ある程度キャリアを積んだのちに選択肢となる働き方です。近年では働き方改革の推進により派遣薬剤師の働く環境が整ってきました。今回は、派遣薬剤師の仕事内容ややりがい、収入事情などについてお伝えするとともに、派遣業界の変化について解説します。

1. 派遣薬剤師とは

派遣薬剤師は直接勤務先と契約するパート社員と異なり、人材派遣会社と契約を交わして、派遣先で薬剤師として勤務をする働き方です。派遣会社から自分の希望に合った派遣先を紹介してもらうか、派遣募集の求人から選択して契約するのが一般的な流れです。即戦力となる人材が求められるため、薬剤師経験が浅い人や、対応する業務が未経験の人は難しいでしょう。
 
勤務時間や契約期間は勤務先によって異なりますが、同じ職場で働けるのは最長3年間と定められています。単発での派遣になることも多く、「繁忙期の3カ月だけいてほしい」「常勤薬剤師が辞めてしまうため、次の常勤薬剤師が決定するまでの期間だけ働いてほしい」「1週間だけヘルプしてほしい」など、派遣先の要望はさまざまです。
 
派遣薬剤師は、一般的なパート勤務より時給が高い傾向にあり、働く側としてもしっかり稼ぎたい、空いた時間に扶養控除適用内で効率的に働きたいといった希望がかなえられます。短時間から勤務可能な場合もあり、子育てや介護などにより働く時間に制限がある人や、プライベートを充実させたいと考えている人に向いている働き方といえるでしょう。

 

1-1.労働者派遣法の改正で派遣業界に変化が

近年、日本は「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「育児や介護との両立など働く人のニーズの多様化」といったさまざまな問題に直面しています。働き方改革は、多様な働き方を選択できる社会を実現することを目的とし、その一環として労働者派遣法の改正を進めています。
 
2020年4月に施行された労働者派遣法の改正では、派遣社員であっても正社員と同じ業務を行っていれば、同一労働同一賃金の待遇が定められました。また、派遣会社は派遣労働者を雇い入れる時と派遣する時に、賃金の決定方法や教育訓練などの待遇について説明する義務があります。

さらに2021年1月に施行された労働者派遣法の改正において、派遣会社と派遣労働者が契約する際の説明義務がさらに強化され、派遣会社は教育訓練計画の内容や希望者へのキャリアコンサルティングに関する説明を実施することになりました(厚生労働省資料より)。キャリアコンサルティングとは職業に関わるアドバイスや指導を行うことであり、派遣薬剤師がキャリアアップできるよう派遣会社からサポートを受けられる仕組みです。

 
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続く2021年4月の法改正では、派遣労働者の雇用安定化や働きやすさなどを意識した内容が加わっています(厚生労働省資料より)。前述した通り、派遣労働者は同じ職場に務められるのが最長3年です。雇用期間制限がある派遣労働者に向けて、派遣会社は派遣労働者の希望を聞いたうえで、派遣先に直接雇用を促したり、新しい派遣先を紹介したりといった措置を行う義務が生じることになりました。また、マージン率などをインターネットで公開することも原則義務化されており、今まで以上に納得できる派遣先を選択できるようになっています。
 
近年の法改正により、雇用元の違いによる派遣と正社員の不合理な待遇の格差の解消が進んでいます。

 

1-2.薬剤師も派遣切りの可能性がある?

「派遣で働く」となれば、ニュースなどでよく聞く「派遣切り」のイメージがあるかもしれません。しかし、有資格者である薬剤師は、派遣という勤務形態でも需要が高く、即戦力として期待されます。そのため「派遣切り」どころか、派遣期間内に、派遣先から正社員登用を打診される可能性もあります。正社員を目指している場合には、正社員としての採用を前提で派遣される「紹介予定派遣」を利用するのもよいでしょう。

 

1-3.派遣薬剤師の待遇

派遣薬剤師について、誤解が多いのが「福利厚生がない」と思われている点です。実際には、派遣会社が提供する福利厚生を受けられます。派遣会社との契約時に、福利厚生の利用について必ず確認しましょう。退職金やボーナスはほとんどの派遣会社では支給していませんが、雇用保険や労災保険、厚生年金保険・健康保険などの社会保険が完備されているケースが多く見られます。
 
加えて、1週間あたりの勤務時間や、継続勤務日数、出勤日数によっては、有給休暇や産休・育休制度が利用できます。なお、健康診断は派遣会社によって条件が異なるので、登録する派遣会社に確認しましょう。
 
さらに、派遣会社によっては、独自の福利厚生を設けている場合があります。例えば、通常は給料に含まれていることが多い交通費を支給したり、資格取得や研修などのサポートを行ったりしているところや、レジャー系や施設利用の割引といった福利厚生を用意しているところもあります。独自の福利厚生があるかどうか、登録する前にしっかりとチェックしておきましょう。

 
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2.派遣薬剤師の仕事内容

派遣薬剤師として勤務する職場の種類はさまざまですが、最も求人が多いのは調剤薬局です。他にも病院薬剤師やドラッグストアの募集もあり、それぞれの職場によって仕事内容が異なります。

 

2-1.調剤薬局への派遣勤務

調剤薬局の主な業務を「調剤」と「投薬」の2つに分けた場合、派遣薬剤師がメインで担当するのは「投薬」業務というのが一般的です。調剤業務に対応するには、薬局ごとに異なる薬品の位置や分包機の操作、賦形の有無、細かな調剤ルール、近隣病院との取り決めなどを理解する必要があります。
 
派遣薬剤師が、短期間でそうした調剤内規や薬局ごとの取り決めを理解・実践することは難しく、身につくまでは作業効率が悪くなることから、投薬のみを担当するケースが増えるというわけです。
 
一方、監査や投薬で医薬品ごとの注意事項や指導する内容はどの職場でもほとんど変わりません。こうした作業効率性を考えると、派遣薬剤師は投薬前の処方監査、薬品数・入力監査、服薬指導、薬歴入力などを主に担う傾向があります。

ただし、在宅専門の薬局では、正社員が患者さん宅を訪問し服薬指導を行うケースが多いため、派遣薬剤師がメインで調剤を担当することもあります。また、勤務先によっては一人薬剤師の派遣もあり、その場合は調剤、監査、投薬まですべてを担当することになるでしょう。

 
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2-2.ドラッグストアでの派遣勤務

OTC販売単独のドラッグストアへの派遣は少ない傾向にあります。多くの場合、調剤併設型ドラックストアで処方箋調剤の服薬指導をしながら、ときにはOTC販売も行うといった働き方になるでしょう。そのため、担当する業務内容は調剤薬局とほとんど同じです。
 
調剤薬局への派遣と同様に、処方箋調剤の投薬がメイン業務となりますが、OTC医薬品の取り扱いが比較的多いのが特徴です。また、OTCの販売業務では、お客さんのニーズを聞きながら健康相談に乗ったり、既往歴や併用薬を聞き取ったりしながら服薬指導を行います。他にも、レジ打ちやOTC商品の補充といったドラッグストアの日常業務に対応します。
 
正社員やパート勤務とは違い、在庫管理や売上管理といった業務への対応を求められることはほとんどありません。ただし、一人薬剤師の場合や、マネージャーが不在だったり、管理システムが充実してなかったりする店舗では、派遣薬剤師であっても管理業務を任されることがあるでしょう。

 
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2-3.病院での派遣勤務

病院に派遣される場合、雇用条件が薬局やドラッグストアとは異なります。というのも、病院は労働者派遣法の第4条「労働者派遣事業を行ってはいけない業務」にあたり、一般的な派遣として働くことができないからです。
 
例外として、将来的な直接雇用を前提とする「紹介予定派遣」や「産前産後休業、育児休業、介護休業などによる代替」の場合には、病院での派遣勤務が可能です。派遣といえども正社員の代わりといった色合いが強く、正社員とほぼ同じ仕事内容を担当することになるでしょう。ただし、調剤と病棟業務に分けた場合、調剤の業務を担当するほうが多い傾向にあります。外来がある病院では外来患者さんへの服薬指導も派遣薬剤師が担う重要な仕事となるでしょう。

また、短期契約になる可能性がある場合には、院内感染チームなど他職種と連携して行う業務を担当するケースは現状少ないようです。
 
入院設備のある病院のなかには、交代制勤務の職場もあり、場合によっては夜勤の依頼があるかもしれません。条件によって断ることも可能ですが、紹介予定派遣として直接雇用を予定している場合は、就職後のことを想定して引き受けてみるのもおすすめです。実状がわかるので、早いうちに経験してみてもよいかもしれません。

 
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3.派遣薬剤師の時給

調剤薬局や調剤併設型ドラッグストアに対する派遣薬剤師の募集は、比較的多い傾向にあります。時給の目安は2,000円以上で、薬剤師の採用が困難な地域では時給4,000円以上という高額時給も見られます。過疎地域や繁忙店舗、一人薬剤師など、薬剤師が集まりにくいような条件の求人を選ぶと、高時給になるでしょう。
 
一方で、OTC単独のドラッグストア、病院薬剤師の派遣募集はあまり多くありません。地域や期間に制約があるものの、時給は2,000円~4,000円の募集が見られます。
 
派遣薬剤師は時給が高い傾向にあるため、扶養控除適用の範囲内で働きたい場合には、週2~3回の短時間勤務を選ぶことで、年収を調整するとよいでしょう。

 
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4.派遣薬剤師のやりがいやメリット

続いて、派遣で働く場合のやりがいについて見ていきましょう。

 

4-1.スキルアップができる

派遣では短期間でいろんな形態の職場を経験できるため、大きなスキルアップのチャンスを得られます。さまざまな疾患領域での薬剤管理やOTC専門知識、販売や在宅、抗がん剤の取り扱いなど、多くの専門スキルを身につけることが可能です。

加えて、各職場の良いところを学べるのも魅力です。患者さんに対するサービスやマーケティング、業務効率化のシステムや機器など、実用的な取り組みに触れられます。短期間でスキルを向上させたいと考えている人や、独立開業を目指す人は貴重な経験ができるはずです。

 

4-2.短時間で効率的に稼げる

派遣薬剤師として働くメリットのひとつに、時給が高い点が挙げられます。特に薬剤師の採用が難しい地方の求人のなかには、驚くような高額時給が設定されているケースも見られます。遠方の場合には、交通費や宿泊先が準備されている求人もあり、自己負担なく短期間で稼げることにやりがいを感じる人もいるでしょう。

 
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4-3.人間関係にしばられることが少ない

職場の雰囲気や人間関係によって、モチベーションが左右されることもあるものです。その点、派遣先の職場環境は派遣会社が調査しているので、基本的に大きな問題がある職場で働くことはあまりないようです。とはいえ、ときには雰囲気が悪い職場に派遣されることがあるかもしれません。

そうした場合でも、働く期間が決まっていれば我慢しやすいかもしれません。どうしても我慢できない場合は派遣会社に伝えて勤務先を変えてもらうことも可能です。人間関係にしばられず仕事に集中できるので、薬剤師としての仕事そのものにやりがいを感じるのではないでしょうか。

5.派遣薬剤師のデメリット

やりがいやメリットが多い派遣薬剤師ですが、派遣という勤務形態ゆえのデメリットもあります。

 

5-1.管理職につけない

正社員のように勤務先で役職につくといったキャリアアップは見込めません。派遣薬剤師のキャリアアップといえば、個人として能力を高めることが主になるでしょう。管理薬剤師としてマネジメントをしたい、将来管理職について営業や教育、採用に関わりたいといったキャリアプランをもっている人には、派遣薬剤師は向きません。

 

5-2.長期間同じ職場で働けない

同じ職場で働いていると、職場で友人関係を築くこともできます。また、患者さんと長期に渡ってお付き合いすることもあり、生活に寄り添った仕事には薬剤師としてやりがいを感じるものです。
 
しかし、派遣薬剤師は、契約期間が限定されており、短期で終了する場合も少なくありません。長く働き続けたいと思っていても、契約満了とともに職場を離れるため、居心地の良い職場で長期にわたって働きたい人は派遣の働き方は合わないかもしれません

 

5-3.職場のルールにしばられてストレスを感じる

派遣薬剤師は、派遣先が代わるたびに、その都度、職場ごとのルールを把握する必要があります。調剤の賦形基準や後発医薬品への変更基準、疑義照会の基準など、以前の派遣先と新しい派遣先でルールが異なることもあるでしょう。

効率の良い方法を知っていたとしても、派遣薬剤師の立場からは提案しづらいものです。非効率的な業務方法にイライラしたり、非合理なルールにストレスを感じたりすることは多かれ少なかれあるかもしれません。

 
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6.派遣薬剤師に向いている人

派遣は、一定期間ごとに職場が変わり、時給が高めに設定されているという特徴があります。職場が定期的に変わることにメリットを感じる人や短期間で稼ぎたい人は、派遣薬剤師に向いています。ここでは、派遣薬剤師に向いている人の具体的な例を見ていきましょう。

 

6-1.さまざまな職場で経験を積みたい

派遣先によって扱う医薬品や疾患が異なります。同じ疾患でも医師によって処方パターンに違いがあり、職場ごとにさまざまな学びがあります。医薬品や疾患、処方に触れる機会が多いほど、薬剤師としての知識量は増えていくので、派遣薬剤師は知識欲の高い人に向いている働き方といえるでしょう。

また、薬局ごとにルールが異なるため、新たな発見をすることもあります。扱う医薬品や薬局ルールなどが変わることをポジティブな要素として受け止め、新たな気づきになると捉えられる人に向いている働き方です。

 

6-2.人間関係への配慮を最小限に抑えたい

同じ職場に長期間務めていれば、人間関係が複雑になりやすいものです。表面上では仲良くしていても、裏では不平不満が溜まっている場合など、周囲の本音を気遣いながら立ち回らなければならないこともあります。

 
► 【職場別】薬剤師が人間関係に悩む理由とは?解決策とストレス発散法も紹介

 

あるいは、気難しい人や苦手な人との人間関係を良好に保つために気を使うといった業務以外のことで配慮しなければならないこともあるでしょう。定期的に職場が変わることで人間関係をリセットできる派遣薬剤師の働き方は、そういった人間関係への配慮を最小限に抑えて、業務に集中したい人に向いています

 

6-3.仕事以外にやりたいことがある

海外旅行が趣味だったり、留学や進学を考えていたりする人も、派遣薬剤師の働き方が向いています。高時給になりやすいため、まとまった資金を集めることを目的とする場合に最適な働き方です。また、労働期間の区切りがつけやすいため、趣味に割ける時間を確保しやすいのも魅力でしょう。
 
また、平日にやりたいことがあり、決まった曜日に休みを取りたい人も、パートやアルバイトに比べて高時給になりやすい派遣薬剤師はおすすめです。派遣薬剤師は、短時間でも大きく稼げるので、睡眠時間やプライベートな時間を削ることなく目標を達成できるでしょう。

7.派遣薬剤師として自分らしい働き方を考えよう

派遣薬剤師としてどの派遣先でも安定してスキルを発揮できるようになれば、仕事探しに苦労することはないでしょう。派遣先が気に入り、派遣先からの要望があれば、派遣会社に相談してそのまま就職することも可能です。
 
また、派遣薬剤師として、さまざまな職場を経験し、そこで得られた知見をたくわえ、最終的に調剤チェーンの管理部門に就職することも考えられます。経験を独立開業に活かすといったキャリアも選択肢のひとつです。

派遣薬剤師として働いている人のなかには、他の仕事や自分のやりたいことと両立したい人もいます。運営資金や生活資金を確保するために派遣薬剤師をしながら、カフェや飲食店、IT会社の経営を行うなど、自分の夢をかなえる道もあるでしょう。
 
勤務地も日本全国にあるので、自宅から近い勤務先で働く方法もあれば、地方の生活を楽しむように遠方の職場を選ぶのもよいかもしれません。
 
派遣薬剤師は、短時間勤務から長時間勤務まで幅広い勤務形態が選択できる働き方です。派遣薬剤師としての働き方は、自分のライフプランを見つめ直したときに、ひとつの魅力的な選択肢になるのではないでしょうか。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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