薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.03.05 薬剤師のスキルアップ

退院時薬剤情報管理指導料とは?算定要件や加算について分かりやすく解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

退院時薬剤情報管理指導料を算定するためには、お薬手帳に治療経過を記録したり、患者さんや家族へ必要な指導を行ったりしなければなりません。また、退院時薬剤情報管理指導料の加算である「退院時薬剤情報連携加算」は、薬局への情報提供などが算定要件となっています。本記事では、退院時薬剤情報管理指導料の概要や算定要件・点数、算定できないケースについて分かりやすく解説するとともに、退院時薬剤情報連携加算の算定要件や点数、情報提供で活用できるフォーマットなどについてもお伝えします。

1.退院時薬剤情報管理指導料とは?

退院時薬剤情報管理指導料とは、医薬品の副作用や相互作用、重複投薬を防止することを目的に、患者さんの薬物治療が入院によってどのように変わったのかなどについて、お薬手帳に記録し、患者さんや家族へ必要な指導をすることを評価したものです。
 
退院時薬剤情報管理指導料を算定するためには、入院患者さんについて、入院時や入院中の服薬状況を丁寧に確認しなければなりません。また、退院時には、治療経過などをお薬手帳へ記載し、患者さんや家族へ必要な指導を行うこととされています。

2.退院時薬剤情報管理指導料の算定要件と点数

退院時薬剤情報管理指導料を算定するには、入院時、入院中、退院時の服薬管理や手帳の活用などが必要になります。ここでは、主な算定要件と点数についてお伝えします。

 

点数 90点
算定タイミング 退院の日に1回限り
入院時 服薬チェック ● 服用状況や薬剤服用歴を手帳などで確認
● 必要に応じて薬局へ服用薬について照会
● 患者さんが医薬品などを持参している場合には実際に確認
● 薬剤の名称等や確認した結果の要点を診療録などに記載
入院中 最低限手帳に記載する事項 ● 退院直前(おおむね退院前1週間以内)に使用した薬剤
● 入院中に副作用が発現した薬剤
 1.投与量
 2.副作用の概要
 3.投与継続の有無を含む講じた措置
 4.転帰(症状の経過や結果) など
退院時 服薬指導 ● 患者さんまたはその家族などに、退院後の薬剤の服用などに関する必要な指導の実施
● 医療機関の受診時や薬局への処方箋提出時に、手帳を提示する旨の指導
手帳への記載 ● 退院後の療養を担う医療機関での投薬または薬局での調剤に必要な服薬状況・投薬上の工夫に関する情報
● 指導の要点
● 必要に応じて、退院時の処方に係る薬剤の情報を文書で提供
薬局との連携 ● 在宅療養が必要な患者さんの手帳に、かかりつけ薬剤師の氏名が記載されている場合は、退院後の薬学的管理・指導について、かかりつけ薬剤師への相談を促すよう努めること
● 入院時に持参薬の服用状況などについて薬局から提供を受けた場合には、患者さんの同意を得た上で、薬局へ入院中の使用薬剤や服薬の状況などについて情報提供すること

手帳の活用に関する指導 ● 手帳を所有している患者さんについては、原則として退院時までに家族などに持参してもらうこと
● 手帳を持参できない場合には、必要な情報が記載された簡潔な文書(シールなど)を交付し、所有している手帳に添付するよう指導するか、新たに手帳を発行すること
診療録などへの記録内容 ● 薬剤情報を提供した旨
● 提供した情報
● 指導した内容の要点
 
※薬剤管理指導料を算定している患者さんの場合は、薬剤管理指導記録に記載することで差し支えない

参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 
🔽 薬剤管理指導料について解説した記事はこちら

3.退院時薬剤情報連携加算の算定要件と点数

退院時薬剤情報連携加算とは、地域で継続的に薬学的管理指導を支援することを目的とした退院時薬剤情報管理指導料の加算です。算定要件は以下のとおりです。

 

点数 60点
対象患者 退院時薬剤情報管理指導料の算定対象で、入院前の処方の内容に変更または中止の見直しがあった患者さん
算定タイミング 退院の日に1回限り
薬局への情報提供 ● 退院時に見直しの理由やその後の患者さんの状態などを文書で情報提供
● 手帳への貼付では算定不可
● 手帳とは別に文書で患者さんへ交付または薬局へ直接送付
患者さんまたは家族の同意 必要
情報提供を行う薬局 患者さんまたは家族が希望する薬局
診療録などへの記載 情報提供文書の写しを添付

 

患者さん1人につき、複数の薬局へ情報提供した場合であっても、退院時薬剤情報連携加算を算定できるのは1回のみです。
 
また、情報提供を行う文書については、日本病院薬剤師会の「薬剤管理サマリー」などを参考に作成することとしています。
 
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省
参照:疑義解釈資料の送付について(その5)令和2年4月16日|厚生労働省

4.退院時薬剤情報連携加算の情報提供で活用できるフォーマット

日本病院薬剤師会では、医療機関から医療機関または薬局へ情報提供する際に使用する文書について、「標準」「小児版」「精神科版」の3つのフォーマット(薬剤管理サマリー)を作成しています。これらのフォーマットは、日本病院薬剤師会のホームページからExcelファイルをダウンロードできるため、自施設に合わせてアレンジして使用することが可能です。
 
また、日本病院薬剤師会が作成した情報提供文書は、情報提供をする側と受ける側の双方が情報を共有し、患者さんの薬物治療をサポートすることを目的としています。そのため、「標準」「精神科版」のフォーマットには情報提供に対しての返書のフォーマットも作成されています。
 
参照:薬剤業務関連記録様式等|日本病院薬剤師会

 

4-1.標準フォーマットの記載内容

標準フォーマット(薬剤管理サマリー)には、以下の項目が作成されています。

 

● 患者さんの基本情報(生年月日、身長・体重、入院期間、入院時と退院時の病棟など)
● 今回の入院の目的・病名
● 入院時の情報(調剤方法、投与経路、認知機能、副作用・アレルギー歴など)
● 検査情報
● 持参薬情報
● 入院中の経過
● 退院時処方
● 退院後の薬学的管理・支援のフォローアップ依頼内容 など

 

標準フォーマットは、情報提供する上で必要と考えられる項目が網羅されたものとなっています。

 

4-2.小児版フォーマットの記載内容

小児版フォーマットの記載内容は、標準フォーマットの内容に加えて、以下のような小児特有の申し送り事項が項目に追加されています。

 

● 栄養状況(母乳、一般ミルク、特殊ミルク、TPN、離乳食など)
● 調剤方法(賦形剤の使用や倍散ルール、乳糖不耐症への対応など)
● 剤形の嗜好(錠剤の内服の可否など)
● 服用上の工夫(単シロップ、フレーバーの使用など)
● 学校等と共有が必要な情報 など

 

小児は、年齢や状態、理解度などによって保護者や関係者のフォローを必要とする場合があります。そのため、標準フォーマットの項目に加えて上記の項目が追加されています。

 

4-3.精神科版フォーマットの記載内容

精神科版フォーマットの記載内容は、標準フォーマットの内容に以下のような項目が追加されています。

 

● 服用方法(管理者、管理方法)
● 服薬アドヒアランス情報(拒薬・怠薬理由)
● 精神科薬剤の使用関連(持効性注射剤、定期検査が必要な薬)
● DIEPSS評価 など

 

DIEPSS評価(薬原性錐体外路評価尺度)とは、抗精神病薬の副作用を評価するものです。歩行や動作緩慢、流涎、筋強剛などを評価します。
 
検査値については、一般的な検査項目以外に、精神疾患治療薬特有の副作用などを踏まえた検査値を記載しましょう。例えば、MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)を服用時は血糖値など、SDA(セロトニンドパミンアンタゴニスト)を服用時はプロラクチン値などの服用薬に応じた検査値を記載すると、情報提供を受けた医療機関や薬局が患者さんの状態を把握しやすくなります。
 
参照:薬剤管理サマリー(精神科版)の使用にあたって |日本病院薬剤師会

5.退院時薬剤情報管理指導料が算定できないケース

退院時薬剤情報管理指導料には、算定できないケースがあります。詳しく見ていきましょう。

 

5-1.退院時共同指導料2と同一日には算定できない

退院時共同指導料2とは、患者さんが入院している医療機関の医師や薬剤師などの医療従事者が、退院後の在宅療養で必要な説明や指導を、在宅療養担当医療機関の医師や薬局薬剤師などの多職種と共同して行った上で、文書により情報提供した場合に算定できる指導料です。
 
退院時共同指導料2は、患者さんが入院する医療機関の薬剤師が、退院時共同指導料2に係る指導などを行った場合に限り、同一日に退院時薬剤情報管理指導料と併算定することができません。そのため、同一日に退院時共同指導料2と退院時薬剤情報管理指導料を算定する場合は、診療報酬明細書の摘要欄に、共同指導を行った者の職種と年月日を記載することとされています。
 
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

 

5-2.入院期間が通算される再入院に係る退院日には算定できない

通常、入院期間については、医療機関に入院した日から起算して計算します。ただし、退院後に同じ疾患または負傷で再入院した場合は、急性憎悪などやむを得ない場合を除いて、最初に入院した日から起算して計算することとされています。
 
急性憎悪などのやむを得ない場合と判断できないケースでは、入院期間が前回入院と通算されるため、再入院後の退院日に退院時薬剤情報管理指導料は算定できません。
 
参照:医科診療報酬点数表|厚生労働省

 

5-3.死亡退院の場合は算定できない

退院時薬剤情報管理指導料は、医薬品の副作用や相互作用、重複投薬を防止することを目的に、患者さん・家族への指導、在宅療養を担う薬局などへの情報提供などを評価したものです。そのため、患者さんが亡くなった場合には算定できません。
 
参照:医科診療報酬点数表に関する事項|厚生労働省

6.患者さんが安心して退院後の在宅療養を行うために支援しよう

患者さんが退院後の在宅療養を安心安全に行うためには、退院時の丁寧な説明や指導が欠かせません。退院時薬剤情報管理指導料を算定するにあたって、病院薬剤師には患者さんが安心して自宅で過ごせるよう多職種と連携・情報共有することが求められます。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。