薬剤師のスキルアップ 公開日:2026.03.26 薬剤師のスキルアップ

がん専門薬剤師とは?資格の取得方法や申請条件・認定試験について解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

がん専門薬剤師とは、がん薬物療法に関する高度な知識と実践力を備え、医療チームの中で専門的な役割を担えることを証する認定資格です。がん治療は複雑化しており、患者さん一人ひとりに合わせた治療選択や副作用管理が求められるため、専門薬剤師の存在はますます重要になっています。本記事では、がん専門薬剤師の仕事内容や年収に加え、申請条件、認定試験など資格取得までの流れについて解説するとともに、更新方法や難易度、資格取得のメリットについてもお伝えします。

1.がん専門薬剤師とは?

「がん専門薬剤師」とは、一般社団法人日本医療薬学会が認定している専門薬剤師資格の一つです。がんの薬物療法において一定以上の実力を持ち、知識と経験が求められるがんの医療現場で力を発揮するとともに、研究活動を実践できる薬剤師を認定しています。
 
同学会ではがん専門薬剤師の育成に必要な研修を行う「がん専門薬剤師研修施設」、そして指導者資格である「がん指導薬剤師」も認定しており、認定者名簿は公式サイトで確認できます。
 
参考:がん専門薬剤師制度|一般社団法人日本医療薬学会
 
薬剤師向けのがん治療に関する資格は、日本医療薬学会が認定するがん専門薬剤師、がん指導薬剤師以外にも、以下のようなものがあります。

 

1-1.がん薬物療法認定(専門)薬剤師とは?

がん薬物療法認定(専門)薬剤師とは、日本病院薬剤師会が実施する認定制度です。がん領域の薬物療法に関する高度な知識や技能、実践能力を備え、全国どこでも一定水準のがん医療を受けられるように寄与すること、そして医師や看護師などの多職種と連携して、患者さんが安全かつ有効な薬物治療を受けられるようにすることを目的としています。
 
がん薬物療法認定(専門)薬剤師になるためには、日本病院薬剤師会以外に指定する学会にも所属していることが要件の一つとなっています。
 
参考:がん 専門薬剤師・認定薬剤師|日本病院薬剤師会

 

1-2.外来がん治療専門薬剤師とは?

外来がん治療専門薬剤師とは、日本臨床腫瘍薬学会が認定する制度で、患者さんが外来でがん治療を安全に行うための知識や技能を修得し、地域がん治療において病院と薬局が連携して患者さんとその家族をサポートできる薬剤師を養成することを目的としています。
 
外来がん治療専門薬剤師は、外来がん治療認定薬剤師と同様の要件を満たすとともに、がん診療病院連携研修を修了し、病院または薬局で5年以上の実務経験があることなどが要件です。
 
参考:BPACC制度について|日本臨床腫瘍薬学会

 

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2.がん専門薬剤師の仕事内容

がん専門薬剤師は、患者さんが安心して治療を受けられるよう、がん薬物療法に関わる幅広い業務を担います。
 
治療に使うレジメンがエビデンスに基づいた正しい内容であるかを確認したり、投与量や投与経路、調製方法を電子カルテに登録したりと、治療の基盤づくりを行います。加えて、以下のような業務を行っています。

 

● レジメンの審査と運用整備
● 患者さんへの治療説明と選択支援
● 薬剤師外来での相談・副作用管理
● 院内講義や曝露対策などの体制整備
● 支持療法の提案・指導、臨床研究への参加

参考:がん専門薬剤師制度の紹介(薬剤学 2020年 80巻 4号 p.198-202)|J-STAGE

 

また、治療を選ぶ際には、患者さんの生活背景や仕事、併存疾患、副作用への不安、経済的事情など、さまざまな要素を丁寧に考慮します。がん専門薬剤師は、こうした個別性に寄り添いながら、薬の専門家として最適な治療を提案し、医療チームの一員として日々のがん医療を支えることが求められます。

3.がん専門薬剤師の年収

厚生労働省が公開している「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 -令和7年実施-」によると、病院薬剤師の平均年収は約581.1万円とされています。この数字はあくまで病院薬剤師全体の平均であり、専門資格の有無は考慮されていません。
 
がん専門薬剤師には高度な専門知識や症例経験が求められることから、資格手当の支給や役職への昇進につながるケースもあり、年収アップが期待できる資格の一つです。そのため、病院薬剤師としてキャリアを積む中で、がん領域に関心がある場合は、がん専門薬剤師の取得が収入面でもプラスに働く可能性があります。

 

4.がん専門薬剤師になるには

専門的な知識や技術を持つがん専門薬剤師となるには、さまざまな基準を満たさなければなりません。ここでは、申請条件や受講が必要な研修・単位、認定試験についてお伝えします。

 

4-1.申請条件

がん専門薬剤師の認定を申請するには、以下の条件を全て満たす必要があります。がん治療に対する知識や認定試験への合格のみならず、実際に現場で勤務した経験年数や研究活動の実績も求められるため、条件クリアは決して簡単なものではありません。

 

■がん専門薬剤師の申請要件
1. 日本の薬剤師免許を持ち、薬剤師として優れた人格と見識がある。
2. 薬剤師としての5年以上の実務経験がある。
3. 日本医療薬学会の会員を5年以上継続している。
4. 以下のいずれかの認定を受けている。
 ● 日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師
 ● 日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師
 ● 日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上
5. 日本医療薬学会認定の「がん専門薬剤師研修施設」において、研修ガイドラインに従って、がん薬物療法に関する5年以上の研修歴がある。
6. 別に定めるクレジットを5年で50単位以上取得している。以下への参加は必須。
 ● 本学会の年会に1回以上の参加
 ● がん専門薬剤師集中教育講座に1回以上の参加
7. 自ら実施した5年のがん患者さんへの薬学的介入を伴った症例報告50症例(3領域以上のがん種)を提出する。
8. 以下の研究活動のうち、発表あるいは論文の条件のどちらか一方を満たす。
 ● 学会発表
 医療薬学に関する全国学会、国際学会あるいは別に定める地区大会での発表が2回以上ある。本学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいる。
 ● 論文
 本人が筆頭著者である医療薬学に関する学術論文が1報以上ある。学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学についての学術論文もしくは症例報告であること(ただし、編集委員以外の複数の専門家に査読されていない論文や商業誌の掲載論文は対象外)。
9. 日本医療薬学会が実施するがん専門薬剤師認定試験に合格する。

参考:がん専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会

 

4-2.がん専門薬剤師研修施設での研修

がん専門薬剤師になるには、がん専門薬剤師研修施設において、がん薬物療法に関する5年以上の研修歴が必要です。研修内容は大きく3つの分野に分けられます。
 
がん専門薬剤師に必要な知識・技術・臨床経験について定められたカリキュラムに沿って研修は実施されます。それぞれの分野で学ぶ主な内容は以下のとおりです。

 

■がん専門薬剤師研修施設での研修
分野 研修内容 修得期間
がん専門薬剤師に必要な知識 ● がんの基礎に関する一般的知識
● がんの臨床に関する一般的知識
● 臨床的知識修得が必須ながん種に関する一般的知識
● その他研修施設の状況により知識の修得が望ましいがん種
● がん薬物療法に関する知識
5年間
がん専門薬剤師に必要な技術(必修) ● 経口抗がん薬
● 抗がん薬を中心とする注射薬
● 抗がん薬の曝露防止対策と必要な器具類の取り扱い
● 国内外のデータベースや文献情報を用いた調査
● 臨床論文の読解
● 患者説明(医薬品情報、治療スケジュール、副作用、投薬上の注意など)
● 他のメディカル・スタッフとの連携
● レジメン作成・管理
2年間
がん専門薬剤師に必要な臨床経験
(調剤、薬剤管理指導、緩和ケア)
● がん薬物療法(必修、2年間で修得)
● がん患者さんの薬剤管理指導業務(必修、2年間で修得)
● その他のがん患者さんに対する臨床経験(1年間で3項目を必須)
3年間

参考:がん専門薬剤師養成研修コアカリキュラム|一般社団法人日本医療薬学会

 

4-3.講習会・集合研修・学会発表などでの単位取得

講習会・集合研修・学会発表などで取得できる単位は以下のとおりです。

 

■講習会・集合研修、学会発表のクレジット
研修会などの種類 参加 筆頭発表 共同発表
1. 日本医療薬学会年会 10単位 5単位 2単位
2. がん専門薬剤師集中教育講座 15単位 - -
3. 専門薬剤師認定取得のための薬物療法集中講義 15単位 - -
4. 医療薬学公開シンポジウム 5単位 5単位 2単位
5. フレッシャーズ・カンファランス 5単位 5単位 2単位
6. 臨床研究セミナー 5単位 5単位 2単位
7. がん専門薬剤師全体会議 5単位 - -
8. がん専門薬剤師アドバンスト研修会 5単位 - -
9.※ 上記以外の日本医療薬学会が主催するセミナー 1単位/1時間 - -
10. 日本医療薬学会が認定する他団体のセミナー 1単位/2時間 - -

※日本医療薬学会が認定したもの。
参考:がん専門薬剤師認定制度規程細則|一般社団法人日本医療薬学会

 

■論文掲載・論文査読のクレジット
学術論文の種類 筆頭発表 共同発表
1. 医療薬学関連の日本語論文(査読あり) 10単位 5単位
2. 医療薬学関連の英語論文(査読あり) 20単位 10単位
3. 医療薬学誌あるいはJPHCS誌の投稿論文査読(1報につき、不採択であっても対象となる) 1単位

参考:がん専門薬剤師認定制度規程細則|一般社団法人日本医療薬学会

 

4-4.認定試験

がん専門薬剤師認定試験とは、がん専門薬剤師認定申請を行い、書類審査に合格した者のみが受けられる試験です。認定試験は、7領域から合わせて100問が出題されます。7領域の内容と出題される問題数は以下のとおりです。

 

■がん専門薬剤師認定試験 出題問題数
領域 問題数 内容
第1領域 がんの基礎(6問) 医療チームの一員として、医師などとコミュニケートするために必要ながんの疫学、統計、病期分類、治療計画、予後などに関する基本的な知識
第2領域 がん薬物療法(22問) 医療チームの一員として、医師などとコミュニケートするために必要な臨床薬理、臨床試験、副作用と支持療法などの薬学的な基本的知識
第3領域 各がん種における薬物療法について(22問) 医療チームの一員として、各がん種における化療の位置付け、ガイドライン(標準療法)などについて、医師などとコミュニケートするために必要な基本的な知識
第4領域 がん薬物療法における薬剤師業務 (9問) 適正ながん化学療法を実施するための薬剤師業務に必要な知識と業務上の留意点
第5領域 医薬品情報(27問) 専門薬剤師として必要な抗がん薬の個別知識(適応癌腫、禁忌、相互作用、副作用、空腹時投与、腎障害時などの特殊ポピュレーションへの対応など)
第6領域 緩和医療(3問) 疼痛緩和における薬物療法の基本的な知識
第7領域 総合問題(10問) 専門薬剤師として必要な総合力

※各領域の問題数は目安
参考:がん専門薬剤師認定試験問題 出題分野と例題|一般社団法人日本医療薬学会

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5.がん専門薬剤師の更新方法

がん専門薬剤師の認定は5年ごとに更新しなければなりません。更新する場合は、申し込む時点で認定期間中に以下の条件を満たしている必要があります。

 

■がん専門薬剤師の更新申請要件
1. 日本医療薬学会の会員を継続している。
2. 別に定めるクレジットを50単位以上取得している。以下への参加は必須。
 ● 本学会の年会に1回以上の参加
 ● がん専門薬剤師集中教育講座に1回以上の参加
3. 自ら実施した薬学的介入を伴ったがん患者さんの症例報告20症例を提出する。

参考:がん専門薬剤師認定制度規程|一般社団法人日本医療薬学会

6.がん専門薬剤師資格取得の難易度

がん専門薬剤師になるには、がん専門薬剤師研修施設での5年以上の研修をはじめ、講習会への参加、実務経験、学会発表もしくは論文執筆に加えて認定試験の合格といった条件を全て満たすことが必須であるため、決して容易に取得できる資格ではありません。
 
しかし、資格取得の難易度が高い分、がん専門薬剤師として認められるということは高度な専門知識と技術、経験を持つ薬剤師であることの証でもあります。がん医療にさらに貢献したいという思いがある薬剤師にとって、挑戦する意義は非常に大きいといえるでしょう。

7.がん専門薬剤師資格を取得するメリット

がん専門薬剤師の資格取得は難しい面もありますが、資格取得後のメリットにはさまざまなものがあります。ここでは、がん専門薬剤師を取得するメリットについてお伝えします。

 

7-1.専門性を生かして医療現場で活躍できる

がん治療を受ける患者さんは、さまざまな悩みや不安を抱えています。がん専門薬剤師は治療だけでなく、精神的な支えとなるよう知識や経験を生かしていくことも重要な役割です。
 
そのため、高い専門性を持つ薬剤師の存在は、医師や看護師などの医療チームだけでなく、がん治療を受ける患者さん本人やその家族にとっても大きな安心材料となります。がん患者さんを多く受け入れている医療機関では、専門性の高い薬剤師として大いに職能を発揮できるでしょう。

 

7-2.がん薬物治療の質向上に貢献できる

がん専門薬剤師の存在によって、より適切にがん治療を進められるのは、医療チームにとっても大きなメリットです。
 
がん治療には多職種の連携が不可欠であるため、専門性の高い薬学的支援ができる薬剤師が医療チームに加わることで、より安心安全な治療を実施できます。治療方針の検討や副作用の管理などがより適切に実施できるため、チーム医療全体の質向上につながるでしょう。

 

7-3.指導的立場や役職へのステップアップが期待できる

薬剤師自身のメリットとして、高度な知識・経験を持つことで、役職に就いたり他の薬剤師を指導する立場となったりする可能性があります。後輩薬剤師やスタッフを指導する立場になると、教育スキルやマネジメント力が磨かれ、キャリアの選択肢が広がるでしょう。
 
組織運営や人材育成といったより広い業務に携わることで、役職に抜擢される可能性が高まり、職責に応じた待遇改善も期待できます。

 

7-4.専門性を生かした転職・キャリアアップの選択肢が広がる

がん領域の専門性は、薬剤師のキャリアにおいて非常に大きなアドバンテージとなります。より高度な知識・技術を提供する医療機関から高く評価されやすく、転職でも有利に働く可能性があります。
 
専門外来の担当や化学療法部門のリーダーなど、より責任あるポジションを任されるチャンスも広がるため、キャリアアップを目指す薬剤師にとって、がん専門薬剤師の資格取得は大きな強みとなるでしょう。

8.がん専門薬剤師の資格を生かしてがん医療に貢献しよう

がん専門薬剤師は、がん薬物療法の専門家として医療現場で高い専門性を発揮できる資格の一つです。取得するには、研修施設での5年以上の研修、症例報告、学会発表や論文、認定試験など多くの要件を満たす必要があり、難易度は高めといえるでしょう。
 
しかし、その分医療チームへの貢献度が大きく、役職への登用やキャリアアップにつながる、転職の選択肢が広がるなど多くのメリットがあります。がん医療に深く関わりたい薬剤師にとっては、専門性を高める大きなステップとなる資格です。自らの知識・技術・経験を資格取得によって証明し、より多くのがん患者さんのサポートがしたいと考える薬剤師は、がん専門薬剤師の認定を目指してみてはいかがでしょうか。

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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。