薬剤師のスキルアップ 公開日:2023.06.20 薬剤師のスキルアップ

がん専門薬剤師になるには?仕事内容とメリットを解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

薬剤師の専門性を生かす資格の一つに「がん専門薬剤師」があります。がんの薬物治療がより高度になった現在、専門的な知識や経験のある薬剤師はチーム医療の中でも注目されています。また、抗がん剤治療の副作用などに悩む患者さんのケアも、がん専門薬剤師の大切な職務です。本記事では、がん専門薬剤師の主な仕事内容や資格取得によるメリットを紹介します。また、がん専門薬剤師になるための条件や研修カリキュラム、認定試験で出題される問題の内容について解説します。

1.がん専門薬剤師とは

「がん専門薬剤師」は、一般社団法人日本医療薬学会が認定している資格で、2009年11月に発足しました。がんの薬物療法において一定以上の実力を持ち、知識と経験が求められるがんの医療現場で力を発揮する薬剤師を育成するのが目的です。同学会ではがん専門薬剤師の育成に必要な研修を行う「がん専門薬剤師研修施設」、そして指導者資格である「がん指導薬剤師」も認定しています。
 
2019年に国内で新たに診断されたがん患者はおよそ100万人です(がん情報サービスより)。がん医療は年々進歩して、さらに高度になっています。より良質で安全な医療のためには、これからのがん医療において薬剤師の専門性を生かすことが不可欠です。このような背景から、がん薬物療法について専門的な知識や技術、そして現場での経験を有した薬剤師の育成が必要とされています。

2.がん専門薬剤師の仕事内容

近年、抗がん剤の種類や治療法が増えたことで、抗がん剤による治療はより専門的な知識が求められるようになりました。チーム医療の中でがん専門薬剤師は、薬のプロとして抗がん剤を用いた治療法が適切であるかなどのチェックを行います。また、治療を受ける患者さんを薬剤師の立場からケアします。
 
がん専門薬剤師の業務は大きく分けると、対物業務(抗がん剤への業務)と対人業務(患者さんへの業務)の2種類です。対物業務では、抗がん剤の準備をはじめ、抗がん剤の適応や量が適切であるか、投薬スケジュールが誤っていないかといった確認を行います。

また、患者さんが他に使用している薬を把握し、併用に問題がないかのチェックをすることも重要な仕事です。対人業務では、患者さんへ抗がん剤の服薬指導をする以外に、副作用発現の確認を行います。抗がん剤による副作用に悩む患者さんは少なくないため、解決法や予防法の提案も大切です。その他、アドヒアランスを把握し、がん治療が適切に進んでいるかを確認します。

 
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3.がん専門薬剤師の給与事情

がん専門薬剤師が活躍している主な勤務先は病院もしくは調剤薬局です。マイナビ薬剤師が行った年収に関するアンケート結果を見ると、病院薬剤師の平均年収は521.7万円、調剤薬局薬剤師の平均年収は583.8万円でした。このことから、がん専門薬剤師の年収目安はおおよそ500万~600万円と考えられます。ただし、実際の給料は医療機関や役職、経験年数などによっても異なります。

また、がん専門薬剤師の資格があるからといって、特別に給与が上がるとは限りません。しかし、がん専門薬剤師であれば、より高度ながん医療を行う医療機関へ転職できる可能性は広がると考えられます。

 
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4.がん専門薬剤師になるには

専門的な知識や技術を持つがん専門薬剤師となるには、さまざまな基準を満たさなければいけません。また、資格取得のためには時間と労力が必要です。ここでは、がん専門薬剤師になるための11個の条件の他、研修カリキュラムと認定試験で出題される内容についてご紹介します。

 

4-1.がん専門薬剤師になるための条件

がん専門薬剤師の認定を申請するには、次の11個の条件をすべて満たす必要があります。がん治療に対する知識や認定試験合格のみならず、実際に現場で勤務した経験年数や研究活動の実績も求められるため、条件クリアは決して簡単なものではありません。

 

■がん専門薬剤師の認定要件

(1)日本の薬剤師免許を持ち、薬剤師として優れた人格と見識がある。

(2)薬剤師としての5年以上の実務経験がある。

(3)申請時において、引き続き5年以上継続して日本医療薬学会会員である。

(4)「日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師」「日本病院薬剤師会日病薬病院薬学認定薬剤師」「日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)クリニカルラダー5以上」の、いずれかの認定を受けている。

(5)日本医療薬学会認定の「がん専門薬剤師研修施設」において、研修ガイドラインに従って、がん薬物療法に関する5年以上の研修歴がある。

(6)別に定めるクレジットを5年で50単位以上取得している。

(7)がん専門薬剤師集中教育講座に1回以上参加した。

(8)日本医療薬学会の年会に1回以上参加した。

(9)自らが携わった5年のがん患者への薬学的介入を伴った症例報告50症例(3領域以上のがん種)を提出する。

(10)以下の研究活動のうち、発表あるいは論文の条件のどちらか一方を満たす。


学会発表:医療薬学に関する全国学会、国際学会あるいは別に定める地区大会での発表が2回以上ある。本学会が主催する年会において本人が筆頭発表者となった発表を含んでいる。

論文:本人が筆頭著者である医療薬学に関する学術論文が1報以上ある。学術論文は、国際的あるいは全国的学会誌・学術雑誌に複数査読制による審査を経て掲載された医療薬学についての学術論文もしくは症例報告であること(ただし、編集委員以外の複数の専門家に査読されていない論文や商業誌の掲載論文は対象外)。

(11)日本医療薬学会が実施するがん専門薬剤師認定試験に合格する。

参照:一般社団法人日本医療薬学会がん専門薬剤師認定制度規程 (がん専門薬剤師)第4条2

 
 

4-2.がん専門薬剤師養成研修について

がん専門薬剤師になるには、がん専門薬剤師研修施設において、がん薬物療法に関する5年以上の研修歴が必要です。研修内容は大きく3つの分野に分けられます。がん専門薬剤師に必要な知識・技術・臨床経験について定められたカリキュラムに沿って研修は実施されます。それぞれの分野で学ぶ主な内容は以下のとおりです。

 

 

参照:一般社団法人 日本医療薬学会 がん専門薬剤師養成研修コアカリキュラム

 
 

4-3.がん専門薬剤師認定試験とは

がん専門薬剤師認定試験とは、がん専門薬剤師認定申請を行い、書類審査に合格した者のみが受けられる試験です。2022年度のがん専門薬剤師認定試験は6月に実施されました。「がん専門薬剤師認定試験 試験出題ガイドライン」によると7領域から合わせて100問が出題されるとのことです。7領域の内容と、出題される問題数は以下のとおりです。

 

■がん専門薬剤師認定試験 出題問題数

第1領域:がんの基礎(6問)

第2領域:がん薬物療法 (22問)

第3領域:各がん種における薬物療法について (22問)

第4領域:がん薬物療法における薬剤師業務 (9問)

第5領域:医薬品情報(27問)

第6領域:緩和医療 (4問)

第7領域:総合問題(10問)

※各領域の問題数は目安です。

参照:がん専門薬剤師認定試験問題 出題分野と例題

 

それぞれの領域では、医療チームの一員として医師などと良好なコミュニケーションを取りながら抗がん剤治療を行うために必要な知識を試されます。がん医療に関する幅広い知識が要求されるため、受験の際はしっかりと事前準備をして臨みましょう。

 
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5.がん専門薬剤師資格取得の難易度

がん専門薬剤師になるには、がん専門薬剤師研修施設での5年以上の研修をはじめ、講習会への参加、実務経験、学会発表もしくは論文執筆に加えて認定試験合格といった条件を全て満たすことが必須であるため、決して安易に取得できる資格ではありません。

しかし、資格取得の難易度が高い分、がん専門薬剤師として認められるということは高い専門知識と技術、経験を持つ薬剤師であることの証でもあります。がん医療にさらに貢献したいという思いがある薬剤師にとっては、挑戦する意義は非常に大きいものと考えられます。

6.がん専門薬剤師資格を取得するメリットや活躍できる職場

がん専門薬剤師の資格取得は難しい面もありますが、資格取得後のメリットはたくさんあります。まず、がん患者を多く受け入れている施設において、専門性の高い薬剤師として大いに職能を発揮できます。高い専門性を持った薬剤師の存在は、治療を受ける患者さん本人やご家族にとっても心強いものです。
 
また、より適切にがん治療を進められるのは医療チームにとっても有用です。次に、薬剤師自身のメリットとして、知識や経験が豊富なことから、役職や他の薬剤師を指導する立場に就く可能性があります。役職に就けば、責任に応じて年収アップにつながることも考えられます。

場合によっては、より高度な知識・技術を求められる医療機関への転職もかなうかもしれません。キャリアアップを考える人にとって、がん専門薬剤師の資格取得は大きなメリットになるでしょう

7.がん専門薬剤師の資格を生かしてがん医療に貢献しよう

日本人の2人に1人ががんになるといわれている現代、抗がん剤治療を受ける人も少なくありません。抗がん剤治療はますます高度化しつつあるため、適切な薬物療法のためにも専門的な知識を持った薬剤師の存在が求められています。がん専門薬剤師になるには、多くの条件を満たす必要があり、取得までに時間も労力もかかる難易度の高い資格です。
 
しかし、その分がん専門薬剤師であることは、深い知識と多くの経験を持った薬剤師という証明でもあります。自らの知識・技術・経験を資格として取得し、より多くのがん患者さんのサポートをしたいと考える人は、がん専門薬剤師の認定を目指してみてはいかがでしょうか。

 
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執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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