薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.04.23 薬剤師のスキルアップ

薬剤師の初任給は平均いくら?手取り計算や年収アップの方法を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬学部で6年間の勉強を終え、いざ就職先を選ぶ際に気になるのが初任給です。薬剤師は就職先や地域によって、年収が大きく変わりますが、初任給にはどれくらいの差があるのでしょうか。本記事では、薬剤師の初任給の平均や職場ごとの初任給、手取り金額の計算方法について解説するとともに、新卒薬剤師が給料の高い職場を選ぶ方法や年収アップのポイントについてお伝えします。

1.薬剤師の初任給は平均いくら?

厚生労働省「令和5年(2023年)度賃金構造基本統計調査」の結果によると、薬剤師の初任給の目安となる「経験年数0年目の所定内給与額」は30.68万円でした。あくまで目安であり、時間外手当(残業代)などは含みません。
 
では、その後、経験年数を重ねると、給料はいくらくらいになるのでしょうか。ここでは、薬剤師の経験年数別の給料と、医療系職種全般の初任給について見ていきましょう。

 

1-1.薬剤師の経験年数別の給料はいくら?

上記の資料における薬剤師の平均給料(時間外手当などは含まない)は、経験年数別に見ると以下のとおりでした。

 

薬剤師の経験年数別給料
経験年数 平均給料
0年 30.68万円
1~4年 34.69万円
5~9年 36.06万円
10~14年 40.42万円
15年以上 44.72万円
全体 38.87万円

 

年数を重ねるごとに昇給していく傾向にあることが分かります。

 

1-2.薬剤師の初任給は他職種より高い?

では、薬剤師の初任給は、他の医療系職種と比べて高いのでしょうか。同じく上記資料をもとに、他職種の平均初任給の目安(時間外手当などを含まない経験年数0年目の所定内給与額)と比較してみましょう。

 

医療系職種の初任給(目安)
職種 初任給(目安)
医師 49.66万円
歯科医師 23.95万円
獣医師 30.62万円
薬剤師 30.68万円
保健師 28.84万円
助産師 29.05万円
看護師 26.06万円
診療放射線技師 24.79万円
臨床検査技師 22.97万円
理学療法士
作業療法士
言語聴覚士
視能訓練士
24.86万円
歯科衛生士 24.72万円
歯科技工士 23.11万円
栄養士 21.60万円

 

医師と比較すると少ないように見えますが、看護師などの医療系職種と比べて薬剤師の初任給は高い傾向にあると考えられます。ただし、あくまで平均であり、職場や働き方によっても異なります。

 

参照:令和5年賃金構造基本統計調査|e-Stat 政府統計の総合窓口

2.薬剤師の職場ごとの初任給はいくら?

薬剤師の代表的な職場として、調剤薬局や病院、ドラッグストア、企業、公務員などが挙げられます。職場ごとに異なる初任給の平均について紹介します。

 

2-1.調剤薬局

文部科学省「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」の資料に記載されている、薬学教育6年制課程卒業生(平成31年3月)の就職先別初任給のデータ(出典:薬学教育協議会「就職動向調査」)によると、調剤薬局の初任給は「26万超~30万円」となるケースが36.2%と最も多く、次いで「30万円超」が32.6%、「22万円超~26万円」が29.1%、「18万円超~22万円」が1.9%、「18万円以下」が0.1%となっています。

 

参照:薬学系人材養成の在り方に関する検討会(第2回)参考資料4 薬学教育関連資料|文部科学省

 

経験を積んで管理薬剤師や薬局長になれば役職手当も追加され、年収が700万円以上に達する人もいます。祝日休みが取れる、夜勤がないなど、プライベートとほどよくバランスを取りながら働きやすい点が調剤薬局の特徴です。

 
🔽 調剤薬局で働く薬剤師の年収事情について詳しく紹介した記事はこちら

 

2-2.病院薬剤師

上述した資料によると、病院や診療所の薬剤師の初任給は「22万円超~26万円」が49.4%、「18万円超~22万円」が41%と、26万円以下が約9割を占めており、「26万超~30万円」は7.3%、「30万円超」となるケースは1.3%にとどまっています。

 

参照:薬学系人材養成の在り方に関する検討会(第2回)参考資料4 薬学教育関連資料|文部科学省

 

病院薬剤師はほかの職場と比べると初任給は低めですが、勤続年数に比例して昇給しやすい傾向があり、将来的に役職につくと年収800万円以上に達するケースもあります。病院薬剤師は、医療の最先端で職能を存分に発揮したい、薬剤師として経験を積みたいなどの魅力を感じて選ぶ人が多いようです。

 
🔽 病院薬剤師の年収事情について詳しく紹介した記事はこちら

 

2-3.ドラッグストア

同資料において、ドラッグストアなどの医薬品販売業の初任給は「30万円超」となるケース66.1%を占め、次いで「26万超~30万円」が24.4%、「22万円超~26万円」が5.5%、「18万円超~22万円」が3.4%、「18万円以下」が0.6%となっています。

 

参照:薬学系人材養成の在り方に関する検討会(第2回)参考資料4 薬学教育関連資料|文部科学省

 

調剤業務やOTC薬の相談だけでなく、品出しなど薬剤師業務以外の仕事もありますが、人と話したり、商品の売り上げアップのために工夫したりすることが好きな人にはぴったりの職場でしょう。

 

2-4.製薬企業

厚生労働省の職業情報提供サイトでは、医薬品情報担当者(MR)医薬品製造臨床開発モニターについて20~24歳の年収が公表されています。薬剤師資格保有者以外も含むデータのため、あくまで参考ではありますが、年間賞与が2カ月分支給されると想定して月の給料を計算すると、以下が目安となります。

 

20~24歳の平均年収から算出した製薬企業の平均初任給の目安
  医薬品情報担当者(MR) 医薬品製造業 臨床開発モニター
年収 346.25万円 374.38万円 293.34万円
給料 24.73万円 26.74万円 20.95万円

※臨床開発モニター:製薬企業または医薬品開発業務受託機関に勤めた場合。
 

MRの大卒初任給は病院と同程度ですが、活躍次第で大きな昇給が期待でき、30代で年収1,000万円を超えるケースもあります。営業職である以上、ノルマが課せられるものの、自分の力を試したいと考える実力主義の人に向いている仕事です。

 
🔽 MRの仕事について詳しく解説した記事はこちら

 

2-5.公務員薬剤師

病院などで働く公務員薬剤師の初任給は、2023年時点で22万2,700円でした。
 
6年制薬学部を卒業した公務員薬剤師の初任給は、医療職俸給表(二)における2級15号俸(人事院規則九一八 別表第二 ワ)となります(人事院規則九一二 第13条)。2023年8月に人事院は国家公務員の給料引き上げについて、国会と内閣に勧告し、前年と比較して9,100円の大幅アップとなりました。

 
🔽 公務員薬剤師の初任給引き上げについて解説した記事はこちら
公務員薬剤師、初任給9100円引上げ~ベアは29年ぶりの高水準

 

ほかにも、公務員薬剤師にはさまざまな職種があります。公務員薬剤師については、次のコラムをご覧ください。

 
🔽 公務員薬剤師の仕事について紹介した記事はこちら

3.薬剤師の初任給の手取りはいくら?

給料からは税金や社会保険料などが差し引かれるため、提示された金額すべてが手元に入るわけではありません。ここでは、実際に手元に入る金額を確認するために、手取り額の計算方法や基本給に加算される手当、給料から控除される税金について解説します。

 

3-1.手取り額の計算方法

手取り額とは、総支給額から税金と社会保険料を差し引いた金額のことです。税金や社会保険料などを差し引くことを「控除」といいます。
 
給料の手取り額は、基本的に【総支給額】(【基本給】+【手当】)-【控除される税金・社会保険料】で計算できます。

 

3-2.基本給に加算される手当

一般的に、給料の総支給額は、基本給に以下のような手当を足した金額になっています。

 

● 通勤手当
● 住宅手当
● 地域手当
● 資格手当
● 初任給調整手当
● 夜勤手当
● 時間外勤務手当
● 休日出勤手当
● 役職手当

 

就職先によって手当の名称や金額は異なります。就職活動の際には、企業がどういった手当を設けているかを確認しておくとよいでしょう。

 

3-3.総支給額から控除される税金・社会保険料

給料から控除される税金には所得税と住民税の2種類があり、住民税は前年の1月1日から12月31日までの総支給額をもとに算出されるため、基本的には社会人2年目の6月から控除されます。
 
社会保険料には「健康保険料」、「介護保険料」、「厚生年金保険料」、「雇用保険料」の大きく4つがあります。一般的には健康保険料・厚生年金保険料は5月から、介護保険料は40歳から控除されます。
 
つまり、就職して1年目の4月にもらえる初任給は、総支給額から所得税と雇用保険料が控除された金額が手取りになる計算です。5月からは健康保険料・厚生年金保険料も控除されるため、手取りは総支給額の8割ほどとなるでしょう。給料が下がったように感じるかもしれませんが、仕組みを理解しておくと納得できるはずです。ただし、職場によって異なるため、事前に確認しておきましょう。

 
🔽 薬剤師国保と社保の違いを詳しく解説した記事はこちら

4.新卒薬剤師が給料の高い職場を選ぶためのポイント

せっかく仕事をするなら、高い給料で働きたい、奨学金返済のためにできるだけ高い収入を得たいという人もいるのではないでしょうか。とはいえ、初任給ばかり注目するのはおすすめできません。
 
というのも、初任給は低くても、その後の昇給やボーナス、手当などが充実している職場もあるからです。就職先選びは初任給だけでなく長い目で判断することが大切です。ここでは新卒薬剤師が給料の高い職場を選ぶためにチェックしたいポイントを紹介します。

 

4-1.業種やエリアの給料相場をチェックしよう

薬剤師の給料は地域によってかなり開きがあります。厚生労働省「令和5年(2023年)度賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師の平均給料(所定内給与額)は都道府県によって最大17.43万円もの差がありました。社会人1年目からの高収入を狙うなら、地域別の平均年収ランキングを参考に就職先を探すのもひとつの手です。
 
また、過疎地や離島など、薬剤師数が少ない地域では、病院や薬局を維持するために、高額な給料や好待遇を提示されるケースもあります。高い初任給を求める場合は、薬剤師需要が高い場所を中心に探してみるとよいでしょう。

 
🔽 全国の薬剤師年収ランキングを紹介した記事はこちら

 

4-2.基本給だけでなく手当にも注目しよう

就職先によって異なりますが、基本給に加えて、薬剤師手当や住宅手当などが加算されるケースが多く見られます。中には、スタッフ間の給料格差を是正する目的で初任給調整手当が支給される職場もあります。
 
また、かかりつけ薬剤師の件数を増やすことで、手当やボーナスが出る職場もあるため、条件をしっかりチェックしましょう。
 
🔽 かかりつけ薬剤師について解説した記事はこちら

 

4-3.賞与や昇給の制度も確認しよう

賞与の支給は法的に決められておらず、賞与の有無や金額、時期、回数は各企業にゆだねられています。初任給が低くても賞与が多ければ年収アップにつながるため、先輩や就職支援サイトから情報を収集しておくとよいでしょう。
 
また、昇給スピードも重要なポイントです。最初のうちは給料が低くても昇給スピードが速いと、より早く高い年収に到達できます。しかし、昇給のためには「より高い専門性を身につける」「役職につく」「営業成績を上げる」などの努力が必要です。職種によっても昇給のしやすさに差があるので、初任給だけでなく職種別の平均年収などを参考にするとよいでしょう。

5.薬剤師が年収を上げるためのポイント

年収を上げたいなら、実務経験を積みながら、資格取得やスキルアップを目指すことが大切です。ここでは、薬剤師が年収を上げるためのポイントについてお伝えします。

 

5-1.実務経験を積む

実務経験を重ねることで、医薬品や疾患などについてのさまざまな知識や経験が身につくだけでなく、仕事の効率化やトラブルの対応力などのスキルも得られます。経験を積むほど、昇給や昇進できる可能性は高いでしょう。
 
また、実務経験年数や勤続年数によって昇給率が上がる職場もあります。長く経験を積んだり、長く同じ職場で働き続けたりすることも年収アップにつながります。

 

5-2.資格取得やスキルアップを目指す

認定薬剤師や専門薬剤師といった資格を取得すると、手当がついたり昇進できたりする職場もあります。
 
また、資格取得によって難易度の高い業務を任されることもあり、やりがいをもって仕事に取り組める上に、年収アップが期待できるでしょう。

 

5-3.給料の高い職場に転職する

役職に空きがなかったり、資格取得やスキルアップによる昇給・昇進制度が設けられていなかったりする場合には、思うように年収アップができないこともあります。そんなときは、自身の経歴や資格・スキルをアピールしながら、よりよい条件の職場に転職するのも一案です。
 
転職活動の際は、年収や役職、各種手当だけでなく、勤務時間や待遇、福利厚生など総合的に確認することが大切です。とはいえ、仕事をしながら企業情報を細かく調べる時間を確保するのは難しいかもしれません。就職支援サイトや転職エージェントを活用して、効率的に転職活動をしましょう。

6.初任給以外の要素も踏まえて求人を探そう

薬剤師として働く上で、初任給の額は企業を選択する際に重要な要素になります。しかし、職場の魅力は給料だけで決まりません。薬剤師としてのやりがいや、働く環境、自分が目指す薬剤師になるためにどんな経験を積むことができるかといった点や、仕事と両立しつつ、どのようなプライベートや人生を過ごしたいかなどを考えた上での判断が大切です。自分に合った職場を見つけるために、薬剤師の先輩に相談するのもよいでしょう。また、就職支援サイトを活用して情報収集し、これからの就職活動に備えてみてはいかがでしょうか。

 
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執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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