- 1.公務員薬剤師の種類と仕事内容
- 1-1.薬事監視員
- 1-2.食品衛生監視員
- 1-3.環境衛生監視員
- 1-4.市立・県立病院の薬剤師
- 1-5.自衛隊薬剤師
- 1-6.麻薬取締官
- 2.公務員薬剤師になるまでの流れ
- 2-1.公務員薬剤師の一般的な採用の流れと試験内容
- 2-2.麻薬取締官は業務説明会で採用情報の収集を
- 3.公務員薬剤師の難易度
- 4.公務員と民間薬剤師の給与と年収
- 5.公務員薬剤師になるメリット
- 5-1.雇用の安定
- 5-2.待遇の良さ
- 5-3.公務員独自の業務を経験できる
- 5-4.毎年昇給するため年収が上がりやすい
- 5-5.退職金制度で老後に備えられる
- 6.公務員薬剤師のデメリット
- 7.公務員薬剤師を目指すなら目的を明確に
1. 公務員薬剤師の種類と仕事内容
「公務員薬剤師」と一言でいっても、従事する業務は多岐にわたります。代表的な公務員薬剤師の例として、行政や保健業務に携わる「薬事監視員」「食品衛生監視員」「環境衛生監視員」、また防衛省の衛生分野に関わる「自衛隊薬剤師」、市立・県立病院の「病院薬剤師」、違法薬物取締に尽力する「麻薬取締官」などが挙げられます。それぞれの職種の特徴を紹介します。
1-1.薬事監視員
薬事監視員は、県や地方政令指定都市の薬務課や各地の保健所に勤務する地方公務員の職種のひとつです。保険薬局やドラッグストア、医薬品製造業などの医薬関連業者を対象に、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)などの法令違反がないかを監視し、改善点があれば指導するのが主な業務です。
地方厚生局の指導監査課で働く国家公務員にも、薬事監視員がいます。保険医療機関の登録や麻薬取扱医療機関申請、診療報酬に関わる申請業務のほか、不正請求が疑われた場合などに監査、行政指導等を行います。
「薬事監視員」や、のちに紹介する「食品衛生監視員」「環境衛生監視員」は、地方公務員として従事する場合と国家公務員として従事する2つのケースがあります。
これらの職種に就くためには、薬剤師の国家試験に合格したうえで、国家公務員試験または地方公務員の試験に合格する必要があります。まれに薬剤師免許をもたない国家公務員や地方公務員が選出されることがありますが、ほとんどの薬事監視員は薬剤師資格を取得しているので、これらの職種を目指す場合は薬剤師資格を持っているほうが有利です。
1-2.食品衛生監視員
食品衛生監視員の代表的な業務は、飲食店や飲食販売・製造業者等を対象に食品、医薬品、飲料水などの検査や調査を行い、適切な食品の衛生管理方法等を指導することです。
地方公務員の場合、自治体によって業務内容は異なりますが、保健所や健康安全研究センター、食品衛生検査所等に勤務することが多いようです。
国家公務員の場合は厚生労働省に所属し、全国の主要な港・空港の検疫所で勤務します。輸入食品の安全監視や指導、輸入食品等に関わる理化学、微生物学検査などに携わります。さらに、検疫感染症が国内へ侵入するのを防止するという役割も担います。
1-3.環境衛生監視員
環境衛生監視員の主な仕事は、理容室・美容室やクリーニング工場、旅館などの衛生状況を監視し、指導することです。
自治体によっては、薬学専門職の人材がまとめて採用されたのち、薬事監視員、食品衛生監視員、環境衛生監視員のいずれかに配属されるというケースがあるようです。自身が希望する職種と異なる職種に配属になる可能性があるため、応募する自治体の採用方法をあらかじめ確認しておきましょう。
1-4.市立・県立病院の薬剤師
市立病院や県立病院に勤務する薬剤師は、病院薬剤師であり地方公務員でもあるという特殊な立ち位置です。求人の募集は市役所や病院ごとに行われています。
公務員薬剤師では珍しく、患者さんと直接接することができるという特徴があります。病院薬剤師としてキャリアを研鑽できるうえ、勤務先の福利厚生や退職金制度等が充実している傾向があるのが魅力です。
一般的に病院薬剤師は、薬局やドラッグストア、製薬企業と比較して給与水準が低い傾向があるため、充実した福利厚生が受けられる勤務環境は恵まれているといえます。
ただし、地方公務員には異動がつきものです。職場によっては薬事監視員や食品衛生監視員などの行政指導業務に異動となる場合もあるので、念頭に置いておきましょう。
► 【関連記事】病院薬剤師の仕事内容、やりがいとは?薬局薬剤師との違いや向いている人
1-5.自衛隊薬剤師
自衛隊薬剤師は国家公務員(特別職)であり、防衛省の職員として勤務します。調剤業務や医薬品の管理、調達といった一般的な薬剤師業務のほか、雑務等も行います。募集は不定期で、欠員が出た場合などに防衛省から求人情報が公開されることがあります。
また、自衛隊の衛生分野(自衛隊病院や部隊勤務)で医療衛生業務に従事する「薬剤官」となることを見据えた「薬剤科幹部候補生」へと進むコースもあります。幹部候補生の募集は陸上・海上・航空それぞれの隊において実施されています。筆記試験や口述試験、身体検査等の試験があり、合格・採用後は幹部候補生として一定期間の教育を受け、幹部自衛官となります。
自衛隊幹部候補生募集ページによると、薬剤科の初任給は大卒・大学院卒ともに247,500円(2022年1月1日時点)。勤務内容に応じて、住居手当、航空(航海)手当、地域手当等各種手当の支給があり、駐屯地に在住して勤務する場合は生活費の負担が軽減されると考えられます。
► 【関連記事】自衛隊薬剤師になるには?仕事内容や年収、採用試験などについて解説
1-6.麻薬取締官
麻薬取締官は、違法薬物に関する犯罪取締や教育を行う仕事です。厚生労働省に所属する国家公務員ですが、刑事訴訟法に基づく特別司法警察員として、捜査権限が与えられています。
全国の厚生局にある麻薬取締部で勤務するケースが多く、具体的には、禁止薬物の不正売買ルートの取り締まり、麻薬等取扱業者の許認可、医療用麻薬等の適正な流通の指導・監督、中毒者対策の社会復帰の支援、薬物乱用防止のための正しい知識の普及、啓蒙広報活動などといった業務に従事します。
危険を伴う職務であることから、逮捕術等の訓練を受けるほか、都道府県警察や麻薬取締員と連携して仕事を行うという特徴があります。麻薬取締官になるには、厚生労働省が実施する麻薬取締部の採用試験に合格する必要があります。
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2.公務員薬剤師になるまでの流れ
公務員薬剤師になるには、公務員試験を受けなければなりません。公務員の試験の流れと大まかな内容について見ていきましょう。
2-1.公務員薬剤師の一般的な採用の流れと試験内容
国家公務員、地方公務員ともに、基本的には1次試験と2次試験があり、両方の試験をパスした人が採用される流れとなっています。1次試験は基礎能力試験などの筆記試験で、1次試験に合格すると2次試験の面接へと進みます。
試験内容は職種ごとに異なり、所属する省庁や業務内容によって特徴があります。例えば、薬系技官(化学、生物、薬学などの基礎知識を背景とした技術系の行政官)となる「国家公務員採用総合職試験」の大卒程度試験のうち、教養区分の2次試験では面接に加え、小論文とプレゼンテーション、グループ討議があり、TOEICといった英語試験の点数が加点対象となります。なお「食品衛生監視員」の2022年度1次試験の専門試験は記述式でした。
地方公務員の場合も自治体や職種によって試験内容が異なりますので、応募前に確認し対策を考える必要があるでしょう。
2-2.麻薬取締官は業務説明会で採用情報の収集を
麻薬取締部のFAQページには、麻薬取締部の採用試験を受けるために、以下のいずれかの応募資格を満たす必要があると記載されています。また、日本国籍を有しない人は受験できません。
①国家公務員試験一般職採用試験(大卒程度試験)の「行政」又は「デジタル・電気・電子」の第一次試験の合格者(ただし,最終合格者を採用の条件とします)
②薬剤師、又は薬剤師国家試験合格見込みの者で、①の受験資格を満たす者(年齢などの制限があります)
(厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部「採用に関するQ&A」より)
ただし、薬剤師国家試験合格見込み者は、薬剤師免許の取得が採用の条件となるようです。
年度によって変更される可能性があるため、麻薬取締官の受験をする前に必ず募集要項を確認しましょう。また、麻薬取締部の募集要項には、採用面接の詳しい内容が記載されていません。事前に業務説明会に参加するなどして、情報を得るとよいでしょう。
3.公務員薬剤師の難易度
人事院が公表した2021年度国家公務員採用総合職試験の合格者状況を見てみましょう。カッコ内は前年の2020年度のデータです。
■国家公務員採用総合職試験の合格者(2021年度)
(人事院「2021年度国家公務員採用総合職試験の合格者発表」より)
採用予定人員は798人(774人)。女性の合格者数は、院卒者試験が191人、大卒程度試験が370人。女性の合格者割合は、全体の合格者数の30.6%でした。薬剤師以外の職種も含まれるため、大まかな目安として参考にするとよいでしょう。
東京都も2021年度職員採用試験実施状況について公表しています。薬学部の知識が生かせる1類B採用試験について見ていきましょう。
■東京都職員採用試験の合格者(2021年度)
(東京都職員採用「試験選考実施状況」令和3年度・令和2年度 1類B採用試験[一般方式]を参照)
薬剤Aの採用者は療育センターにおいて、調剤業務や服薬指導、医薬品管理などを担当します。薬剤Bの採用者は、保健所や健康安全研究センターなどが配属先となり、薬局などへの立ち入り検査・指導や危険ドラッグ対策などに携わります。
地方公務員は自治体ごとに実施状況を公表しているので、希望の自治体のホームページなどから公務員採用試験の情報を得ましょう。
4.公務員と民間薬剤師の給与と年収
国家公務員全般と地方公務員薬剤師、民間薬剤師の給与と年収を比較した表が以下です。
■国家公務員、地方公務員、民間薬剤師の年収
●年収額の算出方法:「平均給与月額」×12カ月+「年間の賞与(期末手当)」で算出。
●国家公務員の賞与(期末手当)の算出方法:{(俸給+専門スタッフ職調整手当+扶養手当)の月額+これらに対する地域手当等の月額+役職段階別加算額(※1)+管理職加算額(※2)}×(期別支給割合)×(在職期間別割合)で算出。
「役職段階別加算額」「管理職加算額」は役職段階や管理・監督の地位に応じて定められた加算割合によって算出される。ここでは役職段階別加算割合を12.5%、管理職加算割合を17.5%として算出。また段階ごとに割合が規定されている、期別支給割合は120/100(一般職員)、100/100(6箇月)として算出。
●1円単位以下は四捨五入。
<参照データ>
●国家公務員
人事院「令和3年国家公務員給与等実態調査報告書」
人事院「国家公務員の諸手当の概要」
●地方公務員
東京都「夏季の特別給の支給について」「冬季の特別給の支給について」
東京都人事委員会「令和3年人事委員会勧告等の概要」
●民間薬剤師
厚生労働省「2019年賃金構造基本統計調査」
「令和3年国家公務員給与等実態調査報告書」より、薬剤師が該当する国家公務員の医療職俸給表(二)を見ると、平均俸給額は31万954円です。栄養士の俸給額も含まれていることに加え、手当について詳細が記載されていないためあくまで目安として考えるとよいでしょう。
職種や部署、勤続年数、階級などによっても給与や賞与が異なりますので、表の値は参考程度にとらえてください。
► 【関連記事】薬剤師の年収は?男女別・年齢別・都道府県別に薬剤師の平均年収を比較
5.公務員薬剤師になるメリット
公務員薬剤師になる代表的なメリットを5つ紹介します。
5-1.雇用の安定
公務員薬剤師として働く最大のメリットは雇用の安定にあります。民間企業では、景気動向や勤務先の経営状態次第で倒産のリスクもゼロではありません。その点、公務員薬剤師の勤務先は地方自治体や官公庁などの公的機関が中心のため、突然解雇されるといった心配はまずないといえます。
5-2.待遇の良さ
給与や賞与等の待遇面が良い点も、注目すべきポイントです。ドラッグストアなどと比較をすると初任給は低い傾向にありますが、40代以降の昇給率や退職金等も考慮に入れると民間企業に引けをとらない水準の年収を得ることができます。また福利厚生の面でも恵まれた環境で働くことができるのも魅力です。
5-3.公務員独自の業務を経験できる
公務員薬剤師になると民間の医療機関の指導などを行う立場として、独自の業務に携わることができます。
例えば、国家公務員であれば、薬価や診療報酬・調剤報酬の改定などに携わったり、麻薬取締官であれば麻薬や不正薬物を取り締まったりする業務を担当します。また、地方公務員は、食中毒や感染予防のために衛生環境をチェックするなどの経験ができます。公務員独自の業務を経験したい薬剤師にとっては魅力的といえるでしょう。
なお市立・県立病院の薬剤師は、民間の医療機関とほとんど同じ業務を担当しますので、公務員ならではの業務を経験したい方はあらかじめ情報収集をしておくことをおすすめします。
5-4.毎年昇給するため年収が上がりやすい
民間企業は業績によって昇給率が変わることもありますが、公務員は基本的に毎年昇給があります。そのため、勤務年数が長いほど年収が上がりやすい点もメリットです。ただし、2021年8月の民間企業の賞与減を受けて、公務員の賞与も0.15月分引き下げることになりました。民間企業の水準に合わせた給与体系となっているため、年収が下がる可能性もゼロではありません。とはいえ、基本的に継続年数に合わせて年収は上がる点は大きなメリットといえます。
5-5.退職金制度で老後に備えられる
国家公務員は国家公務員法退職手当法によって退職金を支給することが定められており、以下で算出されます。
※調整額とは、基礎在職期間と職員の区分に応じて定める額。
(内閣官房「給与・退職手当」より)
「国家公務員退職手当実態調査(令和2年度)」によると、2020年度退職者の平均支給額(常勤職員)は1,023万9,000円でした。このうち、定年退職は2,142万1,000円、応募認定は2,551万9,000円、自己都合は299万4,000円です。
公務員は長く勤めるほど給与が高くなるため、おのずと退職手当の額も上がっていきます。退職金制度のない会社に勤めている人や退職金の金額がそれほど多くない人にとって、安定した収入と退職金を得られる公務員は魅力に感じるのではないでしょうか。
6.公務員薬剤師のデメリット
公務員薬剤師は副業が原則禁止とされています。副業が解禁されている民間企業の場合、例えば子育てをしながら都合の良い時間帯パート勤務をするといった柔軟な働き方ができます。また、フリーランス薬剤師として複数の職場で働いて稼ぐことが可能です。
自由度高く働きたい薬剤師にとって、副業禁止はデメリットに感じるかもしれません。
また、市立・県立病院の薬剤師以外の公務員薬剤師は患者さんと直接コミュニケーションをとる機会がほとんどありません。「患者さんとたくさん接したい」「地域医療に密接に関わりたい」と考える薬剤師のキャリアイメージからは乖離するかもしれません。
さらに、公務員薬剤師には転勤があります。国家公務員は全国、地方公務員は都道府県内で転勤するケースが多いでしょう。そのため、マイホームの購入が難しかったり、子どもの転校を考えたりするなど、プライベートで負担に感じることもあるでしょう。
また、採用人数が少ないことから、倍率が高くなりやすいという特徴もあります。厚生労働省が公表している薬系技官の採用実績は、2020年が9人、2021年が8人でした。10人満たない募集人数に対して全国から応募があるため、相当の倍率になることが予想できます。実際のところ、公務員薬剤師は狭き門といえるでしょう。
7.公務員薬剤師をキャリアの選択肢にしよう
公務員薬剤師は、一般的な調剤薬局では経験できない専門性の高い業務に携わることができます。調剤業務のみならず、保険調剤の適正運用や違法薬物取締、保健指導など、より広い視野で薬剤師としての知識を生かせるという魅力があるでしょう。
ただし、地方公務員試験、国家公務員試験には年齢制限が設定されている点に注意が必要です。例えば、国家公務員の受験時の上限年齢は30歳に設定されているケースが多く、地方公務員の上限年齢は20代後半~30代半ばなど自治体によってさまざまです。興味のある職種を見つけたらまずは応募要件を確認することをおすすめします。
なお国家公務員の場合、人事院、地方公務員は各自治体のホームページに、インターシップやセミナー、オープンツアーなどの開催状況が公開されています。イベントに参加して公務員の仕事や働いている人の話を聞きながら、自分のキャリアを考えるヒントにしてはいかがでしょうか。
執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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