薬剤師のスキルアップ 更新日:2024.01.16公開日:2023.02.21 薬剤師のスキルアップ

薬剤師が麻薬取締官になるには?仕事内容や年収などを解説

文:テラヨウコ(薬剤師ライター)

薬剤師免許が生かせる職業の一つに、麻薬取締官があります。麻薬取締官は規制薬物に立ち向かう危険な仕事というイメージがありますが、実際はどのような仕事を行っているのでしょうか。今回は、麻薬取締官の働き方に興味がある人に向けて、麻薬取締官の業務内容や麻薬取締官になる方法を解説するとともに、年収や労働条件、一日の仕事の流れを紹介します。

1.麻薬取締官とは

麻薬取締官は薬物乱用を防ぐプロフェッショナルで、俗に「マトリ」とも呼ばれています。特別司法警察員として、麻薬や覚醒剤、大麻、向精神薬、アヘン、危険ドラッグを含む指定薬物といった薬物の乱用を防ぐのが主な職務です。
 
麻薬捜査官というと、薬物犯罪に関わる捜査や薬物犯罪者の取り調べ、違法に取引される薬物の摘発などのイメージが強いかもしれませんが、麻薬取締官の業務は、それだけではありません。薬物乱用が起こらない健全な社会生活を実現するために、幅広い分野で活動しています。

2.麻薬取締官の仕事内容

麻薬取締官の業務は大きく分けると、以下の3つに分けられます。

 

① 非合法に取引される規制薬物の取り締まり
② 医療用麻薬、向精神薬などの流通・保管・使用について監督や指導
③ 啓発活動や相談業務

 

それぞれの業務内容について詳しく見ていきましょう。

 

① 非合法に取引される規制薬物の取り締まり

麻薬取締官は、麻薬や覚醒剤、大麻、向精神薬、アヘン、危険ドラッグといった薬物に関わる犯罪についての捜査や情報収集を行います。薬物乱用者をはじめ、暴力団や不良外国人などの規制薬物密売人を取り締まるため、麻薬取締官は日々捜査を行っています。

また、規制薬物の流通は国内だけにとどまりません。多くの危険な薬物が海外から日本へと密輸入されているのが現状です。そのため、諸外国の捜査機関と連携し合い、国際的な密売組織を壊滅させるべく情報交換や捜査協力をしています。

 

② 医療用麻薬、向精神薬などの流通・保管・使用について監督や指導

麻薬取締官の業務は、規制薬物に関連するものに限りません。人々が日常的に利用している病院や薬局とも大きな関わりがあります。定期的な病院や薬局、製薬会社などへの立ち入り検査も麻薬取締官の大切な仕事です。
 
立ち入り検査では、医療目的で使われている麻薬や向精神薬が適正に管理・使用されているかについて監督・指導を行います。その他、製薬会社に対しては、製造工程や正規流通経路からの横流しがされていないかを確認し、不正使用を防ぐための指導と助言を実施します。医薬品が安全に管理、流通されているかをチェックするのも、麻薬取締官の重要な業務です。

 

③ 啓発活動や相談業務

規制薬物は決して別世界の話ではありません。近年では若者や普通の主婦などにも広まりつつあるとされており、社会全体が考えるべき重要な問題です。そのため、麻薬取締官は時には学校などへ赴いて特別授業をするなど、規制薬物についての知識を広める活動を行います。規制薬物を摂取するとどうなるのか、規制薬物への誘惑を避けるにはどうしたらよいのかという講演によって、人々に危険性を周知するのが目的です。

また、実際に規制薬物を使用した薬物乱用者が社会復帰するための指導やアドバイスも行います。その他、麻薬取締部では、健康や美容成分の一つとして近年注目されている非麻薬性の大麻抽出成分CBD(カンナビジオール)製品の輸入などに関する相談も受け付けています。
       
該当製品を輸入する際には麻薬取締部による該非の確認、輸入する商品などについての資料の提出が必要です。人々が規制薬物に手を出さず、安全で健やかな生活を送るためのサポートをするのも麻薬取締官の使命です。

3.麻薬取締官になるには

麻薬取締官になるには、薬剤師免許取得以外にもいくつかの条件があります。また、厳しい業務に就く麻薬取締官に適しているのか、自分自身の性格を把握することも大切です。ここでは麻薬取締官になるための方法と、求められる5つの特徴を見てみましょう。

 

3-1.麻薬取締官になるための条件

麻薬取締官の定員は2019年4月現在で約300人(職業情報提供サイトjobtagより)。麻薬取締官に応募できるのは、国家公務員採用一般試験(行政、電気・電子・情報)の合格者、または薬剤師免許取得・取得見込みの29歳以下で、職務執行に支障がない健康状態である者とされています。

 

採用試験では官庁訪問で論文、適性検査、面接を行い、成績優秀者が麻薬取締部へ採用されます。2019年~2021年の採用内定者状況を見ると、薬学系技官の採用は例年9~10名です。
 
下表に男女別でまとめました。

 

■薬学系技官の麻薬取締部採用内定者

薬学系技官の麻薬取締部採用内定者

参照:薬取締官(国家公務員採用一般職試験)の採用について(厚生労働省)をもとに作成

 

麻薬取締部へ採用された後は一定期間の実務研修が必須です。ここでの研修を終えると、正式に麻薬取締官に任命されます。研修の中では麻薬取締官という仕事の特性上、逮捕術や拳銃射撃訓練も欠かせません。

 

3-2.麻薬取締官に求められる4つの特徴

麻薬取締官は、規制薬物の取り締まりなどを適正に行うため、次のような人材が求められています。

 

1.正義感がある人
平和で安全な社会を実現するため、薬物犯罪を防ごうという正義感を持って任務にあたることが不可欠です。
2.粘り強い性格の人
薬物犯罪の捜査や取り調べは慎重に行う必要があります。また張り込みの際は長時間におよぶことも少なくないため、忍耐力がある人が向いています。
3.高い倫理観を持つ人
公正に任務を遂行するためには、麻薬取締官本人も高い倫理感を持つことが求められます。
4.協調性がある人
麻薬取締官の業務はチーム単位で取り組む内容が多くあります。そのため、メンバー同士でのコミュニケーションが欠かせません。

厚生労働省「これから麻薬取締官を志すみなさまへ」を参照

 

麻薬取締官を目指す人は、これらの特徴と自分自身の性格を照らし合わせてみましょう。もし不足しているところがあると感じる場合には、補うために何ができるかを考えてみることが大切です。

4.麻薬取締官の働き方

特別司法警察員としての権限を持つ麻薬取締官ですが、実際に就職した場合の年収や労働条件はどのようになっているのでしょうか。ここでは、初任給から考えられる年収や、勤務地、勤務時間といった労働条件について見てみましょう。

 

4-1.麻薬取締官の年収事情

麻薬取締官は公務員であるため、公務員の一般行政職の水準に、調整手当がプラスされた俸給が支給されます。2021年の国家公務員行政職、大卒1年未満の月給は、188,592円(令和3年国家公務員給与等実態調査の結果より)でした。
 
さらに、各種手当が追加されます。大卒1年目で麻薬取締官になった初年度の年収は、大まかな目安として月給12カ月分の226万円に賞与や各種手当がついたものと考えられます。

公務員の行政俸給表を確認すると、職務の級数や年数が上がるにつれて給与水準も上昇する傾向です。そのため、麻薬取締官としての勤務内容や勤続年数によって年収も上がっていくと推測されます。

 

4-2.麻薬取締官の労働条件

麻薬取締部があるのは全国7地区(札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市)、1支局(高松市)、1支所(那覇市)、3分室(横浜市、神戸市、北九州市)の地方厚生局・支局です。そのため麻薬取締官に任命されると、この12カ所のいずれかに配属されます。
 
麻薬取締官の1日の勤務時間は原則7時間45分です。土日祝日は休日とされていますが、麻薬取り締まりという仕事の性格上、不規則な勤務時間になりがちで、休日や夜間・早朝勤務を求められることもあります。しかし、休日出勤を行った場合は振替休日の取得が可能です。

5.麻薬取締官の一日の流れ

ハードワークな印象がある麻薬取締官ですが、実際はどのような一日を過ごしているのでしょうか。捜査課と調査総務課に所属する麻薬取締官それぞれのある一日の流れを紹介します。

 

5-1.捜査課の麻薬取締官

まずは捜査課に所属する5年目係員クラスの麻薬取締官の仕事の流れを見てみましょう。
捜査課は覚醒剤や大麻を乱用した者や密売した者の逮捕のため、内偵捜査などを行う部署です。

9:00に出勤し、午前中は前日の捜査結果の整理や報告書の作成、押収した証拠品の写真撮影を行います。その後、2時間ほど逮捕術訓練に参加。昼食を取った後は、夕方まで内偵捜査を行い、捜査会議に参加します。次回捜査の準備や報告書作成などを終えると18:30に退勤します。

 

※麻薬取締官の1日の勤務時間は原則7時間45分。休日や夜間・早朝勤務が必要な場合があり、休日出勤を行った場合は振替休日を取得できます。

 

内偵捜査は証拠を地道に積み上げ、過酷な現場に向かうことも多い任務です。しかし、薬物犯罪ゼロを目指して捜査課の麻薬取締官は日夜職務にあたっています。
 
参照元:地方厚生局麻薬取締部 麻薬取締部の1日(1)捜査課|厚生労働省

 

5-2.調査総務課の麻薬取締官

調査総務課は行政の仕事が中心であり、人事や各種許認可、会計、庶務といった幅広い業務を行うところです。ここでは麻薬輸出入に関する許認可業務や、医療用麻薬の製造販売業者への流通・管理チェックをしている5年目係員クラスの麻薬取締官の一日を紹介します。
 
8:50に出勤し、申請などの事務処理を行います。その後、昼食を挟みつつ製薬会社への立ち入り業務にあたります。製薬会社や病院への立ち入り検査は適切に麻薬が流通・管理・使用されているかを確認する大切な仕事です。麻薬取締部へ戻ってきた後は、報告書作成や申請事務処理を終えて21:00に退勤します。

 

※麻薬取締官の1日の勤務時間は原則7時間45分。休日や夜間・早朝勤務が必要な場合があり、休日出勤を行った場合は振替休日を取得できます。

 

書類の審査や許認可書、免許の発行など幅広い業務を行うため、調査総務課の麻薬取締官には多彩なスキルが必要です。
 
参照元:地方厚生局麻薬取締部 麻薬取締部の1日(2)調査総務課|厚生労働省

6.薬剤師も活躍する麻薬取締官は薬物乱用から守るプロフェッショナル

麻薬取締官は薬剤師としての知識を生かせる職業の一つです。規制薬物の取り締まりや、医療機関、製薬会社などで麻薬や向精神薬の適正な流通・管理・使用が行われているか、チェックする他、薬物乱用を防止するための啓発活動や相談業務を行っています。特別司法警察員という位置付け上、公務員に準じた年収や労働条件が適応されます。薬の知識を生かし、安心・安全に暮らせる社会づくりに貢献したい方は、麻薬取締官という働き方を検討してみてはいかがでしょうか。


執筆/テラヨウコ

薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。

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