病院では医師、薬剤師、看護師、作業療法士、理学療法士など、さまざまな職種が連携しながら患者さんの治療にあたっています。病院薬剤師は、薬物治療に携わりつつ、チーム医療の一員として専門性の高さを活かせる仕事です。医療現場の最前線で活躍する病院薬剤師とはどんな仕事なのか、詳しく解説します。
- 1.病院薬剤師の仕事内容
- 1-1.調剤業務
- 1-2.注射調剤業務
- 1-3.がん化学療法
- 1-4.病棟業務
- 2.病院薬剤師と薬局薬剤師の違い
- 2-1.取り扱う薬剤の違い
- 2-2.救命救急業務
- 2-3.治験業務
- 3.病院薬剤師に求められるスキル
- 3-1.最新の医療情報を得るといった情報収集スキル
- 3-2.薬の専門家としての高度な知識
- 3-3.コミュニケーションスキル
- 4.病院薬剤師に向いている人と向いていない人
- 4-1.向いている人
- 4-2.向いていない人
- 5.病院薬剤師のやりがい
- 5-1.患者さんのケアに深く携われる
- 5-2.チーム医療に携われる
- 6.病院薬剤師の厳しさ
- 6-1.夜勤がある
- 6-2.退院した患者さんとのコミュニケーションが減る
- 7.病院薬剤師の年収
- 8.病院薬剤師の魅力を知って、自分らしい働き方を考えよう
1.病院薬剤師の仕事内容
病院薬剤師の仕事は、通常の調剤業務に加えて、さまざまな分野に広がります。具体的な仕事内容を見ていきましょう。
1-1.調剤業務
病院薬剤師は、院内処方せんに従って調剤を行います。処方鑑査を行い、必要に応じて疑義照会などを行うのが病院薬剤師の大切な仕事です。
調剤薬局との違いは、調剤終了後に与薬カートへのセットなどを行い、病棟まで処方薬を届ける点でしょう。内服薬を自己管理している入院患者さんの場合には薬剤師が直接処方薬を届けることも多いですが、基本的には薬剤師が病棟へ処方薬を届け、看護師が内服管理を行います。
また、保険請求は医事課が行うため、病院薬剤師には保険の知識が求められないことも、薬局薬剤師と異なる点です。
1-2.注射調剤業務
注射薬の調剤も病院薬剤師の仕事です。内服薬と同様、院内処方せんに従って注射薬の調剤を行います。注射薬のなかには投与直前に混合しなければならないものがあったり、汚染を防止するための手技があったりするなど、注射薬ならではの知識も必要です。病院薬剤師は用法用量、薬効などの基本的な知識に加え、注射薬を扱うための十分な知識も求められます。

なお昨今では、注射薬の調剤や混合の機械化が進んでいます。患者さんごとに自動で注射薬をカートにセットする機械や、配合禁忌や相互作用などのチェック後、アンプルピッカーと呼ばれる調剤機器によってオートメーションで注射薬の混合を行う機械があります。より慎重な対応が求められる調剤が自動化されることで、薬剤師の負担軽減だけでなく、抗がん剤の混合による曝露防止も期待できます。
1-3.がん化学療法
がんの治療は分子標的薬や副作用の少ない化学療法剤の開発、副作用支援薬などの進歩によって、入院をともなう治療だけでなく外来での対応も進んでいます。患者さんにとって有効で安全ながん治療を行うためには、薬剤師の参画が欠かせません。
病院薬剤師は、レジメン(抗がん剤治療の計画書)のチェック、処方提案、抗がん剤調製、治療薬の説明や副作用モニタリングなどを行います。がんの治療を受ける患者さんは、非常に大きな心理的・社会的な不安を抱えているため、病院薬剤師は、患者さんの気持ちに十分に配慮したうえでのコミュニケーションが求められます。
1-4.病棟業務
病院薬剤師は、医師や看護師などの他職種と連携しながら、入院患者さんへの服薬指導や病棟の薬剤管理などを行い、患者さんの治療に参画します。カルテや薬歴などから基本的な情報を得たあと面談を行い、持参薬、服用中の市販薬、健康食品、アレルギー歴、副作用歴などをチェックするのが、患者さんの入院時に行う病院薬剤師の業務です。

退院時には、自宅でも適切な薬物治療が継続できるように、用法用量や薬効、副作用などの説明を患者さんや家族に行います。お薬手帳や文書などに必要事項を記載し、かかりつけ医や保険薬局が治療経過などを把握できるように記録を残すのも大切な仕事です。
また、調剤室や病棟などの薬剤管理や衛生管理も大切な業務のひとつです。調剤室の薬剤や病棟にストックしてある薬剤、救急カートの使用期限の確認と在庫管理、消毒薬の使用期限や希釈濃度のチェック、手洗い指導などの衛生管理などを行います。薬剤管理や衛生管理は、それぞれの担当者が決まっていたり、病棟担当者が行ったりと、病院によって対応が異なります。
2.病院薬剤師と薬局薬剤師の違い
薬局薬剤師は院外処方せんの調剤を行うのに対し、病院薬剤師は院内処方せんに従って薬を調剤します。病院薬剤師と薬局薬剤師は調剤を行う点は同じですが、取り扱う薬剤やその他の業務に違いがあります。
2-1.取り扱う薬剤の違い
調剤薬局と異なるのは、取り扱う薬剤の種類です。錠剤やパップ剤、散剤や軟膏といった調剤薬局でも扱う薬剤に加えて、病院でしか使用できない注射薬などを扱うこともあります。その他、検査用の試薬などの院内製剤を作るなど、病院薬剤師ならではの業務があります。
病院の規模や診療科にもよりますが、病院の薬剤部は薬剤のみならず医療機器も充実している傾向にあります。調剤棚、分包機などといった機器はもちろん、注射調剤用のクリーンベンチや抗がん剤調剤用の安全キャビネットなどの特殊な設備まで、診療内容に応じてさまざまな機器が用意されています。
2-2.救命救急業務
救急外来では重症患者さんが搬送されてくる確率が高いため、高度な医療知識と迅速で正確な判断が求められます。救命救急の担当薬剤師は、患者さんの状態に合わせて、注射薬の鑑査や麻薬などの管理、治療薬物のモニタリング、持参薬の確認などに対応します。
患者さんと会話できない場合もあるため、患者さんの家族やお薬手帳などから併用薬や既往歴、考えられるリスクなどを推測し、適切な薬剤を提案できるスキルが必要です。救急認定薬剤師の資格取得など救急医療に関する深い知識を習得することで、中毒物質の特定や医師への処方提案など積極的なサポートができるでしょう。

2-3.治験業務
治験とは、薬を国に申請する際に必要なデータを得るための臨床試験のことで、病院薬剤師がかかわる業務のひとつです。治験は、医薬品の臨床試験実施基準に関する省令(Good Clinical Practice:GCP)のもとで行われ、倫理的で科学的な試験が適正に実施できるように規制されています。
治験業務は、院内の薬剤師が行う場合とSMOに委託する場合があり、治験業務へのかかわり方は病院によって異なります。治験業務担当の病院薬剤師は、治験薬の管理や治験実施計画書(プロトコル)通りに行われているかなどの確認が主な業務です。治験薬のなかには、治療薬のない疾患を対象としているものもあり、新薬の開発に携わることにやりがいを感じることもあるでしょう。
3.病院薬剤師に求められるスキル
病院薬剤師に求められるスキルとして、薬の専門家としての高度な知識と経験に加え、チーム医療に参画するためのコミュニケーションスキルがあげられます。具体的な例を挙げて見てみましょう。
3-1.最新の医療情報を得るといった情報収集スキル
日進月歩の医療業界では、常に新薬の開発や治療方法の研究が行われています。自ら積極的に最新情報を収集し、医師などと情報共有できるスキルは、チーム医療に参画するうえでとても大切です。積極的にチームへ関与するためにも、情報収集スキルは病院薬剤師に求められる能力のひとつでしょう。
3-2.薬の専門家としての高度な知識
病院薬剤師は薬の専門家として高度な知識が求められるため、認定薬剤師や専門薬剤師といった資格を取得し、基礎知識や最新情報を得る努力が必要です。今以上に専門的な知識を習得したいのであれば、まずは認定薬剤師の資格取得を目指しましょう。研究の実績や後輩薬剤師の教育・指導の実績を積み重ねることで専門薬剤師としての認定資格を得られます。
病院薬剤師に求められる知識は、対応する領域によって異なります。総合病院であれば、院内で扱う薬すべての知識はもちろん、診療科ごとの知識も必要です。一方、がん専門病院や糖尿病専門病院などの薬剤師は、病院自体の専門診療科についての知識が求められます。
3-3.コミュニケーションスキル
チーム医療へ参画する機会もあり、業務を円滑に進めるためのコミュニケーションスキルも必須スキルといえます。具体的には傾聴力、雑談力、提案力、調整力などがあげられます。
相手の話を受け入れる姿勢で話を聞く「傾聴力」があれば、患者さんだけでなく、医療スタッフも安心して話ができる雰囲気を作ることができます。気楽に会話を続ける「雑談力」や、より良い医療を提供するための「提案力」、他職種の医療スタッフの業務に合わせて自身の業務を行う「調整力」などは基本のコミュニケーションスキルといえます。

普段からコミュニケーションの機会を増やせば、医療スタッフの業務や考え方などを把握するだけでなく、良好な人間関係の構築につながるため、より円滑に業務を遂行できるでしょう。
4.病院薬剤師に向いている人と向いていない人
病院薬剤師は高度な専門知識や他職種とのかかわりをもつ業種であり、人によって向き不向きがあります。病院薬剤師に向いている人と向いていない人について見ていきましょう。
4-1.向いている人
病院薬剤師は、自身の働きで誰かの役に立ちたいと思える人に向いています。また、患者さんや医師・看護師などの医療スタッフから質問や相談を受ける機会が多く、すべては患者さんの命にかかわることです。責任をもって対応できる人は、病院薬剤師に向いているといえるでしょう。

そのほか、薬の専門家としての幅広い知識に加え、専門分野への深い理解やスキルを身につけることも必要です。病院薬剤師は、がんや精神科などの認定薬剤師・専門薬剤師などの資格取得を目指す環境が整っています。専門的なスキルを高めたい人や、勉強を続ける向上心がある人に向いている職業といえるでしょう。
さらに、患者さんの話を聞く傾聴力や、得られた情報を元に医師や看護師などの医療スタッフと患者さんの治療について意見交換する提案力など、の知識以外のスキルも高めていきたい人も向いています。
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4-2.向いていない人
薬剤師は立ち仕事が多いため、体力が必要な職業です。特に夜勤や当直業務がある病院は、体力に自身のない人にとって厳しいかもしれません。
また、プライベートを重視したい人は、就職先をよく検討する必要があります。病院によっては土日祝日に関係なくシフトを組んだり、夜勤や当直業務があったりするため、暦通りに休めないことも少なくありません。プライベート重視の人が病院への就職を考える場合は、休日や夜勤などの業務体制について確認する必要があるでしょう。
さらに、病院薬剤師はさまざまな医療スタッフと連携し、部署間の関係性にも配慮する必要があるため、コミュニケーションに苦手意識をもっている人には辛いかもしれません。
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5.病院薬剤師のやりがい
病院薬剤師はさまざまな院内業務に携わります。業務全体を通してどのようなやりがいを感じることができるでしょうか。
5-1.患者さんのケアに深く携われる
病院薬剤師は医師に処方意図を直接聞けたり、カルテで治療方針や病状・検査結果だけでなく、看護師や理学療法士などそれぞれの記録を確認できたりします。コメディカルスタッフからの情報も得られるため、患者さんの疾患や病状について深く理解したうえで、ケアにかかわれます。より深く患者さんの状態を把握し、薬物治療に携われることが大きなやりがいにつながります。

5-2.チーム医療に携われる
病院薬剤師は、ICTや緩和ケアチームなど、他職種と連携しながら専門性を発揮できます。チーム医療に参画することで、医師や看護師、理学療法士などの医療スタッフとかかわり、それぞれの職種の役割や専門性などを学べるのもモチベーションの向上につながります。チームとしての活動によって、コミュニケーションスキルの向上も期待できます。

ここで、病院におけるチーム医療について具体的な例を見ていきましょう。
■NST(Nutritional Support Team:栄養サポートチーム
低栄養状態になるケースや過栄養状態になるケースなど、特に管理が必要な患者さんに対し、医師、薬剤師、看護師、管理栄養士、臨床検査技師などの医療スタッフが連携し栄養支援を行う。病院薬剤師は栄養薬剤や輸液の提案、副作用の確認、栄養輸液・混合輸液の投与方法の管理、患者さん本人やご家族への説明などを実施する。
■ICT(Infection Control Team:感染対策チーム)
ICT(感染対策チーム)は、さまざまな感染症の発生や拡散を防止し、患者さんや家族、職員を守るための活動を行う。感染症の発生状況や院内検出病原体、抗菌剤の使用状況などの情報をチーム内で共有したり、手順通りに感染症対策が実施されているかを確認したりと、適切な運営を管理するのが主な業務。感染症に関する教育や感染対策マニュアルの作成、院内感染を防止する活動のほか、地域での感染症対策啓蒙のための説明会を開催するチームもある。
■緩和ケアチーム
主にがん患者さんが抱える痛みを和らげ、負担を減らすために連携する。身体的な負担をはじめ、不安や孤独などの心理的苦痛や仕事や家庭など社会的苦痛、人生の意味への問いや死への恐怖などについて、さまざまな評価を行いながら、投薬や処置、身体ケア、精神面でのフォローなどに取り組む。病院薬剤師は、医療用麻薬や消炎鎮痛剤、抗不安薬などの処方提案や、使用方法の説明などを担う。
■褥瘡対策チーム
寝たきりの患者さんに起こりやすい褥瘡(床ずれ)に対応する。褥瘡の原因はさまざまなため、複数の職種がかかわりながら予防や治癒の対策を立てる。病院薬剤師は、皮膚外用剤やドレッシング剤などが適正に使用されるように、実践や教育を行う。
6.病院薬剤師の厳しさ
多岐にわたる業務を担当し、やりがいも多い病院勤務ですが、その一方で難しさや厳しさもあります。
6-1.夜勤がある
規模の大きい病院や救急外来などを設置している病院は、緊急の処置が必要になった患者さんへの調剤を行うため、夜間も薬剤師が常駐していることが多いです。夜勤業務は病院によって異なり、緊急対応のみなど業務量を制限している病院もあれば、日中と同じ業務を行う病院もあります。
緊急対応が多い日は仮眠時間が少なくなることもあり、ほとんど眠れず夜通し動きっぱなしということもあるでしょう。また、常勤する薬剤師の人数が少ないと、頻繁に夜勤の当番がまわってくることもあり、肉体的精神的な負担が大きくなります。
ただし、勤務体制は各病院で異なります。例えば、夜勤者が毎日出勤している施設もあれば、自宅待機(オンコール体制)という形をとっている施設もあります。体力的な負担が大きい反面、夜勤手当や時間外手当がつくので、給与面ではメリットを感じる人もいるでしょう。規模の小さい病院は薬剤師の夜勤がないところもあります。
6-2.退院した患者さんとのコミュニケーションが減る
病院薬剤師は病棟で服薬管理指導などを行いますが、患者さんが退院した段階でかかわりが終了してしまうことがほとんどです。
最近では、手術前や抗がん剤などのハイリスク薬を服用する外来患者さんなどに対して、薬剤師が服薬指導を行う病院も増えてきましたが、基本的に入院患者さんに対しての業務がメインです。
外来の患者さんや退院後の患者さんと直接会話する機会は、調剤薬局やドラッグストアの薬剤師に比べて少ないでしょう。退院後の患者さんの経過が気になる人や、生活環境や嗜好も考慮したケアをしたい人にとっては、望む業務ができない可能性もあります。
7.病院薬剤師の年収
マイナビ薬剤師の調査(現役薬剤師さん500人が対象)によると、病院薬剤師の平均年収は434.6万円。調剤薬局の平均年収は488.3万円、ドラッグストアは512.5万円でした。また、厚生労働省が行った「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、薬剤師全体の平均年収は565.13万円で、薬剤師全体と比べて病院薬剤師の年収は低い傾向にあります。

あくまでも平均年収であり、給与は地域や自身のスキル・経験によって異なります。薬剤師不足が深刻な地域では給料は高めに設定されやすく、また、認定薬剤師や専門薬剤師などの資格をもつ薬剤師は手当がつくこともあるでしょう。なお、民間病院は経営状態によって給料やボーナスが変わることがありますが、公務員扱いとなる国公立病院では経営状態に影響されないため、経営状態に関係なく毎年昇給があり(人事院規則より)、安定した収入・昇給が期待できます。
8.病院薬剤師の魅力を知って、自分らしい働き方を考えよう
病院薬剤師は、さまざまな薬剤や医療機器を扱ったり、チーム医療を通して他職種の知見に触れたりする機会が多いという特徴があります。医師や看護師など他職種と議論を交わしながら、患者さんのケアに臨むことで、薬学以外の視点を学べることでしょう。薬剤師としての専門性を磨き、幅広く医療の知識を得ながら患者さんケアに貢献したい薬剤師にとって、病院薬剤師はやりがいのある魅力的な仕事ではないでしょうか。

執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。