薬剤師のためのお役立ちコラム 更新日:2024.01.17公開日:2021.09.14 薬剤師のためのお役立ちコラム

薬剤師国保と社保の違いを解説!立場によって異なる加入メリットとは?

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師国民健康保険(薬剤師国保)と社会保険(社保)、結局どちらがお得なのか疑問に思う薬剤師もいるでしょう。国民健康保険に属する薬剤師国保は、加入条件や保険給付の内容などの面で社保とは大きな違いがあります。また、従業員か個人事業主かといった雇用形態や、扶養家族の有無などによって薬剤師国保の加入メリットが異なります。今回は、薬剤師国保と国保・社保との違いについて解説するとともに、薬剤師国保の加入メリットについて見ていきましょう。

1. 薬剤師国保とは何か?

薬剤師国保とは、各地の薬剤師会が運営する国民健康保険で、正式には「東京都薬剤師国民健康保険」のように自治体名が冒頭に加わります。薬剤師国保は、主に個人経営の調剤薬局で働く薬剤師や医療事務スタッフ、その家族が加入する医療保険です。

 

日本では国民皆保険制度を採用していることから、国民は公的医療保険への加入が義務付けられています。薬剤師が加入する公的医療保険の種類は、薬剤師国保もしくは被用者健康保険です。被用者健康保険とは協会けんぽや組合健保などのことを指し、社会保険を完備した企業に勤めている従業員が加入します。

 

公的医療保険にはこのほかにも、公務員が加入する共済保険や漁師などが加入する船員保険、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度があり、職業や年齢などによって加入先が異なります。

2. 薬剤師国保と国民健康保険の違い

公的医療保険において同じ国保に分類される国民健康保険と薬剤師国保は、どのような違いがあるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。

 

2-1. 保険組合の違い

薬剤師国保は各地の薬剤師会が運営しているのに対し、国民健康保険は都道府県の市区町村が運営しています。薬剤師国保が分類される組合国保とは、特定の業種の個人事業主とその従業員が加入する国保です。薬剤師国保の他に、医師国保、歯科医師国保などがあり、業種ごとに組合を設立し運営しています。

 

一方、市区町村が運営している国民健康保険は、個人事業主や未就業者などのうち、社会保険(社保)や組合国保に加入していないすべての人が加入する医療保険です。

 

2-2. 保険料

薬剤師国保の保険料は給与収入にかかわらず一律です。「事業主組合員」、「薬剤師」、「薬剤師以外の従業員」、「家族」、「後期高齢者組合員」に区分され、それぞれ保険料が異なります。

保険料の支払い方法は区分によって異なり、事業主組合員と後期高齢者組合員は毎月27日に口座から引き落とされ、従業員(家族の分を含む)は毎月の給与から天引きされます。

 

■東京都薬剤師国民健康保険組合の保険料

  保険料 後期高齢者支援金
事業主組合員 26,000円 3,500円 29,500円
従業員(薬剤師) 21,500円 3,500円 25,000円
従業員(その他) 16,000円 3,500円 19,500円
家族 9,000円 3,500円 12,500円
後期高齢者組合員 2,500円 2,500円

(「東京都薬剤師国民健康保険組合ウェブサイトより)

 

一方、国民健康保険は、「前年の1月~12月の所得」「加入者数」「年齢」をもとに、医療分・後期高齢者支援金分・介護分を計算して世帯単位での年間保険料が算出されます。おおよその保険料を計算できるフォームを提示している自治体もありますので、詳しく知りたい方はお住まいの自治体のホームページを見てみましょう。

 
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2-3. 保険給付

薬剤師国保と国民健康保険の保険給付に、大きな違いはありません。入院時の食事療養費、高額療養費制度などの医療給付に加え、出産育児一時金や埋葬料についても給付されます(厚生労働省 我が国の医療保険についてより)。
 
一方で、薬剤師国保・国民健康保険ともに出産手当金は給付されないため、産休中の生活費は自身で用意しなければなりません。加えて、傷病手当金の給付もないため、病気やけがなどで長期間会社を休むことになった時のために備えておく必要があります。社会保険(社保)では出産手当金や傷病手当金の給付制度があり、この2つの手当金がないのは国保の特徴といえるでしょう。

 

ただし、中には出産手当金や傷病手当金にあたる給付制度を独自に導入している企業や自治体もあります。詳しくは就業規則や加入組合のホームページなどで確認するとよいでしょう。

 

2-4. 加入と脱退

薬剤師国保は就業先によって加入組合が決定します。居住地によって加入する医療保険が変わることはありません。一方、国民健康保険は市区町村が運営しているため、転居などで住所が変わる場合は届出を行う必要があります。

3. 薬剤師国保と社会保険(社保)の違い

薬剤師国保と社会保険(社保)の違いについても見ていきましょう。ここでは、保険料・保険給付・扶養制度について比較し、社会保険(社保)が提供するサービス事業についてお伝えします。

 

3-1. 保険料

上述したように、薬剤師国保の保険料は、収入額に関わらず区分ごとに一律額が設定されています。一方で社会保険(社保)の保険料は、会社が加入している保険協会や組合によって異なり、細かく条件が設定されています。

 

例えば、中小企業の加入が多い「協会けんぽ」では、各都道府県が設定した保険料率から保険料を算出します。保険料率が10%の場合、収入額の10%が保険料となります。協会けんぽでは地域の医療費水準によって毎年保険料率を見直しており、各都道府県の医療費が上昇すると保険料率が上がり、下降すると保険料率が下がる仕組みになっています。そのため、負担額は毎年変わります。

令和3年度時点では、どの都道府県でも保険料率はおおむね10%前後です。また半額は企業が支払うため、被保険者の負担額は実質5%前後です。年齢によって異なる場合がありますが、給与収入がおおむね50万円以上になると薬剤師国保の方が協会けんぽよりも保険料が安くなる傾向があります。

 

なお、社会保険(社保)は収入額をもとに算出されるため、賞与からも保険料が天引きされます。一方、薬剤師国保は月額で保険料を支払うため、賞与の有無が影響しません。

 

3-2. 保険給付

病院などの医療機関を受診した際にかかる費用については、薬剤師国保と社会保険(社保)に大きな違いはありません。

 

違いがあるのは、「傷病手当金」と「出産手当金」の保険給付です。協会けんぽなどの社会保険(社保)に加入していると、病気やけがで通勤できなくなった場合や出産のために会社を休職する場合、申請手続きをすると給付金を受け取れます。

 

それぞれ給与収入の約3分の2に当たる金額が支給されます。支給期間は「傷病手当金」は最長1年6ヵ月、「出産手当金」は出産日(予定日より出産が後になった場合は出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合は98日)から出産日の翌日以降56日までの範囲で、ともに会社を休み給与の支払いがなかった期間が対象となります。

 
保険料や税金などが差し引かれる前の給与額に対して計算されるため、働いている時とほぼ同等の現金を得られるでしょう。生活費の心配をすることなく休職期間を過ごせるのは社会保険(社保)のメリットといえます。

3-3. 扶養制度

扶養控除制度は、社会保険(社保)にだけあり、薬剤師国保を含めた国民健康保険にはないという違いがあります。社保は、扶養する家族の保険料がかからないため、何人いても手取り額は変わりません。また、被扶養者は被保険者と同等の保険給付を受けることができます。

 

薬剤師国保でも家族の加入が可能ですが、扶養制度とは異なり、区分に従って保険料を納めます。

東京都薬剤師国保における家族1人あたりの保険料は、12,500円(保険料9000円+後期高齢者支援金3500円)です。また40~64歳の場合は介護保険料4800円がプラスされます。薬剤師国保では、扶養家族の人数分だけ保険料が天引きされるため、人数が多いほど手取り額が減ってしまいます。

 

3-4. サービス事業

協会けんぽなどの社会保険(社保)では、被保険者の健康促進のためにさまざまなサービスを提供しています。例えば、保養施設やスポーツ施設の完備、スポーツクラブや旅行の割引制度、運動を促すイベントなど独自のサービスで被保険者の健康増進に努めています。定期健康診断オプションの無料追加など、疾患の予防と早期発見に向けた取り組みもあります。

 

薬剤師国保も、特定健康診査や特定保健指導などのサービスや指定保養所利用者への助成などを行っていますが。地域によって提供されるサービス事業が異なりますので、詳しくは薬剤師国保のウェブサイトを確認してみましょう。

 

4. 薬剤師国保の加入資格

ここでは、薬剤師国保の加入資格について、企業側、従業員側に分けて解説します。

 

4-1. 企業

個人事業所を開局し、かつ常時5人未満の従業員を雇用している事業所が加入できます。法人事業所や従業員を5人以上雇用している事業所は、協会けんぽへの加入が原則です。ただし、薬剤師国保にすでに加入している個人事業所が法人になった時は、健康保険適用外承認を受けることで薬剤師国保の加入を継続できます。

 

4-2. 従業員

薬剤師国保に加入するためには所定の条件を満たす必要があります。ここでは、東京都薬剤師国保の条件を例に見ていきましょう。

 

■東京都薬剤師国保の加入資格要件

 

要件1.東京都薬剤師会の会員であって、東京都内に所在する薬局又は医薬品販売業の開設者

要件2.東京都薬剤師会の会員であって、薬剤師の業務に従事する者

要件3.組合員が開設する薬局等の従業員

 

要件2は調剤薬局や病院などの医療機関以外にも、東京都薬剤師会の会員であって薬剤師を育成する教育機関の講師や学校薬剤師、診療報酬明細書等の審査に関わる薬剤師などの職業に就いている薬剤師も含まれています。

要件3は、薬剤師資格を持たない医療事務や登録販売者などのスタッフも、要件1を満たす薬局などに勤務している場合は加入できることを意味しています。薬剤師国保は薬剤師資格を持たない人も一定条件を満たすことで加入できる医療保険ですが、薬剤師国保を運営する各地域の薬剤師会によって、細かい条件が異なる場合があります。

 

5. 結局、薬剤師国保と社保ではどちらにメリットがある?

給与収入に関わらず一律の保険料を支払う薬剤師国保は、給与収入が多い薬剤師にとって、メリットが大きいでしょう。ただし、家族も薬剤師国保に加入する場合、人数に応じて保険料が加算されるのでその点も考慮に入れて、社会保険(社保)に加入した場合とどちらが保険料は抑えられるか比較検討してみましょう。

また、妊娠・出産の予定がある場合は、出産手当金の給付を受けられる社会保険(社保)がよいかもしれません。傷病手当の給付制度もあるため、出産や病気・事故などに備えたいと考えている場合も、社会保険(社保)への加入がおすすめです。

 

従業員が5人未満の事業所の経営者で、薬剤師国保か社会保険(社保)を迷っている場合は、薬剤師国保に加入したほうが経費を抑えられるでしょう。社会保険(社保)に加入すると従業員の保険料や厚生年金の半額を支払うことになるためです。

 

薬剤師国保と社保はそれぞれ保険料やサービス内容が異なり、収入や家族構成、将来設計によってメリットとなるポイントが変わります。さらに従業員なのか経営者なのかによっても異なるため、何に重点をおくかを考えたうえで、メリットの有無を判断してみましょう。

 

6. 薬剤師国保への加入メリットは立場によって異なる

薬剤師国保への加入メリットは、収入や立場によって異なります。将来、家庭を持つ可能性がある人は、出産手当金や扶養者制度がある社会保険(社保)のほうが、メリットが多いと感じるでしょう。一方、薬局の開業や高収入の薬剤師などは、保険料が抑えられる薬剤師国保が向いているといえます。それぞれの立場や将来を見据えて医療保険について慎重に検討する必要があるでしょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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