2025年の薬機法改正では、品質が確保された医薬品等を国民へ迅速かつ適正に提供していくために、「医薬品等の品質及び安全性の確保の強化」「医療用医薬品等の安定供給体制の強化等」「より活発な創薬が行われる環境の整備」「国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等」の4つについて見直しが行われます。また、衆議院厚生労働委員会で19項目、参議院厚生労働委員会で15項目の附帯決議が採択されています。本記事では、2025年薬機法改正のポイントと、薬剤師業務に影響する改定内容について分かりやすく解説します。
- 1.薬機法とは?
- 1-1.薬機法と薬事法の違いとは?
- 2.2025年薬機法改正のポイント(1)医薬品等の品質および安全性の確保の強化
- 3.2025年薬機法改正のポイント(2)医療用医薬品等の安定供給体制の強化等
- 4.2025年薬機法改正のポイント(3)より活発な創薬が行われる環境の整備
- 5.2025年薬機法改正のポイント(4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等
- 6.2025年薬機法改正に伴う薬剤師業務への影響
- 6-1.薬剤師等の遠隔管理下での一般用医薬品販売
- 6-2.薬局の調剤業務の一部外部委託
- 6-3.薬局の機能等のあり方の見直し
- 6-4.薬局機能情報提供制度の運用の合理化
- 6-5.医薬品の販売区分および販売方法の見直し
- 6-6.処方箋等の保存期間の見直し
- 7.2025年薬機法改正のポイントを把握しよう
1.薬機法とは?
薬機法とは、医薬品や医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品を安全・安心に使用できるようにするための法律で、正式名称は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。薬機法は、医療の進歩や社会の変化に対応するため、定期的に改正が行われています。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第一条(目的)|e-Gov 法令検索
1-1.薬機法と薬事法の違いとは?
薬事法は、2014年の改正により薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)へ名称変更されました。そのため、薬機法と薬事法は、同じ法律を指しています。名称変更に際しては、以下について改正が行われました。
● 医療機器の特性を踏まえた規制の構築
● 再生医療等製品の特性を踏まえた規制の構築
参考:薬事法等の一部を改正する法律の概要(平成25年法律第84号)|厚生労働省
2.2025年薬機法改正のポイント(1)医薬品等の品質および安全性の確保の強化
後発医薬品の製造業者による医薬品の不適切製造が発覚してから、医薬品の供給不足が続いており、医薬品の品質と安全性の確保の強化がますます重要になっています。
また、承認時点で安全性に関する情報が限定される医薬品が増えているといった理由で、市販後調査による安全確保措置や、市販後の安全対策を効果的に実施することが求められています。
そこで、製造管理や品質管理を徹底して、医薬品等の品質や安全性の確保を強化するために、以下の見直しが行われます。
2.指定する医薬品の製造販売業者に対して、副作用に係る情報収集等に関する計画の作成、実施を義務付ける。
3.法令違反等があった場合に、製造販売業者等の薬事に関する業務に責任を有する役員の変更命令を可能とする。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
附帯決議では、「製造販売業者等の薬事に関する業務に責任を有する役員の変更命令を発出するに当たっては、事業者の経営権にも十分に配慮し、事業者が自律的に役員体制の見直しを行えるようにあらかじめ必要な指導を徹底すること」などが求められています。
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院
3.2025年薬機法改正のポイント(2)医療用医薬品等の安定供給体制の強化等
昨今、海外での製造トラブルや製造販売業者などの不適切な製造、感染症の流行などで需要と供給のバランスが崩れるといった要因により、医薬品の供給が安定しない状況となっています。
医薬品を適切に供給するためには、製造販売業者における供給体制の整備などが重要です。また、グローバルサプライチェーンの中で迅速な薬事承認ができる体制の確保なども求められます。
そこで、2025年の薬機法改正では、医薬品の安定供給体制を強化するために、以下の見直しが行われます。
2.製造販売承認を一部変更する場合の手続について、変更が中程度である場合の類型等を設ける。
3.品質の確保された後発医薬品の安定供給の確保のための基金を設置する。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
付帯決議では、「後発医薬品製造基盤整備基金による支援を始めとした、本法に規定する医薬品の安定供給のための措置の実施状況を踏まえ、医薬品の供給不足が解消されない場合は、後発医薬品の産業構造や薬価の見直しを含め、医薬品の安定供給のための措置を検討し、その結果に基づき必要な措置を講ずること」とされています。
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院

4.2025年薬機法改正のポイント(3)より活発な創薬が行われる環境の整備
近年は医薬品製造の技術の多様化・複雑化、他業種と連携した創薬、リアルワールドデータの利活用など、創薬や医療機器等の開発に関わる環境が変化しています。
開発環境が変化する中でドラッグ・ラグやドラッグ・ロスといった問題が発生しており、これらを解消するために、2025年薬機法改正では、以下の見直しが行われます。
2.医薬品の製造販売業者に対して、小児用医薬品開発の計画策定を努力義務化する。
3.革新的な新薬の実用化を支援するための基金を設置する。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
条件付き承認に当たっては、附帯決議で「承認後に行う検証的臨床試験の内容及び臨床試験成績に関する資料を提出する期限等を可能な限り具体的に定め、正当な理由なく期限内に検証的臨床試験によって有効性及び安全性が確認できなかった場合には承認取消し権限を適切に行使すること」「強化する市販後安全対策の内容を具体的に定めること」などが求められています。
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院
5.2025年薬機法改正のポイント(4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等
国民の最も身近な場所で医薬品を供給する薬局は、対物業務を効率化して、薬剤師の対人業務に集中できる環境整備を行い、地域医療に携わる薬局としての機能を強化する必要があります。
また、情報通信機器の進展や薬物濫用などの課題を踏まえて、要指導医薬品や一般用医薬品を安全かつ適正に供給できるよう取り組むことも薬局や薬剤師の役割です。
2025年の薬機法改正では、薬局機能や薬剤師業務のあり方と、医薬品の適正使用推進について見直しが行われます。
2.濫用のおそれのある医薬品の販売について、販売方法を見直し、若年者に対しては適正量に限って販売すること等を義務付ける。
3.薬剤師等による遠隔での管理の下で、薬剤師等が常駐しない店舗における一般用医薬品の販売を可能とする。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
6.2025年薬機法改正に伴う薬剤師業務への影響
2025年薬機法改正によって影響を受ける薬剤師業務としては、主に前述した「5.2025年薬機法改正のポイント(4)国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化等」の内容が挙げられるでしょう。薬剤師は、次の項目についてしっかりと理解し、業務に携わる必要があります。
6-1.薬剤師等の遠隔管理下での一般用医薬品販売
薬剤師等が常駐しない薬局や店舗販売業では、医薬品を販売できる時間帯に限りがあります。
改正後は、委託元の薬剤師等による遠隔での管理の下、あらかじめ登録された薬剤師等が常駐しない店舗(登録受渡店舗)で医薬品を保管し、購入者へ受け渡すことが可能となります。
販売は委託元の薬局や店舗販売業者が行い、販売に関する責任は原則として委託元の薬局や店舗販売業者が有するものとしています。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
6-2.薬局の調剤業務の一部外部委託
薬剤師が対人業務にさらに注力できるように、薬局の調剤業務の一部について、必要な基準を満たす場合に外部委託が可能となります。
厚生労働省の資料では、外部委託を可能とする定型的な業務の例として、一包化(複数の薬剤を利用している患者に対して服用時点ごとに一包として投与すること)が挙げられています。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
6-3.薬局の機能等のあり方の見直し
外来患者さんへの調剤・服薬指導、在宅患者さんへの対応、医療機関や他の薬局等との連携、地域住民への相談対応といった薬局に求められる基本的な機能を有し、地域住民による主体的な健康の維持・増進を積極的に支援する薬局は、都道府県知事の認定を受けて「健康増進支援薬局」と称することができるようになります。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
また、付帯決議では、「地域における薬局の役割・機能を更に整理・明確化し、国民に分かりやすいものとするとともに、地域に必要な役割・機能を持つ薬局に対し、適切に診療報酬上の評価を行うこと」が求められています。
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院
6-4.薬局機能情報提供制度の運用の合理化
これまでは、薬局開設の許可権者と、薬局機能情報提供制度における薬局に係る情報報告先が異なっていました。2025年の薬機法改正では、円滑な運用を図るため、これらを統一する見直しが行われます。
改正前 | 改正後 | |
薬局開設の許可権者 | ● 都道府県知事 ● 保健所設置市市長 ● 特別区区長 |
● 都道府県知事 ● 保健所設置市市長 ● 特別区区長 |
薬局機能情報提供制度における薬局に係る情報の報告先 | ● 都道府県知事 |
また、報告された情報を適切に活用していくため、都道府県知事等は報告内容について厚生労働大臣に報告すること、厚生労働大臣は報告内容の公表に関して必要な助言、勧告その他の措置を行うものとすることとされています。
参考:薬機法等制度改正に関するとりまとめ|厚生労働省
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律 新旧対照条文|厚生労働省

6-5.医薬品の販売区分および販売方法の見直し
医薬品の販売区分及び販売方法については、以下のような見直しが行われます。
6-5-1.①処方箋なしでの医療用医薬品の販売の原則禁止
零売薬局による処方箋なしでの医療用医薬品の販売は、原則禁止となります。
これまで、処方箋医薬品以外の医療用医薬品については、処方箋なしでの販売は禁止されておらず、 「薬局医薬品の取扱いについて」「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売方法等の再周知について」の通知により、要指導医薬品等の使用を考慮したにも関わらず、やむを得ず販売を行わざるを得ない場合に限るとされるにとどまっていました。
参考:薬機法等制度改正に関するとりまとめ|厚生労働省
改正によって、医療用医薬品は処方箋に基づく販売を原則とし、医師の処方で服用している医療用医薬品が不測の事態で患者さんの手元になく、診療を受けられない、かつ一般用医薬品で代用できない場合など、やむを得ない場合のみ薬局での販売が認められます。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
ただし、附帯決議では、零売規制によってセルフメディケーション推進の政策方針に逆行しないよう留意し、国民の医薬品へのアクセスを阻害しないよう十分に配慮すること、また、改正前に零売を実施してきた薬局については、過度な指導や規制によって営業を継続することが困難にならないようにすることとしています。
参考:第217回国会閣法第15号 附帯決議|衆議院
参考:薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和7年5月13日)|参議院
6-5-2.②要指導医薬品に係るオンライン服薬指導方法の追加等
要指導医薬品の一部が、オンライン服薬指導により販売可能となります。
なお、要指導医薬品のうち、薬剤師による対面販売が特に必要な品目については、厚生労働大臣により「特定要指導医薬品」に指定されます。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律 新旧対照条文|厚生労働省
6-5-3.③濫用等のおそれのある医薬品の販売方法の厳格化
濫用等のおそれがある医薬品については、購入理由などを確認し、情報提供をすることが義務付けられます。
また、購入者の年齢に合わせた販売制限や商品の陳列方法、頻回購入に対しての業務手順の整備などについても見直されます。
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第37号)の概要|厚生労働省
6-5-4.④一般用医薬品の分類と販売方法
昨今、一般用医薬品の区分については検討が重ねられていましたが、2025年薬機法改正では、第1類から第3類の販売区分を維持することとなりました。
ただし、「薬機法等制度改正に関するとりまとめ」では、販売における専門家の関与の関与あり方について、指針などにより明確化すべきとされているほか、販売区分の見直しについても、引き続き検討すべきであるとされています。
6-6.処方箋等の保存期間の見直し
薬局では、調剤済みの処方箋と調剤録の保存期間が3年間となっています。
現代の傾向として、医療機関と薬局での情報共有が進められていることから、医師や歯科医師の診療録の保存期間5年間に合わせて、薬局での保存期間も5年間となりました。
参考:薬機法等制度改正に関するとりまとめ|厚生労働省
参考:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律 新旧対照条文|厚生労働省

7.2025年薬機法改正のポイントを把握しよう
近年、後発医薬品の製造業者による不正や、新型コロナウイルス感染症の流行による医薬品の供給不足、医薬品開発のスピードなど、さまざまな問題や課題が散見されています。また、国民へ医薬品を安全・安心かつ効率的に提供するために、薬局の機能を見直す必要性が高まりました。2025年薬機法改正では、これらの問題や課題を解消するための見直しが行われます。薬剤師は附帯決議にも目を通し、改正内容を理解して業務に反映させることが求められるでしょう。

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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