電子処方箋は、政府が推進する医療DXの一環として2023年1月に導入された新しい制度です。医師や歯科医師が発行した処方情報を電子的に薬局へ伝達し、調剤結果も同じシステムに登録することで、医療従事者や患者さんは全国どこでも処方・調剤履歴を確認できます。本記事では、電子処方箋の概要や仕組み、いつから導入されたのかについて解説するとともに、薬局で利用するまでの流れやメリット・課題、注意点についてもお伝えします。

- 1.電子処方箋とは?
- 1-1.電子処方箋はいつから導入された?
- 1-2.紙処方箋との違いとは?
- 2.電子処方箋の仕組み
- 3.電子処方箋を利用するときの流れ
- 3-1.STEP1:医療機関で電子処方箋を選択
- 3-2.STEP2:薬局での受付
- 3-3.STEP3:調剤と情報登録
- 3-4.STEP4:自分で薬の情報を確認
- 4.電子処方箋のメリット
- 4-1.服薬履歴の正確な把握
- 4-2.重複投薬・相互作用の防止
- 4-3.業務効率化と待ち時間短縮
- 4-4.患者さん自身による服薬管理の容易化
- 5.電子処方箋の課題
- 5-1.導入コストと設備投資
- 5-2.業務フローの変更
- 5-3.高齢患者さんへの周知と対応
- 5-4.個人情報保護とセキュリティ
- 5-5.運用の標準化と現場負担
- 6.薬剤師が電子処方箋を取り扱うときの注意点
- 6-1.業務フローの理解と習熟
- 6-2.患者さんへの説明と同意取得
- 6-3.運用リスクの予防と職場体制の整備
- 6-4.紙処方箋との併用期間への対応
- 6-5.継続的な研修と情報共有
- 7.電子処方箋を正しく理解し活用するために
1.電子処方箋とは?
電子処方箋とは、厚生労働省が推進する医療DXの一環として導入された制度で、医師・歯科医師が発行した処方情報を「電子処方箋管理サービス」を通じて薬局に伝達する仕組みです。
薬剤師はこの情報をもとに調剤を行い、調剤結果も同じシステムに登録されます。これにより、患者さんは全国どこでも自分の処方・調剤履歴を確認でき、医療機関や薬局間で情報が安全に共有されます。
参考:電子処方せん(国民向け)|厚生労働省
参考:電子処方箋 概要案内【薬局】|厚生労働省
デジタル庁のダッシュボードによれば、電子処方箋は全国の病院・診療所・歯科診療所・薬局で導入が進んでおり、利用可能施設数は年々増加しています。施設ごとの導入率は以下のとおりです。
| 施設 | 電子処方箋導入率 |
|---|---|
| 病院 | 19.0% |
| 医科診療所 | 25.3% |
| 歯科診療所 | 8.5% |
| 薬局 | 88.9% |
| 全施設計 | 38.5% |
※2026年3月13日時点
参考:電子処方箋の導入状況に関するダッシュボード|デジタル庁
2026年3月時点で、電子処方箋の導入率は地域や施設によって差がありますが、薬局の導入率については他の施設と比較して高い割合となっています。
1-1.電子処方箋はいつから導入された?
電子処方箋は、2023(令和5)年1月26日から運用が開始されました。システム導入を完了した医療機関・薬局から順次利用が始まっています。
参考:電子処方箋の運用開始日について|厚生労働省
電子処方箋に対応している医療機関や薬局では電子処方箋または紙処方箋を扱えるのに対し、未対応の医療機関・薬局は紙処方箋しか扱えません。
電子処方箋に対応している医療機関を受診した場合、患者さんは電子処方箋または紙処方箋のどちらかを選択することが可能です。
1-2.紙処方箋との違いとは?
電子処方箋と紙処方箋の大きな違いは、処方箋の形式はもちろん、複数の処方箋・調剤情報を医療機関や薬局で共有できるかどうかにあります。電子処方箋・紙処方箋の主な違いは、以下のとおりです。
| 電子処方箋 | 紙処方箋 | ||
|---|---|---|---|
| 取り扱える医療機関・薬局 | システム導入済み | システム未導入 | |
| 交付される処方箋の形式 | 患者さんが電子または紙を選択 | 紙のみ | |
| 服用薬のシステム上の共有 | システム導入済みの医療機関・薬局で扱った処方の共有が可能 | 服薬情報の共有はお薬手帳等で実施 | |
| 患者さんへの交付 | 【引換番号付き】処方内容の控え | 【引換番号付き】紙処方箋 | 従来の紙処方箋 |
電子処方箋が交付されると、引換番号付きの「処方内容(控え)」が発行されます。ただし、この「処方内容(控え)」は正式な処方箋ではなく、患者さんがマイナポータルで処方内容や引換番号を確認する仕組みが定着するまでの暫定的な措置として提供されているものです。
そのため、将来的には「処方内容(控え)」の発行は廃止される予定であり、医療機関によっては発行されない場合があります。
参考:電子処方箋(電子処方せん) Q&A(国民の皆さま向け) |厚生労働省
2.電子処方箋の仕組み
電子処方箋は、従来の紙処方箋を電子化し、医療機関・薬局・患者さんをつなぐ全国的な仕組みで、以下のように運用されます。
2. 電子処方箋管理サービスに保存
3. 薬局で処方箋の取得、重複投薬等をチェックして調剤
4. 調剤結果情報を登録
これにより、患者さんの薬歴が電子処方箋管理サービスで一元的に管理され、安全で効率的な医療を提供できるようになります。患者さんは、マイナポータルや電子版お薬手帳アプリなどで服用薬の情報を閲覧することが可能です。
3.電子処方箋を利用するときの流れ
電子処方箋を利用するには、患者さんが電子処方箋に対応できる医療機関を受診する必要があります。利用可能かどうかは、厚生労働省のホームページや医療機関に掲示してあるポスターなどで確認できます。
参考:電子処方せん対応の医療機関・薬局についてのお知らせ|厚生労働省
また、前述したとおり、電子処方箋に対応している医療機関は、電子処方箋だけでなく紙処方箋の交付も可能です。そのため、患者さんが電子処方箋を利用するためには、医療機関で希望する必要があります。ここでは、患者さんが電子処方箋を利用するときの流れを紹介します。
3-1.STEP1:医療機関で電子処方箋を選択
患者さんが電子処方箋を利用するには、以下の2つの方法があります。
| 受診 | 選択方法 |
|---|---|
| マイナンバーカード | 情報提供と電子処方箋の発行に同意する |
| 資格確認書 | 診察時に医師や歯科医師へ意向を伝える |
参考:電子処方箋(電子処方せん) Q&A(国民の皆さま向け) |厚生労働省
資格確認書については、診察室で医師・歯科医師が処方箋を発行する際に口頭で「電子処方箋」の希望について伝える場合や、受付職員が確認する場合などがあり、受診する医療機関によって電子処方箋の交付の流れが異なるケースがあります。
参考:電子処方せん(国民向け) |厚生労働省
3-2.STEP2:薬局での受付
電子処方箋を選択した場合、基本的には医療機関から引換番号が記載された「処方内容(控え)」が交付されます。薬局での受付で「処方内容(控え)」の提出が必要かは、マイナンバーカードまたは資格確認書のどちらで受付をするかによって異なります。
薬局でマイナンバーカードを提示すると、カードを通して引換番号と処方内容を確認できるため、「処方内容(控え)」の提示が必須ではありません。
一方、資格確認書を提示する場合は、薬局で引換番号と処方内容が確認できないため、「処方内容(控え)」を提出する必要があります。
いずれかの方法で電子処方箋を受け付けた薬局では、薬剤師が電子処方箋管理サービスから処方内容を取得し、調剤を開始します。
3-3.STEP3:調剤と情報登録
薬剤師は電子処方箋管理サービスから処方箋を取得し、処方薬を調剤します。調剤後、患者さんへ処方薬の交付・服薬指導を行うとともに、調剤結果を電子処方箋管理サービスに登録します。
電子処方箋管理サービスでは、自薬局での調剤記録だけでなく、複数の医療機関で処方されている薬の情報や他薬局での調剤記録が一元管理されています。
そのため、より確実な重複投薬・相互作用のチェックや医療機関・薬局での情報共有が可能となります。
3-4.STEP4:自分で薬の情報を確認
患者さんはスマートフォンやパソコンからマイナポータルにアクセスし、過去の処方・調剤情報を確認できます。
電子版お薬手帳と連携すると、リアルタイムで薬の情報を閲覧できるため、市販薬を購入する際の飲み合わせの確認にも活用できます。
4.電子処方箋のメリット
電子処方箋によって薬剤師はより安全で効率的な調剤を行い、患者さんの安心と信頼を高めることができます。ここでは、電子処方箋のメリットについてお伝えします。
4-1.服薬履歴の正確な把握
電子処方箋管理サービスに登録された処方・調剤情報は、全国の医療機関や薬局で確認ができます。
そのため、転居や転勤、災害時などでかかりつけ病院・薬局を受診できない場合でも、患者さんの服用歴を途切れることなく把握できます。
薬剤師は患者さんの服薬状況を正確に確認できるため、重複投薬や相互作用のリスクを避けながら安全な調剤・服薬指導が可能になります。
4-2.重複投薬・相互作用の防止
複数の医療機関・薬局を利用している患者さんであっても、直近の服薬情報が電子処方箋管理サービスに一元的に反映されます。
薬剤師はシステム上で重複投薬や飲み合わせの悪い薬を事前にチェックできるため、副作用や相互作用のリスクを低減し、より安全で適切な薬物療法を提供することにつながります。
患者さん自身も、複数の医療機関を受診する際に情報が共有されているため、安心して治療を受けられるでしょう。
4-3.業務効率化と待ち時間短縮
電子処方箋は、患者さんが電話やメールなどで引換番号を伝えるだけで、薬剤師は調剤を開始できるようになります。患者さんが薬局に到着する前に準備を進められるため、待ち時間の短縮につながるでしょう。
また、紙処方箋は紛失や入力ミスといったリスクもありますが、電子処方箋ではそういったリスクが抑えられます。そのため、薬局の事務的な負担が軽減できる点もメリットといえます。
4-4.患者さん自身による服薬管理の容易化
電子処方箋を利用すると、マイナポータルや電子版お薬手帳で服薬履歴を確認できるため、以下のようなケースに役立ちます。
● 以前飲んでいた薬を再度処方してもらいたい場合
● OTC薬を購入するときの飲み合わせを確認したい場合
服用薬を確認したい場合や服用していた薬の名前を知りたい場合などに確認がしやすくなります。
5.電子処方箋の課題
電子処方箋にはさまざまなメリットがあるものの課題もあるため、薬局内での教育体制やマニュアル整備、患者さんへの丁寧な説明が不可欠です。ここでは、電子処方箋の課題についてお伝えします。
5-1.導入コストと設備投資
電子処方箋の導入には、専用の端末やカードリーダー、ネットワーク環境などの整備が必要です。そのため、中小規模薬局では初期費用が負担となる場合があるでしょう。
更新費用やメンテナンスも継続的に発生するため、長期的な運用計画が求められます。
5-2.業務フローの変更
紙処方箋中心の業務から電子処方箋対応へ移行することで、受付・調剤・記録の業務内容が変わります。薬剤師は新しいシステム操作を習得しなければならないため、教育・研修の時間的コストが発生するでしょう。
システム障害や通信不良時の対応についても事前に整備しておく必要があり、あらゆるトラブルを想定した業務体制を整備する必要があります。
5-3.高齢患者さんへの周知と対応
電子処方箋はマイナンバーカードを用いた認証が基本となります。しかし、高齢患者さんの中には、カード利用に不慣れな人も少なくありません。そのため、薬局でのサポートが不可欠でしょう。
しばらくは紙処方箋や処方内容(控え)との併用期間が続くため、薬剤師は二重の業務対応を求められる場面があります。
5-4.個人情報保護とセキュリティ
電子処方箋は患者さんの薬歴を全国で共有する仕組みのため、情報漏洩に対しての防止策が必須です。
薬局内でのアクセス権限管理や、患者さんの同意を取得するプロセスを徹底する必要があります。薬剤師業務の一部として、セキュリティへの意識やITリテラシーの向上が求められます。
5-5.運用の標準化と現場負担
医療機関や薬局間での運用ルールが完全に統一されていない場合、医療現場ではその時々に応じて臨機応変に対応する必要があります。店舗・医療機関ごとに対応が異なるようになると、業務が煩雑になる可能性があり、ミスやトラブルの原因となってしまうかもしれません。
そのため、特に多店舗展開薬局では、店舗間での運用差をなくすためのマニュアル整備が重要です。標準化が進むまで、薬剤師には柔軟な対応力が求められます。
6.薬剤師が電子処方箋を取り扱うときの注意点
電子処方箋は薬剤師の業務を効率化し、患者さんの安全性を高められる仕組みですが、運用にあたっては細かな注意点があります。ここでは、薬剤師が電子処方箋を取り扱うときの注意点についてお伝えします。
6-1.業務フローの理解と習熟
紙処方箋と電子処方箋では受付から調剤までの流れが異なるため、薬剤師は業務フローを正しく理解することが重要です。
電子処方箋管理サービスへのアクセスやマイナンバーカードによる認証、調剤情報の登録など、各ステップを確実に習得する必要があります。システム障害が起こったときの手順も事前に把握しておくことが求められるでしょう。
6-2.患者さんへの説明と同意取得
電子処方箋は患者さんの同意が前提となるため、薬剤師は患者さんへ仕組みやメリットを分かりやすく説明することが不可欠です。
特に高齢者やITに不慣れな患者さんには、医療DXに対する不安を解消できるよう、マイナンバーカードの利用方法や電子処方箋の利点を丁寧に伝える必要があります。紙処方箋との違いや薬局での受付方法、薬歴の確認方法などを簡潔に説明できるよう準備しましょう。
6-3.運用リスクの予防と職場体制の整備
電子処方箋を取り扱う薬剤師には、患者さんの情報を安全に扱うための適切な判断と運用が求められます。電子処方箋は多くの個人情報を含むため、閲覧権限のある端末の管理、ログイン情報の取り扱い、操作履歴の確認など、日常業務の中で細かな注意が必要です。
また、電子データは外部からの不正アクセスや端末トラブルの影響を受ける可能性があるため、セキュリティ更新やネットワーク環境の点検など、薬局全体での対策が欠かせません。
6-4.紙処方箋との併用期間への対応
紙処方箋と電子処方箋が併用されている間、薬剤師は両方の業務フローに対応する必要があります。患者さんが紙処方箋を選択する場合もあるため、受付時に電子処方箋対応の医療機関で交付された紙処方箋であるかの確認をする必要があるでしょう。
二重業務による負担を軽減するためには、薬局内での役割分担やマニュアルの整備をすることが大切です。
6-5.継続的な研修と情報共有
電子処方箋は、今後も改善・拡張が予定されているため、最新情報の把握や研修への参加が欠かせません。
薬局内での情報共有や勉強会を通じて、スタッフ全員が同じレベルで対応できる体制を整えることが望まれます。薬剤師は新しい機能や制度変更に柔軟に対応できるよう、継続的な学習姿勢が必要です。
7.電子処方箋を正しく理解し活用するために
電子処方箋は、患者さん・薬剤師双方にとって安全で効率的な医療提供を支える重要な仕組みです。服薬履歴の正確な把握や重複投薬の防止、待ち時間短縮などのメリットがある一方、導入コストや業務フローの変更、高齢患者さんへの対応、個人情報保護といった課題も存在します。記事執筆時点においては紙処方箋と併用されていますが、標準化やセキュリティ強化を通じて全国的な定着が進むと考えられるでしょう。
電子処方箋は医療DXの中核として、安心で持続可能な医療体制の実現に向けた大きな一歩です。今後さらに拡充・改善される可能性があるため、薬剤師は最新情報を把握できるように備える必要があります。
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薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。
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