薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2024.02.20 薬剤師のためのお役立ちコラム

ハイリスク薬とは?特定薬剤管理指導加算の算定要件や服薬指導のポイントを解説

文:篠原奨規(薬剤師)

ハイリスク薬は、一般的な薬剤に比べると副作用などのリスクが高いイメージがあります。薬局薬剤師として、ハイリスク薬について患者さんへ指導するとなると、少し身構えてしまう人もいるかもしれません。しかし、ハイリスク薬の特徴や指導するときのポイントを理解すれば、自信を持って患者さんの治療を支援できるはずです。この記事では、「ハイリスク薬の服薬指導が苦手」という方に向けて、ハイリスク薬の特徴や服薬指導・薬歴記入のポイントについて解説します。

1.ハイリスク薬とは

ハイリスク薬とは、医薬品の中でも特に、副作用や医薬品に関する健康被害などに対する安全管理が必要な薬剤を指します。まずはハイリスク薬の特徴や具体的な薬剤例、関連する薬剤服用歴管理指導料の加算について解説します。

 

1-1.ハイリスク薬の特徴と具体例

日本薬剤師会が作成した「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」では、投与量に注意が必要な薬剤や服薬期間が設けられている薬剤、併用禁忌など他の薬剤との相互作用が多い薬剤などがハイリスク薬として紹介されています。具体的には、以下のような治療領域の薬剤が挙げられます。

 

● 抗悪性腫瘍剤
● 免疫抑制剤
● 不整脈用剤
● 抗てんかん剤
● 血液凝固阻止剤

 

1-2.「特定薬剤管理指導加算」の算定要件

一部のハイリスク薬を服薬指導する際、要件を満たすと「特定薬剤管理指導加算1」を算定できます。患者さんや家族に対して、安全管理が必要な薬剤であることを理解してもらうなど、適切な指導を行いその内容を薬歴として記録に残すことが算定要件です。
 
※参照:調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省
 
複数のハイリスク薬が処方されている場合には、全ての薬剤に対して薬剤ごとの特徴を踏まえた服薬指導を行う必要があります。しかし、ハイリスク薬であっても、特定薬剤管理指導加算の対象範囲外の疾患に対して使用する場合は、加算の算定ができません。薬剤がハイリスク薬かどうかだけではなく、患者さんがその薬剤をどの病気に対して使用するかも確認した上で算定する必要があるでしょう。
 
※参照:平成22年度調剤報酬改定に関するQ&A|日本薬剤師会
 
抗悪性腫瘍薬に対しては、「特定薬剤管理指導加算2」を算定できることもあります。「特定薬剤管理指導加算1」に比べると算定要件のハードルは高いですが、レジメンの確認や服薬指導後に電話で服薬状況を確認し、医療機関に情報提供するなど、患者さんへの支援が評価される加算となっています。

 
🔽 特定薬剤管理指導加算2について解説した記事はこちら

2.ハイリスク薬の薬学的管理指導のポイント

薬剤師がハイリスク薬の薬学的管理指導を行うときは、医師からの説明内容を患者さんから聞き取り、治療に関する理解度を確認する必要があります。患者さんの情報(体質や既往歴、併用薬、アレルギー歴など)を収集し、処方内容に疑義が生じた場合は、医療機関に照会、情報提供を行うことが求められます。
 
特に外来患者さんの場合、医師や薬剤師などの医療従事者が服薬管理を常に行えるわけではないため、ハイリスク薬による副作用の初期症状や対処法について、患者さんに理解してもらえるよう指導することが重要です。

3.ハイリスク薬の服薬指導時における注意点と聞き取り例

「特定薬剤管理指導加算1」を算定できるハイリスク薬について、薬学的管理指導を行うときに注意すべき事項があります。服薬指導の注意点とともに、具体例を挙げて解説します。

 

3-1.ハイリスク薬の服薬指導時に注意すべき項目

薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」では、ハイリスク薬の服薬指導を行う際に注意すべき項目について紹介されています。薬効群によって異なる事柄はあるものの、共通する項目は以下の5つです。

 

1.患者に対する処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
2.服用患者のアドヒアランスの確認(飲み忘れ時の対応を含む)
3.副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育
4.効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
5.一般医薬品やサプリメント等を含め、併用薬及び食事との相互作用の確認

 

参照:薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)|日本薬剤師会

 

3-2.ハイリスク薬の服薬指導時の聞き取り例

上記の5つの注意点を踏まえて、例えば、抗悪性腫瘍薬を処方された患者さんに対して服薬指導を行うケースでは、以下のような聞き取りが考えられます。

 

● 「病院で点滴治療はしてきましたか?」
聞き取りにより、治療中のレジメンが分かります。処方内容の妥当性を判断するときに役立つほか、点滴治療で使用した薬剤の副作用もフォローアップできるでしょう。

●「前回のお薬は余っていませんか?」
アドヒアランスの確認を行います。アドヒアランス不良だと判断した場合、患者さんの生活に合った服薬マネジメントを行いましょう。

●「吐き気や下痢、手足のしびれなど日常生活に支障をきたす副作用はないですか?」
副作用の確認です。服薬指導で伝えるべき副作用対策が明確になります。

●「腫瘍マーカーはいかがでしたか?」
●「画像検査の結果については医師より説明されましたか?」

抗悪性腫瘍薬の効果判定ができ、がんの進行度が確認できます。

●「別に飲んでいる薬はありますか?」
飲み合わせのチェックを行います。抗悪性腫瘍薬の副作用に対して、どのような対応をしているかを確認できます。

 
🔽 アドヒアランスについて解説した記事はこちら

 

3-3.ハイリスク薬の服薬指導が難しいとされる要因

ハイリスク薬は薬効群や薬剤ごとの特徴を理解し、幅広い視野を持って服薬指導をする必要があります。この点において通常の医薬品と比べて、ハイリスク薬の服薬指導は難しいといえるでしょう。
 
例えば、抗悪性腫瘍薬の服薬指導では、前述した内容に加え、薬剤や病気に対する不安など、患者さんの治療に対するメンタルサポートの必要性についても考えなければいけません。また、副作用に対して支持療法の提案をする機会が多い点も、ハイリスク薬である抗悪性腫瘍薬の服薬指導の特徴でしょう。
 
薬剤に対して画一的な指導をするのではなく、ハイリスク薬の服薬指導では、一つひとつの薬剤の特徴を理解し、目の前の患者さんに必要な指導を行うことが大切です。

 
🔽 服薬指導について解説した記事はこちら

4.ハイリスク薬の薬歴の書き方

服薬指導で確認、指導した内容を薬歴に記録することは、患者さんを継続的に支援するために重要な業務のひとつです。ハイリスク薬の薬歴のポイントとして、服薬状況や体調変化、副作用の有無など「調剤管理料」の算定要件を満たすように記載することが挙げられます。加えて、経過や治療上の問題点を誰が読んでも分かるように、具体的に記録することを意識するとよいでしょう。
 
例えば、糖尿病薬の場合には、副作用である低血糖発生の有無だけではなく、「副作用の頻度」「どのように対応しているか」「具体的な症状」「食事の回数や量」など具体的な内容を記録することで、次回以降の服薬指導の際、副作用の経過や食事量の変化に気づくことができます。
 
服薬指導で患者さんの経過を細かく確認し、ハイリスク薬による治療上の課題や今後想定される体調変化を継続的にフォローできるよう薬歴に記録しましょう。

 
🔽 調剤管理料について解説した記事はこちら

5.ハイリスク薬のヒヤリ・ハット事例を紹介

患者さんに健康被害は発生しなかったものの、見逃すと大きな被害を招いたかもしれない「ヒヤリ・ハット事例」のうち、10%程度がハイリスク薬に関するものであったという報告があります。実際にあったハイリスク薬に関するヒヤリ・ハット事例を見てみましょう。
 
参照:【3】ハイリスク薬に関するヒヤリ・ハット|日本医療機能評価機構

 

5-1.糖尿病薬の追加による事例

2週間前に2種類の糖尿病薬が追加となったが、低血糖のため緊急入院となり、追加薬剤のうち1種類中止となった。しかし、次の受診の際に中止となった薬剤も処方されており、これまでの経緯を把握していた薬局薬剤師が医療機関へ疑義照会を実施し、正しい処方へと変更された。

 

5-2.抗悪性腫瘍薬の服薬スケジュールに関する事例

抗悪性腫瘍薬を1週間服用、1週間休薬するプロトコルにて治療中のはずが、処方箋には連日服用するよう指示があった。患者さんに確認したところ医師からの説明はなかったとのことで、疑問を感じた薬局薬剤師が疑義照会し、正しい服薬スケジュールに変更となった。
 
服用後のリスクが高いハイリスク薬で調剤過誤を起こしてしまうと、患者さんに大きな健康被害を生じる可能性があります。今回紹介した事例のように、患者さんの経過を聞き取り、疑義が生じた場合は医療機関に確認することが大切です。

 
🔽 疑義照会について解説した記事はこちら

6.ハイリスク薬を扱う上で薬剤師に求められることとは

患者さん個々にあった服薬指導をするには、服薬状況や体調変化、副作用の有無などの患者情報を収集する必要があり、患者さんや医療機関とのコミュニケーションが必要となります。
 
特に間違った服用が重大な有害事象につながりやすいハイリスク薬に対しては、服用中の注意点を正確に伝えたり、服薬状況の詳細を聞き取ったりする必要があるため、高いコミュニケーションスキルが求められるでしょう。
 
また、ハイリスク薬は投与量や相互作用に注意が必要な薬剤が多いため、各薬剤に関する知識を身につけ、さまざまな視点から処方内容の評価を行う知識や経験も求められます。
 
コミュニケーションスキルを生かして得られた患者情報と薬学的知識をもとに、薬剤師が処方を評価・薬学的管理指導を行うことが、患者さんの最適な治療につながります。

7.薬剤師による薬学的管理指導がハイリスク薬の安全管理につながる

ハイリスク薬は副作用などの健康被害に対する安全管理が必要な薬剤であり、薬剤師が適切な管理、薬学的管理指導を行わなければいけません。患者さんにとって安全な治療を進めるためには、薬剤師として患者さんや医療機関から患者情報を集めるためのコミュニケーションスキルや、薬学的知識が求められます。また、ハイリスク薬の調剤過誤を起こさないために、普段からヒヤリ・ハット事例に目を通すことも重要です。ハイリスク薬の服薬指導に自信を持って臨めるように、日々自己研鑽しましょう。


執筆/篠原奨規

2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。

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