調剤過誤は、薬剤師として避けなければならない重大なリスクの一つです。調剤過誤を防ぐためには、薬局全体で適切な対策を行うことが必要でしょう。万が一、調剤過誤が起きた場合には、責任のある迅速な初期対応と患者対応が求められます。本記事では、調剤過誤の定義や原因、薬剤師の責任について解説するとともに、調剤過誤を防止するための対策や発生時の対応についても解説します。

- 1.調剤過誤とは?
- 1-1.調剤事故とは?
- 1-2.ヒヤリ・ハット事例とは?
- 2.調剤過誤が起こる原因とは?
- 2-1.人的ミス(ヒューマンエラー)
- 2-2.作業環境の問題
- 2-3.組織体制の問題
- 3.調剤過誤が起こった場合の薬剤師の責任とは?
- 3-1.民事責任
- 3-2.刑事責任
- 3-3.行政責任
- 4.調剤過誤防止に向けた対策
- 4-1.確認作業を徹底する
- 4-2.整理整頓を心がける
- 4-3.作業フローを整備する
- 4-4.ヒューマンエラー防止のためにシステムを導入する
- 4-5.報告や相談がしやすい環境をつくる
- 5.調剤過誤が起こったときの対応
- 5-1.初期対応
- 5-2.患者さんへの対応
- 5-3.事後対応
- 6.調剤過誤を起こさないために
1.調剤過誤とは?
調剤過誤とは、調剤事故の中でも「薬剤師の過失」によって、患者さんに健康被害が起こった事例のことです。調剤の間違いだけでなく、服薬指導の不足や説明内容の誤りなどによるものも調剤過誤に含まれます。
参考:新任薬剤師のための調剤事故防止テキスト(第二版)|日本薬剤師会
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
また、調剤によって起こる問題には、調剤過誤のほかに調剤事故やヒヤリ・ハット事例があります。ここでは、調剤事故とヒヤリ・ハット事例について解説します。
1-1.調剤事故とは?
調剤事故とは、調剤に関連して患者さんの健康被害が発生した事例のことです。医療事故の一つとされており、薬剤師の過失の有無は問われません。
調剤事故の可能性がある場合には、透明性の高い対応を行うことがとても大切です。事実を隠蔽するような行為や患者さん・家族の心情の配慮に欠けた言動は、患者さんとの信頼関係を失うばかりか、状況が悪化する可能性があるため、絶対に行ってはなりません。
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
1-2.ヒヤリ・ハット事例とは?
日本薬剤師会の定義によると、ヒヤリ・ハット事例とは、患者さんに健康被害は発生しなかったものの、「ヒヤリとした」「ハッとした」出来事を指します。患者さんへの薬剤交付前か後か、服用前か後かは問われません。例えば、薬剤の取り違えに気づいて交付前に修正したケースや、服用後であっても結果的に健康被害が起こらなかったケースなどが該当します。
参考:新任薬剤師のための調剤事故防止テキスト(第二版)|日本薬剤師会
また、日本薬剤師会の定義とは範囲が異なりますが、日本医療機能評価機構ではヒヤリ・ハット事例の収集・分析を行っています。1件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハット事例が存在する(ハインリッヒの法則)といわれています。ヒヤリ・ハットは、調剤事故や調剤過誤の手前で起きているサインであり、組織的に収集・分析することで、重大事故を未然に防ぐ手がかりになるでしょう。
参考:薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業|公益財団法人日本医療機能評価機構
2.調剤過誤が起こる原因とは?
調剤過誤が起こる原因は、人的ミス・作業環境・組織体制などに分類することができます。ここでは、調剤過誤の原因について詳しく解説します。
2-1.人的ミス(ヒューマンエラー)
人的ミスによる調剤過誤は、「身体的・精神的な能力の低下」「知識・経験の不足」「怠慢や違反」などによって引き起こされるといわれています。それぞれの具体的な例として、以下のようなものが挙げられます。
| 身体的・精神的な能力の低下 | ● 疲労や睡眠不足などの体調不良 ● 焦りやストレスによる注意力の低下 |
|---|---|
| 知識・経験の不足 | ● 薬理作用・禁忌・相互作用などの知識不足 ● 経験の浅さによる処方監査や調剤時の判断ミス ● 薬機法や薬剤師法などの法律の理解不足 |
| 怠慢・違反 | ● 自己流での作業(マニュアル違反) ● 思い込みによる確認不足 |
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・自体が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
人的ミスは個人の問題に見えますが、背景には教育体制の不備や業務量の偏りなど、職場環境の影響が潜んでいる場合もあります。
2-2.作業環境の問題
作業環境も正確な調剤に影響を与える要因です。動線の悪さ、騒音、スペース不足などは、薬剤師の集中力を低下させる原因となりやすいため、調剤過誤を起こす可能性が高まります。
また、薬品棚の配置や表示も、ミスのない調剤を行うための重要な要素です。以下のような作業環境の場合、物理的な環境要因も調剤過誤のリスクを高めるでしょう。
● ラベル表示が見づらい
● 棚の配置が適切でない
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・自体が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
上記のような環境要因は、薬局の業務設計や人員配置の問題と密接に関係しており、組織的な改善が求められます。
2-3.組織体制の問題
調剤過誤は、薬剤師個人の注意不足だけでなく、組織体制の不備によって生じることもあります。具体的には以下のような問題が挙げられます。
● マニュアルが整備されていない
● 教育・研修の機会が少ない
● 疑義照会のルールが曖昧である
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・自体が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
薬剤師不足は業務量過多につながるため、ミスを誘発しやすい環境をつくります。また、マニュアルの整備や教育・研修の機会が不足していると、知識や判断力の個人差が広がりやすく、確認作業の質にばらつきが生じるでしょう。
組織体制に問題があると、判断が遅れたり、必要な確認が行われなかったりすることで、重大な調剤事故につながる可能性もあります。そのため、組織全体で安全性を重視した仕組みを整えることが、調剤過誤の根本的な防止につながるでしょう。
3.調剤過誤が起こった場合の薬剤師の責任とは?
調剤過誤が発生すると、薬剤師には「民事責任」「刑事責任」「行政責任」の3つの法的責任が生じ得るとされています。ここでは、日本薬剤師会の「薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・自体が発生した際の対応マニュアル」をもとに、それぞれの責任について解説します。
3-1.民事責任
調剤過誤によって薬剤師に民事責任が発生するのは、「薬剤師の過失(または故意)」「過失と結果との間の因果関係」「患者さんの金銭的な損害」の要件をすべて満たした場合です。患者さんの金銭的な損害には、以下のようなものが挙げられます。
● 健康被害によって収入が減った場合
● 精神的な損害があった場合(慰謝料)
参考:薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎(第2.1版)|日本薬剤師会
薬剤師に過失があった場合でも、このような損害がなければ損害賠償責任は負わないこととなるため、例えば「薬の取り違えによる誤調剤があったが、患者さんが服用前に気が付いた場合」については、原則として損害賠償責任は発生しないとされています。ただし、こういった場合にも薬局や薬剤師は、誠実な説明と対応が求められます。
3-2.刑事責任
刑事責任には、業務上過失致死傷等や、守秘義務、行政刑法があります。それぞれ以下のような場合に、薬剤師は刑事責任を問われることがあります。
| 業務上過失致死傷等 | 業務上必要な注意を怠った結果、患者さんを死傷させたと判断された場合 |
|---|---|
| 守秘義務 | 正当な理由なくして患者さんの秘密を漏らしたと判断された場合 |
| 行政刑法 | 薬機法、薬剤師法に違反した場合 |
参考:薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎(第2.1版)|日本薬剤師会
3-3.行政責任
薬剤師が調剤過誤を起こした場合、民事責任・刑事責任のほか、行政責任を問われることがあります。厚生労働大臣は、罰金以上の刑に処せられた薬剤師に対して、薬剤師免許の取消し、3年以内の業務の停止、戒告といった行政処分を行うこができます。
なお、薬剤師の行政処分は、調剤過誤だけでなく、薬機法違反や交通事犯、税法違反、不正請求などでも実施されます。
4.調剤過誤防止に向けた対策
調剤過誤を防ぐためには、薬剤師個人の注意力だけでなく、環境整備や組織的な仕組みづくりが欠かせません。ここでは、日常業務の中で実践できる対策についてお伝えします。
4-1.確認作業を徹底する
調剤過誤防止の基本は、処方監査から鑑査までの各段階で確認作業を確実に行うことです。薬剤名・規格・用量・日数・相互作用・禁忌など、確認すべきポイントを明確にし、手順を標準化することでミスの発生を減らせます。
また、思い込みを避けるために「指差し確認」や「声出し確認」を取り入れることも有効です。忙しいときこそ確認を省略しない姿勢が、安全な調剤につながります。
4-2.整理整頓を心がける
調剤室の整理整頓は、取り違えを防いだり集中力を維持したりするための重要な対策です。類似名称・類似外観の薬剤は離して配置し、棚のラベルや薬袋の表示を見やすく整えることで、選薬ミスのリスクを軽減できます。
また、使用した薬剤を元の位置に戻す、作業台を常に清潔に保つなど、基本的なルールを徹底することも、安全性向上に直結するでしょう。
4-3.作業フローを整備する
調剤手順が薬剤師ごとに異なると、確認漏れや情報伝達の齟齬が起こりやすくなります。処方受付から鑑査、交付までの作業フローを決め、誰が担当しても同じ手順で調剤できる体制を整えることが重要です。
また、複雑な処方や疑義照会が必要なケースでは、対応手順を明確にしておくことで判断の迷いを減らせます。
4-4.ヒューマンエラー防止のためにシステムを導入する
バーコード認証や調剤監査システムなどの導入は、ヒューマンエラーを減らす手段として有効です。
システムを活用することで、薬剤の取り違えや入力ミスなど、人の注意力だけでは防ぎきれない部分を補完しやすくなります。テクノロジーの活用は、調剤の安全性を向上させ、調剤過誤を防ぐ一手となるでしょう。
4-5.報告や相談がしやすい環境をつくる
調剤過誤やヒヤリ・ハットを共有しやすい職場環境であることは、ミスの再発防止のために重要です。ミスを責めるのではなく、原因を分析し改善につなげる「報告しやすい文化」を育てることが調剤過誤の防止につながります。
また、疑問点や不安がある場合にすぐ相談できる体制が整っていると、判断ミスを未然に防げます。スタッフ間のコミュニケーションが活発な薬局ほど、安全性の高い調剤が実現しやすくなるでしょう。
5.調剤過誤が起こったときの対応
調剤過誤が発生した場合、患者さんの健康被害を最小限に食い止め、迅速かつ誠意のある対処を心がけることが非常に重要です。丁寧な対応が患者さんの安全確保と信頼回復につながります。ここでは、調剤過誤が起こった場合の「初期対応」「患者対応」「事後対応」についてお伝えします。
5-1.初期対応
調剤過誤に気が付いたら、まずは患者さんの服薬状況と健康状態を確認し、必要に応じて服薬中止や医療機関への受診を促します。誤調剤の内容を正確に把握し、影響の可能性を迅速に評価しましょう。同時に、薬局内で情報を共有し、適切な判断ができる体制を整えます。
調剤過誤の対応で最も大切なのが、初期対応です。初期対応を間違うと、重大な問題に発展しかねない上に、解決までに長期化する可能性もあります。そのため、初期対応はスピードと正確さが求められます。
5-2.患者さんへの対応
患者さんには、事実を隠さず誠実に説明し、健康被害の可能性や今後の対応方針を丁寧に伝えます。不安を軽減するため、必要な医療機関への連絡や受診の手配をサポートすることも大切です。
また、謝罪だけでなく、再発防止に向けた取り組みを明確に示すことも、状況によっては必要でしょう。患者さんの立場に寄り添った対応が、薬局や薬剤師には求められます。
5-3.事後対応
調剤過誤の事後対応では、患者さんの容体や話し合いの状況などについて処方医や所属の薬剤師会へ報告します。加えて、過誤の原因を分析し、再発防止策を具体的に検討・実施するとともに、記録を残してスタッフ間で共有し、組織全体の安全性向上に努めます。
患者さんの健康被害が重篤な場合や複数の患者さんに及ぶ場合は、都道府県薬剤師会に連絡・相談の上、必要に応じて行政機関などへの報告を行います。
参考:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・自体が発生した際の対応マニュアル|日本薬剤師会
6.調剤過誤を起こさないために
調剤過誤は、薬剤師個人の過失だけでなく、作業環境や組織体制など複数の要因が重なって発生します。過誤を防ぐためには、確認作業の徹底、環境整備、作業フローの標準化、システムの活用、そして報告しやすい職場づくりが重要です。患者さんやその家族から信頼を得るためにも、薬局全体で安全性を高める取り組みを行いましょう。

薬剤師ライター。病院・薬局で幅広い診療科を経験。現在は2児の子育てをしながら、Webライターとして活動中。専門的な資料や情報をわかりやすくかみ砕き、現場のリアルに寄り添う言葉で伝えることを大切にしている。同じ薬剤師として、日々の悩みやモヤモヤに共感しながら、少しでも役立つヒントや気づきを届けられるように試行錯誤中。
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