薬剤師のスキルアップ 公開日:2021.12.09 薬剤師のスキルアップ

薬剤師の時給は?正社員とパートの平均時給と時給アップの方法を紹介

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師の平均時給よりも自身の時給が高いのか低いのか、気になる方が多いのではないでしょうか。平均より高い場合は納得するかもしれませんし、平均よりも低い場合は不満を持ったり時給を上げたいと考えたりするかもしれません。今回は、正社員と短時間労働薬剤師の平均時給を紹介しつつ、また、時給を上げる方法や、時給で働く薬剤師が知っておきたい所得税や健康保険について解説します。

1.薬剤師の平均時給

薬剤師の平均時給はいくらなのでしょうか。厚生労働省の調査結果をもとに、パートやアルバイトなどの短時間労働をする薬剤師と、正社員で働く薬剤師の平均時給と平均年収をそれぞれ算出しました。

 

1-1.正社員薬剤師の平均時給

厚生労働省が行った「2020年度賃金構造基本統計調査」によると、正社員薬剤師の平均年収は561万6,500円、年間当たりの平均労働時間は1,931時間でした。時給に換算すると、平均2,908.6円です。企業規模ごとの時給を以下にまとめました。

 
■正社員薬剤師の平均時給

企業規模 年間労働時間 平均年収 平均時給
全体 1,931時間 561万6,500円 2,908.6円
10~99人 2,025時間 617万9,800円 3,051.8円
100~999人 1,929時間 548万5,300円 2,843.6円
1,000人以上 1,874時間 535万5,900円 2,858.0円

※平均年収=「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」で算出
※年間労働時間=「所定内実労働時間」×12カ月+「超過実労働時間」で算出
※平均時給は小数点以下第二位を四捨五入
(厚生労働省「2020年度賃金構造基本統計調査」職種DB第1表[2020年9月15日公開]をもとに作成)

 

企業規模別では、社員が10人以上99人以下の中小企業が3,051.8円ともっとも高い結果になりました。従業員数が少ない企業は時間外労働が発生しやすいものの、収入も上がりやすいことがうかがえます。

 

1-2.パート・アルバイトなど短時間労働薬剤師の平均時給

■短時間労働薬剤師の平均時給

企業規模 年間労働時間 平均年収 平均時給
全体 1,002.8時間 248万2,822円 2,367円
10~99人 856.1時間 224万8.899円 2,393円
100~999人 979.2時間 225万4,255円 2,281円
1,000人以上 1,175.0時間 290万5,771円 2,409円

※平均年収=「きまって支給する現金給与額」×12カ月+「年間賞与その他特別給与額」で算出
※年間労働時間=「所定内実労働時間」×12カ月+「超過実労働時間」で算出
※平均時給は小数点以下第二位を四捨五入
(厚生労働省「2020年度賃金構造基本統計調査」職種DB第1表[2020年9月15日公開]をもとに作成)

 

短時間労働者の場合は、社員数が1,000人以上の企業の平均時給がもっとも高く、2,409円でした。また、正社員では企業規模が小さいほど労働時間が長くなるのに対し、短時間労働者の場合は企業規模が大きくなるにつれて労働時間が長くなる傾向があります。
 
ただし、この調査は職位や都道府県などの区分によらずあくまで平均として算出された数字です。実際の薬剤師の時給や年収は、勤務する地域や年次、ついている役職によって差があります

 

2.パート・アルバイトの薬剤師が時給を上げる方法

正社員は勤続年数の長さに応じて昇給が見込めます。一方、パートやアルバイトをする薬剤師はどうすれば昇給できるのでしょうか。ここではパートやアルバイトの薬剤師が時給を上げるための方法を考えてみます。

 

2-1.資格を取得して条件交渉する

薬剤師が時給を上げる方法のひとつが条件交渉です。ただし、単に「時給を上げてほしい」と伝えるだけでは、希望は簡単に通りません。条件交渉をするなら、相応の理由を伝える必要があります。

例えば、医療系の資格取得はアピールポイントとなります。認定薬剤師の資格を取得すると、勤務時間によってはかかりつけ薬剤師になることが可能です。また、ケアマネージャーの資格を取得して在宅医療に貢献するなど、職場で役立つ資格を取得することで、交渉を有利に進められる可能性があります。

 

2-2.人手不足の時間帯に出勤する

条件交渉をするなら、人手不足の時間帯に出勤できることをアピールするのもひとつの方法です。土日祝日や夕方以降は、薬剤師不足になりがちな時間帯です。そうした時間帯でも働くことができるなら、時給の値上げ交渉の材料にもなります。また、来局者が少ない時間帯にひとり薬剤師として対応可能なことを伝えるのもよいでしょう。人件費の削減につながる提案であり、交渉を有利に進められる可能性があります。

 

2-3.高い時給の業種に転職

薬剤師の時給は業種によっても異なるため、時給水準の高い業種に転職する方法もあります。マイナビ薬剤師に掲載されている求人情報の傾向を見ると、調剤薬局の時給は2,000~2,500円、ドラッグストアは2,500~3,000円、病院は1,800~2,200円が相場であり、おおむねドラッグストアは高い傾向にあります。病院は調剤薬局やドラッグストアと比べると時給は比較的低くなる傾向があるようです。あくまで目安であり、職場によって異なりますが、業種による時給の差を理解しておくと、働く場所を選びやすいかもしれません。
 
なお、転職を機に時給交渉するのであれば、調剤経験のある診療科の幅広さなど、スキルをアピールしてみましょう。


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また、派遣薬剤師はパートやアルバイトと比べて時給が高い傾向にあり、なかには時給4,000円以上のケースもみられます。即戦力として高い知識・スキルを求められますが、多種多様な調剤経験が積めるメリットもあるため、定期的な職場の変更に抵抗がない人は向いています。


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2-4.働くエリアを見直す

転職を視野に時給アップを目指すのであれば、働く時間帯や業種の見直しに加え、働く場所も考慮することをおすすめします。薬剤師は都市部より、人手不足になりやすい地域のほうが高時給になる傾向があります。時給相場の高いエリアまで通勤範囲を広げられるかどうか検討してみましょう。
 
また、都市部においても時給には差があります。駅近や複数の路線が乗り入れるターミナル駅周辺の職場は、人が集まりやすいため時給も上がりにくい傾向があります。時給を重視するのであれば、あえて通勤に不便な場所を選ぶのも一案です。


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3.時給で働く薬剤師が知っておきたい所得税と健康保険

パート・アルバイトなど時給で働く際に理解しておきたいのが、所得税と健康保険の仕組みです。2022年10月から健康保険と厚生年金保険のルールが変わるため、条件を確認しておきましょう。

 

3-1.「103万円の壁」と「150万円の壁」

企業で働いて得た収入は「給与所得」に分類され、給与所得控除と基礎控除の所得控除が受けられます。所得控除として最低55万円、基礎控除として48万円がそれぞれ給与所得から差し引かれるため、収入が103万円以下の場合所得税と復興特別所得税はかかりません(国税庁ホームページより)。これが「103万円の壁」です。
 
また配偶者が正社員で、自身がパートやアルバイトで働いている場合、夫婦が生計をひとつにしているなどの要件を満たすと、配偶者の給与から配偶者控除又は配偶者特別控除のどちらかの控除額が差し引かれます。

 

<配偶者控除と配偶者特別控除>
・自身の収入が103万円以下……配偶者控除
・自身の収入が103万円超~201.6万円未満……配偶者特別控除

 

控除の種類や控除額は、配偶者の合計所得金額や自身の収入によって異なります。

収入が103万円超~150万円以下であれば控除額は同額ですが、収入が150万円を超える場合は5~7万円程度増えるごとに、控除額が減少します。これが「150万円の壁」と呼ばれる理由で、所得税の支払いは発生するものの、配偶者控除を受けられるギリギリの収入額が150万円ということです。
 
なお、自身の年収が201.6万円以上、または配偶者の合計所得金額が1,000万円を超えると、配偶者特別控除は受けられません。


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3-2.2022年10月から健康保険加入条件が拡大

現在の短時間労働者が被保険者となる要件は以下のとおりです。

 

1.週の所定労働時間が20時間以上であること
2.雇用期間が1年以上見込まれること
3.賃金の月額が88,000円以上であること
4.学生でないこと

日本年金機構ホームページより)

 

法律改正にともない、2022年10月から健康保険・厚生年金保険の適用が拡大され、短時間労働者の見込み雇用期間が「1年以上」から「2カ月超」へと短くなる予定です。
 
企業によっては適用されない場合もありますが、この適用拡大は、これまで配偶者の扶養範囲内でパート勤務していた人が、2022年10月以降は社会保険の被保険者となる可能性があることを意味しています。今後保険料を支払うことになれば、手取り額が減る可能性があります。

4.時給で働く薬剤師のメリット

パートやアルバイトなど時給で働く薬剤師は、正社員に比べて勤務時間の融通がきくのが大きなメリットです。ダブルワークをしている人や子育て・介護などワークライフバランスを重視したい人は働きやすいでしょう。

 

また、転勤や異動などがない点もメリットといえます。薬剤師の仕事は、店舗によって扱う薬や業務内容、処方パターンが異なるため、転勤や異動があるとその都度、店舗のルールを覚えなければなりません。環境が変われば、人間関係を新たに構築する必要もあり精神的な負担もあります。パートやアルバイトは、職場の変更を命じられることがないため、ずっと同じ環境で働きたい人にはぴったりの働き方だといえます。

5.時給で働く薬剤師のデメリット

時給で働く薬剤師は、企業によって昇給やボーナスがない場合があり、正社員と比較すると待遇面で不利な点があります。退職金もないため、薬剤師として働くことで得られる生涯年収も正社員と比べて低くなりがちです。
 
また、正社員の薬剤師に比べると、業務内容が限定される傾向があります。さまざまな勤務地や部門で働きたい人や後輩育成に貢献したい人、経営に携わりたい人は、時給ではなく正社員として働くほうが満足のいく働き方ができるのではないでしょうか。

 

6.薬剤師の職場選びは時給と職場環境のバランスが大切

時給が高い職場は、人手不足である可能性や、利益が充分に出ているため高時給での募集ができている可能性があります。一方で、時給が低い職場は定着率が高い可能性や通勤のアクセスが良好である可能性、もしくは利益があまり出ていない可能性などが考えられます。薬剤師の職場に設定される時給には理由があるため、時給だけで職場を選ぶとミスマッチが生じる可能性があります。
 
薬剤師が時給アップを目指すのであれば、時給と職場環境のバランスを見極めながら、自身のライフスタイルに合った働きやすい環境を選ぶことをおすすめします。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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