薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.04.25 薬剤師のスキルアップ

管理薬剤師とは?なるための要件・仕事内容・年収・副業の可否を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

薬剤師としてのキャリアパスを考えたときに、管理薬剤師を目指す人もいるでしょう。管理薬剤師になると、薬局やドラッグストア、病院の調剤室などの責任者として活躍できます。また、薬剤師免許は工場や企業などでも生かせる資格です。特に、医薬品を取り扱う企業や工場の責任者は、薬剤師免許が役立つでしょう。この記事では、管理薬剤師になるために必要な要件や仕事内容をお伝えするとともに、管理薬剤師の年収やメリット・デメリット、必要なスキルなどについても解説します。

1.管理薬剤師とは

管理薬剤師とは、医薬品などを扱う薬局やドラッグストア、製造販売業や製造業などで配置義務がある管理者のことです。医薬品などの販売・製造を行う施設では、安全かつ適切にそれらを管理する必要があります。そのような現場で、医薬品の適切な管理の責任を担うのが管理薬剤師です。

 

1-1.一般の薬剤師との違い

管理薬剤師は、現場での最終責任を負う立場という点で、一般の薬剤師とは大きく異なります。管理薬剤師は、一般の薬剤師が行う業務に加えて、従業員の教育・指導、トラブル対応といった監督・マネジメント業務や、医薬品の管理、情報収集、情報提供といった管理業務を担います。
 
業務量が多く、立場上の責任が大きいため、一般の薬剤師と比較して手当や基本給が上がりやすく、年収が高くなる傾向にあります。ただし、管理職として就業規則に準じた働き方となり、現場によっては残業が発生するといった負担が増える可能性もあります。

2.管理薬剤師になるための要件

管理薬剤師になるために、薬剤師資格のほかに必要な資格はありません。薬剤師の資格があれば、取り扱う医薬品の種類に関係なく薬局やドラッグストアの管理薬剤師、製薬企業や工場の責任者を務めることができます。
 
ただし、薬局の管理薬剤師は、原則として薬剤師認定制度認証機構から認証を受けたプロバイダーの研修を受け、認定薬剤師の資格を取得することが求められています。
 
加えて、薬局における実務経験が少なくとも5年以上あることが重要であるとされており、薬局の管理薬剤師になるには、ある程度の実務経験と自己研鑽が必要でしょう。

 
参照:薬局における法令遵守体制整備の手引き|日本薬剤師会
 
また、薬局の管理薬剤師は「実地に管理しなければならない」と定められています。そのため、1つの店舗に一定時間以上勤務しなければなりません。明確に勤務時間が定められているわけではありませんが、一般的には、1日あたり8時間(1週あたりおよそ40時間) 以上の勤務で、要件を満たすと判断されています。
 
参照:管理薬剤師等の責務の内容について|厚生労働省
参照:管理薬剤師の管理及び勤務について(昭和47年03月29日薬事第70号)|厚生労働省
 
なお、薬局の管理薬剤師は、認定薬剤師の資格と実務経験が5年以上あれば、誰でも目指せます。知識と経験を積み重ねつつ、管理薬剤師を目指していることをアピールすれば、現職で役職を得られる可能性が高まります。現職のままで管理薬剤師を目指すのが難しいのであれば、転職を視野に入れてもよいでしょう。

 

薬局の管理薬剤師になるための要件
項目 要件
資格 薬剤師資格 必須
認定薬剤師 推奨
実務経験 5年以上を推奨
勤務形態 実地に管理する者(1日8時間・週40時間勤務など)

 

一方、製薬企業や工場では、製造する医薬品の種類や職種によって管理者の名称が以下のように異なります。

 

● 医薬品の製造の管理をする人を「医薬品製造管理者」
● 医薬部外品または化粧品の製造の管理をする人を「医薬部外品等責任技術者」
● 医薬品・医薬部外品または化粧品の品質管理及び製造販売後安全管理を行う人を「医薬品等総括製造販売責任者」

 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(十七条)|e-Gov法令検索

 

医薬品製造管理者と医薬部外品等責任技術者は工場の責任者、医薬品等総括製造販売責任者は製薬企業などの責任者を指し、他にも医療機器や再生医療等製品を扱う場合も責任者を置くことが定められています。
 
医薬品を取り扱う場合は、薬剤師資格を持つ人が責任者を務めなければなりません。ただし、医薬品の中でも一定の要件を満たした生薬や医療用ガス類、医薬部外品や化粧品、医療機器、再生医療等製品の製造販売業や製造業については、薬剤師以外の人が一定の条件を満たすことで責任者を務めることが可能です。
 
製薬企業などの責任者になる場合、法令上の要件は明示されていませんが、一定の経験が必要でしょう。薬局の管理薬剤師と同様に、現職での昇級を目指すか、ある程度の経験を積み責任者の求人に応募することになります。

3.管理薬剤師の仕事内容

管理薬剤師には、医薬品の管理や情報収集、現場のマネジメントといった仕事があります。それぞれについて詳しくお伝えします。

 

3-1.医薬品の管理

麻薬や向精神薬、覚せい剤原料といった管理義務のある医薬品を扱う場合、管理薬剤師は在庫数や入庫数、保管場所などの管理において責任を担います。
 
また、室温や冷蔵庫内の温度などを計測したり、遮光保管が必要な医薬品を管理したりと、品質を維持するための環境整備も求められます。
 
そのほか、不良品や有効期限切れの医薬品などを発見した場合には、適切な方法で処分しなければなりません。医薬品を適正に保管できる環境を整えることも、管理薬剤師の重要な仕事です。

 

3-2.マネジメント

管理薬剤師は、従業員が適切に業務を行っているかをチェックするといったマネジメント業務に携わります。薬局やドラッグストアなどでは、従業員の接客態度をチェックしたり、法令を守った業務を行っているかを確認したりする必要があるでしょう。
 
また、正しい情報を顧客に提供しているかどうかを監督する業務もあります。薬学の専門知識が不足している従業員に対して教育や指導を行うことも、管理薬剤師の大切な業務です。

 

3-3.医薬品情報の収集・提供

管理薬剤師は、医薬品などが適正に使用されるよう医薬品情報の収集や提供を行う役割もあります。
 
例えば、医薬品の緊急安全性情報や有効性・安全性情報など、医薬品に関する必要な情報をいつでも入手できるような体制を整えなければなりません。副作用情報を入手した場合には、処方箋を発行した医療機関や医師、厚生労働省などへ報告する必要があります。
 
また、適正に医薬品を使用するための服薬指導や情報提供を実施するほか、患者さんや顧客ごとに提供すべき情報の範囲を判断し、個々に応じた情報提供を行えるよう、薬剤師やスタッフに指導します。

 

3-4.トラブル対応

薬局では、患者さんから副作用の相談があったり、医薬品購入に関する苦情が入ったりすることがあります。一般の薬剤師でも対応することはありますが、判断が難しいケースでは最終的には管理薬剤師が責任者として対処することになるでしょう。
 
また、いずれの勤務先でも、地震や水害といった自然災害などが起こった場合には、企業の方針を基本としながらも、細かい点で管理薬剤師の判断が求められます。
 
管理薬剤師は、あらゆるトラブルを想定して対応方法や再発防止策を検討し、従業員に周知する必要があります。

 
🔽 管理薬剤師のトラブル対応について解説した記事はこちら

4.管理薬剤師の業種ごとの役割

管理薬剤師の役割は業種によっても異なります。業種ごとの違いについて確認しておきましょう。

 

4-1.薬局

薬局の管理薬剤師は、薬剤や医薬品の在庫・品質を管理したり、従業員の指導や教育を行ったりするのが主な役割です。特定生物由来製品や麻薬、毒薬などの医薬品の在庫管理、薬局内の室温などを記録した帳簿の保管といった作業は、管理薬剤師の重要な仕事です。
 
日本薬剤師会は、近年発生している薬局開設者の薬機法違反を踏まえ「薬局における法令遵守体制整備の手引き」を作成し、薬局の管理薬剤師の職務を以下のように記載しています。

 

「管理者は、保健衛生上支障を生ずるおそれがないように薬局等の業務を行うために必要があるときは、薬局開設者等に対し、意見を書面により述べなければならない」
 
参照:薬局における法令遵守体制整備の手引き|日本薬剤師会

 

管理薬剤師は薬局内の業務における問題点や改善案などを薬局開設者に意見する場合は書面で述べ、さらに書面を3年間保存することとしています。
 
薬局内の慣習や、エリアマネージャー・薬局開設者など上司からの指示について、法令遵守の点で問題がないか確認するとともに、抵触すると判断した際には意見を述べる対応が求められます。

 
🔽 薬局薬剤師の役割について解説した記事はこちら

 

4-2.ドラッグストア

ドラッグストアや医薬品を扱うスーパー・コンビニなどの管理薬剤師は、薬局と同様、医薬品の管理業務や副作用情報などを収集しスタッフに周知する役割を担います。
 
医薬品だけでなく、日用品やサプリメント、健康食品などに関する幅広い知識を求められます。

 
🔽 ドラッグストアで働く薬剤師の役割について解説した記事はこちら

 

4-3.病院

病院では、管理薬剤師を設置する法的な決まりはありません。多くの場合、病院内の調剤室において管理責任を担うのは、薬剤部長や薬科長などです。
 
医薬品の管理や一般の薬剤師への指示・教育等は薬局と変わりませんが、医師やコメディカルスタッフと連携を取るための業務があります。
 
院内カンファレンスへの参加や、院内感染症の対策チームなど院内活動への参画、製薬企業や卸業者との面談や治験業務のサポートなどは、病院ならではの役割といえるでしょう。

 
🔽 病院薬剤師の役割について解説した記事はこちら

 

4-4.工場や製薬会社など

工場や製薬企業の責任者は、品質管理と安全管理を行いながらGMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)の遵守に努めます。医薬品製造管理者や医薬部外品等責任技術者は、GMPに基づいて薬品の品質チェックを行い、原料や資材の受け入れ試験や製造工程内の検査、出荷前の最終試験などを実施して製品の品質を管理することが主な役割です。
 
医薬品等総括製造販売責任者は、社内の品質保証責任者や安全管理責任者へ指示を出したり報告を受けたりと、自社製品の品質管理や安全管理の総括的な責任を負います。副作用などの情報収集や薬剤の在庫管理、DI業務、行政機関に提出する書類の作成や文書の保管などを適正に行えるよう管理するのが仕事です。

5.管理薬剤師の年収

厚生労働省が公表した「第24回医療経済実態調査の報告(令和5年実施)」によると、保険薬局で働く常勤職員のうち、管理薬剤師の平均年収は734万8,725円でした。
 
一方、一般薬剤師の平均年収は486万4,287円で、管理薬剤師の平均年収は一般薬剤師よりも250万円程度高いことが示されています。

 

保険薬局で働く常勤職員の平均年収
役職 平均年収
管理薬剤師 734万8,725円
薬剤師 486万4,287円

参照:第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告 ‐令和5年実施‐(p.308)|厚生労働省

 
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら

6.管理薬剤師になるメリット

さまざまな役割や業務を行う管理薬剤師には、業務を通じて知識やスキルが身についたり、年収がアップしたりといったメリットがあります。詳しく見ていきましょう。

 

6-1.高度な知識・スキルが身につく

薬局の管理薬剤師は、他のスタッフ以上に医薬品や治療ガイドラインについて勉強を深める必要があり、高度な知識が身につきます。薬局の経営にかかわる法律を学ぶ機会も増えるため、一般の薬剤師とは異なる視点を持てるようになるでしょう。
 
工場や製薬企業の管理薬剤師は、医薬品の知識だけでなく、製造・管理に必要な法律や自社の商品を販売するまでの手続きなどを学びます。人間関係を配慮しながらリーダーとしてまとめる役割も担うため、コミュニケーション能力も身につきます。

 

6-2.年収アップが見込める

前述した通り、管理薬剤師の平均年収は一般の薬剤師よりも250万程度高いという調査結果が報告されています。管理薬剤師や責任者になると役職手当を支給されることが多いため、年収アップが期待できるでしょう。
 
ただし、手当の名称や金額は企業によって異なります。収入アップを目的として管理薬剤師を目指す場合、実際にどのくらいの年収アップが見込めるのか、事前にリサーチしておくとよいでしょう。

 

6-3.転職に有利

管理薬剤師はスキルアップの機会に恵まれているため、現職での経験が転職に有利になることがあります。
 
管理薬剤師の採用ではなかったとしても、過去の経験から薬局経営を深く理解していると判断され、転職先の上司から頼りにされる機会も増えるでしょう。その後のキャリアパスでも管理薬剤師としての経験が生きてくるはずです。

 

6-4.新たなやりがいができる

管理薬剤師は、一般の薬剤師と比較して、任される業務が多くなります。薬剤師やスタッフのマネジメント、医薬品の管理といった経営に関する業務を担うことで、新たなやりがいを感じられるのではないでしょうか。
 
今まで培ってきた知識やスキルを発揮でき、スタッフや経営者とのコミュニケーションも増えるため、充実感を得やすい点もメリットといえます。

 
🔽 薬剤師のやりがいについて解説した記事はこちら

7.管理薬剤師になるデメリット

続けて、管理薬剤師や責任者になるデメリットを見てみましょう。

 

7-1.業務量が増える

管理薬剤師や責任者は、仕事の負担や責任が重くなりがちです。スタッフの指導や教育、管理業務などに加えて、繁忙期には通常業務に加わることもあるでしょう。シフト管理を行う管理薬剤師や責任者は、人手が足りない日などに自身が出勤することで人手不足をカバーすることがあるかもしれません。
 
また、管理薬剤師や責任者の仕事は、一般のスタッフから理解されにくい側面もあります。店舗業務が忙しいときにパソコンに向かって作業をしていると、スタッフから白い目で見られてしまうことがあるかもしれません。
 
多くの業務をこなさなければならない上、スタッフの理解を得る必要がある点などは、管理薬剤師の大変なところです。

 

7-2.副業が禁止されている

薬機法の第7条において、薬局の管理薬剤師は薬剤師としての副業が基本的に禁止されています。ただし、都道府県知事の許可を受けた時は、副業が認められます。
 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(第七条)|e-Gov法令検索
 
例えば、地域医療を支えることを目的としている場合には、管理薬剤師でも薬剤師が不足している薬局でのアルバイトが可能です。他薬局のサポートを行う場合は、事前に許可を受けるようにしましょう。

 
🔽 薬剤師の副業について解説した記事はこちら

8.管理薬剤師に必要なスキル

管理薬剤師は、現場の責任者としてさまざまな業務をこなすため、幅広いスキルを身につける必要があります。
 
例えば、医薬品や医療制度の知識、マネジメントスキル、コミュニケーションスキルなどが求められるでしょう。それぞれ詳しくお伝えします。

 

8-1.医薬品や医療制度の知識

管理薬剤師は、現場のリーダーとして、従業員から頼られる機会も増えます。最新の医薬品や医療制度について質問や相談を受ける可能性もあるため、知識を得ておく必要があるでしょう。
 
医薬品は日々新しい情報が更新され、医療制度も年々変化します。日頃から最新情報を習得し、必要な知識を蓄積することが大切です。PMDA(医薬品医療機器総合機構)のWebサイトをチェックしたり、MR(医薬情報担当者)やMS(医薬品卸販売担当者)から情報を収集したり、医薬品情報誌を確認したりするといった学ぶ姿勢が求められます。

 

8-2.リーダーシップとマネジメントスキル

現場の監督者である管理薬剤師は、リーダーシップやマネジメント能力も求められます。スムーズに業務を遂行できるよう、薬剤師やスタッフに指示を出したり、知識を補う必要があるスタッフには指導を行ったりといった、現場のマネジメントをしなければなりません。
 
管理薬剤師を目指すなら、リーダーとして周囲を支援し、組織としてまとめ上げるマネジメントスキルを向上させましょう。

 

8-3.コミュニケーションスキル

管理薬剤師は従業員だけでなく、患者さんや取引先など、さまざまな人と接する機会があります。医薬品の専門知識を持つ医療機関の医師や看護師もいれば、ほとんど知識のない一般の人に対応することもあります。
 
管理薬剤師は、異なる立場や考え方、知識量を持つ人と接する機会が増えるため、相手に合わせたコミュニケーションをとらなければなりません。どんな人とでも円滑なコミュニケーションがとれるよう、普段から言葉の選び方や伝え方などについて意識しておく必要があるでしょう。

 
🔽 管理薬剤師に必要なコミュニケーションスキルについて解説した記事はこちら

9.管理薬剤師が転職する時の注意点

転職先でも管理薬剤師として活躍したい場合には、業務内容や労働条件をしっかり確認した上で応募することが大切です。
 
管理薬剤師の仕事は法律で決まっているものの、職場によって多少の差があります。転職後のミスマッチを防ぐためにも、事前に情報収集が必要です。企業によっては、管理薬剤師に残業代が出ないこともありますので、条件面の確認も欠かさないようにしましょう。
 
管理薬剤師の経験がなく新たなキャリアを踏み出したい場合には、研修制度の有無や研修内容を確認しましょう。研修で補えない部分は、入局前に自身で学ぶ必要があります。

10.管理薬剤師としてスキルアップを目指そう

管理薬剤師の経験は、医薬品の知識や管理方法が身につくだけでなく、法律への理解も深まります。マネジメント力やコミュニケーションスキルなど、経営的な視点も養えるでしょう。管理薬剤師を経験できるチャンスはそう多くはありません。チャンスがあれば挑戦し、スキルアップを目指しましょう。


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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