薬局譲受、薬剤師会が仲介~社会インフラ維持を重視 福岡県薬剤師会
福岡県薬剤師会は今年度から、高齢化などで県内の薬局を譲りたい開設者と、独立して薬局を経営したい薬剤師などを仲介する「薬局運営・事業承継支援事業」を開始した。昨年11月から登録の受付を始めたところ、既に複数の応募があった。民間のM&A仲介業者が関与しづらい小規模の個人経営薬局が後継者不在で閉局するのを、薬剤師会の仲介で防ぐ。若手の独立を支援するほか、薬局の存続は社会インフラの維持に重要として事業を進める考えだ。
約30年前から急速に伸びた院外処方箋の発行率に伴い、薬局数も増加した。この時代に開局した薬剤師は高齢化し、次世代に経営をバトンタッチする時期を迎えている。
福岡県には約2900軒の薬局がある。県薬の会員のうち約25%は、開設者と管理薬剤師が同じ個人経営の薬局だ。開設者の会員の約半数は60歳以上で高齢化が進んでおり、こうした薬局は家族や従業員の中に後継者がいないと、閉局に至る可能性がある。
民間のM&A仲介業者が薬局の承継に関わる事例も多いが、対象になりにくい薬局もある。仲介手数料が少額になる売上規模が小さい案件や、家族経営では成り立つが企業経営では赤字になる薬局には、仲介業者は積極的に介入したがらない。
県薬は、日本全体で中小企業の事業承継が注目され始めた約10年前から、薬局でも同様の課題があるとして事業の検討を開始。新型コロナウイルスの感染拡大で制限されていた対面での面談が実施しやすくなったことを受け、昨年11月から事業を本格的に開始した。
薬局を譲りたい開設者は、ウェブサイトや郵送で必要な情報を県薬に登録する。薬局の売上高や処方箋応需枚数、近隣医療機関、売上に占める調剤の比率、薬剤師数などのほか、希望する譲渡先や譲渡希望金額などの情報を登録する。
一方、薬局の譲受を希望する薬剤師は、現在の勤務や開局状況、譲受希望金額の上限、希望地区、譲受のタイミングなどを同様に登録する。
県薬の担当者は薬局を譲りたい開設者と面談し、収益や経営形態の詳細な情報を収集。それをもとに具体的な薬局名等を伏せた概要書を作成する。営業利益の数年分などを目安に、譲渡金額も見積もる。
薬局の譲受を希望する薬剤師に概要書を提示し、興味を示せば双方が直接面談する機会を設ける。基本合意契約を結び、小規模薬局にも対応可能なM&A仲介業者や公認会計士など専門家の参画を得て、契約に向けて話を進める。概要書を作成する上で、人件費等の実費以外の費用は徴収しない。譲受に要する全体的な費用を、一般的な相場より安く抑えられるという。
原口亨会長(写真)は「薬局はゲリラ的な商売ではない。薬局は社会のインフラで、生み出した以上、基本的にはその地域に存続させることを考えなければならない」と事業の意義を語る。
院外処方箋発行率が頭打ちになり、6万軒以上の薬局が存在する今、薬局を新たに開く機会は乏しい。円滑な譲受を支援することで、若手薬剤師の独立を後押しする。若手が意欲的に取り組むことで薬局が活性化し、地域密着の薬局づくりが進むとの期待もある。
事業開始後数カ月間で、譲渡を検討している開局者が2件、薬局を譲り受けたい薬剤師10人が登録した。譲渡薬局として、複数店舗を持つ開局者が高齢化などで中核店舗を残し、他を整理する事例などを想定している。成約の見込み数について、原口氏は「想像もつかないが、薬剤師会が仲介することで相談してもらいやすくなるのではないか」と期待する。
このほか、同事業の一環として会員向けに、薬局運営に必要なスキルを習得できるeラーニングの提供も開始した。
原口氏は「若い世代に薬局を引き継ぐことをイメージしている。彼らが失敗するリスクを減らしてあげないと、無責任な承継になってしまう。そのために教育も事業に盛り込んだ」と話している。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
福岡県薬剤師会は、高齢化などで県内の薬局を譲りたい開設者と、独立して薬局を経営したい薬剤師などを仲介する「薬局運営・事業承継支援事業」を開始しています。2023年11月から登録の受付を始めたところ、薬局を譲りたい開設者は2件、薬局を譲り受けたい薬剤師は10名と、既に複数の応募がありました。