知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第41回 鼻・ノド・肌 乾燥対策の漢方とは?生薬は何を選ぶ?
肌が乾燥して手がカサカサになったり、足のすねに粉がふいたりしていませんか?
空気が乾燥する秋冬の時季は、肌や、鼻・ノドの粘膜などが乾燥してトラブルが起きやすくなりますよね。
鼻・のど・気管支・肺・皮膚など空気のふれる部分は、中医学ではまとめて「肺(はい)」と呼ばれています。漢方薬はこういった乾燥対策も得意です。具体的な生薬や方剤(処方)をご紹介しましょう。
鼻・ノドの乾燥には、「潤い(=陰)」を補う
鼻・ノドの粘膜が乾燥すると、ノドがカラカラ・イガイガしたり、コホンコホンと乾いた音の空咳がでたり、のど風邪をひきやすくなります。
このように、“肺グループ”を潤す清らかな潤いが不足していることを、中医学では、「肺陰虚(はいいんきょ)」といいます。「虚(きょ)」とは、「不足」のこと。
鼻・ノドの粘膜の乾燥対策には、「肺グループ」を潤す生薬を用います。
肺を潤す生薬とは
身体の潤いを補う生薬は一般的に「滋陰薬(じいんやく)」または「補陰薬(ほいんやく)」などと呼ばれます。五臓それぞれ(肝・心・脾・肺・腎)の潤いを補うさまざまな生薬があり、その人の体質や症状によって使い分けてゆきます。
“肺グループ”の潤いを補うものは、地黄(じおう)、麦門冬(ばくもんどう)、天門冬(てんもんどう)、沙参(しゃじん)、百合(びゃくごう=ゆり根)、枸杞子(くこし=くこの実)などが挙げられます。
ちなみに、地黄(じおう)には、「熟(じゅく)」と「生(しょう)」があり、加工法が異なります。熟地黄は温めますが、生地黄は冷やします。効能効果も異なるため、体質や状態によって使い分けたり、両方使ったりします。
肺の陰を補う代表的な方剤
沙参麦門湯(しゃじんばくもんとう) |
麦味地黄丸(ばくみじおうがん) |
養陰清肺湯(よういんせいはいとう) |
百合固金湯(びゃくごうこきんとう) |
麦門冬湯(ばくもんどうとう) |
滋陰降火湯(じいんこうかとう)など。 |
※方剤(処方ともいう)とは、いくつかの生薬が組み合わさってできた漢方薬のことをいいます。
百合固金湯(びゃくごうこきんとう)には、食養生で登場する「ゆり根=百合(びゃくごう)」が含まれています。
肌の乾燥には、「血(けつ)」の補給を
肌が乾燥して手や指先がガサガサになったり、足のすねに粉がふいたりしやすい人は、上記した潤いのほか、血(けつ)の不足=「血虚(けっきょ)」があります。血虚があると、ドライスキンのほか、髪の毛も乾燥してパサつきやすく、細くて抜けやすくなったりします。
そのほか、爪も乾燥して割れやすくなり、爪がひび割れてしまうから爪切りは使えない…なんて人もたまにいます。女性では、血虚があると、経血の量が減少したり、月経周期が遅くなったりすることもあります。
血の不足を補う生薬とは
血虚による乾燥肌対策としては、上記の生薬のほかに、熟地黄(じゅくじおう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、製何首烏(せいかしゅう)……などの、「補血薬(ほけつやく)」を用います。補血薬とは、読んで字のごとく、「血を補う薬」です。
質のよい血液が充分量あってはじめて、肌や髪は潤って艶がでる、と中医学では考えます。それゆえ、これらの生薬は美容漢方や化粧品などにもよく配合されます(参考/第17回 陰陽学説~陰陽のバランスを崩すと病気に(5)虚熱証)
血を補う代表的な方剤
四物湯(しもつとう) |
当帰補血湯(とうきほけつとう) |
当帰飲子(とうきいんし) |
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう) |
帰脾湯(きひとう)など。 |
乾燥しているときは辛い物はNG
乾燥対策の食養生としては、白きくらげ・くこの実(枸杞子)・胡麻・松の実・なつめ(大棗/たいそう)・ゆり根(百合/びゃくごう)・やまいも(山薬/さんやく)などがおすすめです。
それから、養生の基本は、やった方がよいことをやるよりも、やってはいけないことを徹底的に守ること。
肺グループの乾燥があるタイプの人は、唐辛子・胡椒などの辛いものは極力避けましょう。
これらは温燥性(おんそうせい)といって、身体を強く温めて乾燥させてしまうため、乾燥しやすい体質や熱がこもりやすい体質には向かない食材です。
今回はドライスキンやドライマウスなどについてお話ししましたが、ドライアイや膣の乾燥に関しても、中医のとらえかた・治し方はざっくり言えば、似通っています。
潤いのもとである「血や津液」が不足したり行き届かなかったりするおおもとの理由は、その人その人の体質によって様々です。したがって、単に補血したり補陰したりするのではなく、必ずその根本原因を踏まえて体質改善することが大切です。
例えば、脾胃(ひい:消化器系)が弱いために、飲食物をきちんと消化・吸収して気・血・津液(き・けつ・しんえき)をつくることができないなどの根本的な原因があれば、そもそも補血薬や補陰薬もうまく消化・吸収できない可能性もあります。こういったケースでは、脾胃をたてなおすことが根本的には大切で、潤いを補う治療と同時に脾胃も治療してゆきます。
「肌の乾燥する」「更年期で…」etc.漢方薬局で働く中垣亜希子先生のもとには、様々な悩みを抱える患者さんが訪れるそう。中医学を学び、漢方の世界を極めると、たくさんの患者さんの相談に乗れます。食や生薬を通じて患者さんを元気にする漢方の世界。将来漢方を学びたい、転職してスキルアップしたい…。そんな人は、働き方について転職のプロに話を聞いてみませんか?