映画・ドラマ
「たまには仕事に関連する映画を見てみようかな」と感じたことはありませんか? 医療や病気に関する映画・ドラマ作品は数多くありますが、いざとなるとどんな作品を見ればいいのか、迷ってしまう人もいるのでは。このコラムでは北品川藤クリニック院長・石原藤樹先生と看護師ライターの坂口千絵さんが、「医療者」としての目線で映画・ドラマをご紹介します。
vol.26「私の中のあなた ~MY SISTER’S KEEPER」(2009年 アメリカ)
アナは、白血病の姉ケイトを助けるため、遺伝子操作によって生まれたデザイナーベビー。姉の治療のために、幼い頃から輸血や骨髄移植などさまざまな犠牲を強いられてきた。家族にとってもそれは当然のことで…。
そんなある日、アナは「もう姉のために手術を受けるのは嫌。自分の体は、自分で守りたい」と宣言し、弁護士を雇って両親を訴える。
病気と闘いながらも幸せだった家族に訪れた、突然の出来事。
なぜアナは、大好きな姉を救うことをやめる決意をしたのか?
アナの決断の裏には、驚くべき真実が隠されていた。
―白血病の少女の最後の決断がもたらしたものは…―
今日ご紹介するのは2009年のアメリカ映画「私の中のあなた」です。アメリカの女流作家ジョディ・ピコーのベストセラー小説を、感動的な人間ドラマに定評のあるニック・カサヴェテス監督が映画化し、キャメロン・ディアスやアレック・ボールドウィンなど、演技派の豪華なキャストが顔をそろえました。
やり手の弁護士の妻(キャメロン・ディアス)と消防士の夫(ジェイソン・パトリック)の夫婦に生まれたケイトという娘(ソフィア・ヴァジリーヴァ)は、幼い頃から急性前骨髄性白血病に冒されています。いよいよ適合するドナーがいないと命が危ない、という時に、主治医から「これは大っぴらには言えないが…」とある提案をされます。それは、ケイトに適合する受精卵を選んで体外受精をし、生まれた子どもの臍帯血を治療に使う、という奇抜なものでした。そうして生まれたのがアナ(アビゲイル・ブレスリン)というケイトの妹です。
アナからもらった臍帯血によりケイトは助かり、その後も適合するアナの幹細胞などが何度も治療に使われます。骨髄の穿刺を繰り返したり、造血剤を注射して大量の採血をしたりする治療は幼いアナにも大きな負担となり、体調を崩して入院をすることもあります。しかし、母親はケイトの命を救うことだけを人生の全ての目標と考え、そのためにはアナが犠牲になることも当然と考えています。
アナも大好きな姉のため、献身的に治療に協力しているように思われたのですが、事態は一変します。アナが11歳の時にケイトが腎不全になり、腎臓移植が必要と診断されたのです。母親は当然アナからケイトへの腎臓移植を治療として考えますが、アナは急に母親に反旗を翻し、「自分の体をもう他人には使わせない」と、敏腕弁護士(アレック・ボールドウィン)を雇い、両親を相手に訴訟を起こすのです。腎臓移植が行われなければ、ケイトは死んでしまいます。なぜ急にアナは家族を裏切るような決断をしたのでしょうか。
物語はその謎を中核に据えつつ、それまでのケイトの短い人生を振り返りながら進んでゆきます。カサヴェテス監督の描写はあくまで繊細で、仰々しく盛り上げるようなところはありません。やや突飛なところもある物語が、手練れのキャストの充実した演技も相まって、観客の心に染み入るように自然に理解されてゆきます。そして、クライマックスでアナとケイトの本当の思いが明らかになると、深い感動が胸に落ちるのです。
皆さんは、ケイトの決断をどのように受け止めるでしょうか。押しつけがましさのない、観客に委ねたようなラストが深い余韻を呼んでくれるでしょう。
この作品には原作がありますが、ラストは原作とは大きく異なっています。DVDに特典として付けられたインタビューを見ると、原作者は映画のラストを認めながらも、「小説のラストが登場する家族を救う唯一の方法だ」と語っています。映画のラストに100%同意はしていないようです。映画のラストは日本的とも言えそうですし、個人的には原作よりこちらの方が納得できるのですが、別の考えの方もまた多いと思います。映画を観て興味を持たれたら、ぜひ原作にも目を通してみてください。
ドナーとして生まれた少女など、物語の設定はもちろん架空のものですが、完全な絵空事ではなく、実際に起こりうるかもしれないという性質のものです。また、患者さんのケアの様子や、死を前にした患者さんにどのように言葉を掛けるかなどのディテールは、極めてリアルに描かれていますから、薬剤師の皆さんにも参考になる部分が多いと思います。
王道の難病ものですが、青春映画としても、裁判ドラマとしても、家族の再生ドラマとしても楽しめるという贅沢で複雑な作品です。演技も演出も共に優れた、完成度の高い映画だと言えます。ひとりでじっくり鑑賞して感動した後は、観た人同士で感想を話し合ってみてはいかがでしょうか。この映画は、全く同じ感想を持つ人はほぼいない、と言っても過言ではないからです。多くの方に観ていただきたい1本です。
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