第67回 藤本 和子先生
2011年の東日本大震災以降、災害医療の現場は支援する側・支援される側ともに大きく変化してきました。今回は、日本災害医療薬剤師学会の理事を務め、災害医療支援薬剤師の養成に尽力している藤本和子先生に再度ご登場いただきます。
現在の災害医療現場の仕組みや体制、今後災害医療に携わることを希望する薬剤師が活躍するための方法などについてうかがいました。
災害発生時の情報連絡は、各都道府県で任命されている「医療コーディネーター」を中心として行われます。
医療コーディネーターとは災害医療に関する情報をとりまとめ、伝達するために、その地区で任命された医師のことをいいます。
各都道府県で「都道府県」「地域」「市区町村」と、地域範囲に分けられた医療コーディネーターが任命されています。
東京都を例に挙げて説明すると、
○東京都災害医療コーディネーター:東京都全域を担当
○東京都地域災害医療コーディネーター:二次保健医療圏(※)を担当
※「通院できるくらいの簡単な処置で済む疾病に対する医療を行う一次保健医療圏」「専門的な手術などの高度あるいは特殊な医療を行う三次保健医療圏」以外の医療圏
○市区町村災害医療コーディネーター:市区町村を担当
となります。
図のように、災害事業センターが医療体制の中心となります。災害事業センターには東京都災害医療コーディネーターが常駐し、各医療救護活動拠点の市区町村災害医療コーディネーターとの連携を取り合いながら情報の収集や医薬品の供給などに当たります。
災害時の医薬品は平時と同様に卸が仲介します。
普段と異なるのは、必要な医薬品のとりまとめは災害事業センターなどが卸に発注し、卸から避難所などの医療救護活動拠点および災害事業センターへ納品される点です。(※図「発災72時間以降の体制」参照)
かつて起きた災害医療の現場では、卸を通さずに数多くの医薬品が被災地へ届けられました。ところが、その医薬品がその地区で使い慣れていないものであるなどの理由から活用されず、大量廃棄されるという事態が発生したことがあります。
使うことのできない医薬品が送られてきたこと、さらに廃棄になったことも問題ですが、医薬品の廃棄には少なくない費用を要することも問題となりました。本来なら被災者救援に使われるべき貴重な資金を、医薬品廃棄のために充てざるをえないという本末転倒な結果になってしまったのです。
このような過去の反省を活かし、卸が機能している場合は災害時の医薬品のやりとりにも卸が介入することになりました。
それだけではなく、卸には「地域に根ざした業務を行っているので、地域の交通事情に詳しい」「地域医療に関する幅広い情報を持っている」という強みがあります。道路が通行止めになっていた場合の迂回路や、A薬局で不足している医薬品をB薬局が備蓄している、などの情報を把握していることも。
医薬品卸とは、災害が起きたときには医薬品のみならず、医療従事者にとって貴重な情報も提供してくれる心強い味方でもあるのです。