知れば知るほど奥が深い漢方の世界。患者さんへのアドバイスに、将来の転職に、漢方の知識やスキルは役立つはず。薬剤師として今後生き残っていくためにも、漢方の学びは強みに。中医学の基本から身近な漢方の話まで、薬剤師・国際中医師の中垣亜希子先生が解説。
第49回 乾燥の秋、お肌を守る「白きくらげ」の効能
秋は最も「燥邪(そうじゃ・乾燥の邪気)」の影響を受けやすい季節。皮膚や鼻の粘膜など「肺系統(肺・大腸・鼻・皮毛)にトラブルが多くなります。今回は特に「肺」の潤いを補う「白きくらげ」についてお話しします。
楊貴妃や西太后が愛した美肌食材「白きくらげ」
「白きくらげ」は、名前のとおり「白いきくらげ」です。美容と健康に人一倍うるさかったことで有名な「楊貴妃」が、クコの実・なつめ等と共に食していたことで知られています。真っ白なその見た目から「銀耳」とも呼ばれます。
白きくらげ・なつめ・くこの実をコトコト煮た薬膳(好みで黒糖・蜂蜜・氷砂糖などで甘味をつける場合もあり)は、薬膳の世界ではおなじみのレシピです。気・血・津液をすべて補う薬膳レシピなので、生理のトラブルや子宝のために食べる人もいれば、美肌のために食べる人もいる、「美容と健康のレシピ」ということになります。
お菓子を食べるよりずっと身体にも美肌にもいいので、ふだんのデザートやお菓子の代わりに季節を問わず一年じゅう食べてもよいでしょう。後半に書きましたが、味つけなしの白きくらげだけを水から煮たお粥も一年通して食事のメニューとしておすすめです。
白きくらげは中国の四大食用キノコ「四珍」のうちのひとつ。古来より「不老長寿(今でいうアンチエイジング)」のちからがあるとして珍重され、宮廷料理に用いられてきた食材です。今では手に入りやすくなり、薬膳料理によく登場します。
白きくらげ(銀耳)の性質・効能
中医学における「肺(鼻・のど・気管支・肺・皮膚など呼吸に関係する部分)」と「腎(泌尿器系・生殖器系・ホルモン系・免疫系・水分代謝など)」の働きを助け、水では補えない深い渇きを癒やして、体に必要な潤いを補います。
皮膚や粘膜の乾燥を潤すため、ドライスキン・ドライマウス・空咳・免疫低下などの症状や、呼吸器系が弱い、鼻やのどから風邪をひきやすいといった方におすすめです。のどを潤して咳を鎮めるだけでなく、肌にハリや潤いを与えてくれます。
中医学の書籍を紐解くと、これらの効能は次のように表現されています。
白木耳(別名:銀耳、雪耳)<本草再新>
【基原】
担子菌類、シロキクラゲ目シロキクラゲ科Tremella fuciformis Berk. の子実体。
【性味】
甘・淡、平
【帰経】
肺・胃・腎
【効能】
滋陰潤肺(じいんじゅんぱい)
1.肺陰虚による咳嗽に。
2.虚労咳嗽、気管支やのどの粘膜が乾燥して切れるため痰に血が混じる、
陰虚による口渇に。
【使用上の注意】
風寒咳嗽、湿熱生痰と外感口乾の人は使用しないこと。
【注解】
銀耳は一種の食用菌。貴重で営養滋補の効果に優れたもの、
扶正強壮の良薬である。光沢があり肉厚のものがよいものとされ、
高血圧、血管硬化、便秘、月経過多のものが常食するとよい。
『中医飲食営養学』(上海科学技術出版社)より抜粋し、部分的に翻訳
黒きくらげと白きくらげの違いは?
黒きくらげと白きくらげはそもそも違う品種で、舌触りや食感・味、さらには効能にも違いがあります。白きくらげは、黒きくらげの表面にある産毛状のものがなくツルツルしていて、味はほぼありません。効能を簡単に言うと、黒きくらげが「血(けつ)を補う補血作用(ほけつさよう)」を持つのに対して、白きくらげは「津液(しんえき)を補う補陰作用(ほいんさよう)」を持ちます。補血作用・補陰作用について詳しく知りたい方は第41回をご参照ください。
白きくらげのおいしい食べ方
白きくらげは乾物の状態で出回っていて、漢方薬局・中国食料品店などで手に入ります。クセがなくほぼ無味の白きくらげは、炒めものやスープなどの塩からいおかずにも、甘みのあるおやつにも、違和感なく変身してくれます。
野菜炒めやスープに入れる具材がないときに、冷凍保存した白きくらげをポキポキ折って鍋に入れればよいので簡単です(冷凍すると、すこし縮れます)。海藻のような見た目なので、サラダやお刺身のツマにもなります。乾燥した白きくらげを水で戻すと、5倍~10倍に膨らみますから、量にご注意ください。
たっぷりの水に2時間~1晩つけて、冷蔵庫でふやかす。急ぐときには、お湯に30分つけてもどす。硬い部分を取り除いて、乾物の匂いが残っているときは、水を替えながらよく洗う。加熱する場合はそのまま使い、ナマで食べる場合は沸騰したお湯にサッとくぐらせる。
乾燥した白きくらげを水でもどした後、汚れと匂いをよく洗い流し、沸騰したお湯にさっとくぐらせる。粗熱がとれたら、チャック付きの保存袋に入れて冷凍。黒きくらげも同様に冷凍保存が可能。
一番おすすめの食べ方は、水からコトコト煮た白きくらげのお粥です。このお粥にはお米も入れません。白きくらげ“だけ”をお粥とします。物足りなければ、好きなおかずをプラスしても良いでしょう。
保温性のある鍋を用いて、沸騰するまでは強火、沸騰したら蓋をずらしてのせて、ときどき丁寧に灰汁を取りながら、10~15分吹きこぼれない程度の火力(弱火~中火)で煮た後、ふたを完全にして約2時間置いて余熱で火を通す。この作業(10分煮て2時間置く)を2回くらい繰り返すと、トゥルントゥルンになりやすい。圧力鍋で30~40分煮る方法もある。
白きくらげはほぼ無味ですから、上で述べたお粥や、炒めもの・スープの具材のほか、黒糖シロップや蜂蜜をかければスイーツにもなります。特に、梨のコンポートや梨ジャムやクコの実と合わせると、のどの乾燥や空咳などに効く薬膳になります。一方、加熱時間を短くするとシャリシャリした食感になり、サラダや炒め物に向きます。おうち薬膳、ぜひ試してみてください。
参考文献:
・神戸中医学研究会(編著)『中医臨床のための中薬学』医歯薬出版株式会社2004年
・中山医学院(編)、神戸中医学研究会(訳・編)『漢薬の臨床応用』医歯薬出版株式会社1994年
・凌一揆(主編)『中薬学』上海科学技術出版社 2008年
・日本中医食養学会(編著)、日本中医学院(監修)『薬膳食典 食物性味表』燎原書店2019年
・翁維健(主編)『中医飲食営養学』上海科学技術出版社2007年
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きくらげといえば「黒」のほうがなじみ深いと思いますが、クセのない「白きくらげ」はスープやサラダ、スイーツなどアレンジの幅が広いところが魅力。美肌にもいいので、乾燥する秋冬のみならず一年中を通して食卓で活躍するでしょう。