- 1.一人薬剤師とは
- 1-1.調剤業務を全て一人で行う
- 1-2.一人薬剤師の現状
- 2.一人薬剤師として働く5つのメリット
- 2-1.人間関係で悩まない
- 2-2.スキルアップできる
- 2-3.キャリアアップの良い経験になる
- 2-4.年収が高めの場合もある
- 2-5.自分のペースで働ける
- 3.一人薬剤師として働く5つのデメリット
- 3-1.休憩を取るタイミングが難しい
- 3-2.患者さんが同時に来ると忙しくなる
- 3-3.調剤過誤のリスクが高い
- 3-4.相談相手がいないなど、精神的な負担が大きい
- 3-5.仕事を休みにくい
- 4.一人薬剤師が効率よく業務をこなすポイント
- 5.一人薬剤師を辞めたくなったら
- 6.一人薬剤師は大変だけどスキルアップのチャンス
1.一人薬剤師とは
そもそも、一人薬剤師とはどのような状況を指すのでしょうか。ここでは一人薬剤師の働き方と現状を見てみましょう。
1-1.調剤業務を全て一人で行う
一人薬剤師とは、一般的に店舗にスタッフが一人しかいない、もしくは調剤事務はいるが薬剤師は一人だけという状況を指します。スタッフが薬剤師一人だけの場合は、以下の業務を全て一人でこなすことになります。
①処方箋のチェック
②処方内容の入力
③調剤
④監査
⑤投薬
⑥会計
⑦薬歴記入
薬剤師一人当たりの処方箋枚数の上限は1日40枚と定められているため、条件に該当する店舗への配属となります。
出典:薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令(◆昭和39年02月03日厚生省令第3号)
1-2.一人薬剤師の現状
2021年に発表された厚生労働省の資料によると、1,472施設の薬局を対象にした調査で常勤薬剤師が一人だけの店舗は全体の32.9%でした。一方で、常勤薬剤師が二人以下の薬局は62.4%と半数以上に上ることが分かりました。ただし、常勤薬剤師が一人であっても、非常勤薬剤師が勤務しているケースもあります。
■薬局における常勤職員数
参照:薬剤師の需給動向把握事業における調査結果概要|厚生労働省」
常勤薬剤師一人の薬局の割合には、地域差が見られます。内閣府「調剤・薬剤費の費用構造や動向等に関する分析」によると、2017年では鹿児島県における常勤薬剤師が一人しかいない薬局数は、東京都のおよそ1.9倍でした。先の調査と比べて古いデータであり、現状は変化している可能性もあります。目安として考えましょう。
■常勤薬剤師一人の薬局割合が高い都道府県
常勤薬剤師が一人しかいない薬局では、薬剤師が在宅対応などで店舗を離れると処方箋調剤を行えません。また、かかりつけ薬剤師制度による24時間対応や在宅での薬学管理は、心身ともに大きな負担です。そのため厚生労働省は、在宅業務をはじめとする患者サービス向上のためには、地域における薬局数や薬剤師数を適正にすることや、薬局間で連携することが重要であるという見解を示しています。
2.一人薬剤師として働く5つのメリット
一人薬剤師としての働き方には、メリットがあります。ここでは一人薬剤師の主なメリットを5つご紹介します。
2-1.人間関係で悩まない
薬局は狭い空間で毎日同じメンバーが勤務するため、人間関係に負担を感じる人も少なくありません。中には、人間関係から体調を崩したり、異動や休職、退職という選択をしたりする方もいます。その点、一人薬剤師は店舗での人間関係で悩むことが少ないため、伸び伸びと仕事に取り組めることがメリットです。
2-2.スキルアップできる
一人薬剤師は調剤・監査・投薬を全て一人で行うため、薬剤知識を深める機会も多く、調剤スピードの向上など、薬剤師としてスキルアップが可能です。その他、処方入力やレセプト請求など、他店舗では調剤事務が行う業務を兼ねるケースもあります。
2-3.キャリアアップの良い経験になる
店舗運営を一人で担うため、将来マネジメントや自分の薬局を開業したいと考える人には良い経験が得られます。また、門前病院や地域の他の薬局と連携も多く、薬局内にとどまらないコミュニケーションスキルは、将来のキャリアアップに役立つでしょう。
2-4.年収が高めの場合もある
一人薬剤師は管理薬剤師との兼任も多く、給与を高めに設定している薬局もあります。マイナビが行ったアンケートによると、ある調剤薬局で一人薬剤師として勤めている30代薬剤師Aさんの年収は612万円でした。厚生労働省が公表している「2020年度賃金構造基本統計調査」によると、30代薬剤師の平均年収が557.3万円(※)であり、Aさんの例では平均よりも50万円以上年収が高いことが分かります。
※30代薬剤師平均年収の算出方法
平均年収は企業規模計(10人以上)の薬剤師「きまって支給する現金給与額」×12(カ月)+「年間賞与その他特別給与額」にて算出。そのうえで、「30~34歳」「35~39歳」のそれぞれで算出した平均年収の平均値を算出。
2-5.自分のペースで働ける
配属される店舗によっては処方箋枚数が少なく、手が空く時間が多いところもあります。その場合、空いた時間をスキルアップのための勉強にあてるなど、自分のペースで働くことも可能です。隙間時間を利用して認定薬剤師のeラーニングを受講している人もいるそうです。勤務時間内に勉強ができるため、時間を有効に使えるといえるでしょう。
3.一人薬剤師として働く5つのデメリット
ここまでメリットについて紹介してきましたが、一人薬剤師には大変な部分も多々あります。続いて、一人薬剤師の主な5つのデメリットとその対処法について見ていきましょう。
3-1.休憩を取るタイミングが難しい
不在時に代わりとなる薬剤師がいないため、昼休憩やトイレ休憩などが取りにくいと感じる人が多いようです。筆者の知人の薬剤師は、休憩中でも患者さんが訪ねてくると対応しなければいけないため、ゆっくり休めないと話していました。余談ですが、カップ麺を食べているときに対応を求められた場合、休憩室に戻ってくると麺が伸びてしまうので、食べないようにしている人もいるそうです。
3-2.患者さんが同時に来ると忙しくなる
一人薬剤師は、患者さんの来局が重なると慌ただしくなりがちです。また、不足薬を取りに行く間は薬剤師不在となり、患者さんをさらに待たせてしまう場合もあります。処方入力から調剤・監査・投薬まで一人で行うため、忙しくても焦らずに作業できるスキルが求められます。
3-3.調剤過誤のリスクが高い
複数の薬剤師によるダブルチェックができないため、調剤過誤のリスクが高くなります。そのため、自分が調剤した内容に対して「間違っているかもしれない」という気持ちで監査することが大切です。また、調剤過誤防止には監査マシンなどの導入も効果的と考えられます。
3-4.相談相手がいないなど、精神的な負担が大きい
一人薬剤師は、困ったことや迷ったことがあってもすぐに他の薬剤師に相談ができません。そのため一人で業務を行う不安や、重い責任にプレッシャーを感じる人もいるでしょう。一人薬剤師が過剰な精神的負担を感じずに十分に力を発揮するためには、本部の上司などに速やかに相談できる環境づくりが重要です。
3-5.仕事を休みにくい
一人薬剤師は、有休を取りにくいと悩む人も多いことでしょう。事前に決まっている休日には他店から応援が来てくれますが、急な体調不良などの場合はすぐに代わりの人が来てくれる保証がない場合もあります。一人薬剤師として勤める場合は、自分の体調を管理する能力も求められます。
4.一人薬剤師が効率よく業務をこなすポイント
一人薬剤師として仕事をこなすには、薬学知識やスピーディーで正確な調剤の他、レセプトや処方入力などの事務スキルを身に付けておくことが大切です。また、忙しくても落ち着いて対応できる冷静さは欠かせません。調剤過誤を防ぐため、指差し確認や声出し確認、似ている名前や規格違いの薬は薬品棚に印をつけるなどの工夫も有効です。患者さんとのコミュニケーション能力、クレーム対応能力も求められます。一人で仕事をこなすためのポイントを押さえて、効率よく業務を行いましょう。
5.一人薬剤師を辞めたくなったら
一人薬剤師はメリットもあるものの、責任が重く、業務もハードになりがちです。辞めたいと感じたら、いきなり退職を伝えるのではなく、まずは他店舗への異動や薬剤師の増員を上司に相談してみましょう。その上で改善が見込めなければ、転職を検討してもよいでしょう。
一人薬剤師の調剤スキルや店舗運営の経験は、転職の際にアピールポイントにできるので、実績をしっかりとアピールをしましょう。
6.一人薬剤師は大変だけどスキルアップのチャンス
一人薬剤師は、調剤・監査・投薬・薬歴記入といった薬剤師業務だけでなく、時には処方入力や在庫管理なども含めた薬局業務の全てを担います。何人もの患者さんが同時に来局したときにも一人で対応するなど、心身ともに負担を感じるケースは少なくありません。
しかし、一人薬剤師は人間関係に悩むことも少なく、高収入である可能性も高いというメリットもあります。また、薬局業務を全て取り仕切るという経験は、スキルアップの機会になります。一人薬剤師として働く状況になったときは、薬剤師キャリアを積む良い経験と前向きに捉えて業務に取り組んでみてはいかがでしょうか。
執筆/テラヨウコ
薬剤師。3人兄弟のママ。大学院卒業後、地域密着型の調剤薬局に勤務。大学病院門前をはじめ、内科・婦人科・皮膚科・心療内科・皮膚科門前などで多くの経験を積む。15年の薬剤師歴ののち独立して薬剤師ライターへ。健康や医療、美容に関する記事を執筆。休日は温泉ドライブや着物でのおでかけが楽しみ。
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