国公立薬学部設置を要望へ~山口会長「まずは県民の声聞きたい」 山形県病院薬剤師会
山形県病院薬剤師会は、県内に国公立大学の薬学部を設置するよう求める要望書をまとめ、県に提出する意向だ。人口10万当たりの薬剤師数は全国44位で、特に病院薬剤師の偏在指標は0.60と薬剤師不足が深刻化している。県が今年度から一定の病院勤務を条件に奨学金返還支援事業を開始したが、1次募集では定員30人に応募がわずか4人と苦戦している。山口浩明会長(山形大学病院薬剤部長=写真)は「全国の大学で地域枠を設置する動きがあるが、山形県に卒業生が来てもらうのは難しい。まずは県民の声を聞き、薬学部設置の必要性が認められれば実現していただきたい」と話している。
山形県の薬剤師偏在指標は、薬局が0.91、病院が0.60と業態偏在が生じており、2036年度では薬局が1.15と充足するのに対し、病院が0.69とさらに偏在が広がる見通しにある。実際、18年度から20年度までの3年間で県内薬剤師数が47人増加したが、薬局薬剤師が50人増に対し、病院薬剤師数は3人減と減少している。この10年間で見ても病院薬剤師の増加人数は10人程度にとどまる。
こうした状況を受け、山形県病薬は、県内の病院薬剤師確保を目的とした特別委員会を設置。理事会で県内の国公立大学に薬学部を設置するよう求める要望書を県に提出する方針をまとめた。
山口氏は、県内の国公立大学に薬学部設置を求める決断をしたことについて、「県内の病院は薬剤師を確保できていない。正直苦しい。医師偏在も深刻で、病院薬剤師へのタスクシフト・シェアが求められているが、シフト先が見つからず病棟業務を行うことができていない」と吐露。「薬学部がある他県に県内の薬剤師確保を委ねるのは、もはや限界ではないか」と訴える。
来年度から29年度までの第8次医療計画で県内の病院薬剤師偏在指標1.0を達成するためには、薬剤師数を1年当たり10人程度増やす必要があるが、現状の対応策では目標達成が難しい情勢だ。実際、県が今年度からスタートした奨学金返還支援事業では、最長6年間奨学金を利用した場合に、9年間にわたって県内病院に勤務すれば返済を免除するプログラムとなっているが、1次募集でわずか4人しか集まらず、2次募集が始まっている。
また、東北地域では最大の薬剤師供給源となる東北医科薬科大学薬学部の22年度卒業生252人のうち病院就職者は38人と、約2割にとどまる。卒業者の県別配属先を見ると、宮城県が22人と最も多い一方、山形県は1人と東北地域で最も少ない。近隣の奥羽大学薬学部、岩手医科大学薬学部の卒業生でも山形県への病院配属者はゼロの年が多いなど厳しい現実が物語っている。
県内に薬学部を設置するためには、都道府県計画や医療計画などの都道府県が作成する計画に基づき、人材需要の見通しや人材育成の必要性について明らかにすることが条件。県の計画によって薬学部設置の基本方針を決定し、その後大学誘致を行うプロセスが必要で、開学までには10年程度の期間を要する見込みだ。
関係者の反応では薬学部設置に賛否があるという。山口氏は「開学のハードルが高いのは重々承知している」としつつ、「アクションを起こすには、来年度に医療計画がスタートするこの時期がチャンスと考えている。まずは薬学部設置について、県民の声を聞くための準備をしていきたい」と話す。
その上で、「病院薬剤師が足りていない状況が県民に十分に認識されていない。県民や行政と問題意識を共有し、地元に薬学部を設立することによって、教育効果の向上や地域医療の充実につながることなどもアピールしていきたい」と意欲を示している。
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出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
山形県内に国公立大学の薬学部の設置を求める要望書を、山形県病院薬剤師会が県に提出する意向です。山形県は人口10万人当たりの薬剤師数が全国44位、特に病院薬剤師の偏在指標は0.60と、薬剤師不足が深刻化しています。