- 1.AIとは?AIの特徴と身近な活用例を紹介
- 2.現在、薬局ではどのようにAIが活用されているか
- 2-1.調剤業務
- 2-2.処方監査業務
- 2-3.服薬指導・薬歴業務
- 3.AI活用によって薬剤師の仕事はなくなるのか?
- 3-1.厚生労働省が示す、AIによる代替可能性が低い職業とは
- 3-2.薬剤師の対人業務はAIに代替されにくい
- 3-3.薬剤師がAIを活用して対人業務の時間をつくり、治療の質を向上させる
- 4.AI時代の薬剤師に今後求められることとは
- 4-1.適切な支援を行えるようAIを活用する
- 4-2.在宅医療での活躍
- 4-3.AIにはできない、コミュニケーションの強化
- 5.対人業務に積極的に取り組み、AI時代に活躍できる薬剤師になろう
1.AIとは?AIの特徴と身近な活用例を紹介
AI(人工知能)とは、人間の脳を模倣した、知的な情報処理ができるプログラムのことです。従来の機械は人間が指示した内容に従うだけでしたが、AIは自ら学習し、答えを導くためのルールや規則性を見いだせるようになり、予測や推論に伴う動作が可能となりました。
身近な例として、画像認識を活用した車の自動運転や音声認識を活用したスマートスピーカー、自然言語処理を活用した機械翻訳が挙げられます。
そうした中、医療分野においてもAIの導入が進みつつあり、例えば胃がんに関するデータを集積したAIを内視鏡の画像診断に用いることで、6ミリ以上の胃がんを熟練の内視鏡医と同レベルの精度で検出できるともいわれています。このようにAIはさまざまな分野で活用され、新たなソリューションの源泉となっています。
参照:AIリテラシー 第1回資料|厚生労働省
2.現在、薬局ではどのようにAIが活用されているか
日常生活だけでなく医療分野にも普及しているAIですが、薬局ではどのように活用されているのでしょうか。ここからは、薬局運営のために開発されたAI製品を、薬局薬剤師の業務ごとに紹介します。
2-1.調剤業務
現状の調剤業務においては、ピッキングだけでなく、さまざまな工程でAIを活用した製品が開発されている状況です。例えば、AI機能を持つ自動ピッキング装置は、レセコン(レセプトコンピュータ)から入力されたデータを基に、払い出す薬剤を自動で集めるピッキング作業を行い、スピーディーかつ正確に業務を遂行してくれます。
ある自動分包機では、1処方約12~30秒でピッキングが完了するなど、人の手では不可能なスピードでピッキングを行えるのが特徴です。さらに、製品によっては画像認識を活用したPTPシートの端数チェックや、重量監査機能により、ピッキングした薬剤の数量チェックをサポートするものもあります。
参照:自動薬剤ピッキング装置 DrugStation®|湯山製作所
🔽 ピッキング支援システムの事例を解説した記事はこちら
その他、AIによる画像認識機能を活用した「一包化監査支援システム」では、錠剤の形や刻印をAIが識別し、正しい薬剤が分包されているかをチェックしてくれるため、薬剤師の調剤業務にかかる時間が削減されます。
参照:画像認識技術を応用した、薬剤の一包化監査支援システムを発売|MONOist
2-2.処方監査業務
薬や疾患に関するデータを機械学習したAIを活用すれば、処方監査や疑義照会を正確に行う助けとなります。添付文書上の禁忌にあたる場合や併用薬との相互作用が認められたときにアラートで知らせてくれるため、薬剤師が「禁忌を見逃して薬を渡してしまった」という調剤過誤を防ぐのに役立ちます。
🔽 薬剤師の調剤ミスについて詳しく解説した記事はこちら
また、薬局薬剤師として処方せん対応の経験を積んでいくと、内服ステロイドや小児の薬剤などの処方において、「添付文書の用法・用量としては問題ないけれど、この量は不適切なのではないか」と疑問に思う場面があるのではないでしょうか。こうした薬剤師の経験則による判断についてもAIのサポートを受けられます。経験の浅い薬剤師や判断に迷う処方せんを受け付けた場合の助けになるでしょう。
参照:Reach 2021.No.4|第一三共エスファ株式会社
2-3.服薬指導・薬歴業務
服薬指導や薬歴のソフトにおいても、AIを導入した製品が開発されています。AIが処方内容や薬歴を解析し、疾患を推測、指導内容を提案するため、服薬指導の質向上が期待できます。指導しておくべき食事療法や生活上の注意点、季節性の体調変化など、あらゆる視点からAIが指導内容を提案してくれるため、目の前の患者さんに必要な情報を伝えるサポートになるでしょう。
またAIの機能の一つである音声入力を使えば、言葉を発するだけでテキスト入力が可能です。タイピングが苦手な方でも、スムーズに電子薬歴の入力ができます。漢字変換も自動で行ってくれるため、正しい漢字を選ぶ手間がかからず、薬歴の記入時間の短縮にもつながるのではないでしょうか。さらに、患者さんとの会話をそのまま文章化するシステムも開発されており、会話の内容をその場で記録できます。こうした機能の活用により、薬歴記入にかかる時間の大幅な短縮が期待できるでしょう。
🔽 薬歴の音声入力で効率化した事例を解説した記事はこちら
3.AI活用によって薬剤師の仕事はなくなるのか?
今まで薬剤師が行ってきた薬局業務をAIが代替するとなると「薬剤師の仕事がAIに奪われるのではないか」と不安に感じてしまうかもしれません。しかし、今後もAIが薬剤師の代わりになることはないと考えられています。その理由を見てみましょう。
3-1.厚生労働省が示す、AIによる代替可能性が低い職業とは
厚生労働省が提供する「AIリテラシー」に関する資料では、AIやロボットに代替される可能性が高い職業と低い職業が紹介されています。資料によると、AIやロボットに代替されやすいのは「技能や経験の蓄積に依存し、パターン化しやすく定型的で、特定の領域を超えない能力」を必要とする職業です。一方、AIやロボットが普及しても代替されにくい職業は「感性、協調性、創造性、好奇心、問題発見力など非定型的で、機械を何にどう使うかを決められる能力」を必要とするもの、とされています。
これらを薬剤師業務に当てはめてみると、代替されやすい仕事は「対物業務」、代替されにくい仕事は「対人業務」と考えることができるのではないでしょうか。
厚生労働省が作成した「患者のための薬局ビジョン」において、「対物業務から対人業務へ」と示されていることからも、薬剤師が「対人業務」に積極的に取り組むことがAI時代に活躍するカギになるのではないでしょうか。
3-2.薬剤師の対人業務はAIに代替されにくい
「患者のための薬局ビジョン」で示されているように、薬剤師が今後取り組んでいく対人業務は、AIには代替されにくいと考えられています。
近年、患者さんの服薬について問題となっているのが、多剤服用が有害事象の原因となるポリファーマシーです。厚生労働省発行の「高齢者の医薬品適正使用の指針」によると、高齢者では、6種類以上の投薬で有害事象の発生頻度が増加したと報告されています。また、75歳以上の高齢者に対して、1つの薬局から7種類以上の薬剤を調剤されたのは全体の24.8%、5種類以上調剤された割合は全体の41.1%とされ、医療費問題においても大きな課題といえます。
参照:高齢者の医薬品適正使用の指針|厚生労働省
また、2020年9月に薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律)が改正され、服薬指導後の服薬フォローアップが義務化されました。薬剤師は薬を渡すときだけでなく、薬を渡した後の服薬状況や副作用についても、継続的に患者さんの状態をフォローしていく必要があります。
ポリファーマシー問題や服薬フォローアップなどの対人業務は、協調性や問題発見力といったAIには代替されにくい能力を必要とするため、薬剤師が積極的に携わっていく必要があるといえるでしょう。
🔽 服薬フォローアップについて詳しく解説した記事はこちら
3-3.薬剤師がAIを活用して対人業務の時間をつくり、治療の質を向上させる
対人業務の時間の確保や質向上のために、薬剤師にはAIをうまく活用するスキルが求められるでしょう。
調剤業務や処方監査を行うAIを活用し、対物業務が効率化されると、薬剤師が対人業務に充てる時間を確保しやすくなります。「0402通知(※)」において、非薬剤師が行える業務の範囲が拡大したことや調剤の外部委託が整備されつつあることからも、AIの活用に限らず、薬局薬剤師が行う対物業務は徐々に減っていくものと考えられます。
例えば、かかりつけ薬剤師として、患者さんの服薬情報の一元的管理や継続的把握を担当すれば、薬剤師の取り扱う疾患や薬の種類が増えることは避けられません。今までは門前の医療機関から処方される薬剤を中心に取り扱っていた薬剤師に対しても、幅広い薬の知識を求められるようになります。
そこで、服薬指導、薬歴用ソフトに導入されたAIを活用できれば、薬剤師に不足している疾患や薬の知識を補完することが可能です。また、薬の有効性、安全性を担保するために、対人業務でもAIにサポートしてもらいつつ患者さんと接することができれば、より質の高い医療を提供できるでしょう。
このように積極的にAIを活用し、対物業務から対人業務にシフトできれば、これからも薬剤師として活躍できるのではないでしょうか。
4.AI時代の薬剤師に今後求められることとは
今後、AIの活用によって対物業務が効率化されると、薬剤師が対人業務に専念しやすい環境になると考えられます。では、AI時代の薬局や薬剤師はどのような役割を果たせばよいのでしょうか。
4-1.適切な支援を行えるようAIを活用する
患者さんが薬を飲んだ後の服薬フォローアップには、電話を用いるのが主流ですが、薬剤師が継続的な支援を行う上で、チャットアプリや治療アプリなどのICTを活用するのも効果的です。近年では医師の処方のもと、治療アプリの活用が進められており、自宅での症状や生活習慣を医療者が確認できる仕組みの活用が進められています。さまざまなICTを活用しながら、患者さんの服薬情報を管理し、適切な支援をしていくことが薬剤師として重要になるでしょう。
4-2.在宅医療での活躍
超高齢社会を迎える日本において、在宅医療も薬剤師の重要な役割の一つです。患者さんの終末期に携わることの多い在宅医療は、AIに代替しにくい業務だと考えられています。厚生労働省の報告によると、2019年度に居宅療養管理指導料を算定した薬局数は25,000件以上とされており、今後も在宅医療の需要は伸びていくと思われます。在宅医療に積極的に関わり、知識を深めた薬剤師が求められるのではないでしょうか。
参照:在宅医療の現状について|厚生労働省
4-3.AIにはできない、コミュニケーションの強化
患者さんだけではなく、医療機関とのコミュニケーションも重要です。患者さんの服薬情報を管理し、必要に応じて医療機関と連携する必要があります。また、疑義照会やトレーシングレポートによる情報提供を実施したり、ポリファーマシーや残薬などの課題に対して処方内容の適正化をサポートしたりしていく機会も増える可能性があります。このように、多くの医療従事者との連携強化も、薬剤師の職能を生かせる業務になるでしょう。
🔽 スキルアップしたい薬剤師の勉強法を解説した記事はこちら
5.対人業務に積極的に取り組み、AI時代に活躍できる薬剤師になろう
定型化していることの多い「対物業務」はAIに代替されやすい業務であり、今後薬剤師が行うことは徐々に減っていくと考えられています。その代わりに、薬剤師が「対人業務」を積極的に行うことで、AI時代でも活躍し続けられるといえるでしょう。具体的には、患者さんの服薬情報の一元的・継続的な管理によるポリファーマシーや残薬といった課題の解決や、患者さんの自宅や介護施設を訪問し、より患者さんの生活に近い距離で在宅医療に携わることなどが挙げられます。また必要に応じて、医療機関と連携を取り、今まで以上に医療の質向上に貢献していくことも、薬剤師に求められる業務になると考えられます。AI時代に活躍できる薬剤師となれるよう、積極的に対人業務に関わっていきましょう。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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