1.2025年問題とは
2025年問題とは、1947年~1949年に生まれたいわゆる「団塊の世代」が、2025年に75歳以上になることで、社会保障費の増加や企業の人材不足といったさまざまな社会問題を総じて称されるものです。まずは、医療における2025年問題についてお伝えするとともに、2025年問題の原因について解説します。
1-1.医療における2025年問題とは
2025年問題で、まず挙げられるのが、高齢者のさらなる増加による社会保障給付費の増大です。厚生労働省の資料では、社会保障給付費には「年金」「医療費」「福祉その他」などがあり、いずれも右肩上がりに増え、国の予算を圧迫していることが問題視されています。
また、今後、自身で通院できない患者さんや、自宅で最期を迎えたいと考える高齢患者さんも増えるため、在宅医療や介護医療の需要も増加することが考えられます。医療サービスの需要増加に伴ってスタッフ需要も高まる一方で、現役世代の人口減少による人材不足が大きな課題となっています。
医療現場において人材不足は深刻な問題です。例えば、医療機関や介護施設がスタッフの不足を理由に、患者さんの受け入れを断るケースが考えられます。入院が必要な患者さんが在宅医療を選択せざるを得ないこともあるでしょう。
1-2.2025年問題の原因とされている人口比率の変化
団塊の世代が65歳以上となった2015年は65歳以上の人口が3,379万人、その後、2021年には3,621万人となり、2025年には3,677万人に達すると見込まれています。さらに高齢者人口は増加を続け、2042年に3,935万人となり、ピークを迎えるとの予想です。
一方、15歳~64歳の人口は、1995年の8,716万人をピークとして、2021年には7,450万人まで減少しました。さらに、2020年には84万人であった出生数が、2065年には56万人程度まで減少することが予想されています。出生数の減少により、15歳~64歳の人口(生産年齢人口)は、2029年には6951万人、2065年には4529万人になることが推計されています。
社会保障給付費の財源を支える生産年齢人口が減少する一方で、社会保障給付費を受け取る高齢者の人口比率が年々高くなっており、医療や福祉を支える財源の確保が難しい状況になることも、2025年問題の原因といえるでしょう。
参考:令和4年版高齢社会白書(全体版)|内閣府
2.医療現場で薬剤師ができる2025年問題への対策
では、医療現場で働く薬剤師は、2025年問題に向けて、どのような取り組みが求められているのでしょうか。ここでは、薬剤師ができる2025年問題への対策について詳しくお伝えします。
2-1.疾患の予防と早期発見・早期治療を促す
2019年5月29日に行われた「第2回2040年を展望した社会保障・働き方改革本部」において、2016年の健康寿命(男性72.14歳、女性74.79歳)を、2040 年までに男女ともに3年以上伸ばすことを目指した「健康寿命延伸プラン」が発表されました。
健康寿命延伸プランでは、健康寿命を延ばすために2025年までに取り組むべき項目を大きく三つに分類し、それぞれ詳しく目標を掲げています。
▶ 疾病予防・重症化予防
▶ 介護予防・フレイル対策・認知症予防
上記を参考に、薬剤師は、服薬指導の一環として食習慣や運動習慣など生活習慣に関するアドバイスをしたり、検査を促したりする取り組みが必要です。あわせて健康診断によって疾患の早期発見・早期治療ができることや、全身性の疾病にも関わる虫歯や歯周病の早期発見、早期治療のためにも、歯科検診を受けることの重要性を周知することも健康寿命を延ばすために大切な取り組みと言えます。
また、調剤薬局においては、処方せんの有無に関わらず健康相談を受け付けるなど、地域住民が病気や健康について気軽に相談できる場所としての役割を担うことも2025年問題への対策となるでしょう。
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2-2.地域医療への参画
先にもお伝えした通り、2025年問題において、在宅医療の需要増加が考えられます。こうした状況に対処するため、薬剤師が地域医療へ参加する必要性が高まるでしょう。
地域医療への参画というと、病院薬剤師よりも薬局薬剤師の役割というイメージがあるかもしれません。しかし、患者さんの状況に合わせて病院薬剤師と薬局薬剤師が連携することで、より細やかに薬物治療をサポートできるようになります。これからの薬剤師は働く場所に限らず、地域医療に関わる機会が増えるでしょう。
例えば、患者さんによっては、「ほとんど在宅で治療を行っているが、状態によっては時々入院する」ということもあるでしょう。こうした患者さんの入退院について、病院薬剤師や薬局薬剤師は、入院する医療機関や退院後の治療を行う医療機関・介護施設、それぞれ関係する医療従事者との情報共有が求められます。薬剤師が地域医療へ参画し、在宅医療を受ける患者さんをサポートすることも、2025年問題の対策です。
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2-3.対人業務の強化
対物業務から対人業務を中心とした業務に移行していくことは、長い間、薬剤師の業務の課題として挙げられてきました。厚生労働省が作成した「薬局業務に関する対人業務の充実について」では、主な対人業務として次のようなものが挙げられています。
▶ 調剤時の情報提供・服薬指導
▶ 調剤後の継続的な服薬指導、服薬状況等の把握
▶ 服薬状況などを処方医等へフィードバック
▶ 在宅訪問での薬学的管理
2020年(令和2年)9月には、調剤後の服薬指導と継続的な服薬状況等の把握が義務規定となり、医師へのフィードバックは努力義務とされました。薬剤師は十分に職能を発揮するためにも、これらの対人業務を強化する必要があるでしょう。
「第7回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ 資料|厚生労働省」では、薬剤師が対人業務に注力できるよう、安全性を担保する仕組みを整えた上で、調剤業務の一部外部委託を検討することが記載されており、今後、薬剤師が行う対物業務は変わっていくかもしれません。
薬剤師として、2025年問題における役割を十分に理解し、医療機関や介護施設、在宅医療などで職能を発揮することが求められるでしょう。
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3.医療における 2025年問題に企業が備えるべきこと
医療における2025年問題は、企業にとっても大きな問題です。適切な対策ができない場合、事業の存続に関わる可能性があります。ここでは、2025年問題に企業が備えるべきことについてお伝えします。
3-1.人材不足となる背景と対策
前述した通り、日本は高齢者が増加し、現役世代の人口が減少しています。加えて、現在働いている60歳以上の労働者も2025年には退職をすることが考えられるため、さらに人材不足は加速することが予想されます。
また、現役世代の中には、親の介護をしながら働くビジネスケアラーとなり、働く時間が限られてしまう人もいるでしょう。介護施設や老人ホームなどへの入所が難しい親のために、介護離職を選択する人が増えることも考えられます。
こうした人材不足に対応するためには、定年を迎えた人や働ける時間が限られている人など、さまざまな人材を積極的に雇用していく取り組みが必要です。長時間労働や時間外労働などの労働環境を改善することや、フルタイム以外の働き方について従業員の理解を得ることなどが、人材不足解消のカギとなるでしょう。
また、IoTやVR(仮想現実)、AR(拡張現実)を使ったスマートヘルスケアのさらなる活用も検討すべきでしょう。すでに、スマートウォッチやVRゴーグルなどは医療分野で使用されていますが、専用のデバイスを使って体温や脈拍、血圧など自宅でのバイタルサインを測定し、患者さんと医療機関でデータを共有、治療方針の決定といったことも将来的には行われる可能性があります。テクノロジーを使った医療サービスの活用も、人材不足への対策と言えます。
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3-2.後継者問題とその対策
中小企業庁の資料「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」には、中小企業、小規模事業者の経営者のうち約245万人が2025年に70歳以上となることが示されています。このうち半数の約127万人の経営者は、後継者が見つかっておらず、さらにその半数が黒字廃業になる可能性があるとしており、国内における企業の後継者問題は深刻です。
そうした背景を受けて、経済産業省は47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を開設しました。また、事業承継・引継ぎ補助金やM&A支援機関登録制度といった公的なサポートも行っています。親族やスタッフへの事業承継が難しい場合は、こういった公的支援を活用するのも一案です。
4.2025年問題に備えて医療現場で今やるべきことを考えよう
2025年問題に備えて医療現場で今からできることは、地域住民の健康寿命を延ばすための取り組みを行うことや、地域医療に参画することが挙げられます。デジタル技術を活用して、できるかぎり対物業務の負担を減らすことも重要でしょう。また、人材不足になることが予想されるため、企業はフルタイム以外の働き方が選べるよう労働環境を整え、従業員の理解を得ることも必要な取り組みと言えます。直前に迫る課題として、今からできることを始めましょう。
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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