- 1.薬剤師に在宅ワークは可能?
- 1-1.本業で在宅ワークをする場合
- 1-2.副業で在宅ワークをする場合
- 2.薬剤師が在宅でできる仕事の例
- 2-1.オンライン服薬指導
- 2-2.書類作成・データ入力
- 2-3.メディカルライター・サイエンスライター
- 2-4.医療翻訳・医薬翻訳
- 2-5.コールセンターの窓口対応
- 2-6.オンライン学習の講師
- 3.在宅ワークのメリット
- 4.在宅ワークのデメリット
- 5.薬剤師が在宅ワークをするために必要なこと
- 6.副業で薬剤師が在宅ワークをする場合の収入・年収
- 7.薬剤師が在宅ワークの募集を探すには?
- 7-1.クラウドソーシングで探す
- 7-2.求人サイトや転職エージェントを活用する
- 8.薬剤師の在宅ワークが可能な仕事をリサーチしてみよう
1.薬剤師に在宅ワークは可能?
薬剤師を含む医療・介護従事者は、基本的に対人業務が中心であり、在宅ワークを実施するのは難しい職種といえます。
国土交通省が公表した「令和5年度テレワーク人口実態調査 -調査結果-」によると、雇用型就業者のうちテレワークをしたことがある人の割合は24.8%でした。
その一方で、「医療、福祉」職に限ると5.8%という結果になっており、さまざまな職種の中でも在宅ワークを行いにくい傾向にあることが分かります。
実際に、医療業界では、医療情報のデータ化やオンライン診療の推進といった取り組みは進みつつあるものの、在宅ワークはあまり普及していないのが現状です。
しかし、薬剤師資格を生かして在宅で働ける仕事もいくつかあります。薬剤師ができる在宅ワークについて、本業と副業に分けて紹介します。
1-1.本業で在宅ワークをする場合
本業を在宅ワークにする場合、勤務先によって条件が異なります。薬局や病院に勤務する薬剤師は、調剤や監査、疑義照会などさまざまな業務を担当します。こうした窓口業務に関しては、基本的に在宅ワークとして行うのは難しいでしょう。
とはいえ、薬剤師の本業として在宅ワークができる業務もあります。そのひとつが、オンライン服薬指導の実施です。
また、企業に従事する薬剤師で、普段からデスクワークを中心に担当している場合、在宅ワークが可能かもしれません。
そのほか、薬剤師が本業として取り組める在宅ワークには、他言語で書かれた論文や医学ジャーナルを日本語に翻訳する「医療翻訳・医薬翻訳」業務、コールセンターの窓口対応なども挙げられます。
1-2.副業で在宅ワークをする場合
2020年7月に厚生労働省が行った調査によると、仕事をしている人の9.7%が「仕事は2つ以上(副業あり)」と回答しており、約10人に1人は副業を行っていることが分かります。
参照:副業・兼業に係る実態把握の内容等について|厚生労働省
生活を安定させるために収入を増やしたり、活躍の場を広げたりすることを目的として、副業に取り組む人が多いようです。
副業として在宅ワークをするのであれば、薬剤師資格を生かせる選択肢が多くあります。例えば、メディカルライターやサイエンスライター、オンライン学習の講師などの仕事が挙げられます。
ただし、管理薬剤師や公務員薬剤師については、原則として副業・兼業が禁止されています。また、企業によっては就業規則で副業が制限されていることもあるため、副業での在宅ワークを検討している場合は、あらかじめ勤務先のルールを確認しておきましょう。
🔽 薬剤師の副業について解説した記事はこちら
2.薬剤師が在宅でできる仕事の例
ここまで、本業と副業の例を挙げて、薬剤師ができる在宅ワークの可能性について紹介しました。では、実際に在宅ワークとなった場合、具体的にどのような業務内容になるのでしょうか。主な仕事の例を紹介します。
2-1.オンライン服薬指導
オンライン服薬指導とは、パソコンやスマートフォンを活用して薬剤師から患者さんに対して行う服薬指導のことで、2019年12月の薬機法改正(2020年9月施行)によって解禁されました。
2023年に日本保険薬局協会が行った調査によると、オンライン服薬指導に対応する薬局は全体の87.4%と報告されており、多くの薬局でオンライン服薬指導を行う体制が整備されていることが分かります。その利便性の高さから、オンライン服薬指導は今後さらに普及していくことが予想されます。
参照:管理薬剤師アンケート報告書|日本保険薬局協会
オンライン服薬指導では、処方薬の効能・効果や用法用量、副作用などについてパソコンやスマートフォンを用いて患者さんに説明します。患者さんの求めや異議がなければ、薬局以外の場所でも実施できるため、在宅ワークとして行うことも可能です。
ただし、オンライン服薬指導ができるのは、薬局で勤務している薬剤師に限られます。また、オンライン服薬指導を開始した後、患者さんから対面での服薬指導への移行を求められた場合は、オンライン服薬指導を行った薬剤師か別の薬局薬剤師が、対面での服薬指導を実施しなければなりません。
2022年3月に行われた「第2回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」の日本薬剤師会の資料「薬剤師が自宅から行うオンライン服薬指導について(基本的な考え方)」においても、
○ 薬剤師が自宅でオンライン服薬指導を実施することが想定されるケースとしては、たとえば、
・家族の具合が悪くなり、勤務先の薬局に出向くことができない
・コロナ感染または濃厚接触の可能性があるため自宅待機となった
といった場合など、常時テレワークによる対応を前提とする勤務形態は考えにくい。
とされているように、完全な在宅ワークは難しいでしょう。
加えて、オンライン服薬指導では患者さんの個人情報を取り扱うため、プライバシー保護への配慮が求められます。薬局スタッフ以外の第三者が容易に立ち入ることができない場所でオンライン服薬指導を行い、患者さんの個人情報が漏洩しないように設備を整える必要があります。在宅ワークの場合には特に注意が必要でしょう。
参照:オンライン服薬指導について|日本薬剤師会
参照:オンライン服薬指導の実施要領について|厚生労働省
参照:オンライン服薬指導について|厚生労働省
🔽 オンライン服薬指導について解説した記事はこちら
2-2.書類作成・データ入力
製薬企業などでは、新薬の申請書類をはじめ、さまざまな書類や資料の作成業務があります。また、治験を行う企業では、治験で得られたデータの入力や製薬企業に提出する報告書の作成を行います。
書類作成やデータ入力はパソコン作業で完結するケースが多く、在宅ワークに適した業務のひとつといえるでしょう。
2-3.メディカルライター・サイエンスライター
メディカルライターやサイエンスライターも、薬剤師としての経験やスキルを活かせる在宅ワークのひとつです。
メディカルライターは、ほかの医療従事者や一般の方に向けて健康や医療に関する専門情報を発信します。特に一般の方向けに執筆をするときは、知識がなくても理解できるように、なるべく難解な専門用語を使わず、分かりやすく表現しなければなりません。また、誤った情報を届けないように、正しい情報を収集する力も求められます。
🔽 サイエンスライターの仕事について解説した記事はこちら
2-4.医療翻訳・医薬翻訳
医療翻訳・医薬翻訳では医療に関する高度な専門知識が必要となるため、薬の専門家である薬剤師としての知識を十分に活かすことができるでしょう。医療翻訳で活躍するには、薬学に関する専門知識以外に、ハイレベルな語学力も求められます。
医療翻訳では、医学論文や医学ジャーナルなど他言語で書かれた文書を翻訳したものを医療研究者や医師に提供します。最先端の医療に関わることができるため、大きなやりがいを感じられる方も多いでしょう。
2-5.コールセンターの窓口対応
製薬企業や医薬品卸のコールセンターでは、病院や薬局からの薬に関する問い合わせに対応します。
専門職からの問い合わせに対して正確に回答する必要があるため、自社製品に関する深い知識に加え、最新の論文や学術情報を収集する力が必要です。時には麻薬の取り扱いなど法的な知識も求められます。
2-6.オンライン学習の講師
薬剤師が在宅ワークでできる仕事としては、オンライン学習の講師も挙げられます。
例えば、国家試験を控える薬学生に対して、試験対策のオンライン講義を行う場合は、実際に薬剤師として働く中で身に付けた知識や勉強法を伝え、学生が国家試験に合格できるようにサポートします。
3.在宅ワークのメリット
在宅ワークのメリットとして、以下のような点が挙げられます。
● 人間関係のストレスが少ない
● 自分のペースで仕事を進めやすい
● 育児や介護との両立がしやすい
在宅ワークになれば職場に行く必要がないため、通勤時間を削減できたり、満員電車などの通勤中のストレスを回避できたりします。また、自分のペースで働きやすいのも大きなメリットです。親の介護や子育てをしなければならない人でも家庭環境に合わせて、柔軟に働き方を調整しやすいでしょう。
さらに、職場での人間関係によるストレスが少なく、普段生活している落ち着いた環境で仕事を進められるのも大きなポイントです。
4.在宅ワークのデメリット
一方で、デメリットには以下のような点があります。
● タスク管理能力が求められる
● コミュニケーションが取りにくい場合がある
在宅ワークは、仕事とプライベートの切り替えが難しい傾向にあります。自宅が職場になるため、仕事と普段の生活の境界線があいまいになってしまい、仕事をする時間が長くなったり、プライベートの時間に十分にリラックスできなかったりすることがあるでしょう。そうした中で、スムーズに仕事を進めるためには、自己管理能力が欠かせません。
また、職場の人や顧客とのやり取りがメールやチャットが中心になると、コミュニケーションが取りにくいと感じることもあるでしょう。対面での会話と異なり、伝えたい内容を整理し分かりやすく文章化しなければならないため、人とのコミュニケーションに苦戦するといったデメリットが生じる可能性があります。
5.薬剤師が在宅ワークをするために必要なこと
在宅ワークはインターネット環境で行うことが多いため、情報漏洩やサイバー攻撃などへの対策が欠かせません。
在宅ワークをするためには、セキュリティ対策を万全にし、作業環境を整備する必要があります。セキュリティの甘い公衆Wi-Fiの使用を避けるのはもちろん、ウイルス対策ソフトをインストールするなど、セキュリティ対策を十分に行いましょう。
また、複数の案件を同時に対応する在宅ワークでは、タスク管理ツールやスケジュール管理アプリを導入することをおすすめします。ツールやアプリを活用して仕事の進行状況を把握し、うまく優先順位をつけられれば、スムーズに仕事をこなせるでしょう。
6.副業で薬剤師が在宅ワークをする場合の収入・年収
薬剤師が副業として在宅ワークをする場合、案件の単価や受注数によって収入や年収が大きく異なります。内閣官房新しい資本主義実現会議事務局・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁が公表した「令和4年度フリーランス実態調査結果」によると、直近1年間のフリーランスとしての事業による収入に関する回答結果は以下のとおりでした。
● 100~200万円未満:12.6%
● 200〜300万円未満:12.7%
● 300〜400万円未満:12.6%
● 400〜500万円未満:9.5%
● 500〜600万円未満:6.9%
● 600〜700万円未満:4.2%
● 700〜800万円未満:3.3%
● 800〜900万円未満:2.0%
● 900〜1,000万円未満:2.1%
● 1,000万円以上:3.4%
● わからない・答えたくない:16.4%
本調査は、本業・副業を問わずフリーランスとして働く人を対象としたもので、薬剤師の副業や在宅ワークに限定されたものではないため、あくまで参考程度のデータです。しかし、フリーランスの収入として100万円未満であるという回答が最も多いことから、在宅ワークによる副業で高い収入を得ることは難しいと考えられるでしょう。
フリーランスの場合、副業で高収入を安定的に得るためには、一般的には多くの案件をこなして実績を積み、スキルアップをする必要があります。顧客に実績を評価されれば、単価アップや継続案件につながることもあるでしょう。
また、副業で一定以上の収入を得た場合には、確定申告をする必要があります。ある程度の収入が見込まれる場合には、忘れずに確定申告を行うための準備を進めましょう。
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら
7.薬剤師が在宅ワークの募集を探すには?
在宅ワークに興味があっても、どのように募集を探せばよいか分からない方もいらっしゃるかもしれません。ここからは、薬剤師が在宅ワークの募集を探す方法について解説します。
7-1.クラウドソーシングで探す
在宅ワークを探す方法のひとつに、クラウドソーシングの活用があります。クラウドソーシングとは、企業などがインターネット上で不特定多数の人に対して業務を委託するサービスのことです。
クラウドソーシングサイトに登録し、自身の興味がある仕事や得意分野の業務について探してみましょう。仕事を受注するためには、その案件に役立つ経歴や薬剤師としてのスキルを十分にアピールすることが大切です。
7-2.求人サイトや転職エージェントを活用する
求人サイトや転職エージェントでも、在宅ワークができる仕事を探すことは可能です。求人サイトで「在宅ワーク」「リモートワーク」「在宅勤務」などのキーワードで検索すれば、在宅ワークができる仕事を見つけられるかもしれません。
また、転職エージェントに相談すれば非公開の在宅ワーク可能な求人を紹介してもらえることもあります。転職エージェントとは、企業と転職を希望する人をマッチングするサービスのことです。求人情報の紹介、履歴書・職務経歴書の作成、面接対策など、キャリアアドバイザーからさまざまなサポートを受けられます。
前述のとおり、一般的に薬局や病院などにおける仕事の多くは在宅ワークが難しいといえますが、薬剤師転職に特化した転職エージェントもあるので、在宅ワークができる仕事がないか相談してみるとよいでしょう。
8.薬剤師の在宅ワークが可能な仕事をリサーチしてみよう
薬剤師を含む医療・介護職は、基本的に在宅ワークが難しい職種ですが、薬剤師ができる在宅ワークが全くないわけではありません。副業で在宅ワークをしたい場合には、基本的に自身で案件を探す必要があるため、クラウドソーシングなどを活用してみるとよいでしょう。ただし、副業の場合は本業に支障が出ないよう、無理なく働ける在宅ワークの募集を探すことが大切です。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。