ノーベル賞の制御性T細胞~製薬企業でも応用研究
2025年ノーベル生理学・医学賞の受賞理由である大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)の坂口志文特任教授ら3人による「制御性T細胞」の発見は、難治性疾患の新規治療薬の可能性を秘めた研究成果だ。実用化には時間がかかるが、製薬企業などで早期段階の応用研究が進められている。
体外からの異物に対抗する機能が免疫機構と考えられていた中で、制御性T細胞は免疫反応を抑える機能を持つのが特徴となっている。
そこで応用研究では、制御性T細胞を標的に免疫反応のバランスを調整できる可能性に着目。異常な免疫反応による自己免疫疾患では活性化させ、免疫反応の抑制で進行する癌では活性を抑え免疫活性を高める仕組みが考えられている。
中外製薬と阪大は16年に包括連携契約を結び、中外が10年で100億円をIFReCに拠出し、研究を支援。今年3月には自己免疫疾患の因子の一つと考えられ、制御性T細胞の働きと関係する蛋白質FoxP3の発現制御ネットワークを解明した成果を「ネイチャー」に発表した。
坂口氏の受賞を受け、中外は「坂口先生の研究を礎とし、医学と治療にさらなる発展がもたらされることを信じている」とコメントした。
制御性T細胞の研究では、同細胞を標的とした新たな癌免疫療法の基礎となる成果も出ている。その一つは、京都大学の本庶佑特別教授のノーベル賞受賞研究を基礎に開発された免疫チェックポイント阻害薬の治療抵抗性に、制御性T細胞が関与している点に着目したもの。同細胞の働きに関わる分子の発見を22年に国立がん研究センターと名古屋大学が発表した。
腫瘍に特異的な制御性T細胞に発現するCCR8分子も標的として注目され、抗CCR8抗体により抗腫瘍免疫が活性するとの研究もある。塩野義製薬が同抗体「S-531011」の第I/II相試験を進めている。同社は7日、「坂口先生の指導のもとで培った知見を生かし、開発をさらに加速させる」と表明した。
大正製薬ホールディングスは6日、07年に上原記念生命科学財団上原賞を授与した坂口氏のノーベル賞受賞に「研究成果が世界的に評価されたことは嬉しい」と、同財団の上原明理事長のコメントを発表した。
出典:株式会社薬事日報社
薬+読 編集部からのコメント
2025年ノーベル生理学・医学賞の受賞理由となった大阪大学免疫学フロンティア研究センターの坂口志文特任教授ら3人による「制御性T細胞」の発見は、難治性疾患の新規治療薬の可能性を秘めた研究成果です。体外からの異物に対抗する機能が免疫機構と考えられていた中で、制御性T細胞は免疫反応を抑える機能を持つのが特徴。実用化には時間がかかるものの、製薬企業などで早期段階の応用研究が進められています。