医療

「こども病院」に薬剤師出向~地域で小児特有の医療学ぶ 信州大学医学部附属病院薬剤部

薬+読 編集部からのコメント

信州大学医学部附属病院薬剤部が、2025年10月から長野県立こども病院への薬剤師出向を開始しました。小児病院に薬剤師を派遣して専門的な医療を地域で学ぶのは、全国でも珍しい取り組みです。

信州大学医学部附属病院薬剤部は、10月から長野県立こども病院への薬剤師出向を開始した。産休・育休取得が同時期に相次ぎ人員が減少した県立こども病院に対し、11年目の中堅薬剤師を来年3月末まで半年間の予定で派遣する。信州大病院では「妊娠と薬外来」をはじめ、小児・周産期医療に注力しており、今回の出向を通じて小児特有の処方や調剤の技術を習得することで、小児・周産期医療の質向上につなげたい考えだ。小児病院に薬剤師を派遣し、専門的な医療を地域で学ぶ取り組みは全国でも珍しい。内藤隆文薬剤部長(写真右)は「できれば継続的に出向を続け、良いモデルケースにしたい」と意気込む。

県立こども病院は、長野県の小児・周産期医療の政策医療拠点となっており、薬剤部は19人体制で業務を行っていた。しかし、産休・育休を取得する薬剤師が3人同時期に重なり、急な人材不足に直面。ぎりぎりの人員で病棟薬剤業務実施加算、薬剤管理指導料を算定している苦しい状況にあった。

 

こうした中、小児科病棟や産科病棟、NICU(新生児集中治療室)、GCU(新生児回復室)に薬剤師を配置し、妊婦・授乳婦専門薬剤師の研修施設でもある信州大病院は、2024年度診療報酬改定における「薬剤業務向上加算」の新設以降、県内で派遣希望病院を募集。県とも調整し、応募があった病院のマッチングを行った結果、最終的に県立こども病院への出向を決めた。10月1日から11年目の薬剤師、笠垣貴大さん(写真中央)が県立こども病院に出向している。

 

内藤氏は「われわれが周産期医療に力を入れている背景もあり、職員教育の一環として専門的な技術を習得できる県立こども病院への出向は、薬剤業務向上加算の目的と合致すると考えた」と背景を語る。

 

また、出向を受け入れる県立こども病院の鈴木英二薬剤部長(写真左)は「1人でも人員が増えることにより、スタッフの安心感も変わってくる。小児特有の処方や調剤は専門性が高く、教える側も知識や技術が問われる。出向をスタッフのスキル向上にもつなげたい」と期待する。

 

出向から約1カ月が経過したが、笠垣さんは「調剤は信州大病院でも経験していたが、やはり小児は用量が細かいと感じた。現場で働いている薬剤師もこの薬は体重当たり何mgとしっかり把握していて、勉強になっている」と実感を語る。

 

現在は、小児の用法・用量の見方、添付文書に記載されていない医薬品の用量の判断などについて、調剤を通じて処方内容への理解を深めているという。

 

信州大病院では、薬剤業務向上加算の算定に当たって薬剤師2人の増員が決まった。内藤氏は「当院では新生児の輸液療法などを手探りでやってきた。そういった弱い部分を強化すると共に、県立こども病院に出向できる施設であると学生にも知ってもらい、就職希望者が増えればありがたい。研修施設としての質も上げていきたい」と展望を語る。

 

鈴木氏は、政策医療を担う県立病院の役割を強調しつつ、「今回の連携を大事にして、へき地医療を担う(県立の)阿南病院や木曽病院にも人材をうまく回せる体制ができれば」との考えを示す。

 

薬剤業務向上加算の算定により、信州大病院にも大幅な収入増が見込まれる。内藤氏は「手薄だった新生児医療の業務の質を高めるなど、われわれの頑張りを見せることで、なるべく薬剤部の体制強化に活用したい」と語る。

 

薬剤師出向は来年3月までを予定しているが、内藤氏は来年度以降も継続したい考えを示している。既に県立こども病院への出向希望者もいるようで、「出向によってどれだけ診療の質を向上できたかを評価するため、継続的に続けていきたいし、小児病院に出向して専門的な医療を学ぶというモデルケースになれば」と話している。

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出典:薬事日報

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