薬剤師・薬局の仕事は、一般の利用者の立場からは分かりにくい部分も多いかもしれません。薬剤師・薬局に関する素朴な疑問について、薬剤師さんに詳しく解説してもらいました!
薬剤師は「自分の処方箋」で「自分の薬」を調剤できるの?
法律で明確に禁止されてはいませんが、客観性の担保や保険ルールの観点から制限があります
薬剤師が、自身について発行された処方箋の薬を自ら調剤すること。あるいは、自身の家族の薬を自身が勤める薬局で調剤すること。これらは一般の利用者からは見えにくい部分ですが、医療現場ではしばしばありうる場面です。
一般的に薬剤師が自身の処方箋の薬を自ら調剤することを「自己調剤」、家族(同一世帯員など)の処方箋の薬を自身の勤務先で調剤することを「自家調剤」と呼んでいます。なお、自家調剤には、自身の勤務先で別の薬剤師が調剤するケースも含まれます。
結論から言うと、自己調剤・自家調剤ともに、明確に禁止している法令や通知はありません。しかし、医療保険を使って費用を請求する「保険診療」の枠組みの中では、制限が設けられている場合があります。
医師と比較すると分かりやすいのですが、医師が自分で自分を診察し、自分に対して処方箋を書くことを「自己診療」と呼んでいます。しかし、現在の日本の医療保険制度では、健康保険法などに基づき「他人を診療すること」が前提とされています。そのため、医師が自己診療をした場合、原則として保険請求はできない決まりです。自家診療についても制限があります。
参考:保険診療の理解のために「自己診療、自家診療について」|厚生労働省保険局医療課医療指導監査室
同様に、薬剤師の自己調剤・自家調剤についても「社会通念に照らして理解を得られる調剤報酬の請求が必要で、自分や家族に対して行った医療行為では請求すべきではない」という考え方が適用されているのです。
また、自己調剤や自家調剤には、倫理・安全性の観点からも重要な問題があります。薬剤師が自身や家族の薬を調剤する場合、どうしても「よく知っているから大丈夫」といった過信や身内への遠慮が生じやすくなります。その結果、第三者の目による客観的なチェックや、十分な服薬指導が行われにくくなるという懸念があるのです。そのため、医療ミスを防ぎ、患者さんの安全を守るための機能が低下してしまわないように、保険請求に制限を設けることで、安易な自己調剤・自家調剤が行われにくい仕組みになっています。
具体的な制限の内容は加入している健康保険組合によって異なりますが、基本的には「薬剤費」は認められるものの、「時間外加算」や、服薬指導などの対価である「薬学管理料」などは算定できないことが一般的です。
参考:自家調剤制限事項について|神奈川県薬剤師国民健康保険組合
参考:自家調剤の場合の調剤報酬算定ルール|東京都薬剤師国民健康保険組合
薬剤師が「自分の薬を調剤すること」は違法行為ではないものの、医療人としての客観性の担保や、公的な医療保険制度を正しく運用するためのモラルに基づいて、厳しいルールの下に運用されているのです。

東北大学薬学部卒業後、ドラッグストアや精神科病院、一般病院に勤務。現在はライターとして医療系編集プロダクション・ナレッジリングのメンバー。専門知識を一般の方に分かりやすく伝える、薬剤師をはじめ働く人を支えることを念頭に、医療関連のコラムや解説記事、取材記事の制作に携わっている。
ウェブサイト:https://www.knowledge-ring.jp/





