置き薬販売に20年間従事する著者が、富山人の商売に対する考え方や置き薬販売で受け継がれる哲学を細かく解説しています。“昔の販売形式”というイメージもある置き薬ですが、徒歩から自転車、バイク、車と移動手段を変えながら現在も続いていており、70歳、80歳になっても現役で活躍している薬売りも多いとのこと。
富山の置き薬は、「お得意さん(お客さん)の家に薬を置かせていただき、使われた分だけ料金を受け取る」というスタイルなので、薬が使われなければ収入にはなりません。また、お得意さんの元には1年に1回または2回、定期的に訪問して薬の補充を行い、使われなかった薬も新しい薬に入れ替えるなど多くの手間と配慮が求められる商売です。それでも300年もの長期間にわたって続いているのは、「あらゆる商売を持続可能にする“普遍・真実”が富山の薬売りの中にあるからだ」と著者はいいます。
本書では、薬売りに商品を卸す「薬種問屋」で受け継がれる、仕事への取り組み方をまとめた家訓も紹介されています。その中には、「仕事には常に精を出し、油断しないこと」「気づかいや思いやりを重視すること」「出納簿を繰り返し確認すること」「忘備録を作成して日々確認すること」といったことが挙げられており、誠実さや勤勉さが非常に重視されていたことがうかがえます。そしてこれらは、現代を生きる薬剤師にも通じることではないでしょうか。不測の事態に備えてリスクマネジメントを行うことや、仕事に関わる情報を再三確認するといったことは、薬剤師の業務で重視されることと同じです。いつの時代も、「いい仕事」には共通する姿勢があるといえるのかもしれません。