薬剤師の早わかり法律講座 公開日:2016.04.06 薬剤師の早わかり法律講座

法律とは切っても切れない薬剤師の仕事。自信を持って働くためにも、仕事に関わる基本的な知識は身につけておきたいですね。薬剤師であり、現在は弁護士として活躍中の赤羽根秀宜先生が、法律についてわかりやすく解説するコラムです。

第4回 薬歴の開示請求

1. はじめに

皆さんの薬局では、患者さんから「薬歴を見せてほしい」と言われたことはあるでしょうか。実際に開示請求があり、私にどうしたらいいかという相談もありますので、決して人ごとではありません。そこで今回は薬歴など、個人情報の開示請求について解説したいと思います。

2. 薬歴の開示請求

個人情報の保護に関する法律(以下「個人情報保護法」といいます)第25条には、以下のとおり定められています。

(開示)
第二十五条
1.個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一  本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二  当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三  他の法令に違反することとなる場合
 
2.個人情報取扱事業者は、前項の規定に基づき求められた保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
 
3.他の法令の規定により、本人に対し第一項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、同項の規定は、適用しない。

この規定の第1項で定められているとおり、個人情報取扱業者は、本人から「個人データ」(容易に検索できる情報の集合物である「個人情報データベース」を構成する「個人情報」)の開示を求められた場合には、原則として遅滞なく開示しなければなりません。薬局で保管されている薬歴は、通常「個人データ」にあたりますので、薬歴も原則開示が必要です。
一方で、薬歴には、客観的な患者への処方内容等の事実を記載した部分もあれば、薬剤師の判断や評価が記載される部分もあります。そのため、患者と薬剤師の双方の個人情報という二面性を持っていると考えることもできます。患者だけではなく、薬剤師の情報でもありますので、薬歴を開示する必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、薬歴全体が患者の個人情報であると一般的には考えられているため、二面性があることを理由に全部または一部を開示しないことはできないとされています(「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」平成16年12月24日通知、平成18年4月21日改正、平成22年9月17日改正参照)

3. 非開示とできる場合

開示することが原則としても、薬歴にはさまざまな情報が記載されており、場合によっては、開示することによって患者さんに不利益が想定される場合もあります。
そこで個人情報保護法第25条第1項各号において例外を設け、一部または全部を非開示とすることができるとしています。この点について、ガイドラインでは以下のように示しています。

  • ①患者・利用者の状況等について、家族や患者・利用者の関係者が医療・介護サービス従事者に情報提供を行っている場合に、これらの者の同意を得ずに患者・利用者自身に当該情報を提供することにより、患者・利用者と家族や患者・利用者の関係者との人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがある場合
  • ②症状や予後、治療経過等について患者に対して十分な説明をしたとしても、患者本人に重大な心理的影響を与え、その後の治療効果等に悪影響を及ぼす場合

どのような場合が該当するかは、事案に応じて慎重に判断していく必要があります。上記の例を参考にして、患者や第三者の権利利益を害してしまうおそれがあるか、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがあるか、という観点から検討しましょう。いずれにしても、非開示とできる場合があることを知っておくことは重要です。
なお、仮に開示をしない旨の決定をした場合には、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならず(個人情報保護法第25条2項)、開示しない理由を通知する努力義務も課されています(個人情報保護法第28条)。

4. 開示の方法

開示方法については、個人情報保護法施行令第6条に規定があり、原則として書面を交付することによって行う必要があります。薬歴の場合であれば、原本は交付できませんので、コピーを交付することになります。
コピーを交付することで開示をした場合には、薬局は患者に対し、開示に係る手数料(実費と勘案して合理的な金額)を請求することができます(個人情報保護法第30条)。また、開示の手続きの方法および開示に係る手数料の額は、患者が知り得る状態にしておかなければなりません(個人情報保護法24条1項)。

5. 最後に

2015年10月からマイナンバーの通知が、2016年1月から利用が開始されるため、個人情報については何かと注目されています。マイナンバーは法律で定められた行政手続きのために使用するものですので、病院や薬局などで患者さんのマイナンバーを利用することは現時点ではありません。医療については現在、マイナンバーとは別の番号での管理が検討されているところです。

また、2015年には個人情報保護法の改正もなされ、通常の情報より慎重に扱うことが要請される「要配慮個人情報」という情報が定義されました。「病歴」もここに含まれることになります。
このように個人情報への関心や医療情報の管理の要請が高まるなか、患者さんから薬歴などの開示請求をされることは十分想定できます。開示請求された場合の薬局内のマニュアル等を整備しておくとともに、開示しても問題ないように、薬歴を残しておくことが必要となるでしょう。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。

赤羽根 秀宜(あかばね ひでのり)

昭和50年生。中外合同法律事務所所属。
薬剤師の勤務経験がある弁護士として、薬局や地域薬剤師会の顧問を務め、調剤過誤・個人情報保護等医療にかかる問題を多く取り扱う。業界誌等での執筆や講演多数。