薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
【過去問題】
- 問
- 感冒症状を訴えて来局した男性(36歳)のお薬手帳から、バルサルタン錠を現在服用していることがわかった。
この男性に販売する一般用医薬品に含まれる成分として、
避けるべきものはどれか。1つ選べ。
- 1)リゾチーム塩酸塩
- 2)ジヒドロコデインリン酸塩
- 3)トラネキサム酸
- 4)ブロムヘキシン塩酸塩
- 5)プソイドエフェドリン塩酸塩
今月から、「仕事に活かす! 薬剤師国家試験問題」コラムを担当する橋村孝博と申します。大学を卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局を20数年ほどかけて渡り歩いて参りました。若い薬剤師の方々に実務から得られる生の情報を薬剤師国家試験(以下国試)の過去問を通してお伝えできればと思っています。よろしくお願いいたします。
さて、さっそく今回の問題の解説に入っていきましょう。
解説
選択肢5の「プソイドエフェドリン塩酸塩」はエフェドリンの立体異性体。αアドレナリン受容体への刺激により、血管収縮作用と共に昇圧作用を有するため、高血圧が既往にある患者への投与は避けるべき薬剤です。
– 実務での活かし方 –
この「プソイドエフェドリン塩酸塩」は、交感神経への刺激が原因となった脳卒中発現により、2000年11月に市場から姿を消した「塩酸フェニルプロパノール」の代替薬として現在多くのOTC風邪薬に配合されています。
この薬剤が配合された医療医薬品が、「フェキソフェナジン塩酸30mg+塩酸プソイドエフェドリン60mg/錠(ディレグラ®)製剤」。2013年2月に、非常に稀ながらOTC医薬品成分から医療医薬品にも配合され、誕生しました。
今回取り上げた過去問では高血圧患者が対象となっていましたが、患者が鼻炎アレルギー症状に悩んでおり、国体の参加を控えたアスリートである場合はどうでしょうか。実際の事例を交えて紹介します。
事例
受診前までOTC医薬品のアレグラ錠®を2週間服用していたが、鼻炎コントロール不良のため医療機関を受診。医師にはアレグラ®の服用、国体への参加予定などは伝達済み。
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Rp1 ディレグラ® 4錠/2×朝夕空腹時 14日分
「ディレグラ®」の成分にはドーピング禁止薬である「プソイドエフェドリン塩酸塩」が配合されているため、薬剤師から医師に疑義照会。医師からはアレルギー剤はすべて使用可能のはずと返答。
確かにプソイドエフェドリン塩酸塩が配合されたディレグラ®が発売される以前までは、抗アレルギー薬に分類されている医療用医薬品のほぼすべての製剤は、競技会時に選手が通常使用可能でした。プソイドエフェドリン塩酸塩は2015年1月の世界アンチ・ドーピング規程改正で、尿中濃度が150μg/mL未満の場合の使用は可能となった製剤ではありますが、ディレグラ®は規定の尿中濃度を超える可能性が充分に考えられることを指摘し、下記処方に変更となりました。
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Rp1 アレグラ60mg® 2錠/2×朝夕食後 14日分
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Rp2 アラミスト® 1日1回就寝前 各鼻腔2噴霧
「プソイドエフェドリン塩酸塩」は尿中濃度150μg/mLを超えた場合には、WADA(World Anti-Doping Agency)禁止表内のカテゴリー「競技会(時)に禁止される物質と方法」の禁止物質「S6興奮薬」の「特定物質」に該当します。
この検定ラインは、プソイドエフェドリン塩酸塩240mg/日を服用した場合の検出量として設定されています。そのため、60mgのプソイドエフェドリン塩酸塩が含まれた錠剤3錠を“1日量”として1回で服用した場合は、アンチ・ドーピング規程の禁止ラインに達する可能性があります。つまりアスリートが競技会(時)前にディレグラ®を1日量服用すると、うっかりドーピングに値することになってしまうのです。アスリートに対しては避けるべき薬剤として、覚えておいてください。