薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
大きな被害を出した九州の2016年熊本地震から数ヵ月が経ちました。九州の熊本を中心とした地域にはいまだに大きな被害が残っており、一刻も早い復旧復興が望まれます。
昨今、年間で一度はどこかの地方で住民が避難せざるを得ない大規模な自然災害が発生しています。公共の場を避難場所として多くの人々が共同生活を強いられた際に、薬剤師がするべきことの一つとして、消毒剤を用いた公衆衛生の管理があります。
消毒剤の特徴を理解し適切に使用することで、感染力の強いノロウイルスなどの感染症の拡大を未然に防ぐことができます。
今回は国試過去問を通し、消毒対象をトイレを含めた生活空間に絞って解説していきます。
【過去問題】
問89粘膜に使用される消毒薬はどれか。1つ選べ。
- 1 グルタラール
- 2 過酢酸
- 3 消毒用エタノール
- 4 ベンザルコニウム塩化物
- 5 フェノール
解説
では、各消毒薬の簡単な特徴からみていきましょう。非常時に使える知識の前提として、まずは普段の扱い方を覚えておいてください。
-
1 グルタラール
消毒薬水準区分:高水準
毒性が強いため人体には使用できません。主に内視鏡など医療機器の殺菌消毒に使用されています。 -
2 過酢酸
消毒薬水準区分:高水準
毒性が強いため人体に使用できません。特に蒸気は呼吸器や眼の粘膜を刺激するので注意が必要です。グルタラールと同様に器材の消毒に使います。 -
3 消毒用エタノール
消毒薬水準区分:中水準
芽胞以外の微生物に有効で、手指、皮膚、医療機器にも使用できます。 -
4 ベンザルコニウム塩化物
消毒薬水準区分:低水準
陽イオン界面活性剤(逆性石鹸)のため、通常の洗濯石鹸と併用してしまうと殺菌力が低下するので注意が必要です。 -
5 フェノール
消毒薬水準区分:中水準
水性絵具のような独特のにおいがあります。環境省では排水規制5mg/Lと定めているため、使用後の排水には注意が必要です。
– 実務での活かし方 –
1995年の阪神・淡路大震災の教訓から、自然災害時には生活必需品や食糧、水、医薬品などは迅速に各避難所等へ配布されるようになりました。しかし、消毒薬となるとその供給量はかなり減ります。また、届けられたとしても、薬品名はもちろん希釈濃度も異なるものが数多く寄せられる場合もあります。さらに希釈が必要な消毒薬の場合は、希釈するための水や計量器の確保が必要になるなどの不測の事態も考えられます。このように災害発生時には、限られた条件や物資で最大限の用途を満たす必要が出てきます。
避難生活のように日常生活とは異なる場において、薬剤師がマスターすべき消毒薬は「次亜塩素酸ナトリウム」。希釈濃度によって飲料水や食器などの消毒も可能なうえ、抗微生物スペクトルも非常に幅広く、有用な消毒薬です。
■使うもの
- 家庭用漂白剤(塩素濃度5~6%)
- 500mlのペットボトルと、そのキャップ(1杯で約5ml)
■用意する次亜塩素酸ナトリウムの濃度と、その用途
濃度 | 作り方 | 用途 |
---|---|---|
0.1% | キャップ2杯+水500ml | 嘔吐や排泄物の処理 |
0.05% | キャップ1杯+水500ml | トイレの消毒 |
0.02% | キャップ0.5杯+水500ml | 食器の消毒 |
0.0001% | キャップ3杯+水250ml混合したものを原液とし、原液をキャップ1杯+水※15L | 飲用水として使用可 |
※水道水の源水となりうる、雨水や山からの湧き水(川の上流)が対象。井戸水の場合は、水質検査済みのものであれば問題ありません。未検査であったり、普段使用していない井戸水の場合は煮沸してから使用しましょう。
0.0001%について少々補足をしますと、ここでの原液はキャップ3杯の次亜塩素酸ナトリウム+水250mlです。この「原液」をキャップに1杯取り、15Lの水と混ぜることによって飲用水として使用できます。ここで注意したいのが、飲用可能になるのは混合してから30分後であること。なお食器用漂白剤には、かるい汚れを取るための界面活性剤が入っているため、代用はNGです。覚えておきましょう。
「飲用水15L」といわれてもどれくらいの量に相当するのか、あまりイメージできないかもしれません。災害時に必要な水の量は、1人1日あたり3Lといわれています。4人家族なら、15Lの水があれば少し余裕をもつことができますね。
次亜塩素酸ナトリウムは生活用品の消毒だけではなく、雨水などから飲用水も作ることのできる唯一の消毒剤です。
頭ではわかっていても、いざというときにはなかなかとっさに対応できないもの。今回ご紹介したのは身の回りにあるものばかりですので、ぜひ一度試してみてください。
下記のようなマニュアルも公開されていますので、日頃から目の届く所に掲示しておくのもよいでしょう。
参考:水害時の消毒法