薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
感冒症状や花粉症状が発現する時期、「副作用がない」という思い込みにより、併用されてしまう漢方薬が多くあります。
構成生薬まで正しく理解・確認して調剤、投薬していますか? 薬の名前が異なっているから大丈夫と見逃してしまったり、患者からも「漢方薬だから平気」と服用している漢方薬の名称を知らせてもらえなかったりと、薬剤師泣かせの製剤です。
漢方薬の取り扱いが難点となるのは、構成生薬の多さと名称が複雑であること。構成生薬は、多いものだと1剤あたり16種類前後まで増えます。また名称は原則、構成生薬に関する文字が列記されますが、構成生薬が多くなるほどその法則は見当たりにくくなります。結果として2~3種類の漢方薬が処方された場合、その構成生薬は半分近く重なっているのが多々あるケースです。
今回はこの構成生薬の中でも、漢方薬に含有されている確率が非常に高い「カンゾウ(甘草)」について、第101回薬剤師国家試験過去問から注意点を確認していきます。
【過去問題】
35歳女性。体重 45kg。昨夜より 40℃の発熱が続いたため、医療機関を受診した。発汗はなく、全身の関節がひどく痛かった。下記表の生薬を含む漢方エキス細粒が処方された。なお、処方量は常用量である。
生薬名 | 1日量 |
---|---|
マオウ | 5.0 g |
キョウニン | 5.0 g |
ケイヒ | 4.0 g |
カンゾウ | 1.5 g |
問214(実務)
この漢方処方について、薬剤師が留意すべき点として誤っているのはどれか。1つ選べ。
- 1 浮腫が出現することがある。
- 2 動悸を起こすことがある。
- 3 発汗を促すため、水分補給が必要である。
- 4 高カリウム血症を起こすことがある。
- 5 甲状腺機能亢進症の患者には、慎重に投与する必要がある。
4
解説
1:「浮腫」はカンゾウの代表的な副作用症状です。
2・3・5:「動悸」「発汗」はマオウの代表的な副作用症状であり、激しい動悸は甲状腺機能亢進患者の状態を悪化させる可能性があります。
4:下記解説に示すように、高カリウム血症ではなく低カリウム血症を引き起こす可能性があります。
よって解答は4です。
次に、代表的な構成生薬の副作用を確認していきます。
マオウ(エフェドリン)
交感神経興奮、中枢神経興奮効果あり。主な副作用として不眠、発汗過多、頻脈、動悸、精神興奮、排尿障害等が発現する可能性があります。
カンゾウ
抗炎症作用(グリチルリチン酸40mg/g)あり。主な副作用として偽アルドステロン症があります。具体的な症状としては、低カリウム血症、血圧上昇、ナトリウム・体液の貯留、浮腫、体重増加などです。
– 実務での活かし方 –
カンゾウは医療用漢方薬148品目中109品目と極めて高頻度に使用されている構成生薬。当然薬剤師国家試験での生薬として登場回数も断トツですので、皆さんにもおなじみの生薬ですね。しかしこのカンゾウ、70%以上の医療用漢方薬に入っているにも関わらず、漢方薬の名称としてカンゾウが含まれることを連想させる「甘」という字が入っている薬剤名は、甘草湯を入れてもわずか10品目のみ。それ以外の約100品目については自身の知識と経験が頼りとなります。
カンゾウといえば、その薬効もさることながら、副作用である偽アルドステロン症(低カリウム血症、高血圧、代謝性アルカローシス、低カリウム血性ミオパチーなど/下記表1参照)が薬剤師国家試験でも多数挙げられてきました。
表1:偽アルドステロン症について
発症時期 | 40%の確率で3ヶ月以内に発症 |
---|---|
初期症状 | 初期症状 60%:四肢脱力・筋力低下 35%:高血圧 ※残り5%は、少数な事例 |
リスク因子 | 男:女=1:2 |
高齢者 | |
下記対象薬剤の過剰摂取、長期連用 | |
対象薬剤 | カンゾウ含有漢方製剤、ループ利尿薬、チアジド系利尿薬(ARB製剤との合剤にも注意) インスリン、グリチルリチン配合剤、副腎皮質ステロイド、甲状腺ホルモン |
発症する可能性のある用量 | グリチルリチン酸として150mg/日以下でも発症。 カンゾウの1日量は1.0~8.0g。(グリチルリチン酸として40~320mg) |
K値と症状 | 3.5mEq/L以下:低カリウム血症と診断 |
2.5mEq/L以下:脱力感、弛緩性麻痺 | |
2.0mEq/L以下:心室細動、横紋筋融解 |
また、カンゾウによる低カリウム血症の発現機序は、以下で確認しておきましょう。
<カンゾウによる低カリウム血症の発現機序>
グリチルレチン酸(※1)が11β-HSD(※2)の活性化を制御
↓
コルチゾンに変換されるはずのコルチゾールが、
ミネラルコルチコイドレセプターに結合
↓
ナトリウムの再吸収・カリウム排泄の増加を誘因
↓
低カリウム血症が発現しやすくなる
※1 カンゾウ含有成分グリチルリチンの代謝産物
※2 11β-水酸化ステロイド脱水素酵素
事例
タイトルの3剤は「足がつりやすいから芍薬甘草湯」「体力低下に人参湯」「花粉症状に小青竜湯」のような臨床症状に用いられることが多い漢方薬。これらの症状を併発した場合を考えてみます。まずはその前に、下記表2にてカンゾウを多く含有している漢方薬を確認しておきましょう。
表2:カンゾウを多く含有している漢方薬
甘草含有量 | 製剤名 |
---|---|
8g | 甘草湯 |
6g | 芍薬甘草湯 |
5g | 甘麦大棗湯 芍薬甘草附子湯 |
3g | 黄芩湯 黄連湯 桔梗湯 芎帰膠艾湯 桂枝人参湯 五淋散 小青竜湯 人参湯 排膿散及湯 附子理中湯 |
併用しようとしている漢方薬のカンゾウの含有量は、表3より芍薬甘草湯6g、人参湯3g、小青竜湯3gとなり、カンゾウとして合計12g/日(グリチルリチン480mg/日)となります。
カンゾウの有効用量は1-8g/日が目安であり、低カリウム血症発現の事例報告でカンゾウ1-2g/日からでも発症する可能性があるため、危険であることがうかがえます。さらにここに「足がつりやすい」「体力低下」といった症状からこの事例の3剤を併用しやすい患者は高齢者の可能性が高くなり、副作用発現のリスク因子も増え、極めて危険な併用であることがわかります。
生薬由来だから安心だと考えている患者(特に高齢者)相手に、漢方薬の多剤併用の危険性を指摘することは難しいもの。しかし、漢方薬にも死亡報告はあります。十分な併用薬確認を行うようにしましょう。