薬機法改正、意識変わる契機に~日本薬剤師会・乾英夫副会長に聞く
政府は19日に医薬品医療機器等法(薬機法)の改正案を閣議決定し、今国会に提出した。改正案は、厚生科学審議会医薬品医療機器制度部会が昨年12月にまとめた報告書を踏まえたもので、薬剤師・薬局関連では、薬局の機能別認証制度の導入や、服薬期間中の患者フォローを薬剤師に義務づけることなどを盛り込んでいる。法改正に向けた動きが本格化する中、今後、薬剤師の業務や薬局のあり方がどう変化するのか、制度部会で委員を務めた日本薬剤師会の乾英夫副会長(写真)に聞いた。
薬局の機能別認証制度導入‐まずはかかりつけ発揮を
――薬機法改正案では、薬局を機能別に「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」に分類することが提案されている。今後、薬局のあり方はどう変わるか。
法改正について議論した制度部会では、「国はかかりつけ薬剤師・薬局の推進を目指していると言うが、現状では薬局薬剤師の仕事ぶりが、患者に見えない」という厳しい指摘があった。
そうした意見を踏まえ、今回の薬機法改正で、かかりつけ薬剤師・薬局の業務をより明確に見える形で示すために、薬局機能別の都道府県知事の認定制度が導入されるのだと認識している。
また、薬剤師が必要に応じ、患者の服用期間を通じた一元的・継続的な把握を行うことも法律で明確化されるほか、医療機関の医師等に情報提供し、連携することも努力義務となる。
国は2025年、40年に向けた社会保障改革を進めており、その姿に向かって薬剤師・薬局が地域包括ケアの中でより活躍できるようにするため、薬局関連の法改正が行われると理解している。
日薬としても、「現状では仕事ぶりが見えない」と言われてしまっている以上、都道府県薬剤師会を通じて薬局機能の見える化を進めるための努力は継続して行うが、今回の法改正により、現場の薬剤師も開設者も「変わらなければ」ということを自覚するきっかけになるのではないか。
――地域連携薬局と健康サポート薬局の棲み分けがはっきりしないという声も聞かれる。
健康サポート薬局は、省令により規定されているもので、一定の基準をクリアした薬局が都道府県に届け出ることで標榜できる。一方「地域連携薬局」「専門医療機関連携薬局」は法律で規定され、都道府県知事が認定する仕組みで、制度面での違いがある。
健康サポート薬局は、かかりつけ薬剤師・薬局の基本的な機能と健康サポート機能を併せ持つことが要件となっているので、かかりつけ機能を有することが主要件となるであろう地域連携薬局と大きく変わることはないと思われるし、個人的な印象としては、健康サポート薬局であれば、地域連携薬局の要件はクリアできるのではないかと思っている。
今後、どう整合性を図っていくかという課題はあるかも知れないが、機能面ではそれほど大きく変わらないと考えている。健康サポート薬局は、全ての薬局がなれるわけではないが、すべての薬局がかかりつけ機能を持つという点からすれば、多くの薬局が目指すべきではないか。
――制度部会の報告書では、こうした機能を持った薬局を診療報酬で適切に評価することを求めている。
正確には、「患者のための薬局ビジョンに掲げた医薬分業のあるべき姿に向けて、診療報酬・調剤報酬において医療機関の薬剤師や薬局薬剤師を適切に評価することが期待される」と明記されている。
ただ、仮に機能を標榜できるようになったからといって点数評価につながるということではない。あくまで、薬局がしっかりと機能を発揮し、患者がメリットを実感できる状態になることが前提だと思う。薬局が地域で活躍できるよう、機能を明確化し、標榜するというのが法改正の趣旨なので、まずは地域でかかりつけ機能を発揮することが大事だと考えている。
服用期間中のフォロー義務化‐全薬剤師が取り組むべき
――薬剤師が調剤時に限らず、必要に応じて患者の薬剤の使用状況の把握や服薬指導を行うことを義務化したり、情報をほかの医療機関の医師らに提供したりすることも努力義務となる。
日薬としても、服薬状況の一元的な把握はもちろん、服用期間中も必要に応じて継続的な管理・服薬指導を行う重要性をこれまでも発信してきたし、薬局ビジョンにもそうした方向性が示されているので、全ての薬剤師・薬局で取り組む必要があると思っている。医療機関と連携した患者情報の共有化も必要に応じて進めていかなければならない。
調剤報酬でも、かかりつけ薬剤師指導料、地域支援体制加算など、こうした取り組みに対する評価が存在するが、法改正をきっかけに、薬局も自信をもって進めることができるようになるのではないか。
服用期間中の継続的な把握が、まさか法律にまで規定されるようになるとはという思いはあるが、薬剤師がしっかり仕事をし、かかりつけ機能を発揮する上で、必要なことだったと理解している。
――服用期間中のフォローが必要かどうかは現場の判断に委ねられる部分が大きい。日薬として考えを示すべきでは。
具体的にどう進めていくのかということについて、いま日薬内でも検討しているところだ。ガイドラインのようなものにすべきかは現時点で明確ではないが、全ての薬剤師・薬局がスムーズに取り組めるよう、日薬として目安になるものを示していきたい。
地域の中で顔が見える存在へ
――今回の法改正により、かかりつけ薬剤師・薬局のあり方はどう変化していくと考えるか。
いままで、かかりつけ薬剤師・薬局といっても、よく行く薬局というイメージしかなかったかもしれないが、これからは、それぞれの薬局が持つ機能が明確になるので、かかりつけ薬剤師・薬局を必要とする患者さんには、薬局の機能を理解した上で、選んでもらうようになるだろう。
より推し進めれば、地域包括ケアの中での薬剤師の立ち位置が鮮明となり、地域の患者さんや他の医療職種にとっても薬剤師・薬局が顔の見える存在になると思う。逆に機能が発揮できなければ、地域包括ケアの中で薬剤師が主体的に責任を持って取り組む姿が見えなくなってしまう。
――制度部会では、法改正の範囲にとどまらず、医薬分業に対する厳しい意見が出た。
残念ながら、多くの薬剤師は医師の処方通りに調剤し、通り一遍の説明をしているだけではないかという意見もあり、そのたびに「私の周りの薬局はしっかりやっている」と事例を挙げて説明したが、「それをやるのは当たり前」などと言われてしまった。今回の薬機法改正を契機に、「見える化」について、さらに取り組めるような環境が整えられればと考えている。
これまでの医薬分業を振り返ると、処方箋の受け入れに重きを置いたという部分はあるのかも知れないが、多くの薬剤師・薬局は地域で必要とされる取り組みを進めている。地域住民にとって薬局の機能、薬剤師の役割・職能がはっきり見え、メリットが実感できるようになってはじめて、主張に説得力が出ると思っているので、報告書の内容は真摯に受け止め、取り組めることは法改正を待たずに進めていきたい。
出典:薬事日報
薬+読 編集部からのコメント
今国会に提出された薬機法の改正案について、日薬の乾英夫副会長が薬事日報の取材に回答と指針を述べています。現状、患者の立場からはブラックボックスに等しい形となる薬局薬剤師の仕事について、乾副会長は「見える化」への変身が必要と感じており、全薬局がかかりつけ機能を持つことからも、多くの薬局が「健康サポート薬局」を目指すべきとの考えを示しました。