薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!
第16回 要注意! 注射製剤使用時のルートやフィルターによる配合変化
レボドパ製剤と鉄剤によるキレート形成などの内服薬同士による配合変化や、散剤の組み合わせによっては湿潤、変色などの化学変化を起こすことがあります。これらは保険薬局薬剤師が薬局内で添付文書を確認して、患者への注意喚起が可能です。しかし、注射剤を使用する在宅の場合では、医師・看護師・介護者によって注射剤同士や輸液との混合が多く見受けられます。
本来、注射剤の多くは難溶性成分を水溶性にして製剤化されていることから、散剤などに比べると配合変化を起こす頻度も多いもの。しかし点滴ルート内での変化などに注意が行き届かないことがしばしば見受けられます。注射剤による配合変化は、薬剤師が医薬品インタビューフォームなどでその組成を充分理解していれば、防止可能です。
今年行われた薬剤師国家試験第102回から、その注意事項を確認しましょう。
【過去問題】
病棟の看護師より、「点滴中の患者に対し側管からブロムヘキシン塩酸塩注射剤を投与後、同一の側管より続けてフロセミド注射剤を投与してもよいか。」との問い合わせがあった。薬剤師は看護師に回答するため、両薬剤の pH 変動スケールに関する情報を収集し、以下の情報を得た。
問302(実務)
両薬剤の pH 変動スケール及び配合変化に関する記述として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 1Aはブロムヘキシン塩酸塩、Bはフロセミドである。
- 2AとBを比較すると、緩衝性の強いのはBである。
- 3両薬剤が輸液ライン内で混合された場合、混合液の pH は 4.7以上 6.3以下となる。
- 4フロセミド注射剤を先に投与し、続けてブロムヘキシン塩酸塩注射剤を投与すれば白濁は生じない。
- 5両薬剤が輸液ライン内で混合されて白濁を生じる可能性が高いので、それぞれ投与前後に生理食塩液等を流す。
1、5
解説
- 1:フロセミド注は酸性薬物の代表的製剤であり、注射剤ではpHをアルカリ性にすることで溶解させています。したがって、pHが酸性側になると析出し白濁します。このことからBのpH変動スケールはフロセミドであることが分かります。
- 2:緩衝能とは、外部から少量の酸や塩基が加えられても、そのpHがほぼ一定に保たれる性質のことを指します。この緩衝性を判断する場合は、移動指数を比較しましょう。
Aの注射剤(ブロムヘキシン塩酸塩注射剤)の酸性領域は0.1mol/LのHCIを加えた際に、pHが2.8から1.3に変化していることから、移動指数は1.5。同様にBのpH変動スケールを見ると、pHが9.4から6.3へ変化していることから、移動指数は3.1となります。移動指数が小さいほど緩衝性は強まりますので、緩衝性が強いのはAと判断できます。
また、塩基性領域では0.1mol/LのNaOHを加えた場合のpH変化でも判断可能です。この条件における移動指数は、Aは1.9で、Bは3.3。A、Bの移動指数を比較すると、酸性領域、塩基性領域どちらにおいてもAの移動指数の方が小さい値ですので、緩衝能はAの方が強いことが分かります。 - 3:試料pH2.8の酸性注射剤と、試料pH9.4の塩基性注射剤が、輸液ライン内で混合した際のpHは2.8以上9.4以下となる。
- 4:pHが2.8~9.4の場合、混合した2剤のどちらかの注射剤が白濁します。そのため同一の側管を介して投与した場合、側管内に残留したフロセミド注射剤とブロムヘキシン塩酸塩注射剤が反応して、白濁する可能性があります。
- 5:同一の側管を介して投与すると、側管内に残留した注射剤と続けて投与する注射剤が反応して白濁する可能性があります。そのため、それぞれの注射剤投与前後に生理食塩液、もしくは注射用水でフラッシュする(洗い流す)ことで、側管内に注射剤が残留しないようにすることが必要です。
– 実務での活かし方 –
注射薬は本来単独投与が想定されており、単独で使用するときの安定性を維持するために、添加物(溶解剤・pH調整剤・安定化剤・防腐剤)が加えられています。しかし、現場では2種類以上の注射剤を混合して投与することが当たり前になっています。
このように混合投与したときに「主薬と主薬」だけではなく「主薬と添加物」や「添加物と添加物」の反応によっても、配合変化が生じます。注射剤の配合変化の例としては、沈殿の発生や白濁・混濁などの外観上の変化だけでなく、有効成分の低下などがあります。
また沈殿物が生じると、輸液ラインフィルターが詰まってしまい、静脈炎などを引き起こすことにもつながります。これらの配合変化はその発生機序により、大きく以下のように分類できます。
要因 | 分類 | 現象 | 代表例 | |
---|---|---|---|---|
物理的 配合変化 |
溶解性 | 主薬が低溶解度 | 0.5溶解に100ml以上必要 | カルバペネム系抗生物質 |
非水溶性 | 水による溶解にて主薬が析出 | ジアゼパム、フェノバルビタール、フィニトイン | ||
化学的 配合変化 |
濃度 | 溶解後の主薬剤の分解促進 | アンピシリン | |
pH変動 | pH変化に伴う混濁や白濁 | pH3.0以下の強酸性、pH9.0以上の強アルカリ性 | ||
酸一塩基反応 | 難溶性塩の生成 | グルコン酸カルシウム製剤 | ||
酸化一還元反応 | フェノール、カテコール骨格の酸化的分解 | ドパミン製剤、アルカリ性製剤 | ||
加水分解 | 酸化防止剤(亜硫酸塩)による加水分解による力価低下 | ネオパレン輸液、ビーフリード輸液、ネオアミュー輸液 | ||
エステル結合含有製剤 | ガベキサートメシル酸塩、アルカリ性 | |||
光分解 | 紫外線による薬剤分解 | ビタミン製剤(A・B2・B12・K)、カリウム製剤 | ||
コロイド形成 | 生理食塩液などの電解質溶液との混合 | 高カロリー輸液用微量元素製剤、生理食塩液 | ||
メイラード反応 | カルボニル基とアミノ基の反応 | ブドウ糖配合輸液、アミノ酸製剤 | ||
その他 | 吸着 | ポリ塩化ビニル(PVC)製の輸液バッグ・セットへ吸着し主薬の含量低下 | ニトログリセリン、インスリン、硝酸イソソルビド、シクロスポリン、ベンゾジアゼピン誘導体 | |
溶出 | 可塑剤とある種の溶媒との接触による可塑剤の溶出 | ・可塑剤:フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP) ・接触する溶媒:ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリソルベート80など ・接触する溶媒を含有する薬剤:タクロリムス水和物、プロポフォールなどの脂肪乳剤、パクリタキセルなど |
成分名 | 代表的な製剤 | |
---|---|---|
pH3.0以下の強酸性注射剤 | ブロムヘキシン塩酸塩、ミノサイクリン塩酸塩、メトクロプラミド | ビソルボン注、ミノマイシン点滴静注、プリンペラン注 |
pH8.0以上の強塩基性注射 | オメプラゾールナトリウム、含糖酸化鉄、フルオロウラシル、フロセミド、ランソプラゾール | オメプラール注用、フェジン静注、5-FU、ラシックス注、タケプロン静注用 |
事例
薬剤同士の配合変化に関しては、医薬品インタビューフォームはもちろん、メーカーからも多くの情報が提供されています。そのため、情報を適切に管理していくことで、配合変化の予防は可能です。
ただし最近は、点滴ルートの材質や、輸液フィルターへの残液による配合変化にも注目が集まっています。なかには患者の健康に直接作用する配合変化も出てきていますので、以下で確認しましょう。
油性製剤 | 脂肪乳剤 | ||||
---|---|---|---|---|---|
シクロスポリン | エトポシド | タクロリムス | 高カロリー輸液用ビタミン | ダイズ油 | |
輸液フィルター(0.22μm) | 目詰まり | 溶解 | 目詰まり | 目詰まり | 目詰まり |
輸液ライン(ポリ塩化ビニル製剤) | 使用を避ける | 使用を避ける | 使用を避ける | 使用しないことが望ましい | 使用しないことが望ましい |
医療関係者における医療器材との配合変化の意識は、注射製剤同士の配合変化に比べ、いまだ高くありません。中心静脈カテーテルなど、特別なルート確保に注意を払う医師は多いですが、非常に多くの業務を抱えている看護師の場合、そうはいきません。注射薬の配合変化に気が回らなかったり、できるだけ一度に短時間で手際よく、また感染を起こさないためにも、必要以上のルートの設置や3方活栓の多用、手技前後のフラッシュを省略したり…という事態が起こりやすくなります。
そのなかで薬剤師は、注射製剤の特性を熟知し、使用される環境での影響を考慮することが大切です。このような観点からの情報を医療現場の医師・看護師など連携する関係者に適切にフィードバックしていくことで、薬剤師の必要性をより向上させていきましょう。