薬剤師国家試験過去問 更新日:2019.04.19公開日:2018.04.05 薬剤師国家試験過去問

薬剤師国家試験は薬剤師なら誰もが必ず通った道。毎年、試験の難易度や合格率が話題になりますが、国試は“現役薬剤師”として基本的な知識を再確認するチャンス。橋村先生の解説で、国家試験の過去問を「おさらい」しましょう!

第23回 世界初のPDE4阻害剤アブレミラスト、尋常性乾癬の内服を安全にコントロールする<対応薬一覧表つき>

乾癬とは、皮膚が赤く盛り上がり、表面に白い垢(あか)が厚く付着し、その一部がポロポロとはがれ落ちる皮膚疾患。特に慢性的に刺激を受けやすい頭部、肘・膝、臀部、下腿伸側に好発します。決して他人に感染する疾患ではありませんが、未だ感染疾患のイメージが残っているのも事実です。この疾患に対して25年ぶりに登場した新規作用機序の内服薬を、薬剤師国家試験第100回 問306から確認していきましょう。

【過去問題】

第100回 問306-307のうち問306から出題

問306-307

32歳女性。皮膚科より尋常性乾癬と診断を受け、以下の薬剤を初めて服用することになった。なお、医師からは治療の説明を受けている。
エトレチナートカプセル 10mg 1回2カプセル(1日4カプセル)
1日2回 朝夕食後 14日分

問306(実務)

薬剤師は、処方せん受付時に、患者が医師から受けた説明内容を確認した。この薬剤を使用するにあたり、確認すべき項目のうち、優先度が高いものはどれか。2つ選べ。

  • 1日光浴
  • 2避妊
  • 3食事の回数
  • 4起床時間
  • 5献血

<解答>2、5

解説

こちらの問題は、エトレチナートに関する基本的であり重要な確認事項です。

  • 1:適度な日光浴は尋常性乾癬の症状緩和につながります。
  • 2:催奇形性があります。投与中及び投与中止後、少なくとも女性は2年以上、男性は6ヶ月以上の避妊が必要です。
  • 3:食事の回数には影響されませんが、食事の内容には影響されます。脂溶性が高く、高脂肪食においては下記のようにかなり血中濃度が上昇するため、注意が必要となります。例えば、本剤1mg/kgを牛乳480mLで服用した時の血清中濃度は、水で服用した時と比べて約260%に増加した例や、本剤を高脂肪食(脂肪111g)と服用した時の血漿中濃度は、絶食時服用の約450%に増加した例があります。
  • 5:本剤は催奇形性と共に副作用の発現頻度も非常に高い(71.0%)ため、投与中及び投与中止後少なくとも2年間は献血を行ってはいけません。

– 実務での活かし方 –

まず原因について、不明瞭な点も多くありますが、遺伝的素因(肝臓病や糖尿病など)に様々な環境因子(不規則な生活や食事、ストレス、肥満、感染症、特殊な薬剤など)が加わると発症すると言われています。有病率としては欧米白人が2~3%と高く、日本では0.1%前後で、10万人以上の患者さんがいると推定されています。男女比は2対1で男性が多くなっています。

乾癬の皮膚の特徴は、炎症を起こす細胞が集まって活性化し、毛細血管が拡張するため、皮膚が赤みを帯びた状態になるという点。また表皮細胞は、通常の皮膚の場合、角化により角質細胞としてはがれ落ちるまでに28日程度のサイクルを要するところ、乾癬患者の皮膚は7日程度の速さで新陳代謝されるため、過剰生産となり、この過剰生産された表皮細胞はもろく、鱗屑となってはがれ落ちます。一般的な治療法としては外用療法、光線療法、内服療法、注射療法がありますが、症状が軽度の場合には主に外用薬、重度になると内服薬や光線療法で治療します。

1.外用療法
外用療法は乾癬治療の基礎。表皮の増殖を抑える効果のあるビタミンD3外用薬(タカルシトール水和物:ボンアルファ他、カルシポトリオール:ドボネックス®)と、炎症を抑えるステロイド外用薬が主体となります。これまでは両者の有効性を活かすため、重ね塗りや混合などを行っていました。最近では両者の配合薬が発売され、用法も1日1回で済むため、利便性が向上しています。

2.光線療法
光線療法の作用機序は、紫外線の増感剤(メトキサレン)を発疹部に塗り、病因となる細胞が取り除かれる(アポトーシスに陥る)点と、制御性T細胞の誘導などが考えられています。使用する光線の種類で、以下の2つに分類できます。

  • UVA(紫外線A波)を使用:
    「PUVA療法」紫外線に敏感になる薬剤(ソラレン)に長波長紫外線(UVA)照射を組み合わせたものです。
  • UVB(紫外線B波)を使用:
    「UVB療法」ソラレンなどの薬剤を使わず、中波長紫外線(UVB)(波長:311 nm)付近照射を行います。311~312 nm Narrow band UVB(NBUVB)や308 nm エキシマライトを使用します。通常週に2~3回の頻度で照射を行います。

3.内服療法
内服療法としては、免疫抑制作用を有するシクロスポリンや、角化異常症治療薬でビタミンA類似物質であるエトレチナートなどがあります。2016年11月に新規作用機序(後述)のアブレミラストが発売されました。

  • シクロスポリン(ネオーラル・サンディミュン®他):
    T細胞に作用し、IL-2など乾癬症の原因となるサイトカインの産生を抑制する効果があります。血圧上昇や腎臓の障害といった特徴的な副作用が起きることがあるので、服用中は定期的な検査が必要になります。
  • エトレチナート(チガソン®):
    皮膚の新陳代謝を調節する働きがあります。皮膚や粘膜に副作用(口唇のかさつき、手足の皮むけなど)が起こる他に、男女とも服用中に子供ができると奇形が生じる危険があるので注意が必要となります(服用前に同意書が必要)。また内服中止後も女性で2年間、男性で6ヶ月間避妊する必要があります。
  • アブレミラスト(オテズラ®):
    局所療法で、効果不十分な尋常性乾癬の症状の改善が期待される、世界初のPDE4阻害剤の内服薬です。(詳細は後述)

4.生物学的製剤による治療
既に関節リウマチなどで使用されていた生物学的製剤のうち、2010年1月から抗ヒトTNFαモノクローナル抗体製剤であるインフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)に、乾癬に対し適用が追加されました。近年発売された下記の薬剤は乾癬関連にのみ適応を持つ製剤となっており、2011年1月に抗ヒトIL-12/23 p40モノクローナル抗体製剤のウステキヌマブ(ステラーラ®)が承認され、2015年2月に抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体製剤のセクキヌマブ(コセンティクス®)が承認されています。そして、2016年7月に承認された抗ヒトIL-17受容体Aモノクローナル抗体製剤のブロダルマブ(ルミセフ®)とイキセキズマブ(トルツ®)です。これらの生物学的製剤の承認追加により、重症乾癬における治療の選択肢が増え、皮疹発現のコントロールが非常に向上しています。

事例

乾癬症の患者の免疫細胞や表皮組織では過剰にPDE4が産生されており、細胞内cAMP濃度の低下によって炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-22、IL-23、IL-17、INF-γなど)が産生されます。この過剰なサイトカインの産生により表皮の角化細胞が増殖することで、乾癬症状が発現しています。このように乾癬症状の原因になっている過剰なPDE4を阻害することで低下している細胞内cAMP濃度を上昇させ、上記炎症性サイトカインの産生を制御することにより、炎症反応を抑制することが可能な内服薬・アブレミラスト(オテズラ®)が、2016年11月に発売されました。
この薬剤は、長期にわたる避妊などの規制や血圧上昇や腎臓の障害などの発現がない薬剤です。これまで効果が高い薬剤はすべて注射剤であったため、通院もしくは自己注射、高額な自己負担など患者の負担が大きかったことを考慮すれば、自宅での内服で同様の皮疹コントロールが期待できることは大きなメリットになります。

成分名 作用機序 剤型 投与方法 投与間隔 薬価
インフリキシマブ TNFα 注射 皮下注 初回投与後、2週、6週に投与。その後8週毎 83,243円
アダリムマブ 自己注射 2週間に1回 40㎎注    65,144円  
セクキヌマブ IL-17

初回投与後、1週、2週、3週、4週後に投与。その後4週毎 シリンジ   73,432円
イキセキズマブ 初回投与後、2週~12週までは2週毎、その後4週後に投与。※用量変化あり シリンジ  146,244円
ブロダルマブ 皮下注 初回投与後、1週、2週後に投与。その後2週毎 73,158円
ウステキヌマブ IL-12/23

初回投与後、4週間後に投与。その後12週毎 438,739円
シクロスポリン IL-2

内服 内服 1日2回毎日 50㎎カプセル 442.5円
アブレミラスト PDE4

6日目まで用量変化ありそれ以降1日2回毎日 30㎎錠 972.6円
エトレチナート 合成レチノイド 導入期あり。1日1~3回毎日 25㎎カプセル 827.1円

副作用としては、嫌悪感を覚えやすい症状(悪心や下痢、頭痛)の発現率が5%以上とがやや高い確率で発現しています。
投薬時に予め上記の様な症状発現の可能性を情報提供し、発現時の対処方法など含めた声かけを行いましょう。

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター。

ファーマブレーングループ オフィス・マントル:http://mantle-1995.com

橋村 孝博(はしむら たかひろ)

クリニカル・トキシコロジスト、スポーツファーマシスト、麻薬教育認定薬剤師資格を有する薬剤師。
明治薬科大学卒業後、大学病院、中堅総合病院、保険薬局に勤務。
愛知県薬剤師会 理事。緩和医療薬学会評議員。金城学院大学薬学部研究員。ICLSアシスタントインストラクター

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