1.そもそも薬学部とは
薬学部とは、薬に関する専門知識を身に付ける場所です。患者さんの病気の治療や健康維持には、薬が必要となる場合があります。適切な薬の使用のために、化学や物理、生物をはじめ、薬の製造過程を学ぶ「製剤学」、栄養と健康や公衆衛生について学ぶ「衛生薬学」などを学びます。
さらに薬剤師を目指す場合には、薬剤師としての倫理観や多職種連携、コミュニケーションスキル、薬学臨床について学び、薬剤師に必要な知識やスキルを身に付けるためのカリキュラムが用意されています。
2.薬剤師を目指すなら薬学部への進学は必須?何年通えばいいの?
薬剤師になるには、必ず薬学部に進学し、6年間通う必要があります。なぜなら、6年制薬学部の卒業者にのみ、薬剤師国家試験の受験資格が与えられるからです。ここで注意したいのが、6年制の薬学部に進学する必要があることです。実は、薬学部によっては4年制と6年制の2つがあり、同じ薬学部であっても、4年制卒業では受験資格が得られません。薬剤師になりたいなら、必ず6年制の薬学部に進学しましょう。
🔽 薬剤師になる方法を詳しく解説した記事はこちら
3.薬学部の4年制と6年制の違いやそれぞれの目的
薬学部には4年制と6年制がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。それぞれの目的や学べる内容の違いについて解説します。
3-1.4年制の目的
4年制の薬学部は、化学や薬学の分野で活躍できる研究者を育てることを目的としています。6年制との大きな違いは、研究を重視している点です。4年制では薬学の基礎知識を学んだ後、国家試験対策や実習などに時間を取られることなく、専門性の高い研究に集中することができます。
大学でしっかり研究をしたい人や製薬企業の開発部門に興味がある人におすすめの学部といえるでしょう。ただし、卒業しても、薬剤師国家試験の受験資格が得られない点には注意が必要です。
3-2.6年制の目的
社会で活躍できる薬剤師の養成を目的としているのが、6年制の薬学部です。基礎薬学や医療薬学など薬学の知識を幅広く学んだ後、臨床で必要な知識や薬剤師としての倫理観・態度を身に付けます。4年制と同じく、研究室に配属された後に専門的に学びを深めますが、6年制では病院と薬局で実務実習を行うなど、実際に薬剤師として働くときに必要となる臨床薬学を学ぶのが特徴です。
🔽 薬局実習について解説した記事はこちら
4.薬剤師取得を目指すために薬学部が6年制になった理由
2006年以前は4年制の薬学部を卒業していれば、薬剤師資格を取得できました。しかし、学校教育法と薬剤師法が改正され、2006年度より6年制の薬学部を卒業した人にのみ薬剤師国家試験の受験資格が与えられるようになりました。その理由について解説します。
4-1.なぜ薬学部が6年制になったのか
薬学はもともと、医薬品や化学物質などの「モノ」を対象とする学問でした。しかし薬の「処方」と「調剤」を医師と薬局薬剤師が分担する「医薬分業」や、医療チームの一員として病院薬剤師の役割が求められるようになり、「人」の薬物治療を対象とする学問への発展が求められました。
実際に、文部科学省が公表する資料「薬学教育の改善・充実について(最終報告)」によると、「1990年(平成2年)と2000年(平成12年)の薬学部の卒業生の進路を比較すると、薬剤師として業務に就いた人が増え、6割以上伸びている」と報告されています。
そうした状況下にもかかわらず、当時、薬剤師養成のための教育は十分とは言えず、臨床経験が積めないなどの課題がありました。そこで、実施されたのが、2006年の学校教育法と薬剤師法の改正です。医療人として質の高い薬剤師を養成するために、薬剤師資格の取得には6年制薬学部を卒業することが必須となりました。
4-2.法改正による変更点
2006年の法改正では、薬学部が6年制となった他、実務実習の時間数が2〜4週間から6カ月程度に大幅に延長されました。5年次に行われる実務実習では、「認定実務実習指導薬剤師」の資格を持つ先輩薬剤師の指導のもと、病院や薬局で薬剤師業務を体験します。実際に医療の現場で働く薬剤師を見たり、薬剤師業務を体験したりすることで、臨床でしか学べない知識や考え方、薬剤師としての倫理観・責任感を身に付けるのが目的です。
🔽 薬局実習のお礼状について解説した記事はこちら
また、実務実習を行う前には、必要な知識や技能、態度を保証するための薬学共用試験に合格しなければなりません。薬学共用試験は4年次の12月~1月に行われ、試験内容として、知識を評価する「客観試験CBT」と、技能・態度を評価する「客観的臨床能力試験OSCE」の2種類があります。
実務実習に至るには、これらの試験に合格できるレベルの知識やスキルを身に付けておく必要があります。
5.薬学部への進学でかかる費用の目安
6年間も大学に通うとなれば、費用が気になる人も多いのではないでしょうか。薬学部に通うときにかかる費用は、国立大学と私立大学で大きく異なります。
国立大学の場合、授業料は6年間でおよそ320万円、私立大学は、大学によって差があるものの、6年間で1200万円ほどの授業料が目安といえます。また授業料に加えて、入学料や参考書代、実務実習費が必要となる場合もあります。
参考:国公私立大学の授業料等の推移|文部科学省
費用面で不安がある場合には、奨学金や特待制度を活用する方法もあります。日本学生支援機構では、給付型と貸与型の奨学金を提供しています。学力や家計の状況などにより利用できる奨学金が異なるため、日本学生支援機構のホームページで申込資格や基準を確認しておきましょう。
また、大学によっては特待制度を設け、条件を満たすことで入学料が免除されたり、授業料の負担が軽くなったりする可能性があります。大学ごとに詳細が異なるため、受験を考えている大学のホームページも事前にチェックしておきましょう。
🔽 薬学部の学費について解説した記事はこちら
6.薬剤師の主な就業先
大学進学後、無事、薬剤師免許を取得したら、今度は就職先を探すことになります。薬剤師の就業先として多いのは、薬局や医療施設(病院や診療所)です。厚生労働省の資料「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2020年時点で、薬局に従事する薬剤師は全体の58.7%、医療施設では19.1%と報告されています。
また一般社団法人薬学教育協議会が公表する6年制薬学部卒業生の就職先を見ても、2021年3月時点で、保険薬局に全体の31.1%、次いでドラッグストアの調剤部門に19.4%、私立大学病院附属病院や一般病院などの病院薬剤部に12.4%と、薬局や医療施設が中心でした。
🔽 薬剤師の就職先について解説した記事はこちら
その他の就業先には、医薬品関係の企業や大学、介護施設、衛生行政機関、保健衛生施設などが挙げられます。
7.薬剤師になるためにやっておくべきこと
薬学教育の指針として、文部科学省が作成した「薬学教育モデル・コア・カリキュラム」には、薬剤師に求められる基本的な資質や能力が示されています。ここではコア・カリキュラムを一部参考にしながら、薬剤師になるためにやっておくべきことを紹介します。
7-1.コミュニケーションスキルを身に付ける
患者さんと接する機会の多い薬剤師には、コミュニケーションスキルが求められます。薬の説明をする服薬指導では、薬の効果や副作用、注射剤の使い方など、薬について分かりやすく説明するスキルが必要です。また、加齢によって薬が飲み込みにくくなっていないか、副作用が出ていないかなど、患者さんの悩みや問題点を聞き取ることも大切です。大学生活やアルバイトを通じて、話す力や聞く力を身に付けておきましょう。
7-2.薬の勉強をする
薬剤師は薬のプロである以上、薬の専門知識を身に付けておくのは当然のことです。患者さんの治療の支援や、医師と処方内容を考えるときに専門知識が役立ちます。膨大な薬学の知識を薬学部で体系的に学ぶことで、患者さんの治療に貢献できるでしょう。
特に実務実習は、実際の治療に触れられる貴重な機会です。実習中に感じた疑問や不明点について、自分で調べたり、実習先の薬剤師に聞いたりして、積極的に学ぶことを心がけましょう。
🔽 薬剤師の勉強法について解説した記事はこちら
7-3.社会人としてのマナーを身に付ける
薬剤師として働く上で、社会人としてのマナーを身に付けておくことはとても重要です。一緒に働く薬剤師や医療事務とコミュニケーションを取りながら、円滑に業務を行うためにも、欠かせないスキルといえます。
例えば、明るい挨拶をはじめ、「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の使い分け、清潔感のある身だしなみなど、社会人として適切な振る舞いができるように実践しましょう。
薬剤師は、同じ職場のスタッフだけではなく、病院の医師や看護師、介護施設のスタッフなど、多職種と関わる機会も少なくありません。相手に失礼のないように、社会人マナーをしっかり身に付けておきましょう。
8.6年制薬学部に進学し、治療に貢献できる薬剤師になろう
薬剤師になるには薬学部に6年間通う必要があります。薬学部では薬学に関する基礎的な知識を学ぶことに加え、実務実習を通して、薬剤師としての倫理観や態度を身に付けます。進学にかかる費用が気になる場合は、奨学金や大学が設けている特待制度をうまく活用しましょう。また、コミュニケーションスキルや薬学知識、社会人マナーなどを身に付けることで、薬剤師として活躍の場が広がります。幅広い知識を身に付け、患者さんの治療に貢献できる薬剤師を目指しましょう。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
あわせて読みたい記事