1.薬学部の実務実習とは?
薬学部の実務実習は、医療現場における薬剤師の役割を理解し、実践に必要な知識・技術を得るために行われます。大学で学んだ内容が、実際の医療現場でどのように活用されているのかを知り、薬剤師に求められる資質や役割を学びます。
1-1.実務実習の指導を行う薬剤師
実務実習では、実習施設のスタッフの円滑な連携が必要であり、責任薬剤師の管理のもと、認定実務実習指導薬剤師の資格を持つ薬剤師が中心となって実務実習の指導を行います。
また、実習施設にはさまざまなスタッフが働いており、薬剤師以外の医療従事者も含めて役割分担などの調整をすることも大切です。
薬局内であれば、調剤事務や門前の医療機関の医師・スタッフ、病院であれば、医師や看護師、理学療法士、レントゲン技師、医療事務などが挙げられるでしょう。
認定実務実習指導薬剤師は、実務実習の記録や面談などを活用して評価を行ったり、学生や大学との情報交換により実習計画を修正したりすることで、円滑かつ効果的な実務実習が行えるように努めます。
参照:臨床における実務実習に関するガイドライン|文部科学省
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1-2.実務実習の対象となる薬学生
薬学部の実務実習は、5年生が対象になります。薬学教育協議会のウェブサイトに掲載されている「病院における長期実務実習に対する基本的な考え方」「6年制薬局実習の受入薬局に対する基本的な考え方」によれば、実務実習を履修する薬学生は、以下について事前に確認されていることとされています。
● 健康診断を受診し、実習に際し健康上問題がないこと
● 必要な疫学的検査を実施していること
● 必要な予防接種を受けていること
● 傷害保険と損害賠償保険に加入していること
参照:病院における長期実務実習に対する基本的な考え方|薬学教育協議会
○ 実務実習事前学習をはじめとする学内教育が十分に行われていること
○ それらの教育プログラムが薬学教育評価機構の第三者評価、又は自己点検・評価により確認されていること
○ 薬学共用試験に合格していること
● 健康診断等を受診していること
○ 健康診断を受診していること
○ 必要な疫学的検査を実施していること
○ 必要な予防接種を受けていること
● 傷害保険と損害賠償保険に加入していること
● 実習継続のために必要な実習生の情報が、所属大学より実習施設の認定指導薬剤師に提示されていること
参照:6年制薬局実習の受入薬局に対する基本的な考え方|薬学教育協議会
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2.薬学部の実務実習の期間と日程
薬学部の実務実習は4期に分かれており、2024年12月時点で2026年度までの日程が公表されています。それぞれの期間は、以下のとおりです。
期間 | 2024年度 | 2025年度 | 2026年度 |
第Ⅰ期 | 2月19日(月)~ 5月5日(日) |
2月17日(月)~ 5月4日(日) |
2月16日(月)~ 5月3日(日) |
第Ⅱ期 | 5月20日(月)~ 8月4日(日) |
5月19日(月)~ 8月3日(日) |
5月18日(月)~ 8月2日(日) |
第Ⅲ期 | 8月19日(月)~ 11月3日(日) |
8月18日(月)~ 11月2日(日) |
8月17日(月)~ 11月1日(日) |
第Ⅳ期 | 11月18日(月)~ 2月9日(日) |
11月17日(月)~ 2月8日(日) |
11月16日(月)~ 2月7日(日) |
参照:実務実習実施日程|薬学教育協議会
実習期間は、薬局(11週間)と病院(11週間)を合わせて22週間を原則としており、連続した日程で行われます。例えば、第Ⅰ期と第Ⅱ期に実施するといった組み合わせになるため、2週間程度の振り返り期間が入るものの、6カ月程度、連続した日程で実務実習を行うことになります。
参照:臨床における実務実習に関するガイドライン|文部科学省
3.薬学部の実務実習の内容と実習期間
薬局と病院では、薬剤師が行う業務に違いがあります。薬学部の学生が行う実務実習では、薬局薬剤師と病院薬剤師が行う業務について、それぞれの共通点や違い、入院治療から外来治療への流れなどについて学べます。
薬局と病院の実習内容には、以下のようなものがあります。
1.薬学臨床の基礎 | ● 早期臨床体験 ● 臨床における心構え ● 臨床実習の基礎 |
2.処方箋に基づく調剤 | ● 法令・規則等の理解と遵守 ● 処方箋と疑義照会 ● 処方箋に基づく医薬品の調製 ● 患者・来局者応対、服薬指導、患者教育 ● 医薬品の供給と管理 ● 安全管理 |
3.薬物療法の実践 | ● 患者情報の把握 ● 医薬品情報の収集と活用 ● 処方設計と薬物療法の実践(処方設計と提案) ● 処方設計と薬物療法の実践(薬物療法における効果と副作用の評価) |
4.チーム医療への参画 | ● 医療機関におけるチーム医療 ● 地域におけるチーム医療 |
5.地域の保健・医療・福祉への参画 | ● 在宅(訪問)医療・介護への参画 ● 地域保健(公衆衛生、学校薬剤師、啓発活動)への参画 ● プライマリケア、セルフメディケーションの実践 ● 災害時医療と薬剤師 |
参照:薬学実務実習に関するガイドライン|文部科学省
各項目がさらに細分化され、薬局や病院で行う実習内容が決められています。調剤や服薬指導などは薬局・病院ともに共通部分となりますが、扱う薬剤や入院患者さん・外来患者さんなどに違いがあるため、実習内容はやや異なるでしょう。地域の保健、医療、福祉については、薬局での実習が中心になるなど、項目によって特徴があります。
また、文部科学省の「薬学実務実習に関するガイドライン」では、薬局実習と病院実習の内容と実習期間が例示されています。続いて、薬局と病院における実務実習の内容と期間についてお伝えします。
3-1.薬局実習の内容・実習期間
薬局での実習例として、以下のような内容と実習期間が例示されています。
実習内容 | 実習期間 |
薬局実習導入 | 1週間 |
保険調剤 (調剤、監査、疑義照会、基本的な投薬) |
3~4週間 |
薬物治療モニタリング・情報提供 (処方解析、薬歴活用、服薬指導、健康相談) |
5~6週間 |
地域貢献の実践 (セルフメディケーション、在宅支援、地域保健活動) |
2~3週間 |
薬局での薬物治療モニタリングは、患者さんの来局時に実施するため、実習の全期間で継続して行えるように、定期的に来局する患者さんが対象となるでしょう。また、院外処方箋の患者さんだけでなく、在宅療養の患者さんや健康相談など幅広い事例を体験できます。
地域貢献の実践では、OTCの販売や在宅支援、地域包括ケアシステムへの参画など、薬局が地域に貢献している様子が学べるでしょう。
3-2.病院実習の内容・実習期間
病院での実習例として、以下のような内容と実習期間が例示されています。
実習内容 | 実習期間 |
病院実習導入 | 1週間 |
内服、外用薬調剤 | 1週間 |
注射薬調剤、無菌調製 | 1週間 |
病棟業務実践(チーム医療や急性期医療含む) がん化学療法(レジメンチェック、抗がん剤調製) |
6~9週間 |
DI・TDM・医薬品管理室 | 2週間 |
病院での薬物治療モニタリングは、実習期間に患者さんのベッドサイドを計画的に訪れて実施します。がん化学療法やDI、TDM、医薬品管理室は、病棟業務実践の一部として関連づけて実習するといったことが例として示されています。
4.薬学部の実務実習に関する注意点
薬学部の実務実習で気を付けたいことについてお伝えします。
4-1.服装や身だしなみに気を付ける
薬局や医療機関では白衣を着て実習をするため、患者さんからは医療者として見られます。そのため、実習生であっても、服装や身だしなみには気を付ける必要があるでしょう。
また、実習先から私服で構わないといわれた場合であっても、過度に派手な色味の服装は避けましょう。黒や紺、ベージュといった落ち着いた色の服を選ぶなど、オフィスカジュアルを意識するのがおすすめです。
🔽 薬局実習の服装や身だしなみについて解説した記事はこちら
4-2.心構えやマナー、コミュニケーションを意識する
医療現場は、患者さんの命に関わる業務を行う場所です。そのため、不明点をそのままにしたり、配慮や注意が足りなかったりすることで、重大な医療ミスにつながる可能性があります。実習生は、指導薬剤師の話を聞いてメモを取り、分からないことや疑問点については質問することが大切です。学ばせてもらう薬剤師や、他の医療従事者などにお礼を伝えることも忘れず行いましょう。
また、患者さんとのコミュニケーションでは、患者さんの状態に合わせて話し方を変えたり、気持ちに寄り添いながら服薬指導を行ったりする必要があります。実務実習では、医療の知識やスキルはもちろん、医療現場で求められる接遇マナーについても学ぶことを意識するようにしましょう。
🔽 薬局実習の心構えやマナーについて解説した記事はこちら
4-3.実務実習が終了したら、お礼状を書く
実務実習が終了したら、お礼状を書くことも忘れてはいけません。指導薬剤師は、自身の業務時間を割いて、薬学生の指導にあたっています。そのため、薬剤師になるために必要な知識やスキル、心構えなどについて学ばせてもらった感謝の気持ちを手紙で伝えましょう。
また、お礼状には便箋や封筒の選び方、時候や結びの挨拶の書き方などに関するマナーがあります。相手に好印象を持ってもらえるよう、正しいお礼状の書き方を学ぶことも大切です。
🔽 薬局実習のお礼状について解説した記事はこちら
🔽 病院実習のお礼状について解説した記事はこちら
5.薬学部の実務実習でさまざまなことを学ぼう
薬学部の実務実習では、学生でありながら実際の医療現場で、現役薬剤師と同等の業務を行うことができます。薬剤師として働く自分を具体的にイメージできるのではないでしょうか。また、医療の知識やスキルだけでなく、医療者ならではのコミュニケーションや接遇マナーも学べます。6カ月と長い実習期間になりますが、なるべく多くのことにチャレンジして、さまざまなことを学びましょう。
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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