薬剤師のためのお役立ちコラム 公開日:2024.07.17 薬剤師のためのお役立ちコラム

専門医療機関連携薬局とは?地域連携薬局との違いや認定要件などについて解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

2021年8月から認定制度が始まった専門医療機関連携薬局。一般的な調剤薬局とは異なる役割を求められており、薬剤師の活躍の場が広がる新しい制度といえるでしょう。この記事では、専門医療機関連携薬局が誕生した経緯や地域連携薬局との違いをお伝えするとともに、認定要件や地域連携薬局との共通要件を解説します。合わせて、専門医療機関連携薬局で働く薬剤師の役割についても解説します。

1.専門医療機関連携薬局とは?

専門医療機関連携薬局とは、がん治療のように通常の薬局では難しい専門的な薬学管理や特殊な調剤に対応できる薬局のことです。がん治療を行う医療機関と密に連携を取るといった、厚生労働省が定める認定基準を満たすことで認定されます。
 
2021年8月に施行された改正薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律の一部を改正する法律)に基づき、設備や機能、薬剤師の知識やスキルが、がん治療を受ける患者さんを十分にサポートできると認められた薬局は、各都道府県知事の認定(1年ごとに更新)を受け、専門医療機関連携薬局を称することができます。
 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(認定薬局関係)|厚生労働省

1-1.専門医療機関連携薬局が誕生した経緯

厚生労働省が策定した「患者のための薬局ビジョン」では、薬局に求める機能として「かかりつけ機能」のほか、「健康サポート機能」「高度薬学管理機能」などが挙げられており、そのうち専門医療機関連携薬局は「高度薬学管理機能」に対応しています。
 
がんやHIV、難病といった専門的な知識が必要な疾患の治療薬は、服用によって強い副作用が現れたり、服薬アドヒアランスによって治療効果に大きな影響を及ぼしたりすることがあります。外来で安全に治療を行うためには、専門的な知識や設備を持つ薬局、薬剤師のサポートが必要です。
 
そこで、患者さんが安全に薬物治療を受けるための「かかりつけ薬局」の機能に加え、専門的な薬物療法を提供可能な体制を構築している薬局を選択できるよう明確化するために誕生したのが専門医療機関連携薬局です。
 
参照:「患者のための薬局ビジョン」~「門前」から「かかりつけ」、そして「地域」へ~ を策定しました|厚生労働省
参照:参考資料 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第63号)の概要|厚生労働省

1-2.地域連携薬局との違いは?

地域連携薬局は、専門医療機関連携薬局と同じく、2021年8月に開始された薬局の認定制度により誕生しました。
 
専門医療機関連携薬局と地域連携薬局では、求められる役割や機能に大きな違いがあります。地域連携薬局は、患者さんが外来を受診する時だけでなく、入院・退院時や在宅医療においても、ほかの医療提供施設との服薬情報の一元的かつ継続的な情報連携に対応できる薬局です。
 
一方、専門医療機関連携薬局は、がんといった特定の疾患について高度な薬学管理機能を有していることが求められます。
 
地域連携薬局は「患者のための薬局ビジョン」における「かかりつけ薬剤師・薬局機能」に、専門医療機関連携薬局は「高度薬学管理機能」に対応した薬局となっています。

 
🔽 地域連携薬局について詳しく解説した記事はこちら

2.専門医療機関連携薬局の認定要件

専門医療機関連携薬局の認定要件には、以下のようなものがあります。

 

1. 傷病の区分
2. 構造設備
3. 患者さんの薬剤情報を医療施設と共有できる体制
4. 専門的な調剤・指導と地域薬局へのサポート
5. 傷病の区分に関わる研修の受講・実施
6. 医薬品の適正使用のための地域医療機関に向けた情報提供

 

主な要件について、それぞれ詳しく見ていきましょう。

 

2-1.傷病の区分

2024年7月時点で定められている傷病の区分は「がん」のみです。今後は、区分が追加される場合があり、その都度、対応する基準が定められることになっています。
 
また、専門医療機関連携薬局は、傷病の区分に係る専門性の認定を受けた薬剤師を配置することが要件のひとつとなっています。2024年7月時点では「地域薬学ケア専門薬剤師(がん)」または「外来がん治療専門薬剤師」の資格を持つ薬剤師を配置しなければなりません。
 
薬剤師の専門性に関する認定は、厚生労働省に届け出ている団体のみが行えることになっており、2024年7月時点では以下の2団体があります。

 

団体名 専門性の名称
一般社団法人 日本医療薬学会 地域薬学ケア専門薬剤師(がん)
一般社団法人 日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療専門薬剤師

参照:傷病の区分に係る専門性の認定を行う団体等の公表について|厚生労働省

 
🔽 外来がん治療専門薬剤師について詳しく解説した記事はこちら

 

2-2.構造設備

専門医療機関連携薬局は、がん治療を受けている患者さんが気兼ねなく服薬指導を受けられるよう配慮しなければなりません。そのため、患者さんが安心して相談できるように、個室などのプライバシーが確保できる設備が求められています。
 
なお、設備については、個室に限定されておらず、服薬指導や会計などを行うカウンターや待合室から十分に離れているといった「プライバシーに配慮している場所」であれば、要件を満たすとされています。
 
また、手すりが設置されている、入口の段差がない、車いすでも来局できるなど、高齢者の方や体が不自由な方が利用しやすい構造であることも必要です。

 

2-3.患者さんの薬剤情報を医療施設と共有できる体制

専門医療機関連携薬局は、がん治療を行う医療機関と連携して、患者さんがより安全安心に薬物治療を受けられるよう努めなければなりません。医療機関と連携するために、以下のような取り組みを行うこととされています。

 

● 医療機関との会議に参加する
● 医療機関の薬剤師へ随時報告・連絡できる体制を構築した上で実績を残す
● 他薬局への報告・連絡体制を整える

 

2-4.専門的な調剤・指導と地域薬局へのサポート

専門医療機関連携薬局は、専門的な調剤や指導を行うとともに、地域薬局へのサポート体制を強化するために、以下のような体制を整えることとされています。

 

● 傷病の区分に係る専門性のある常勤薬剤師を配置する
● 傷病の区分に係る医薬品を他の薬局に提供する体制を整える

 

専門的な調剤、指導には、傷病の区分に係る専門性のある常勤薬剤師を配置しなければならないため、地域薬学ケア専門薬剤師(がん)、または外来がん治療専門薬剤師の認定資格を取得した薬剤師を薬局に在籍させなければなりません。
 
また、専門医療機関連携薬局は、地域の医薬品共有体制を確保する役割も担っています。そのため、地域の薬局が傷病の区分に係る医薬品の提供を求めた場合、対応できる体制を整えておく必要があります。

 

2-5.傷病の区分に関わる研修の受講・実施

専門医療機関連携薬局は、傷病の区分に係る専門性のある常勤薬剤師を配置するとともに、薬局に勤めるほかの薬剤師についても、継続的に専門的な研修を受講させることとしています。
 
研修については、外部研修が望ましいとされていますが、薬局開設者がスタッフに対して行う研修も許容範囲とされています。
 
また、がん治療を受ける患者さんが他薬局に来局する際にも、適切な調剤、指導を受けられるよう、専門医療機関連携薬局は、地域の他薬局を対象とした研修を実施することも求められています。

 

2-6.医薬品の適正使用のための地域医療機関に向けた情報提供

専門医療機関連携薬局は、がん治療に使用される医薬品の適正使用を促すために、地域の医療機関や調剤薬局などに情報提供する役割があります。
 
認定申請または認定更新申請の前月までの過去1年間において、情報提供した実績を残さなければなりません。
 
参照:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律の一部の施行について(認定薬局関係)|厚生労働省

3.専門医療機関連携薬局と地域連携薬局の共通要件

専門医療機関連携薬局と地域連携薬局には、共通の要件があります。その前に、地域連携薬局の主な認定基準を確認しておきましょう。

 

■地域連携薬局の主な認定基準
● 地域包括ケアシステムを構築するための会議に参加する
● 地域の医療機関と連携した実績を残す
● 地域の調剤薬局と連携する
● 無菌製剤処理を実施できる体制を整える
● 勤務する薬剤師は毎年継続的に地域包括ケアシステムに関する研修を受講する
● 地域包括ケアシステムに関する研修の修了証を交付されている常勤薬剤師を配置する
● 調剤や情報提供、薬学的指導について、在宅医療における実績を残す
● 在宅医療で使用される医療機器や衛生材料の提供体制を整える

 

さらに、専門医療機関連携薬局との共通の要件は、以下のとおりです。

 

■専門医療機関連携薬局と地域連携薬局の共通要件
● 高齢者の方や体が不自由な方などが利用しやすい構造設備を整える
● 開店時間外の相談に対応する
● 休日や夜間の調整応需の体制を整える
● 麻薬調剤の応需体制を整える
● 医療安全対策を行う
● 1年以上継続して勤務する常勤薬剤師を配置する

 

専門医療機関連携薬局と地域連携薬局の役割は異なるものの、共通する要件が多くあり、いずれも、患者さんが安心安全に薬物治療を受けられるような体制を整えることが求められています。

4.専門医療機関連携薬局の一覧

2024年5月31日時点で、日本国内には専門医療機関連携薬局が192薬局あります。各都道府県にある専門医療機関連携薬局の薬局数は以下のとおりです。

 

都道府県 薬局数 都道府県 薬局数
北海道 13 滋賀県 5
青森県 1 京都府 3
岩手県 1 大阪府 15
宮城県 6 兵庫県 6
秋田県 0 奈良県 0
山形県 4 和歌山県 0
福島県 1 鳥取県 0
茨城県 8 島根県 1
栃木県 5 岡山県 4
群馬県 3 広島県 4
埼玉県 10 山口県 2
千葉県 11 徳島県 1
東京都 17 香川県 1
神奈川県 15 愛媛県 2
新潟県 1 高知県 0
山梨県 0 福岡県 8
長野県 6 佐賀県 3
富山県 1 長崎県 5
石川県 2 熊本県 2
岐阜県 2 大分県 1
静岡県 4 宮崎県 0
愛知県 10 鹿児島県 3
三重県 4 沖縄県 1
福井県 0    

参照:認定薬局の件数(令和6年5月31日時点)|厚生労働省

 

専門医療機関連携薬局の一覧については、各都道府県のホームページで確認できます。例えば、神奈川県では、ホームページで地域連携薬局と専門医療機関連携薬局それぞれの薬局名や所在地、連絡先などをまとめた一覧が公開されています。
 
参照:認定薬局(地域連携薬局・専門医療機関連携薬局)について|神奈川県
 
また、大阪府では、地域連携薬局、専門医療機関連携薬局、健康サポート薬局のリストを公開しています。神奈川県と同様に、薬局名や所在地、連絡先がまとめて公開されています。
 
参照:地域連携薬局・専門医療機関連携薬局について|大阪府

5.専門医療機関連携薬局で働く薬剤師の役割

専門医療機関連携薬局で働く薬剤師は、がんに係る専門的な知識やスキルが求められます。患者さんへの服薬指導や服薬管理にとどまらず、地域の医療機関や薬局への情報提供を行い、地域一帯の専門性を向上させる役割を担います。
 
がん治療は日進月歩のため、専門医療機関連携薬局で働く薬剤師は、新しい治療法や治療薬といった情報を常日頃から集め、学ぶ姿勢を持ち続ける必要があるでしょう。
 
がん治療について深く理解し、患者さんや地域の医療機関、薬局にわかりやすく説明することなどを通じて、適正かつ安全に薬物治療を行える体制を整えることが、専門医療機関連携薬局で働く薬剤師の大きな役割といえます。

6.専門医療機関連携薬局に求められる役割は大きい

専門医療機関連携薬局の認定を受けるには、さまざまな認定基準をクリアする必要があります。厳しい要件ではありますが、がん治療を受ける患者さんのサポートをすることに加え、地域医療の専門性を底上げする大きな役割を担っています。役割が大きいからこそ、そのやりがいを感じる機会も多いことでしょう。専門医療機関連携薬局で働くことを目指すのであれば、認定資格の取得など薬剤師としてのスキルアップに努めてみてはいかがでしょうか。

参考書籍

■日本薬剤師会・監『保険薬局 Q&A 令和4年版』(じほう、2022年)


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。

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