- 1.長期収載品の選定療養とは?
- 1-1.長期収載品とは?
- 1-2.選定療養とは?
- 2.長期収載品の選定療養化の背景
- 2-1.長期収載品が選択される要因
- 2-2.後発医薬品の使用推進と先発品メーカーの創薬力強化を両立するための施策
- 3.長期収載品を希望する場合の自己負担額の計算方法
- 3-1.長期収載品の選定療養に該当しない「医療上の必要性が認められる」ケースとは?
- 3-2.長期収載品の選定療養の対象外となる患者さんはいる?
- 4.長期収載品の選定療養の対象品目
- 5.長期収載品の選定療養化に伴う薬剤師業務への影響
- 5-1.処方箋様式の改正点を把握する
- 5-2.長期収載品が処方されている場合に医療上の必要性について薬剤師が判断するケースがある
- 5-3.後発医薬品が銘柄名で処方されている場合でも必要性を認めた場合は長期収載品で調剤できる
- 5-4.一般名処方の薬剤について患者さんが長期収載品を希望する場合は聞き取りなどが必須になる
- 5-5.2024年10月1日前後に処方された長期収載品についての対応方法を把握する
- 5-6.薬局内に長期収載品の選定療養に関するポスターを掲示する
- 6.長期収載品の選定療養について理解を深めよう
1.長期収載品の選定療養とは?
長期収載品の選定療養とは、同じ有効成分の後発医薬品(ジェネリック医薬品)がある場合に、医療上の必要性が認められないにもかかわらず、先発医薬品(長期収載品)での処方または調剤を希望する患者さんが特別の料金を支払う仕組みのことをいいます。
特別の料金とは、先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当の料金のことを指します。課税対象となるため、患者さんは消費税分を加えて支払う必要があります。
例えば、1錠100円の先発医薬品について、1錠60円の後発医薬品がある場合、患者さんが先発医薬品を希望すると、通常患者さんが負担する医療費(1~3割)とは別に、差額40円(100円-60円)の4分の1となる10円を、消費税分と合わせて支払わなければなりません。
後発医薬品が複数ある場合は、薬価が一番高い後発医薬品との価格差で計算します(詳しい計算方法は後述)。
参照:後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|厚生労働省
1-1.長期収載品とは?
長期収載品とは、一般的に後発医薬品のある先発医薬品のことをいいます。
長期収載品は後発医薬品と比較して、医療機関から継続的な供給を求める意見が強いことなどから、安定供給が求められます。
また、研究開発段階から蓄積された豊富な情報があるため、医療機関への情報提供や問い合わせ対応を行うことが多い傾向にあります。
参照:長期収載品について|内閣府
1-2.選定療養とは?
選定療養とは、保険診療との併用が認められている療養のうち、「被保険者の選定に係る特別の病室の提供その他の厚生労働大臣が定める療養」を指します。
例えば、「特別の療養環境(差額ベッド)」「歯科の金合金等」「時間外診療」「大病院の初診・再診」「180日以上の入院」などが該当します。患者さんが保険適用外部分の費用を自己負担し、保険適用部分については「保険外併用療養費」として保険給付が行われます。
2024年10月から、長期収載品の選択も選定療養に含まれることになりました。
参照:長期収載品(その2)|厚生労働省
参照:先進医療の概要について|厚生労働省
2.長期収載品の選定療養化の背景
長期収載品の選定療養化に至った背景のひとつには、2023年6月16日に閣議決定された「骨太方針2023」で「持続可能な社会保障制度の構築」として創薬力強化が掲げられていることが挙げられます。
政府はこれまで、後発医薬品への置換え状況に応じて長期収載品の薬価を引き下げることで、長期収載品に依存しない企業の育成を推進してきました。
長期収載品から後発医薬品への置換えは進んできているものの、金額ベースの後発医薬品シェアは諸外国と比較して低い水準となっており、先発品メーカーは引き続き長期収載品の収益に依存している傾向にあると考えられています。
日本 | アメリカ | ドイツ | イギリス | フランス | |
---|---|---|---|---|---|
数量シェア | 71% | 96% | 90% | 81% | 78% |
金額シェア | 41% | 40% | 59% | 62% | 56% |
長期収載品の選定療養化は、後発医薬品を選択する動機付けとなり、長期収載品の収益に頼らない研究開発型のビジネスモデルへの転換を促すことにつながります。
こうした変化によって創薬力強化を推進していくために、長期収載品の選定療養化が決まりました。
2-1.長期収載品が選択される要因
長期収載品が選択される要因は、先発品メーカーが長期収載品の収益に依存している傾向にあること以外にも次のようなものがあります。
● 患者さん自身が長期収載品を好んで選択するケースがある
● 医療費助成制度などで後発医薬品を選択するメリットを感じにくい
上記の課題のうち、患者さんの選択によって長期収載品が使用されている場合については、長期収載品の選定療養化によって解決できる可能性が高まります。
2-2.後発医薬品の使用推進と先発品メーカーの創薬力強化を両立するための施策
長期収載品の収益に依存している先発品メーカーは、後発医薬品の使用を推進することで収益に大きな影響を受ける可能性があります。
そこで、後発医薬品の使用推進と先発品メーカーの創薬力強化を両立するため、長期収載品の選定療養化に加え、特許期間中の新薬の売上によって研究開発費を回収できるよう、薬価制度の見直しなどが検討されています。
参照:長期収載品(その1)|厚生労働省
また、前述したとおり、先発医薬品は研究開発段階からの豊富な情報が集まっていることから、先発医薬品の製造を中止することが難しく、安定供給の確保が求められています。
後発医薬品と長期収載品にはそれぞれ役割があるため、どちらも役割を果せる施策が検討されています。
3.長期収載品を希望する場合の自己負担額の計算方法
長期収載品を希望する場合の自己負担額の計算方法は以下のとおりです。
参照:長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養における費用の計算方法について|厚生労働省
長期収載品を希望する自己負担率が3割の患者さんがA錠1日2錠30日分を処方された場合について、自己負担額の具体的な計算方法を見ていきましょう。
A錠の薬価や後発医薬品については以下とします。
薬価 | 後発医薬品の最高価格 | 【a】長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1 | 【b】保険外併用療養費の算出に用いる価格 | |
---|---|---|---|---|
A錠 | 100.0円 | 49.3円 | 12.68円 | 87.32円 |
特別の料金は、以下のように算出します。
● 所定単位(1剤1日分)あたり: 12.68円【a】×2錠=25.36円→3点
● 30日分:3点×30日=90点
2.「特別の料金」に係る費用(※課税対象、消費税率 10%)
90点×10(円/点)×(1+0.10)=990円
選定療養を除く保険対象となる費用は、以下のように算出します。
● 所定単位(1剤1日分)あたり: 87.32円【b】×2錠=174.64円→17点
● 30日分:17点×30日=510点(※保険適用分点数)
2.選定療養を除く保険対象となる費用(自己負担率3割)
510点×10(円/点)×0.30=1530円
自己負担額は、「特別の料金」990円と「選定療養を除く保険対象となる費用」1530円を合わせた2520円となります(990円+1530円=2520円)。
また、「【a】長期収載品と後発医薬品の価格差の4分の1」と「【b】保険外併用療養費の算出に用いる価格」については、厚生労働省が小数点以下の計算を調整した数値をリスト化しています。具体的な数値については、厚生労働省のウェブサイトから確認しましょう。
参照:後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|厚生労働省
3-1.長期収載品の選定療養に該当しない「医療上の必要性が認められる」ケースとは?
患者さんの中には、さまざまな理由で後発医薬品への変更が難しい人がいます。抗てんかん薬などを使用している患者さんの薬剤変更のリスクがあるケースや、使用感などの製剤工夫があるため長期収載品を希望するケースなどが挙げられるでしょう。
そのため、以下のような医療上の必要性が認められるケースでは、長期収載品を処方・調剤した場合でも選定療養の対象とならないとされています。
2. 後発医薬品を使用した際に、副作用や先発医薬品との間で治療効果に差異があったと判断でき、安全性の観点などから必要な場合
3. 学会のガイドラインにおいて、長期収載品を使用している患者さんについて後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合
4. 後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性により一包化できないなどの場合
(単に剤形の好みという理由では認められない。この場合の判断は薬剤師が行うことも可能)
上記のほか、流通の問題などにより、医療機関や薬局に後発医薬品の在庫がない場合には、「特別の料金」を徴収する必要はないとされています。
この場合、出荷停止や出荷調整などの品目かどうかで判断するのではなく、薬局において後発医薬品の提供が難しいかどうかで判断するとされています。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その1)|厚生労働省
3-2.長期収載品の選定療養の対象外となる患者さんはいる?
長期収載品の選定療養の対象外となる患者さんはいません。例えば、医療保険に加入し、国や地方自治体などの公費負担医療制度の対象となっている患者さんが、長期収載品を希望するケースでは選定療養の対象となります。
公費負担医療制度の対象者など特定の患者さんを対象外とするような要件はないため、長期収載品の希望の有無と医療上の必要性が、選定療養の対象になるかの判断基準となります。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その1)|厚生労働省
また、生活保護を受給している患者さんが、好みによって長期収載品を希望する場合もあるでしょう。
生活保護受給者である患者さんは、医療上の必要性がない場合、長期収載品を希望しても後発医薬品を調剤することになるため、特別料金を徴収するケースは生じないとされています。
参照:医療機関・薬局向け資料|厚生労働省
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その2)|厚生労働省
4.長期収載品の選定療養の対象品目
選定療養の対象となる長期収載品は、次の要件をすべて満たす医薬品です。
2. 後発医薬品が収載された年数と後発品置換え率の観点から、組成と剤形区分が同一で、次のア・イのいずれかに該当する品目であること。
ア:後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した品目(後発品置換え率が1%未満のものは除く)
イ:後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない品目のうち、後発品置換え率が50%以上のもの
3. 長期収載品の薬価が、後発医薬品の中で最も薬価が高い後発品の薬価を超えていること。この薬価の比較にあたっては、組成、規格および剤形ごとに判断すること。
参照:長期収載品の処方等又は調剤に係る選定療養の対象医薬品について|厚生労働省
厚生労働省のウェブサイトでは、選定療養の対象となる長期収載品のリストが掲載されているため、必要に応じて活用しましょう。
参照:後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)の選定療養について|厚生労働省
5.長期収載品の選定療養化に伴う薬剤師業務への影響
長期収載品の選定療養化は、薬剤師の業務にどのように影響するのかについて、主な内容を具体的に見ていきましょう。
5-1.処方箋様式の改正点を把握する
長期収載品の選定療養化によって、処方箋の変更不可欄の記載項目が以下のように変更されます。
● 患者希望欄
いずれも、医薬品ごとに記載する必要があり、医療上必要な場合は、医師の署名または記名・押印をすることとされています。
患者希望欄にチェックが入っている場合は費用を徴収し、変更不可欄にチェックが入っている場合は保険給付での調剤となるため、薬剤師はこれらの項目を確認し、会計ミスがないように注意する必要があります。
また、変更不可欄と患者希望欄の両方にチェックが入っている場合は、疑義照会を行わなければなりません。
参照:長期収載品の処方等又は調剤について|厚生労働省
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その2)|厚生労働省
5-2.長期収載品が処方されている場合に医療上の必要性について薬剤師が判断するケースがある
長期収載品の処方の変更不可欄(医療上必要)にチェックが入っていない場合において、後発医薬品の剤形では服用しにくかったり、吸湿性があるため一包化できなかったりと、剤形などの違いで長期収載品の必要性が認められることもあるでしょう。
そういった場合には、薬剤師が医療上の必要性について判断するケースがあります。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その1)|厚生労働省
5-3.後発医薬品が銘柄名で処方されている場合でも必要性を認めた場合は長期収載品で調剤できる
後発医薬品が銘柄名で処方されており、変更不可の欄にチェックが入っていない場合において、患者さんへの聞き取りによって長期収載品での調剤が医療上の必要と認められることもあるでしょう。
こういったケースでは、当面の間、医師への疑義照会をせずに薬剤師の判断で長期収載品への変更調剤ができるとされています。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その1)|厚生労働省
5-4.一般名処方の薬剤について患者さんが長期収載品を希望する場合は聞き取りなどが必須になる
一般名処方の薬剤について患者さんが長期収載品を希望する場合は、希望する理由の聞き取りや医療上の必要性の判断が求められます。
必要性が認められない場合は、患者さんへ長期収載品の選定療養について説明をすることになるでしょう。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その1)|厚生労働省
5-5.2024年10月1日前後に処方された長期収載品についての対応方法を把握する
2024年10月1日前に処方された長期収載品を10月1日以降に受け付けた場合については、薬局が受け付けた日付ではなく、処方日を基準に対応します。
10月1日前に処方されたリフィル処方箋や分割指示のある処方箋は、10月1日以降に2回目を受け付けた場合も制度施行前の扱いとなります。
また、10月1日以降に旧様式の処方箋について長期収載品の後発医薬品変更不可のチェックが入っており、理由が記載されていない場合は、疑義照会で「医療上必要」または「患者希望」を確認しなければなりません。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その2)|厚生労働省
5-6.薬局内に長期収載品の選定療養に関するポスターを掲示する
「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」(平成18年厚生労働省告示第107号)第三の十四(三)では、以下のように定められています。
掲示内容については、厚生労働省のウェブサイトに掲載されているポスターを参考にしましょう。
参照:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈の送付について(その2)|厚生労働省
6.長期収載品の選定療養について理解を深めよう
2024年10月から、長期収載品の選定療養が始まります。薬局での支払い金額が今までと異なる患者さんもいることでしょう。詳しい説明を求められることもあるため、長期収載品が保険給付の対象となる場合や、後発医薬品への変更が必要な場合などについて理解を深めることが大切です。患者さんが納得して薬物治療を受けるためにも、制度を正しく説明できるように理解することが求められます。
薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。
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