2024年度の調剤報酬改定で、RMP(医薬品リスク管理計画)に関連する加算が新設されました。薬局業務においても重要性が増すRMPについて、薬剤師が理解を深めておくことは重要といえます。本記事では、RMPの概要や導入目的、記載される3つの要素を解説しているほか、RMPの対象医薬品一覧や資材の確認方法、関連する調剤報酬の加算、具体的な活用事例も紹介しています。
1.RMP(医薬品リスク管理計画)とは?
RMP(医薬品リスク管理計画)とは、医薬品の開発から市販後に至るまでのリスク管理についてひとつの文書にまとめたものです。
医薬品は、非臨床・臨床試験や承認審査を経た後に、患者さんの治療に使用されます。この過程において、医薬品と因果関係のある副作用や、確認が十分ではない有害事象など、さまざまなリスクが確認され、製造販売業者はリスク低減に向けた安全対策を講じます。
そうしたリスク管理の全体像を分かりやすくまとめたのが、「RMP(医薬品リスク管理計画)」です。
また、RMPに関する通知や記載事例などをまとめた手引きとして、グリーンブック(医薬品リスク管理計画書(J-RMP)作成の手引き)があり、RMPの策定や資料作成に利用されます。
参照:医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan)|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:3分でわかる!RMP講座|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:医薬品リスク管理計画書(J-RMP)作成の手引き –令和7年1月版-|日本製薬工業協会
1-1.RMPと添付文書の違い
RMPと添付文書は、どちらも医薬品のリスクについて記載されていますが、その範囲に違いがあります。
添付文書には、「重大な副作用」や「その他の副作用」といった医薬品と因果関係が認められた副作用などが記載されています。一方で、RMPは「重要な潜在的リスク」や「重要な不足情報」といった治験や市販後調査では十分に確認できていないリスクについても、網羅的に記載されているのが特徴です。
参照:3分でわかる!RMP講座|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:医療用医薬品の添付文書記載要領の改定について|厚生労働省
1-2.RMP資材とは?
RMP資材とは、医薬品のリスクを最小化するために作成されるRMPに基づく資材のことです。医薬品の特性やリスクによって、必要と判断された場合に、医療従事者や患者さん向けに作成されます。
RMP資材には、RMPに基づく資料であることを証明するための「RMP」のマークが記載されています。
参照:3分でわかる!RMP講座|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
参照:医薬品リスク管理計画(RMP)における追加のリスク最小化活動のために作成・配布する資材への表示について(RMPマークの変更等)|厚生労働省
2.RMPの導入目的
RMPの導入目的は、医薬品の開発段階や承認審査、市販後など、すべての段階でリスクとベネフィットを評価するとともに、医薬品のリスクを低減する活動計画を示し、市販後の安全性を確保することにあります。
「重要な特定されたリスク」や「重要な潜在的リスク」などのリスク情報については、ICH E2Eガイドラインにて、「医薬品安全性監視計画」の作成を求められていましたが、医薬品のリスク低減の活動に関する事項は含まれていませんでした。
しかし、2012年4月に、厚生労働省から「医薬品リスク管理計画指針について」が発出され、医薬品安全性監視計画に加えて、医薬品のリスク低減を目的とした「リスク最小化計画」を組み込んだRMPの策定が求められるようになりました。
RMPの策定により、リスクに関する計画的な情報収集と見通しを持った市販後の安全対策の実施が期待されています。
参照:医薬品リスク管理計画(RMP:Risk Management Plan)|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:医薬品安全性監視の計画について|厚生労働省

3.RMPに記載される3つの要素
RMPには、以下の3つの要素が記載されています。
2.医薬品安全性監視活動
3.リスク最小化活動
それぞれの要素について解説します。
3-1.安全性検討事項
安全性検討事項とは、医薬品に関連するリスクや不足情報のことであり、「重要な特定されたリスク」「重要な潜在的リスク」「重要な不足情報」の3つに分類されます。
重要な特定されたリスクとは、治験時や市販後などに確認されたリスクのことで、十分な根拠に基づいて医薬品との関連が認められているものを指します。添付文書の「重大な副作用」や「その他の副作用」にも記載されているケースが一般的です。
また、重要な潜在的リスクは、医薬品との関連性に疑いがあるものの、臨床データなどからの確認が不十分な有害事象を指します。たとえば、以下のような事象が該当します。
● 臨床試験や疫学研究において、比較対照群との相違から医薬品との因果関係が疑われるが、十分に因果関係が示されていない有害事象
● 製造販売後に報告されたもののうち、医薬品との因果関係が明らかでない有害事象
● 当該医薬品では認められていないが、同種同効薬で認められている副作用
● 当該医薬品の薬理作用等の性質から発現が予測されるが、臨床データなどでは確認されていない事象
さらに、重要な不足情報とは、RMPを策定する時点で医薬品の安全性を予測するために十分な情報が得られていない重要事項のことです。具体的には、高齢者や小児など、治験対象からは除外されていたものの、実際には高頻度で使用されることが予想されており、安全性の確保が重要な情報などを指します。
製造販売業者は、安全性検討事項に記載されたリスクに対して、「医薬品安全性監視活動」や「リスク最小化活動」の計画を立て、情報収集やリスク低減に向けた対策を行います。
3-2.医薬品安全性監視活動
医薬品安全性監視活動には、リスクの情報収集を行う「通常の医薬品安全性監視活動」のほか、「追加の医薬品安全性監視活動」に関する計画も記載されています。
製造販売業者は、副作用症例の収集など通常の医薬品安全性監視活動以外にも、必要に応じて追加での医薬品安全性監視活動の実施が求められます。たとえば、新医薬品では、まれに起きる重篤な副作用が市販直後に確認されるケースも少なくありません。
そこで、重篤な副作用などのリスクに関する情報を迅速に収集するために、市販直後調査の実施が推奨されます。
追加で医薬品安全性監視活動が必要となった場合にも、RMPの作成や改定を行い、計画的にリスクの情報収集が行われます。
3-3.リスク最小化活動
リスク最小化活動には、安全性検討事項であるリスクをどのように患者さんや医療従事者に情報提供するのかなどが記載されます。
製造販売業者は、リスク最小化活動として、すべての医薬品に対して添付文書や患者向け医薬品ガイドを作成し、必要に応じて添付文書の改定や医療従事者への情報提供を行います。
さらに、市販後に新たに確認された重篤な副作用に関して医療従事者へ情報提供したり、医薬品の適正使用に向けて安全性検討事項に関する資材を作成し医療従事者や患者さんに提供したりするのもリスク最小化活動の一部であり、そういった活動計画をRMPに記載します。記項項目としては、リスク最小化活動の目的や内容、実施する根拠などが挙げられます。
参照:3分でわかる!RMP講座|医薬品医療機器総合機構(PDMA)
参照:医薬品リスク管理計画指針について
4.RMP対象医薬品一覧の確認方法
RMP対象医薬品の一覧は、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)のウェブサイトに掲載されている「RMP提出品目一覧」のページから確認できます。
4-1.RMP資材の確認方法
RMP対象医薬品であっても、RMP資材が作成されているとは限りません。RMP資材を確認するためには、先述したRMP対象医薬品の一覧から各医薬品の個別ページにアクセスする必要があります。
また、PMDAのウェブサイト上の「添付文書等検索」から医薬品を検索して、RMP資材を確認することも可能です。

5.RMPに関連する調剤報酬の加算
RMPに関連する調剤報酬の加算として、「特定薬剤管理指導加算3」の(イ)が挙げられます。
特定薬剤管理指導加算3(イ)は、RMP対象医薬品を処方された患者さんに対し、薬局薬剤師がRMP資材を活用して適正使用や安全性などに関する服薬指導を行った場合、その医薬品が新たに処方された1回に限り、5点を算定できます。
参照:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】|厚生労働省
特定薬剤管理指導加算3は、2024年度の調剤報酬改定にて新設された加算です。特定薬剤管理指導加算3について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
🔽 特定薬剤管理指導加算3について解説した記事はこちら
6.RMPの活用事例
RMPをどのように薬剤師業務へ活用すればよいのか、イメージしにくい方もいるかもしれません。ここからは、薬剤師業務におけるRMPの活用事例を紹介します。
6-1.新薬を取り扱うときに、医薬品のリスクを把握する
新薬を取り扱う際、リスクについて把握するために、添付文書だけではなくRMPにも目を通すとよいでしょう。
RMPには、因果関係が認められた副作用以外に、重要な潜在的リスクや重要な不足情報など、添付文書には記載されていない有害事象も記載されています。調剤を行う前に、起こり得るリスクの内容やリスクとされている理由を把握しておくことで、処方監査や服薬指導をスムーズに行えるようになります。
6-2.服薬指導時に患者さんへRMP資材を渡す
服薬指導時に患者さんへRMP資材を渡すのも、RMPのよい活用方法です。RMP資材には、患者さんが知っておくべき医薬品のリスク情報がまとめられています。服薬指導時にRMP資材を患者さんへ渡すことで、服用前に患者さん自身でリスクに関する情報収集ができ、薬の適正使用に役立ちます。
なお、資材の配布は初回のみとするか、継続的に行うかなどは内容に応じて判断する必要があります。
6-3.副作用の原因分析に活用する
患者さんから副作用について相談を受けたとき、添付文書だけでは対応が難しい場合があります。その際、RMPを確認すれば、「重要な潜在的リスク」や「不足情報」に関連する副作用が記載されている場合があり、原因薬剤の特定に役立つことがあります。
原因分析の結果、「重要な潜在的リスク」や「重要な不足情報」に該当する副作用などが疑われる場合には、PMDAや製造販売業者への報告も忘れずに行いましょう。
参照:今日からできる!How to RMP~RMPを使ってみよう!編~|医薬品医療機器総合機構(PDMA)

7.RMPを活用して医薬品の適正使用を推進しよう
RMPには、重大な副作用や潜在的リスク、不足情報など、医薬品のリスクに関する情報が網羅的に記載されており、それらの安全性検討事項に対して行われる「医薬品安全性監視活動」や「リスク最小化活動」について確認できます。薬剤師が服薬指導や副作用の原因分析にRMPを活用すれば、医薬品の適正使用を推進できるでしょう。
2024年度の調剤報酬改定では、RMP資材を服薬指導に活用すると算定できる「特定薬剤管理指導加算3(イ)」が新設され、薬局業務におけるRMPの重要性が増しています。RMPを最大限に活用して、患者さんの安全性向上に貢献しましょう。

執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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