医療・介護の現場では、患者さん(利用者さん)の治療や生活を支えるためには多職種が連携して働くことが求められます。「多職種連携」という言葉を耳にしたことはあっても、その具体的な意義やメリットについては詳しく知らない方もいるのではないでしょうか。本記事では、多職種連携の意義やメリット、各職種の役割に加え、現場で直面する課題について解説します。さらに、効果的な連携を実現するために大切なことをお伝えします。
- 1.多職種連携とは?
- 1-1.多職種連携とチーム医療の違い
- 1-2.多職種連携の具体例
- 2.多職種連携はなぜ必要?
- 3.多職種連携のメリット
- 3-1.医療・介護サービスの質の向上が望める
- 3-2.患者さんの多様なニーズに対応しやすくなる
- 3-3.それぞれの職種の負担軽減につながる
- 4.多職種連携における各職種の役割
- 4-1.薬剤師の役割
- 4-2.医師の役割
- 4-3.看護師の役割
- 4-4.ケアマネジャーの役割
- 4-5.介護福祉士の役割
- 4-6.管理栄養士の役割
- 4-7.リハビリスタッフの役割
- 5.多職種連携の課題
- 5-1.医療・介護従事者の人材不足
- 5-2.連携体制の整備が不十分
- 5-3.職種ごとの視点の違いによって生じる齟齬
- 6.多職種連携で大切なこと
- 6-1.他職種の考え方を理解する
- 6-2.適切に情報共有を行う
- 6-3.丁寧なコミュニケーションを心がける
- 7.患者さんの治療や生活を支えるために、多職種連携を推進しよう
1.多職種連携とは?
多職種連携とは、一般的に医療・介護の現場においてさまざまな専門職が連携して患者さん(利用者さん)の治療や生活を支えることを指します。
厚生労働省が公開している資料において、多職種連携(IPW:Interprofessional Work)とは「複数の領域の専門職者が各々の技術と役割をもとに、共通の目標を目指す協働のこと」と説明されています。
参照:第1回「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針作成に関する検討会」資料4-3|厚生労働省
近年は、医療の高度化や患者さんのニーズの多様化によって、一つの職種だけでは対応が難しいケースが増えています。
そういった背景から、多職種連携の重要性が一層高まっており、各職種がそれぞれの専門知識や技術を生かして協力し合うことで、課題解決を目指す取り組みが求められています。
1-1.多職種連携とチーム医療の違い
厚生労働省が公開している資料「チーム医療の推進について(チーム医療の推進に関する検討会 報告書)」において、チーム医療とは「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」と説明されています。
上記の定義を踏まえると、多職種連携とチーム医療は、複数の職種が連携して取り組むという点では共通していますが、専門職による協働を指す多職種連携とは違い、チーム医療は基本的に医療現場に特化した考え方といえます。
1-2.多職種連携の具体例
多職種連携の具体例としては、「退院前カンファレンス」が挙げられます。退院前カンファレンスとは、患者さんの治療や介護に関わる職種が集まって情報を共有し、入院医療から在宅医療へと引き継ぐ会議のことです。
カンファレンスでは、患者さんの健康状態に関する情報共有を行うとともに、退院後の療養生活を支えるための計画を立てます。参加者は、医師や看護師、病院薬剤師、理学療法士をはじめとする病院スタッフに加え、地域のかかりつけ医、訪問看護師、薬局薬剤師、ケアマネジャーなどです。
退院前カンファレンスを通じて多職種が連携を取ることで、退院後に患者さんが安心・安全な療養生活を送るためのサポート体制を構築できます。
参照:退院支援|島根県立中央病院
2.多職種連携はなぜ必要?
多職種連携が必要とされる背景には、地域包括ケアシステムの推進があります。地域包括ケアシステムとは、医療・介護・予防・住まい・生活支援を一体的に提供する仕組みのことです。
2025年には団塊の世代が75歳以上となり、医療や介護の需要が増加することが予想されています。そういった状況に対応するため、厚生労働省は、要介護状態となっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、地域全体で住民を支える体制づくりとして地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
医療機関や介護施設、在宅医療における多職種が連携を取り、包括的で継続的な支援を行うことで、切れ目のない医療・介護サービスの提供が可能になります。
参照:地域包括ケアシステム|厚生労働省
参照:地域包括ケアシステムにおける薬剤師・薬局の役割~地域に求められる薬剤師・薬局の役割~|厚生労働省

3.多職種連携のメリット
多職種連携には、以下のようなメリットがあります。
● 患者さんの多様なニーズに対応しやすくなる
● それぞれの職種の負担軽減につながる
各メリットについて見ていきましょう。
3-1.医療・介護サービスの質の向上が望める
多職種連携を推進することにより、医療・介護サービスの質の向上が期待できます。例えば、介護福祉士が患者さんの食欲不振に気づいたときに、看護師や管理栄養士にその情報を共有すれば、食事内容や食事量を迅速に調整することが可能になるでしょう。
また、薬剤師が服薬状況を確認し、医師と連携を取り薬の調整を行うことで、患者さんの健康状態が改善するケースもあります。各職種がそれぞれの専門的な視点で患者さんの状態を見守りながら協力することで、より質の高い医療・介護サービスを提供できる体制が整います。
3-2.患者さんの多様なニーズに対応しやすくなる
多職種連携のメリットの一つが、患者さんの多様なニーズに対応しやすくなる点です。患者さんごとに健康状態や生活環境、家族構成などは異なるため、ニーズも多岐にわたります。一職種では対応するのが困難なケースでも、医師が治療方針を決定し、薬剤師が薬の管理を担い、管理栄養士が食事指導を行うなど、各職種が協力することで患者さんに合った支援が可能になります。
また、多職種間で情報が共有されていることで、患者さんは「安心して相談できる」という信頼感を持つことができ、満足度の向上にもつながります。
3-3.それぞれの職種の負担軽減につながる
多職種連携は、各職種の負担軽減にも役立ちます。患者さんの多様なニーズに対して一つの職種だけで対応しようとすると、専門外の分野では十分に対応できず、負担が大きくなりがちです。しかし、多職種が連携してそれぞれの専門分野を担当することで業務が効率化され、専門外の業務に追われる負担の軽減が見込めます。
また、課題に直面した際、他職種の視点からアドバイスを受けることで、新たな解決策が見つかる可能性も広がり、より効率的に業務を進められるでしょう。

4.多職種連携における各職種の役割
多職種連携において、それぞれの職種が果たすべき役割は異なります。異なる職種の役割について理解することで、共有すべき情報が明確になり、連携を取りやすくなるでしょう。ここからは、職種ごとの主な役割について解説します。
4-1.薬剤師の役割
多職種連携における薬剤師の役割は、薬の専門家として、薬物治療のサポートをすることです。服薬状況や体調変化、副作用の有無などを確認し、医師や看護師に共有し、必要に応じて処方提案を行います。
また、飲み忘れや飲み間違いがある場合には、ケアマネジャーや介護福祉士と連携し、一包化やお薬カレンダーの活用によって服薬管理をサポートします。
4-2.医師の役割
医師は治療方針を決定し、医療全体の方向性を示す重要な役割を果たします。
また、患者さんの状態や治療内容を他職種に共有し、それぞれの意見を積極的に取り入れ、最適な治療やケアを提供するための調整役も担います。
4-3.看護師の役割
多職種連携における看護師の主な役割は、患者さんに最も近い立場から観察・ケアを行い、他職種との橋渡しをすることです。日々のケアを通じて健康状態を詳細に把握し、その情報を医師や薬剤師、リハビリスタッフに伝達します。
さらに、介護福祉士やケアマネジャーなど介護に関わる職種とも連携を取り、各職種が適切な支援を行えるようサポートします。
4-4.ケアマネジャーの役割
ケアマネジャー(介護支援専門員)は、利用者さんの生活全体を支えるためにケアプランを作成し、介護サービスが円滑に提供されるよう関係機関との連携や家族への対応などを行います。
また、介護福祉士と連携して生活状況を把握するとともに、利用者さんの体調や生活スタイルに変化があったときには、医師や看護師に情報共有を行い、ケアプランを見直します。
4-5.介護福祉士の役割
介護福祉士は、利用者さんの日常生活を支援する役割を担います。食事や入浴、排泄といった身体的なケアに加え、必要に応じて掃除や洗濯、買い物などの日常生活を支える家事の援助も行い、患者さんが安心して生活を続けられる環境を整えます。
利用者さんの健康状態や生活状況を日々観察し、異変があれば速やかに他職種に報告します。
4-6.管理栄養士の役割
多職種連携における管理栄養士の主な役割は、栄養管理と食生活の支援です。疾患や身体状況に応じた計画を立てた上で栄養管理を行い、患者さんの栄養状態の改善や病気の進行抑制、回復促進のサポートをします。
特に高齢になると、嚥下機能が悪化し、食事が制限されるケースも少なくありません。そういったときには医師や介護福祉士と連携を取って食事を工夫し、患者さんが十分に栄養を取れるようにサポートします。
4-7.リハビリスタッフの役割
リハビリスタッフは、リハビリを通じて、患者さんが日常生活で自立できるようにサポートします。
医師の指示のもとで治療計画を実行するだけでなく、多職種との情報共有を通じて、患者さんの状況や進捗に応じた柔軟な対応を行うことが求められます。
5.多職種連携の課題
多職種連携にはいくつかの課題があります。異なる職種が協力するためには、連携の中で生じる問題点を正しく理解し、適切に対処することが大切です。ここからは、多職種連携の課題について解説します。
5-1.医療・介護従事者の人材不足
多職種連携の課題の一つとして挙げられるのが、医療・介護従事者の人材不足です。厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(令和7年1月分)」によると、医療・介護従事者の有効求人倍率(パートタイムを含む)は「医師、歯科医師、獣医師、薬剤師」が2.35倍、「保健師、助産師、看護師」が2.28倍、「社会福祉専門職業従事者」が3.11倍、「医療技術者」が3.37倍と、全職業の有効求人倍率(1.20倍)を大きく上回っています。
有効求人倍率とは、有効求人数を有効求職者数で割った値のことです。このデータでは、医療業界は求職者数よりも求人数が多く、医療従事者が不足している現状が示されています。
人手不足の状態では、各職種の業務量が多く、一人ひとりの負担が大きくなりがちです。そのような状況では、情報共有や連携に充てる時間を十分に確保できず、コミュニケーションエラーが発生するリスクが高まります。
5-2.連携体制の整備が不十分
さまざまな職種が連携を取る上で、連携体制の整備は欠かせません。情報共有のルールや手段など連携体制の整備が不十分な場合、情報共有や指示が十分に行われず、患者さんへの対応の遅れにつながる恐れがあります。
また、各職種の役割分担があいまいになり、必要な業務が見落とされたり、作業の重複によって業務が非効率になったりすることも考えられます。
5-3.職種ごとの視点の違いによって生じる齟齬
多職種連携では、職種ごとの視点の違いから齟齬が生じることがあります。医療や介護の現場では、医師は疾患の治療、薬剤師は薬の適正使用、看護師は生活支援を重視するなど、それぞれの専門性に基づいて業務を行います。
多職種連携において共通の目標を設定していないと、このような視点の違いから治療やケアの方向性に関する齟齬を引き起こしかねません。
連携を円滑に進めるためには、職種間で目標を共有し、意見交換を通じて視点の調整を行う仕組みが必要です。

6.多職種連携で大切なこと
多職種連携を円滑に行うためには、以下のポイントを意識しましょう。
● 適切に情報共有を行う
● 丁寧なコミュニケーションを心がける
以下で詳しく解説します。
6-1.他職種の考え方を理解する
多職種連携では、医療従事者だけではなく、ケアマネジャーや介護職をはじめとする介護従事者など、多岐にわたる職種が意見を交換しながら患者さんを支援します。各職種で当たり前とされることが、別の職種では通用しない場合も少なくありません。
そのため、異なる視点や考え方を理解し合い、相互に尊重しながら連携する姿勢が大切です。
6-2.適切に情報共有を行う
多職種連携において、適切な情報共有は質の高いケアを実現するために欠かせません。情報共有を適切に行うには、どの職種にどのような情報を共有すべきかを理解しておく必要があります。
サービス担当者会議など多職種が参加するカンファレンスで各職種の役割分担を共有し、必要な情報を的確に伝達できる体制を整えることが大切です。
また、患者さんの状態変化やケアプランの見直しが必要な場合には、迅速に情報共有を行うことが求められます。特に情報共有の時間が限られる場合には、オンラインツールの活用がおすすめです。チャットツールやビデオ会議を活用すれば、効率的かつ正確に情報を伝えられます。
参照:サービス担当者会議の位置づけと目的|厚生労働省
6-3.丁寧なコミュニケーションを心がける
他職種とのコミュニケーションでは、丁寧で円滑なやり取りを心がけましょう。例えば、他職種へ情報を共有するときは、専門用語を多用せず分かりやすい表現に言い換えることで円滑にコミュニケーションが取りやすくなるでしょう。
また、相手の意見に真摯に耳を傾け、こまめに報告・連絡・相談を行うことで、信頼関係を築きやすくなります。

7.患者さんの治療や生活を支えるために、多職種連携を推進しよう
多職種連携とは、医療・介護の現場でさまざまな専門職が連携して患者さんの治療や生活を支えることです。多職種連携を推進すると、サービスの質が向上し、患者さんの多様なニーズに対応しやすくなるとともに、各職種の負担軽減にもつながります。
しかし、連携には人材不足や情報共有の不足、職種間の視点の違いといった課題もあります。これらの課題を解決するためには、適切な情報共有や丁寧なコミュニケーションが不可欠です。多職種が力を合わせることで、安心・安全なサービスの提供が可能となり、地域包括ケアの実現にも貢献できるでしょう。

執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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