ポリファーマシー(多剤服用)は何をもたらすか
日本老年医学会の発表によると、飲んでいる薬が1~3種類の場合、副作用のような有害事象を起こす割合は6.5%。これが6~7種類になると、13.1%の有害反応を起こすといいます。
多剤服用が起こる理由はいくつかありますが、特に注意したいのが副作用への対処による処方の連鎖です。最初の目的となった症状に対して処方された薬の量が適切でも、そこで起こった副作用に対し、新たに薬が追加される場合があります。薬の影響による胃の不調に合わせて、制酸剤が処方され、その副作用として起こりやすい便秘薬も追加される……といった具合にどんどん薬が増えてしまうのです。これは医療者側の認識不足だけでなく、患者側が自身の不調に対して処方を求めてしまうといった心理的な問題も重なります。
高齢者だけじゃない、精神疾患患者へのリスクも
ポリファーマシーは、高齢者を対象とした多剤服用を指すことがほとんどですが、ほかの領域でも問題視されています。具体的には下記のような例がみられます。
➢ いろいろな病院を重複受診する高齢者
高齢の患者さんには血圧の薬や高脂血症、糖尿病の薬というように十数種類の薬の処方を受けている方もいるため、ポリファーマシーのリスクはかなり高いといえるでしょう。また、高齢者は腎機能が低下しているので、有害反応をより引き起こしやすくなっています。
➢ 精神病患者にも多い向精神科薬の多剤服用
2014年10月に施行された「抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬及び抗精神病薬の処方の適正化」により、1回の処方において、3種類以上の抗精神病薬を投与した場合には保険点数の減算が適用されています。こうした診療報酬改定が行われたのも、精神科における多剤併用が注目され、問題視されたからにほかなりません。しかし、その後も同一種ではない薬剤の多種処方が続いていることから、2016年度の改定では薬剤の管理内容がさらに厳しくなり、内容に応じて保険点数のさらなる減算が行われるようになりました。最新の改定により、多剤服用のケースは減る傾向にありますが、これまでの多剤服用が習慣になっている長期入院患者さんも多いようです。
薬剤師はゲートキーパー
薬は病気を治すためのもの。その薬で患者さんにさらなる不調を招かないように、薬剤師として目を光らせておきましょう。ポリファーマシーを避けるため、以下の3つの行動を意識してみてはいかがでしょうか。
➢ 薬の確認
基本ではありますが、疾患の確認とともに、処方内で、副作用を止めるための薬が出されていないかチェックしましょう。実際は副作用が出ていないにもかかわらず、副作用を止めるための薬が処方されている場合があります。
➢ 患者さんとの関係づくり
ポリファーマシーを防止しようと動いたとき、たとえ医師の了承を得られても患者さんからの信頼がなければ「薬剤師が勝手に薬を減らした!」という話になりかねません。日頃から患者さんとのコミュニケーションを大切にし、信頼関係を築くことがとても大切です。服薬指導とともにカウンセリングを行いながら、普段からよりよい関係をつくっていきましょう。
➢ 処方医との連携を高める
処方医への情報提供はもちろんですが、疑義照会を行ったとしても、場合によっては医師から理解を得られない場合もあるでしょう。医薬連携はポリファーマシーの最前線。医師会の研修に参加するなど、医師とのつながりを深めましょう。
診療報酬改定が薬剤師の役目を後押し
平成28年(2016年)度の診療報酬改定では、ポリファーマシー患者に向けて、減薬につながる加算が新設されました。医療機関では「薬剤総合評価調整加算」ならびに「薬剤総合評価調整管理料」として、条件を満たすことで保険点数が加算されます。保険薬局がなんらかのかたちで減薬に関わった場合には「連携管理加算」を算定できます。ポリファーマシーへの取り組みは、国を挙げて行われるもの。今こそ、薬剤師の専門知識を総集し取り組んでいきたいですね。