1 転職を考えた理由を明確にする
この春から働き始めた新社会人にとっても、「人生で最低1回は転職をするのが当たり前」という意識が浸透しているようです。この春新卒で入社をした男女800名を対象に行った意識調査(マイナビ転職「2019年新入社員1カ月後意識調査」)の結果、全体の1/3の新入社員が新卒で入社した会社を「5年以内」で退職する意向があることが判明しています。
ただ転職が一般的になっているとはいえ、現場経験の浅い1年未満の薬剤師と経験豊富な薬剤師では、転職活動における立ち位置はまったく異なります。勤務先にさまざまな不満がわいてきたからといって、ほとんど経験を積まないまま勢いだけで転職を決めてしまわないように、まずは現在働いている職場で何を問題と感じているのかを自覚する必要があります。
2 薬剤師のおもな転職理由
薬剤師が転職をする理由にはどのようなものがあるのでしょうか。ここでは代表的な3つの理由とその背景を順にみていきます。
薬局によっては、非常に少ない人数の薬剤師で業務をまわしている職場もあります。仕事の流れや薬剤師としてのふるまいなどを指導する先輩が職場にいないような場合、入職したての新人薬剤師は業務そのものへの不安を感じてしまうことがあります。
仕事に慣れるどころか、薬剤師として最低限のスキルを身につけられるかどうかも心配な環境で働くことに苦痛を感じるのは無理もありません。このような場合、スキルアップや自分の可能性を広げるために転職を考えてもよいでしょう。次の職場ではしっかりとした研修制度や資格取得に対するサポート体制が整った、薬剤師教育に積極的な職場を選択肢に入れましょう。
人間関係を構築するのには時間がかかります。自身の経験不足からトラブルが生じるケースもありますので、相手へ不満をぶつける前に自分に反省すべき点がなかったか、振り返ることも大切です。
ただし、明らかに理不尽な対応をされたり、パワハラを受けていたりする場合は別です。自分だけ残業になるほどの仕事量を担当することになったり、ミスに対して「そんなこともできないのか」などと厳しい言葉を投げかけられたりする職場からの転職を考える人もいます。
また、慣れない調剤業務でミスをした場合に、直接指導してもらえるのではなく、陰口や皮肉などで指摘をされてストレスを溜めるケースもあります。直属の上司や、さらに上位の職責の人に相談しても改善されず、対人関係を回復させる手段が見いだせない場合は転職もやむを得ないかもしれません。
1年目の頃はとくに「仕事量が多く想定していたよりも残業時間が長い」「薬剤師だからこそできる仕事を担当できると思っていたのに、雑務ばかりでやりがいを感じない」といったギャップを感じがちです。しかし、社会経験が浅いからこそ「理想と違う」という理由だけで転職をするという判断をするのは早計です。
労働環境に不満を感じた時は、まず年齢やキャリアが近い先輩薬剤師に相談し、そうした状況が自分だけに限ったことなのか、先輩薬剤師も経験してきたことなのかを確認することが大切です。あるいは、他の職場で働く新人薬剤師仲間たちの働く環境について聞いてみるのもよいでしょう。そのうえで納得できない場合には転職を考えるのも一案です。
転職を考える理由は人それぞれですが、いずれの場合でもまずは客観的に問題点を把握し、転職理由が妥当かどうかを判断しましょう。一人で悩んでいるとどうしても主観的になってしまうため、信頼できる先輩や転職エージェントのキャリアアドバイザーなどに相談してみるとよいでしょう。
3 転職先に求める条件を明確にする
転職理由が妥当であり、なおかつ転職する決意がゆるがないのであれば、次は、転職先に求める条件を考えましょう。
まず、自分が望む労働環境を書き出し、次に優先順位を決めます。優先するのが収入なのか、労働条件(時間、休暇、育児休暇など)なのか、スキルアップ(研修会、内外での勉強の機会など)なのかによって、選択肢となる勤務先も異なってきます。
またすべての希望をかなえる勤務先はない、と認識することも重要です。もし「収入」を最優先とした場合、残業が多く休日数が少ない、さらにスキルアップにつながる研修の機会が少ないといった環境の職場になるかもしれません。一方で、「残業なし」を優先した場合、当然残業代は発生しませんから現職よりも収入が少なくなる可能性があります。
働き方は、自身の人生設計にそのままつながります。キャリアアップのタイミングや収入とのバランスなども考慮しながら、自身の優先順位を決めましょう。
4 転職サイトやエージェントを活用して情報収集をする
優先するポイントを明確にしても、条件に一致する求人先がすぐに見つかるとは限りません。また、できるだけ条件に合った転職先を探すためには、入念な情報収集が必要でしょう。
一般に公開される求人情報は限られており、育児休暇制度があるかどうかや制度が実際に生かされているかどうか、スキルアップの研修が受けられるかどうかといった現場レベルの事情まで掲載されるケースはほとんどありません。
勤務環境についてより詳しく知りたいと思ったら、転職エージェントを利用するのもひとつの手です。転職エージェントでは、より詳しい情報が得られるほか、一般公開されていない非公開求人を紹介してもらえるため、選択肢が広がります。転職活動をトータルでサポートしてもらえるため、納得のいく転職先を見つけやすくなるはずです。
5 まとめ
勤務経験が1年未満の薬剤師が転職活動をする場合、経験の浅さから即戦力とみなされず、良いイメージを持たれにくい傾向があります。しかし、将来的なキャリプランを意識した明確な転職理由を挙げることで、薬剤師としてのキャリアを長期的に考えているというPRができますので、経験がないからといって過度に心配をする必要はありません。
いずれにしても、満足度の高い転職を実現させるためにも転職エージェントなどの専門家と相談しながら、自身を客観的に見つめて薬剤師としての長期的なキャリアプランを考えてみましょう。
執筆/加藤鉄也
薬剤師。研修認定薬剤師。JPALSレベル6。2児の父。
大学院卒業後、製薬会社の海外臨床開発業務に従事。その後、調剤薬局薬剤師として働き、現在は株式会社オーエスで薬剤師として勤務。小児、循環器、糖尿病、がんなどの幅広い領域の薬物治療に携わる。医療や薬など薬剤師として気になるトピックについて記事を執筆。趣味は子育てとペットのポメラニアン、ハムスターと遊ぶこと。
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