薬剤師のスキルアップ 公開日:2024.01.30 薬剤師のスキルアップ

外来がん治療認定薬剤師とは?合格率・難易度や勉強法などを解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

通院しながらがん治療を受けている患者さんの中には、薬物治療に対して不安や不満を抱きながらも相談相手が少ないために1人で悩んでいる人がいます。そうした患者さんの相談相手になるためにも、がん治療に関する専門知識を習得した薬剤師が求められています。今回は、病院薬剤師・薬局薬剤師共に取得できる外来がん治療認定薬剤師の仕事内容や認定要件、合格率・難易度、勉強法などについて解説します。

1.外来がん治療認定薬剤師とは?

外来がん治療認定薬剤師(APACC)とは、「外来がん治療を安全に施行するための知識・技能を習得した薬剤師」「地域がん医療において、患者とその家族をトータルサポートできる薬剤師」の養成を目指して創設された、日本臨床腫瘍薬学会(JASPO)が実施する認定制度です。
 
認定者一覧は、日本臨床腫瘍薬学会のウェブサイトから確認できます。
 
参照:外来がん治療 認定薬剤師(APACC) 一覧|日本臨床腫瘍学会

 

1-1. 外来がん治療認定薬剤師の仕事内容

日本臨床腫瘍薬学会は、医師と病院薬剤師に薬局薬剤師を加えた新たな「医-薬-薬連携モデル」を掲げ、病院薬剤師と薬局薬剤師の双方が外来がん治療認定薬剤師の資格を取得することを推奨しています。
 
病院薬剤師は、医師の診断・治療方針を基に薬剤管理指導を行い、治療に対する不安や不満を聞き取り、副作用の有無など患者さんごとの問題点を評価・明確化するという役割を担います。問題点を医師へフィードバックし、再検討された薬物療法を患者さんや家族へ伝えることで、患者さんが安心して治療を受けられるようにサポートします。
 
一方、薬局薬剤師は、病院薬剤師から引き継がれた薬物療法プランを基に服薬指導を行い、自宅における服薬モニタリングを継続します。コンプライアンスや副作用の有無などの問題点などを見直し、医師や病院薬剤師へ患者情報を提供することで、薬物療法の適正管理に努めます。
 
参照:APACC制度について|日本臨床腫瘍薬学会

2.外来がん治療認定薬剤師になるには?

外来がん治療認定薬剤師になるには、認定条件を満たした上で書類審査・筆記試験・面接試験に合格しなければなりません。ここでは、認定条件と認定試験について詳しく見ていきましょう。

2-1.認定条件

外来がん治療認定薬剤師の認定資格は以下のとおりです。

 

1.日本国の薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格と見識を備えていること。
2.薬剤師としての実務の経験を3年以上有すること。
3.本法人の正会員であって、申請の時点で会費が未納でないこと。
4.日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬剤師、薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師、日本医療薬学会認定薬剤師、日本薬剤師会生涯学習支援システム「JPALS」クリニカルラダーレベル5のいずれかの認定を取得していること。
5.本法人が認定するがん領域の講習または研修を60単位以上履修していること。
6.外来のがん患者のサポート事例を10例提出すること。
7.本法人が実施する外来がん治療認定薬剤師認定試験に合格すること。

 

参照:APACC制度について|日本臨床腫瘍薬学会
 
以上の条件を全て満たす必要があり、外来がん治療認定薬剤師は高度な知識と経験が求められる認定薬剤師資格と言えるでしょう。

 

2-2.新規認定試験

新規の認定試験は書類審査・筆記試験と面接試験があり、書類審査・筆記試験に合格すると面接試験へと進みます。

 

2-2-1.筆記試験

外来がん治療認定薬剤師の筆記試験は、以下の資料などが学習範囲となっています。

 

1.各抗悪性腫瘍薬剤の添付文書情報
2.各抗悪性腫瘍薬剤のインタビューフォーム情報
3.各抗悪性腫瘍薬剤の適正使用ガイド情報
4.適正使用ガイド等に記載のある副作用対策薬剤の添付文書情報(特に相互作用)
5.各抗悪性腫瘍薬剤に関する緊急安全性情報
6.その他、厚生労働省から配信される各種情報(公知申請に関する情報など)
7.各がん腫および制吐剤などのガイドライン情報

 

※参照:APACC 新規申請・試験|日本臨床腫瘍薬学会
 
筆記試験時間は120分で、マルチプルチョイス方式で75問出題されます。
 
新規抗悪性腫瘍薬剤や支持療法に用いる薬剤については、筆記試験日の半年前の薬価収載薬剤まで含まれます。新薬情報に関して常にアンテナを張っておく必要があるでしょう。

 

2-2-2.面接試験

面接試験は、事前に提出した「がん患者への薬学的介入実績の要約・10事例」の中から、面接試験官が選択した数例について質問されます。面接試験で問われるポイントは以下のとおりです。

 

1.患者の病態・治療経過や介入時の治療内容
2.介入の目的
3.介入によるメリット
4.介入事例のその後の状況ならびにセルフケアとして注意すべきポイント
5.知り得た患者情報(副作用症状やアドヒアランスなど)の医師やほかの医療従事者(薬局薬剤師-病院薬剤師間等)との共有のための取り組みなど

 

※参照:APACC 新規申請・試験|日本臨床腫瘍薬学会
 
外来がん治療認定薬剤師の認定にふさわしい業務を行い、知識を習得しているかを確認するための面接試験内容です。
 
面接試験の前に提出した事例について見直し、介入時の状況をしっかりと思い出しておくことで、面接試験官の質問にも適切に対応できるでしょう。
 
なお、面接試験が不合格になった場合、再受験の際は筆記試験から受け直すことになります。面接試験に進めたら、万全の準備をして一発合格を目指しましょう。

 

2-3.更新試験

外来がん治療認定薬剤師の認定期間は3年間です。更新試験を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。

 

1.認定期間中継続して日本臨床腫瘍薬学会の正会員であること。
2.認定期間内に、外来がん治療認定薬剤師および外来がん治療専門薬剤師の更新要件を満たす講習会の単位を60単位以上取得すること。
3.認定期間内に、日本臨床腫瘍薬学会学術大会に1回以上参加していること。
4.認定期間内に、日本臨床腫瘍薬学会が主催する次の講習会のいずれかに1回以上参加していること。
 ●Essential Seminar X
 ●薬学介入と事例報告のためのWEB研修会
 ●Essential Seminar Neo(※各セミナーにおいて、A・B・Cそれぞれの全講座を受講した場合)

 

※参照:APACC・BPACC 更新申請|日本臨床腫瘍薬学会
 
更新試験は、指定された期間内に50問を90分で回答するウェブ受験です。3回まで受験可能で、3回目まで全て不合格となった場合は更新が認められません。
 
なお、講習会などの受講が完了していない場合でも、認定期間終了年の3月31日までに要件を満たす見込みがある場合は、更新試験の受験が可能です。

3.外来がん治療認定薬剤師の合格率・難易度

2020年時点までのデータによれば、2019年以降の外来がん治療認定薬剤師の合格率(認定者数÷申請者数)は40%台で推移しています。出題範囲の広さなどを踏まえても、難易度が低いとは言えない試験なので、十分に対策しておく必要があるでしょう。

合格率 認定者数
2020年 42.0% 173人
2019年 40.8% 150人
2018年 52.0% 170人
2017年 55.9% 170人
2016年 60.2% 139人
2015年 70.5% 122人
2014年 83.9% 47人

参照:小井土 啓一, 診療報酬に関わる認定専門薬剤師 日本臨床腫瘍薬学会 外来がん治療認定薬剤師の現状とこれから, ファルマシア 56巻 10号 p. 924~926(日本薬学会)|J-STAGE

4.外来がん治療認定薬剤師の勉強法

日本臨床腫瘍薬学会が提示する筆記試験は出題分野や学習範囲が膨大で、独学で合格を目指すのはとても大変です。なるべく効率的に勉強していく必要があるでしょう。
 
ここでは、試験対策となるセミナー・参考テキストについて紹介しましょう。

 

4-1.セミナーに参加する

日本臨床腫瘍薬学会では、がん薬物療法に携わる初学者を対象としたスタートアップセミナーや、第一線で活躍している薬剤師を対象としたブラッシュアップセミナーなどさまざまなセミナーを主催しています。
 
セミナーの中でも「Essential Seminar Neo」は、外来がん治療認定薬剤師を輩出するための教育プログラムとして開講されており、試験対策として受講しておきたいセミナーの1つです。
 
「Essential Seminar Neo」には、以下の3種類があります。

 

● 細胞傷害性抗がん薬を中心とするA-Program
● 分子標的抗がん薬を中心とするB-Program
● 免疫療法および緩和・医療制度など多岐にわたるC-Program

 

そのうち、学びたい分野を選んでオンデマンド形式で受講します。受講対象者は中級者・認定取得希望者・認定更新予定者で、開催時期は6月、7月、8月です。
 
講習・研修単位も取得できるので、認定条件を満たすためにも受講しておいた方がよいセミナーと言えます。
 
※参照:各種セミナーについて|日本臨床腫瘍薬学会

 

4-2.テキストを使う

日本臨床腫瘍薬学会が提示する参考資料は以下の5つです。

 

 

※参照:APACC 新規申請・試験|日本臨床腫瘍薬学会
 
基本はセミナーで学んだ内容を中心に知識を習得し、確認や補足のために上記のテキストを使用するとよいでしょう。

 
🔽 薬剤師の勉強法について解説した記事はこちら

5.外来がん治療専門薬剤師とは?

外来がん治療専門薬剤師(BPACC)とは、外来がん治療認定薬剤師と同じく日本臨床腫瘍薬学会が実施する認定制度です。「外来がん治療を安全に施行するための知識・技能」を習得し、「地域がん医療において、患者とその家族をトータルサポートできる」ことに加え、「病院と薬局が緊密に連携して、がん薬物療法に対応できる」ことが求められます。
 
参照:BPACC制度について|日本臨床腫瘍薬学会
 
外来がん治療専門薬剤師になるには、以下の要件を満たす必要があります。

 

1.病院、診療所または薬局における薬剤師としての実務の経験を5年以上有すること。
2.外来がん治療認定薬剤師(APACC)であるか、またはAPACC認定試験を受験し合格していること。
3.日本臨床腫瘍薬学会が行うがん診療病院連携研修を修了しているか、修了とみなす認証を受けていること。
4.申請の時点で会費が未納でないこと。

 

参照:BPACC 新規申請手続|日本臨床腫瘍薬学会
 
2021年8月からスタートした専門医療機関連携薬局制度の認定要件になっており、認定者一覧は日本臨床腫瘍薬学会のウェブサイトより確認可能です。
 
参照:外来がん治療専門薬剤師(BPACC) 一覧|日本臨床腫瘍薬学会

6.外来がん治療認定薬剤師になるメリットは大きい

国立がん研究センターの発表によると、がんの生存率は多くの部位で上昇傾向にあり、今後は今まで以上に外来がん治療件数は増えていくことでしょう。
 
参照:年次推移|国立がん研究センター
 
それと共に、外来がん治療認定薬剤師の需要は高まることが予想されます。がん治療で悩む患者さんの支えになるためにも、外来がん治療認定薬剤師の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。

 
🔽 がん専門薬剤師の資格について解説した記事はこちら


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。