1.救急認定薬剤師とは?
救急認定薬剤師とは、救急医療に関連する専門知識を身に付けた認定薬剤師のことです。救急医療において最適な医療を提供し、国民の健康に貢献することを目的として、2011年に日本臨床救急医学会によって創設されました。2024年5月時点で、306名の薬剤師が救急認定薬剤師に認定されています。
参照:認定薬剤師 審査結果・認定者一覧|日本臨床救急医学会(JSEM)
2.救急認定薬剤師の仕事内容
救急認定薬剤師の仕事は、重症の患者さんを相手にしたり、緊急を要する対応をしたりと、迅速かつ的確な判断を求められるのが特徴です。救急認定薬剤師の具体的な仕事内容を紹介します。
2-1.救急治療における薬剤業務
救急認定薬剤師は、病院に勤務し、主に救命救急センターや集中治療室で薬剤業務を行います。業務内容としては、救急搬送された患者さんの治療薬に対する処方提案や注射薬の監査、医療用麻薬の管理などが挙げられます。患者さんに意識障害や大きな外傷が見られる場合には、薬物動態や栄養状態が通常とは異なるため専門的な判断が求められます。
また、薬物中毒が疑われるときに、薬歴や持参薬から中毒物質を推定したり、HPLCを用いて中毒物質を測定したりして中毒の状態を判断し、中毒の原因となっている物質に合わせて治療薬剤を決定するといった重要な業務もあります。
2-2.災害現場での医療活動
災害時には、被災地で救助活動や医療活動を行う場合もあります。災害の発生直後には、孤立集落の捜索や被災者のトリアージ(患者さんの傷病の重症度によって、治療の優先度を決めること)などを行います。数多くの患者さんに対応しなければならないため、自衛隊や医師、看護師など他職種との連携が必要です。
3.救急認定薬剤師になるには
救急認定薬剤師になるには、日本臨床救急医学会が年に1回実施する認定試験に合格する必要があります。救急認定薬剤師の認定要件や申請方法、更新方法についてお伝えします。また認定試験勉強時に役立つ参考テキストもご紹介しましょう。
3-1.認定要件
救急認定薬剤師の認定申請を行うためには、下記要件を満たす必要があります。
1) 本邦における薬剤師免許を有し、薬剤師として優れた人格及び救急医療における薬物療法に関する見識を備えていること。
2) 申請時において、薬剤師としての病院・診療所勤務歴を5年以上有し、そのうち2年以上救急医療に従事していること。
3) 申請時において、本学会の正会員としての会員歴が2年以上あり、かつ会費を完納していること。
4) 日本病院薬剤師会病院薬学認定薬剤師、日本病院薬剤師会生涯研修履修認定薬師(2022 年度申請時まで有効)、日本医療薬学会が認定する専門または指導薬剤師、日本臨床薬理学会が認定する認定あるいは指導薬剤師、日本薬剤師研修センター研修認定薬剤師、日本薬剤師会生涯学習支援システム(JPALS)のJPALS認定薬剤師(CLレベル5以上)のいずれかの資格を有していること。
5) 医療機関において、救急医療に関する業務を通じて患者の治療に自ら参加した25例以上の症例を提出していること。
6) 認定委員会が指定し理事会の承認を得た学術集会への参加、同学術集会での研究発表などにおいて、細則に定める単位数を履修していること。
7) 認定委員会が開催する講習会を受講していること。
8) 日本臨床救急医学会評議員または所属施設長の推薦があること。
参照:救急専門・認定薬剤師 制度・規則|日本臨床救急医学会(JSEM)
申請要件を満たし、提出した申請書類の認定審査に合格すると認定試験を受けることができます。問題は50問出題され、試験時間は1時間30分です。書類審査と認定試験に合格すると、日本臨床救急医学会の理事会による審議ののち、救急認定薬剤師として認定されます。
3-2.申請方法
救急認定薬剤師の認定申請を行う際は、以下の申請書類を日本臨床救急医学会事務局に提出します。申請書類は学会のWebサイト上からダウンロードできます。
ファイルに同封されている「救急認定薬剤師認定申請に必要な提出物のチェックリスト」を活用して、提出書類に不備がないかを必ず確認しましょう。
2) 薬剤師免許の写し(裏書のある場合は、裏書も含む)
3) 認定要件4)を満たす認定証の写し
4) 規定の単位取得証明書(認定申請書式2)
5) 症例一覧(認定申請書式3)
6) ICLSコース受講もしくはBLS/AEDコース指導を証明する書類あるいは修了証の写し。院内で開催されたBLS/AEDコース等を指導した場合は、施設長の証明をもって申請することができる。(認定申請書式4)
7) 救急医療に関する業務に2年以上従事したことを示す施設長の証明(認定申請書式5)
8) 推薦状(施設長または日本臨床救急医学会評議員)(認定申請書式6)
9) 申請料(所定の額)振込み用紙の写し
10) 申請者写真
参照:救急専門・認定薬剤師 制度・規則|日本臨床救急医学会(JSEM)
なお、2024年度の認定申請期間は、2024年3月1日~5月31日です。申請書類は電子媒体として、CDに保存して郵送する必要があります。配達経過を追跡できるレターパックや書留郵便などを使う必要がある点にも注意しましょう。
3-3.更新方法
救急認定薬剤師の資格は更新制であり、認定を受けてから5年の間に下記要件を満たした上で更新申請を行う必要があります。更新申請には期日が設けられており、期日を過ぎてしまうと資格を喪失してしまうため注意しましょう。
1) 認定された後も引き続き本学会の正会員であること。
2) 認定を受けてから5年間、救急医療に貢献するとともに、認定委員会が指定した80単位(必修45単位以上を含む)を取得していること。(単位取得の対象となる項目は細則2条参照)ただし、本学会が主催する学術集会に少なくとも1回は参加していること。
3) 認定委員会が開催した講習会に2回以上受講した者。ただしうち1回は認定委員会が指定した講習会を受講として認めることが出来る。
4) 認定委員会は、認定を受けてから5年を経たときに、認定委員会の定める要件を満たした者について、認定更新申請書類の審査を行い、審査の上、資格を更新し、認定証を交付する。更新を希望する者は次の各項に定める書類を申請期限までに認定委員会に提出する。なお、更新申請の期日は毎年6月末日とし、期日を過ぎた場合は原則受け付けない。
(1) 認定資格更新申請書(認定更新申請書式1)
(2) 単位取得確認書類(認定更新申請書式2、3)
(3) 更新審査料 納付記録の写し
参照:救急専門・認定薬剤師 制度・規則|日本臨床救急医学会(JSEM)
3-4.認定取得の勉強に向けた参考テキスト
救急認定薬剤師の認定取得を目指すのであれば、日本病院薬剤師会と日本臨床救急医学会が監修している『改訂第2版 薬剤師のための救急・集中治療領域標準テキスト』を参考にすると良いでしょう。
本書は救急治療に関する医学的知識や技能、関連法規など、救急業務に携わる上で身に付けておくべき知識やスキルを学ぶことができます。また、本書の内容が救急認定薬剤師の認定試験の出題範囲となっており、認定試験対策を行うために必須の書籍といえるでしょう。
🔽 薬剤師の勉強法について解説した記事はこちら
4.救急認定薬剤師の年収
救急認定薬剤師の平均年収に関して、公的機関などによる統計データは公表されていません。参考として、厚生労働省中央社会保険医療協議会の「第24回医療経済実態調査 (医療機関等調査) 報告」によると、一般病院で常勤職員として働く薬剤師の平均年収は568万8,862円でした。
救急認定薬剤師の資格を保有している場合、勤務する病院によっては資格手当などによる年収アップが期待できるでしょう。
🔽 薬剤師の年収について解説した記事はこちら
5.救急認定薬剤師のやりがい
救急認定薬剤師が携わる救急医療は患者さんの命に深く関わることになるため、大きな責任を感じることもあるでしょう。患者さんの容態が急変し一刻を争うようなときにはプレッシャーを感じてしまうかもしれません。
しかし、救急認定薬剤師として身に付けてきた知識や経験を生かして対応し、患者さんの薬物治療に貢献できたときには大きな充実感を得られることでしょう。
6.上位資格となる「救急専門薬剤師」とは?
2022年9月、救急認定薬剤師の上位資格として「救急専門薬剤師」が新設されました。救急専門薬剤師は、救急医療の薬剤業務を行うだけではなく、救急領域における研究や教育を行う指導者としての役割も求められます。2024年5月時点で、救急専門薬剤師の認定者数は計23名です。
救急専門薬剤師に認定されるには、救急認定薬剤師としての実務経験年数などの認定要件を満たす必要があります。認定要件を満たした後、口頭試問に合格すると救急専門薬剤師として認定されます。認定要件として学会発表や筆頭論文の実績が挙げられていることから、救急認定薬剤師と比べて、より高度な知識やスキルを求められる資格といえるでしょう。
参照:専門薬剤師 審査結果・認定者一覧|日本臨床救急医学会(JSEM)
7.救急認定薬剤師の資格を取得して、救急医療に貢献しよう
救急認定薬剤師とは、救急医療に関する専門知識を身に付けた認定薬剤師のことです。主に救命救急センターや集中治療室で勤務し、救急搬送された患者さんの治療薬に対する処方提案や注射薬の監査、医療用麻薬の管理などを行います。認定を受けるためには、認定要件を満たした上で、認定試験に合格する必要があります。患者さんの命に深く関わる救急医療に興味がある方は、認定取得を目指してみてはいかがでしょうか。
執筆/篠原奨規
2児の父。調剤併設型ドラッグストアで勤務する現役薬剤師。薬剤師歴8年目。面薬局での勤務が長く、幅広い診療科の経験を積む。新入社員のOJT、若手社員への研修、社内薬剤師向けの勉強会にも携わる。音楽鑑賞が趣味で、月1でライブハウスに足を運ぶ。
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