薬剤師のスキルアップ 公開日:2025.01.16 薬剤師のスキルアップ

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師とは?申請・更新条件や試験問題を解説

文:秋谷侭美(薬剤師ライター)

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師になるには、妊娠・授乳中の薬物治療における知見を深めるとともに、妊婦や授乳婦に寄り添ったカウンセリングスキルが求められます。本記事では、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の概要や仕事内容を解説するとともに、新規・更新申請の条件や研修施設、試験問題についてお伝えします。

1.妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師とは?

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師とは、日本病院薬剤師会が認定する資格で、妊娠・授乳期における薬物治療に関する知識や技術、倫理観を備えた薬剤師が、母体の変化および胎児や乳児などへの薬物有害作用を考慮した薬物療法を担い、母子の健康に貢献することを目的としています
 
2024年10月時点での認定者数は171名となっており、日本病院薬剤師会のホームページから認定者一覧が確認できます。
 
参照:妊婦・授乳婦 専門薬剤師・認定薬剤師|日本病院薬剤師会
参照:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定者|日本病院薬剤師会

2.妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の仕事内容

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の主な仕事は、妊婦や授乳婦の症状や状態に合わせて適切な薬物療法を提案したり、患者さんへの指導やカウンセリングを行ったりすることです。医師や看護師といった医療関係職種、患者さん、家族などに対して指導や助言を行います。
 
例えば、「妊娠に気が付かず、市販薬を服用した」「持病の治療を継続しながら妊娠することは可能か」「授乳中に服用できる薬剤はあるか」など、患者さんや家族からの相談、医師などからの問い合わせへの対応などが挙げられるでしょう。
 
また、患者さんの中には、妊娠中や授乳中の薬物治療に抵抗がある人もいます。そういった患者さんに対しては、気持ちに寄り添いながら薬物治療の有効性やリスクを説明し、患者さんの選択を尊重した対応をすることが求められます

3.妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師になるには

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師になるには、申請資格を満たし、症例報告書や推薦状を提出することに加え、研修施設や講習会での研修を受けて指定の単位を取得しなければなりません。また、申請から認定までのスケジュールを把握しておくことも大切でしょう。
 
ここでは、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師になるための方法についてお伝えします。

 

3-1.申請条件

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の申請にあたっては、以下の全ての条件を満たす必要があります。

 

資格 ● 日本国の薬剤師免許
● 日病薬病院薬学認定薬剤師、または日本医療薬学会の専門薬剤師制度により認定された専門薬剤師
団体への加入 ● 以下のいずれかの会員
1. 日本病院薬剤師会
2. 日本薬剤師会
3. 日本女性薬剤師会
学会への加入 ● 以下のいずれかの会員
1. 日本医療薬学会
2. 日本産科婦人科学会
3. 日本薬学会
4. 日本小児科学会
5. 日本臨床薬理学会
6. 日本先天異常学会
実務経験 ● 薬剤師としての実務経験が3年以上
● 病院または診療所に勤務し、以下の1・2を満たすこと(所属長の証明が必要)
1. 妊婦・授乳婦の薬剤指導に3年以上従事
2. 申請時(認定開始日前日)に引き続いて1年以上従事
実務研修 ● 日本病院薬剤師会が認定する研修施設で、以下の実技研修を40時間以上履修していること
1. 「模擬妊婦・模擬授乳婦とのロールプレイ」を含めたカウンセリング技術など
2. 情報評価スキルの確認トレーニングなど
● または、日本病院薬剤師会が認定する研修施設で3年以上妊婦・授乳婦の薬剤指導に従事していること(所属長の証明が必要)
研修単位 以下の講習会などで、所定の単位(20時間、10単位)以上履修していること
● 日本病院薬剤師会が認定する以下の団体が実施する妊婦・授乳婦領域の講習会
1. 日本病院薬剤師会
2. 日本病院薬剤師会が実施するe-ラーニング
3. 各都道府県病院薬剤師会(ブロック開催も含む)
4. 妊娠と薬情報センター(国が国立研究開発法人国立成育医療研究センターに設置したもの)
5. 一般社団法人妊娠と薬情報研究会
● 以下の学会が主催する妊婦・授乳婦領域の講習会
1. 日本医療薬学会
2. 日本産科婦人科学会
3. 日本薬学会
4. 日本小児科学会
5. 日本臨床薬理学会
6. 日本先天異常学会
 
※ただし、日本病院薬剤師会主催の妊婦・授乳婦に関する講習会を1回以上受講していること
症例報告 妊婦・授乳婦の薬剤指導実績が15症例以上(複数の疾患)を満たしていること
推薦状 病院長あるいは施設長などの推薦があること

参照:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定申請資格|日本病院薬剤師会

 

上記の要件を満たした上で、日本病院薬剤師会が実施する妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定試験に合格することで、申請が可能になります。

 

3-2.研修施設

2024年度においては、以下の医療機関が研修施設となっています。

 

● 北海道大学病院
● 筑波大学附属病院
● 埼玉医科大学総合医療センター
● 千葉大学医学部附属病院
● 虎の門病院
● 国立成育医療研究センター
● 信州大学医学部附属病院
● 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院
● 三重大学医学部附属病院
● 神戸大学医学部附属病院
● 奈良県立医科大学附属病院
● 大阪母子医療センター
● 九州大学病院

参照:2024年度妊婦・授乳婦専門薬剤師養成研修第30期研修生の募集について|日本病院薬剤師会

 

日本病院薬剤師会では、毎年医療機関へアンケートを行い、妊婦・授乳婦専門薬剤師養成研修が実施できる病院のみを研修施設としています。そのため、2025年度以降の研修施設については、募集要項を確認しましょう。
 
また、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の申請に必要な実務研修は、妊婦・授乳婦専門薬剤師養成研修を受講することで申請条件を満たせます。
 
参照:妊婦・授乳婦専門薬剤師養成研修に係る研修施設の新規募集について|日本病院薬剤師会
 
なお、国立成育医療研究センターを希望する場合は、「胸部X線検査実施状況及び抗体価検査・ワクチン接種証明」の提出が必要です。その他の医療機関についても、流行性ウイルス感染症に対する免疫や結核感染の有無の確認、健康診断結果などの提出が求められる場合があります。

 

3-3.試験問題

試験問題の出題範囲については、受験申込ページから確認できます。2024年度の妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の出題基準と範囲は以下の12項目あり、出題内容の詳細が記載されています。

 

1. 妊婦・授乳婦と周産期医療に関する知識
2. 妊婦・授乳婦の薬物療法に関する知識
3. 栄養・サプリメント・嗜好品の影響に関する知識
4. 先天奇形・先天異常の知識
5. 臨床研究に関する知識
6. 非臨床試験に関する知識
7. 生命倫理と法規制
8. 法規制
9. 社会的な背景
10. 妊婦および授乳婦に対する薬物療法に関する情報収集を行うことができる
11. 情報収集した情報をもとに、胎児、乳児へのリスクとベネフィットの評価を行うことができる
12. 妊婦・授乳婦へのリスクコミュニケーションについて説明できる

参照:2024年度妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定試験 出題基準と範囲|日本病院薬剤師会

 

参考図書として、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師講習会テキストや添付文書、インタビューフォームなどが挙げられています。参照するガイドラインなども提示されているため、試験前に確認しておくとよいでしょう。

 

3-4.合格率と難易度

日本病院薬剤師会のホームページでは、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定試験の合格率や、難易度を測る目安となる試験問題などは公表されていません
 
試験の合否については、ホームページでの公開に加え、受験者へメールで配信されます。
 
参照:2024年度妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定試験の合格発表|日本病院薬剤師会

 

3-5.申請から認定までのスケジュール

2024年度の妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の研修・講習会・認定試験などのスケジュールは、以下のとおりです。

 

妊婦・授乳婦専門薬剤師養成研修
【実務研修(5日間)】
第30期 10月~2月
妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師
【講習会】
第1回 6月8日(日)
第2回 10月または11月(開催日未定)
妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師
【認定試験】
5月19日(日)
試験会場:東京(会場未定)
認定申請・更新申請 申請受付締め切り 7月上旬

参照:2024年度各領域の専門薬剤師・認定薬剤師に係る研修・講習会・認定試験等の予定について|日本病院薬剤師会

4.妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師の更新条件

妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師は認定期間が5年とされています。そのため、認定資格を更新するには、更新申請が必要です。更新条件は以下のとおりです。

 

団体への加入 認定期間中継続して、以下のいずれかの会員であること
● 日本病院薬剤師会
● 日本薬剤師会
● 日本女性薬剤師会
学会への加入 更新申請時(更新認定開始日前日)に、以下のいずれかの会員であること
● 日本薬学会
● 日本医療薬学会
● 日本臨床薬理学会
 
かつ、以下のいずれかの会員であること
● 日本産科婦人科学会
● 日本小児科学会
● 日本先天異常学会
認定資格 日病薬病院薬学認定薬剤師、または日本医療薬学会の専門薬剤師制度により認定された専門薬剤師
証明書 認定期間中、施設内において妊婦・授乳婦に関する専門的業務に従事していたことを証明できること
研修単位 更新申請までの5年間に、妊婦・授乳婦に関する講習単位30単位以上(特段の理由がない限り、毎年3単位以上)を取得すること
 
ただし、以下の団体が実施する講習会で12単位以上取得すること
● 日本病院薬剤師会の妊婦・授乳婦に関する講習会
● 妊娠と薬情報センターが実施する講習会
症例数 更新申請までの5年間に、妊婦・授乳婦の薬剤指導実績が5症例以上
学会発表
学術論文
以下の中で、妊婦・授乳婦に関する学会発表(共同発表者でも可)が1回以上あること
● 関連する国際学会
● 全国レベルの学会
● 日本病院薬剤師会ブロック学術大会
 
または、妊婦・授乳婦に関する学術論文が1編以上(共同著者でも可)あること
● 複数査読制のある国際的または全国的な学会誌・学術雑誌

参照:妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師認定の更新条件|日本病院薬剤師会

5.上位資格の「妊婦・授乳婦専門薬剤師」とは?

妊婦・授乳婦専門薬剤師は、妊婦・授乳婦薬物治療認定薬剤師の上位資格です。資格を取得するためには、妊婦・授乳婦薬物療法認定薬剤師であり、かつ、日本産科婦人科学会、日本小児科学会、日本先天異常学会のいずれかの会員である必要があります。
 
加えて、学会発表が3回以上、または学術論文が1編以上(筆頭著者が1編以上)などの申請資格を満たした上で、認定試験に合格しなければなりません。
 
参照:妊婦・授乳婦専門薬剤師認定申請資格|日本病院薬剤師会

6.妊娠・授乳婦薬物療法認定薬剤師に求められるもの

妊娠期・授乳期における薬物治療はリスクを伴います。そのため、妊娠・授乳婦薬物療法認定薬剤師は、患者さんの気持ちに配慮しながら、薬物治療の有効性とリスクについて説明する必要があるでしょう。患者さんと赤ちゃんの両方のメリットになるよう、薬物治療を評価するための能力に加え、患者さんや医療関係職種とのコミュニケーションスキルが求められます。

 
🔽 認定薬剤師の種類一覧を紹介した記事はこちら


執筆/秋谷侭美(あきや・ままみ)

薬剤師ライター。2児の母。大学卒業後、調剤薬局→病院→調剤薬局と3度の転職を経験。循環器内科・小児科・内科・糖尿病科など幅広い診療科の経験を積む。2人目を出産後、仕事と子育ての両立が難しくなったことがきっかけで、Webライターとして活動開始。転職・ビジネス・栄養・美容など幅広いジャンルの記事を執筆。趣味は家庭菜園、裁縫、BBQ、キャンプ。